ノックの音がした。  
「カズキ、ちょっといいか?」  
「うん、開いてるよ」  
部屋に入ってきた斗貴子さんはいつもと違う服装だった。  
 
「…それ、銀成の夏服?」  
「ああ、明日から衣替えだろう?  
 冬服は動きづらかったので、前の潜入先の制服を着ていたが、  
 夏服はどうかと思ってな」  
そう言うと、持ってきた紙袋から別の服を出してオレのベッドに広げた。  
前の潜入先の制服と同じ柄だ。半袖だから夏服なんだろう。比較対象らしい。  
「なるほど─」  
 
「私の部屋は、まひろにいつ襲われるかわからないので、ここでテストさせてくれ。  
 …って、そういう意味の『襲う』じゃないぞ!」  
顔を赤くしたオレに慌ててフォローする斗貴子さん。  
 
「勝手に部屋に入ってきて、トランプやお風呂に連れまわされることがあるんだ!」  
「なるほど」…納得。  
「それに、ここにカズキと二人でいれば、  
 どういうわけかほとんど誰も声をかけてこないしな」  
…オレも鈍い方だと思うが、斗貴子さんも相当なものだ。  
 
「こっちはこっちで勝手にテストしているから、キミは自分のことをしていてくれ」  
「うん、わかった。そうさせもらうよ」  
 
オレはやりかけだった作業を再開した。  
制服の冬服をしまい、夏服を用意するだけだが。  
今日まで着ていた冬服と夏服のサイズは同じだから、試着とかはいいだろう。  
あっという間に作業終了。  
 
することがなくなったので、斗貴子さんの方を見てみた。  
 
くるん、くるん。  
あまり大きくないオレの部屋の鏡の前で、  
銀成の夏服を着た斗貴子さんがくるくると回っている。  
 
ふわり。  
回る瞬間、スカートの裾が少し上がり、斗貴子さんの脚が見えた。  
斗貴子さんの脚ってキレイだな。  
今までミニスカートだったからさんざん見てきたけど、  
長めのスカートから覗く脚は新鮮だ。うん。  
それに、前の制服の黒いソックスも良かったけど、  
ウチの制服の黒ソックスも負けてない。  
 
「冬服ほどじゃないが、少し動きづらいな」  
今度は回るのを止め、部屋を歩きまわりながら、そんなことを言う。  
腰の後のリボンも似合ってるし、ヒラヒラもかわいい。  
 
「武装錬金!」  
そして鏡の前に戻った斗貴子さんが武装錬金を発動。  
発動の瞬間、スカートが舞い上がり、光であふれた。  
今までのミニスカートと同じくらいのとこまでしか見えなかったけど、  
かなりドキドキした。  
それに、元々ウチの女子の制服は色が薄くて透けやすい。薄手の夏服は更にそうだ。  
そのせいか、発動の光で下着が透けて見えたような気がして、更にドキドキ。  
黒核鉄が発動しないで良かった。闘争心じゃないからか?  
 
光が消えた時、ウェイトモードのバルキリースカートを装着した斗貴子さんがいた。  
いったん舞い上がったスカートはすぐに元へと戻り、  
小さい武装錬金は、隠れて見えなくなった。  
 
「ウェイトモードは問題ない…人知れず発動しておけるからむしろ便利か─」  
そう言って、またくるくる回りだす斗貴子さん。  
 
「すまない、カズキ、ちょっといいか?」  
「………」  
「?カズキ?」  
「………」  
「カズキ!聞いてるか?」  
斗貴子さんが足を止めてこちらを見ていた。  
「…あ、ごめん、何?」…見とれていたので、何も聞こえてなかった。  
 
「ちょっと見ててくれるか?」  
「うん、わかった」  
言われなくても、さっきからずっと見ているけど、それは言わないでおく。  
「武装解除!」  
斗貴子さんはそう言った後、まっすぐこちらを向いて、両手でスカートを持ち上げた。  
太股があらわになる。頭に血がのぼってきたのがわかった。  
 
「武装錬金!」  
また武装錬金発動。今度はウェイトモードじゃない。  
さっきより少し高くスカートが舞い上がった。ほとんどぎりぎり。  
発光による制服透過も確認。  
腕より長い4本のアームが太股に装着され、左右に広がった。  
「この制服だと、こんな風に手でスカートを持ち上げないと発動できないんだが、  
 戦闘時に不利かな?」  
 
そして、スカートを持ち上げていた手を離し、替りに2本のアームで支える。  
アームが装着された太股は見えたままだ。  
「厚手の冬服と違って、発動後はこうして手を使うことができそうだ。  
 ただ、戦闘に使えるアームが減るからぶちまけづらいかもしれない」  
そして、またくるくると回る。  
 
「本当は模擬戦でもして試してみたいんだが、キミは戦士活動禁止中だしな─  
 どう思う?…って、どうした?おい、大丈夫か!」  
オレは鼻血を出して倒れた。  
 
気が付くと、見慣れた天井が見えた。自分の部屋のベッドの上。  
視線を上に向けたまま少しずらすと、うとうとしている斗貴子さんの顔が見えた。  
「斗貴子さん!」  
オレは飛び起き…ようとして、軽い立ちくらみを起こし、元の場所に頭を置いた。  
そこは斗貴子さんの膝の上。  
 
さっきまでうとうとしていた斗貴子さんが目を開き、小声で言った。  
「まだ静かにしていて方がいい」  
「斗貴子さん…ありがとう」  
「気にするな…体調が悪い中をテストにつき合わせて悪かったな」  
…鼻血は体調のせいじゃないんだけど。  
 
「あの時と同じだな」  
「あ、そういえば─」  
蝶野を倒した後、同じように斗貴子さんに膝枕してもらったっけ。  
 
「結局、夏服もそれに?」  
今、斗貴子さんが着ているのは、前の潜入先の夏服。  
「ああ。やはりここの制服は戦闘に向かない」  
 
この人はやっぱりこういう優先度なんだ。  
オレはみんなを守りたい。そして、この人とずっといっしょにいたい。  
そのためにも、また戦えるようになりたい。  
だから、ヴィクター化のこと、早くなんとかしたい。焦ってもしょうがないけど。  
 
「このまま寝てもいいぞ。私はキミが眠ってから適当に戻る」  
「…でも…うん、じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう、斗貴子さん」  
ほどなく、オレは眠りに落ちた。  
 
快適な目覚め。こんなに気持ちがいい朝は初めてだ。体を伸ばし、深呼吸した。  
そして、他にも初めてのことを見つけた。斗貴子さんが隣で寝ていた。  
 
「…斗貴子さん?」  
オレのジャージを着た斗貴子さんが目をこすりながらこちらを向いた。  
「…ああ、おはよう、カズキ。調子はどうだ?」  
「順調だけど…どうして?」  
「それは良かった。  
 部屋に戻るのが面倒になってな、勝手で悪いが隣を使わせてもらった」  
「…点呼とかは?」  
「六枡がうまくやってくれた。熟睡していたキミの分もな」  
なんと言っていいかわからない。時計をちらりと見た斗貴子さんが話を続ける。  
「さすがに朝の点呼の代返は断られたので、そろそろ部屋に戻るよ」  
そう言って、ベッドから降り、  
机の上にたたんであった自分の2種類の夏服を手に取り、紙袋につめた。  
 
「こんな気持ちのいい朝は初めてだ。ありがとう、カズキ。  
 ジャージは後で返す。じゃあ、また」  
 
部屋から出て行く斗貴子さんを唖然と見送り、しばらくして我に返った。  
斗貴子さんが頭を乗せていた予備の枕に視線を向ける。  
(また、こんな朝が来ないかな──)  
 
 
この後少ししてから、斗貴子さんが毎晩のようにカズキの隣にいるようになるのだが、  
それはまた別のお話し。  
 

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