一学期終盤のある日。サン・ジェルマン病院。
「ご苦労だったな」
「うん、ただいま」
検査入院を終えたカズキは少し疲れた顔を見せた。
着替えの荷物を半分持ってやり、学生寮へと歩を向ける。
「大丈夫か?」
「うん、こういうの初めてだから、いろいろびっくりしただけ」
「そうか、ならいいが」
寮に入ってカズキの部屋に向う途中で六枡と顔を会わせた。
「例の件、終業式の次の日からでいいか?」
「斗貴子さん、空いてる?」
「ああ、空いてるが」
「じゃあそれでいいよ、六枡」
「了解。手配しておく」
そう言いながら軽く手を上げて去っていく六枡。
何の話だ?…後で、カズキに聞いておかねば。
「ふぅ」と部屋に入ってすぐにベットに腰を降ろすカズキ。
やはり疲れているのだろう。錬金術に絡んだ一般的でない検査もあると聞く。
腰を降ろしたまま体を伸ばしているカズキに飲み物を渡してやった。
いつもと逆だ。顔を見合わせて笑う。
自分の分のペットボトルを開けて一口飲んだ後、カバンからプリント類を取り出す。
「キミが休んでいた間の授業のプリントだ。こっちがノートのコピー」
カズキがノートのコピーをバラバラ見ながら言う。
「斗貴子さん、すごいね。高校に行ってなかったに授業にちゃんとついてってる」
「高校への潜入任務が何度かあったからな」
「そっか。オレなんか特訓とかでサボりが多かったから、もう大変」と言って笑う。
プリントの説明を簡単に済ませる。疲れているカズキのところに長居はできない。
「私は部屋に戻る。わからないところは後で聞いてくれ」
「うん。ありがとう、斗貴子さん」
「斗貴子さん!」
部屋を出ようとして呼び止められた。振り向く。
下を向いたカズキが小さな声で言う。
「…オレ、変わっちゃったかな?」
「!?」
「黒核鉄のことは気にしていない。
もともと、斗貴子さんがオレを助けるためにしてくれたことだし。
…でも、心が変わるのが怖い」
なんと答えればいいかわからない。むしろ、カズキを抱きしめたい。あの時のように。
でも、自分のその気持ちを堪える。涙を見られたくないから。
だから、部屋の扉を向いて、カズキに言葉をかけた。
「…大丈夫だ。キミは変わっていない…大丈夫だ…」
「…うん。ありがとう、斗貴子さん」
「…じゃあ」
「うん、また明日」
終業式翌日の予定を聞き忘れた斗貴子さんが真実を知るのはもう少し後になる。