L・X・Eは壊滅した。街と、そして人々の心に深い傷跡を残して。
その日から一週間後、事後処理もままならぬその時から、物語は始まる。
ストロベリー戦士・とっきゅん 第一話 「誕生!正義の苺戦士」
「何だかんだで今日も平和だね。LXEが壊滅してからは暇なくらいだ」
「私達が暇であるということはいいことだ。まぁ、一時の休息と思うがいいか」
そんな取りとめのない会話をかわしながら、いつものように一緒に帰る二人。知人友人に
からかわれるが、いいかげん慣れたらしい。以前ほど動揺はしなくなった。
「お、二人とも帰ってきたな。話がある。ちょっと管理人室に来てくれ」
寄宿舎に帰るとブラボーが待っていた。二人は何の話だろうと顔を見合わせながらも、部屋に向かう。
「それで戦士長、話とは?」
部屋につくなりそう切り出す斗貴子に、内心苦笑しつつ、ブラボーは真面目な面持ちで口を開いた。
「最近になって、LXEの残党が活動をし始めたらしい」
その内容は、ブラボーの神妙な面持ちに足るものであった。
「LXEの残党?」
「ああ。、構成員はほとんど人だがな。人を襲うにしても食料にするというのではないらしい」
「・・・最早ただのチンピラと変わらんな」
「でもブラボー、人間が相手なら警察に任せておけばいいんじゃ?」
カズキが至極もっともな疑問を投げかけるが、ブラボーは頭をふった。
「いや、ほとんどとは言ったがゼロではない。いつホムンクルスが出てくるかはわからないんだ」
「成る程。もしホムンクルスが出てきたら、警察じゃ手に負えませんね」
「じゃあ、俺達にその話をしたっていうのは・・・?」
カズキがブラボーの意図に気づいたようだ。
「ああ、お前たちにその処理を任せようと思ってな。生憎本隊は事後処理で忙しい。そこで」
「私達に白羽の矢がたったというわけですか・・・じゃぁ、早速ブチ撒けてきます」
ブラボーの言葉を遮り、今にも斗貴子は部屋を出て行こうとする。
「コラ待て。お前たちは腕は確かだが、どうにも目立ちすぎる。あれでは一般人にすぐ素性が
バレるぞ」
「ホムンクルスが相手とあっては、そんな事を言っている余裕もないかと」
やや憮然としながらも、ブラボーの言葉に何か策があると見て、斗貴子は腰を落ち着ける。
「まぁ、待て。本部から支給されたものがある。これを使え」
そう言ってブラボーは核鉄に酷似したものと、四角いカードのような物を二人に渡した。
「何コレ?核鉄みたいなものと・・・こっちのにはそれをはめる穴みたいなものがあるけど・・・」
「うむ。最近本部が開発した身元隠蔽ツールだ。そのカードを腰にセットして、そこに核鉄を
セットし、そして合言葉を叫ぶ。そうすればお前であることがわからないような格好になる」
「へぇ〜。言っちゃえば変身核鉄か」
らしいと言えばらしい、カズキの言葉にブラボーは鷹揚に頷き、説明を続ける。
「うむ。戦士・カズキ。お前の合言葉は『太陽よ!俺に力を!変身!』だ」
「おぉぉぉぉ。かっこいい」
カズキの目が輝く。やはりと言うか何というか、英雄物に憧れているフシがあるようだ。
「そうすることでお前は超槍戦士・サンゼリオンとなるのだ!」
「超槍戦士・サンゼリオン!?かっこいい。・・・・・・イライラするぜ」
「それは微妙に違う」
「食うか?」
「だからそれも違う!」
「お前たち・・・案外マニアックなんだな」
息もつかせぬ二人のやり取りに、ブラボーは多少辟易する。
「何やら戦士長の趣味が多様に反映されている気がしますが・・・私もそんな感じで?」
「うむ。ちなみに戦士・斗貴子の変身セリフはこれだ」
半ば諦念しつつ、斗貴子は彼のメモを受け取る。だが、そのメモは彼女の予想を遥かに越えていた。
「・・・・な!?」
「え〜、なになに・・・『ストロベリーパワー満点☆ストロベリー、メイク、アップ!』
あらあら、素敵ですこと・・・」
その内容に絶句していると、いつのまにかその場にいた桜花が、そのメモを読み上げる。
「何で貴様がここにいる!と、いうか何なんですか戦士長!そのふざけたセリフは!」
二方向に同時に、器用にツッコミを入れるが、ブラボーには届かなかったようだ。
「そうすることで戦士・斗貴子はストロベリー戦士・とっきゅんとなるのだ!」
「聞けよオヤジィィィィィィィ!」
半ば慟哭に近い叫びを上げる斗貴子の肩に、桜花が満面の笑みを以って両手をおく。
「あらあら・・・がんばってくださいね」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!カズキも何とか言ってくれ!」
「変身ポーズはこうだよなぁ・・・あ、後は名乗り口上が必要か」
「聞いて・・・お願いだから・・・」
「こ、こんな恥ずかしいセリフを言えるか!」
未だ斗貴子の葛藤は続く。そんな彼女を尻目に、桜花はメモをもう一度見る。
「・・・は!?あらあらしょうがない。じゃあ私がかわりになろうかしら」
メモに何を見つけたのか、目の色を一瞬変えて桜花はそう申し出る。
「好きにしろ。構いませんよね?戦士長」
「ああ。ただ名前を考え直さねばならんな」
「それは後にするとして変身の練習してみましょ、武藤クン」
いやに嬉しそうに、桜花はカズキを促す。先ほどまでの練習でポーズも決まったらしい。
まってましたと言わんばかりにカズキは変身ポーズを取って、叫ぶ。
「いいですね。じゃあ俺から。太陽よ!俺に力を!変身!」
ピカー
光が発生して消える。そこに立っているのは何やら装甲がついたカズキの姿。無論マフラーつき。
「超・槍・戦・士!サンゼリオン!」
「あらあら。ステキだこと。じゃあ私も・・・」
そう言って桜花は唐突にカズキに抱きつく。
「ちょ・・・桜花先輩!?」
「な、なななななにをしている!」
これには当然のようにカズキも斗貴子も驚きを隠せない。だが、桜花はすまし顔で言い放つ。
「あらあら、だってマニュアルに書いてありますわよ?変身前にストロベリーパワーを充填って。
方法はいまのように抱きついたり…あらあらあらあら?キスをする、なんてものも…」
「き、貴様・・・最初からそれが目的で・・・」
「あらあら。私は純粋に街の人を守りたいだけですわ。でも、素性がバレるのは嫌ですから」
泣く子も黙る斗貴子のすごみ視線だが、桜花は毛ほども動じない。
「・・・いや、しかし・・・だが・・・」
「葛藤してらっしゃるわねぇ・・・あらあら?武藤クン?」
葛藤する斗貴子を見て楽しんでいると、ふとカズキの様子がおかしいのに気づく。
(桜花先輩いつまでこうしてるんだろ・・・でも、気持ちいいからいいか)
「あらあら。じゃあ、こんなことしたらどうなるのかしら?」
桜花はそう言ってさらにカズキに強く抱きつく。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
至上の快楽だったらしい。カズキの言葉は既に言葉になっていなかった。
「やめろ!カズキをそれ以上弄ぶんじゃない!」
だが、さすがにこれには耐えかねたらしい。先程の葛藤など寸分も見せずに、斗貴子は叫ぶ。
「あらあら。じゃあ津村さんがこれをやるんですね?」
「うぐ・・・致し方ない。私がやろう」
背に腹は代えられぬ。今の彼女の心境はまさしくこれであろう。
「わかりましたわ、はい。どうぞ」
「いやに素直に引き下がるな。何を考えている?」
手の平を簡単に返す桜花に、斗貴子は疑いを隠せない。
「あらあら。考えすぎですわ。それより・・・」
ブー、ブー。
桜花の言葉を待っていたかのように、鳴り響く警報
「(ここ寮じゃないのか・・・?)戦士長!」
心の中でツッコミを入れつつ、斗貴子はブラボーに指示を仰ぐ。
「うむ。街に奴らが現れた。戦士・斗貴子、戦士・カズキ、出動だ!」
「はい!」
威勢良く応えて、彼らは街に飛び出した。
キャァァァァァァァ!
絹を裂くような悲鳴が街に響く。
「向こうか!行くぞカズキ!」「うん!」
悲鳴がした方向に、二人は疾走する。たどり着くとそこには・・・
「ヒャッホウ!大人しく食われやがれ!ヒャッホウ!」
どこかで聞いたような声と、どこかで見たことのあるホムンクルスが、女性を襲っていた。
「な・・・お前は!?」「金城!?」
さすがに二人は驚きを隠せないようだ。その場にたどり着くも、一瞬硬直する。
「金城ぅ?」
そのホムンクルスが顔を二人に向ける。間違いない、金城だ。
「バカな!?お前は戦士長が倒したはずだ!」
「正確にはその後誰かにとどめをさされたわけだけども…とにかく、死んだはず」
「ヒャッホウ、金城、金城ねぇ・・・あんなかませ犬と俺を一緒にしないで欲しいぜ」
言葉を聞く限り、金城ではないらしい。金城に似たホムンクルスは続ける。
「俺は金城じゃねぇ!LXEが壊滅してもしぶとく生き残った!俺の名は銀城よ!」
「・・・」
ホムンクルス−銀城というらしい−が自分の名を名乗った途端、二人は沈黙する。
「ヒャホ?どうしたどうした?この俺の迫力にビビっちまったのか?」
「・・・あー、えっと」
「・・・まぐなむえーす?」
あまりの困惑に、カズキが意味のわからない事を口走る。
「・・・と、いうか。名前からしてお前の方が弱いだろう・・・」
ようやく立ち直った斗貴子が、一言言い放つ。
「な、なんだと!?言うに事欠いて俺の方が弱い?」
うろたえる銀城に、カズキと斗貴子が畳み掛ける。
「だって、金と銀じゃ、明らかに・・・ねぇ?」
「核鉄も持っていないようだしな。どう考えてもな・・・」
「キ・・・キサマら!もう許さねぇ!かくなる上はこの女を頂いてから貴様らを・・・ヒャホ?」
そこまで言った銀城の動きが止まる。理由は簡単。女性がいなくなっていたからである。
「そこにいた女の人ならとっくに逃げたぞ」
「その事にすら気づかない辺り、やはり・・・」
カズキと斗貴子の目は、最早半ば哀れみの目になっている。
「く・・・!?ええい!てめぇら!ウダウダいってないでとっととかかってこいやぁ!」
「だってさ、斗貴子さん。とりあえず、変身する?」
「あまり気は進まないんだがな・・・」
シュルルルル、ガチン!
二人はカードを腰にセットし、変身核鉄を構える。そして、まずはカズキから変身する。
「太陽よ!」左手で核鉄を持ち、高く掲げて投げ、右手は腰の下に構える。
「俺に力を!」今度は左手を腰の下に落とし、落ちてきた核鉄を顔の前で右手でキャッチする。そして
「変身!」体の内側で弧を描くように右腕を回し、核鉄をカードにはめ込む!
ピカー!猛烈な光が発生する。そして・・・光が消えた後には、変身したカズキの姿。
「俺は太陽の子!超・槍・戦士!サン!ゼリオン!」
何やら腕を振り回しながら、カズキがポーズを決める。
「な・・・なにぃ!?」
驚きの声を上げる銀城。対して、斗貴子は半ば呆れつつ、カズキに言う。
「キミはホントにそのネタが好きだな。まぁいい、私も変身するか。では・・・カズキ・・・」
「うん・・・」 二人の顔が赤くなる。
斗貴子は恐る恐るカズキに近づき、そして両腕を広げて、カズキを抱きしめた。
「ストロベリーパワー満点…ストロベリー、メイク、アップ」
カズキと違ってポーズを考えていなかった斗貴子は、直立不動で核鉄をセットする。
だが、それはそれで恥ずかしかったらしい。LXEのアジトの前で見せたポーズを取る。
カズキの時と同じように、光が発生する。思えば、コレが斗貴子の初変身である。
光が収まると、斗貴子の姿が見えてきた。カズキも目を見張る。その姿とは。
セーラー服。胸についている大きなリボン、そして頭についている髪飾り。そう、それは…
(こ・・・これは!?セー○ー戦士!?・・・く・・・くぅぅぅぅぅぅ)
そう、まさしくそれである。何やら歓喜に打ち震えているようだが。
「おぉ〜、斗貴子さんもかっこいい〜。いや、かわいい、かな?」
「ケ!どいつもこいつもふざけやがって!いいからとっととかかってこい!」
痺れを切らした銀城が、雄たけびを上げる。だが、それを斗貴子は一喝する。
「お黙りなさい!」 『・・・ハイ?』
斗貴子の口から出た斗貴子とは思えないセリフに、銀城ばかりかカズキまでもが首をかしげる。
「街の人々の平和を脅かす悪党!世界が貴方を許しても、月と私は許しはしない!」
そんな二人をよそに、スラスラと斗貴子の口からセリフが紡がれる。
「貴方を討つは愛の力!愛の力は苺の力!ストロベリー戦士・とっきゅん、ここに見参!」
『・・・』
最早二人は開いた口がふさがらない。そんな彼らを露知らず、斗貴子のセリフは締めに入る。
それと同時に彼女に動きが現れた。どうやら決めポーズらしい。右足を上げて、膝を折り、
左足の前で交差させる。左手は右肩を抱き、そして右手は所謂銃を撃つ形にして、相手に向ける。
そして・・・彼女は決めゼリフを放った!
「貴方の・・・貴方のハートをブチ撒けチャウゾ☆」
ついに変身した斗貴子!外見どころか性格まで変わっているような気もするが!
それはともかく、次回、銀城との大バトル!金城をかませ犬と言い切る彼の実力とは?
そして、潔く身を引いた桜花の真の目論見とは!?
次回、ストロベリー戦士・とっきゅん 第二話 「甘き苺に苦きは桜」
好評なようなら→ 続く。