空を向いて波に体を預ける。真上に見える太陽がまぶしい。
頭の中にさっきのサーファーが浮かぶ。
あの男がここに?いったい、何のために?不安が心を占める。
「斗貴子さ〜ん」
突然聞こえたカズキの声に我に返った。
「どうした?」
「そっちは遊泳禁止だよ?」
そう言われてみると、赤い浮きがそばに見える。
沖に流されないよう気をつけてはいたのだが、
左右はあまり気にしていなかった。
結果、遊泳区域の端まで来ていたようだ。
「いったん、戻ろう?」
「そうだな」
カズキと並んで浜まで泳ぎ、海から上がった。
まひろ達がいる場所とだいぶ離れているようだ。
「一休みしてから、合流しようか?」
「わかった」
並んで岩場に腰を降ろし、無言で空を眺める。
照りつける太陽が気持ちいい。
同じ太陽を見ているのにさっき感じた不安がまったくない。
いろんなことがなんとかなりそうな気がする。
そして…眠気が…襲う………
「あひゃ!こら!」
カズキがおなかのあたりをくすぐっていた。
「だって、斗貴子さん、起きないから」
「だからって。ひゃ!やめろ!」
「あはは、斗貴子さん、おへそ、弱いんだ」
「やめろ、やめろ、やめないと…」
お返しにカズキの横っ腹をくすぐってみる。
「ごめん、タイム、待った、そこダメ!」
形勢逆転。
気が付くと仰向けのカズキに覆いかぶさっていた。
「…斗貴子さん…」
「…カズキ…」
カズキの両手が腰の後に回る。
「ありがとう」
「…何だ、急に?」
「オレがこっち側にいられるのは、あの時、斗貴子さんが止めてくれたからだよ」
じゃなかったら、今ごろヴィクターと同じになってたかも」
「…キミをそんな体にしたのは私だ」
「それでも、ありがとう」
私はカズキの胸に体を預けた。
「お兄ちゃ〜ん、斗貴子さ〜ん」
遠くから聞こえるまひろの声。反射的に飛び起き、カズキと距離を取った。
自分の顔が火照っているのがわかる。カズキに顔を向けられない。
「む、む、迎えに来てくれたようだな」
「う、うん、そうだね、行こうか…ちょっと残念だけど」
最後は小声。それに心の中で答える。(…私もだ)
(終わり)