7月も終わりに近い、台風一過のその日。  
「あぁ…」  
銀成市は日が傾いても  
「暑い…」  
一向に気温が下がる気配を見せなかった。  
銀成学園寄宿舎の一室。  
「いま何度あるんだろ…」  
ベッドにうつ伏せで伸びていたカズキは  
温度計がなかったかあたりをきょろきょろと見回して  
「やめてくれ…確認しても気休めにもならない温度だ…」  
「斗貴子さん?」  
ドアの前にぐったりと、しかも不機嫌そうに立っている斗貴子を見つけた。  
「こっちもあまり変わらないか…」  
「どうしたの」  
「私の部屋は西日が強くてオーブンみたいなんだ」  
「他の皆は…?」  
「カズキ…本当に大丈夫か?今は夏休みだぞ」  
そう、銀成学園はとっくに夏休みに入り、寄宿生はみな実家に帰省している。  
現在寄宿舎に残っているのは、L・X・E騒動の残務処理があるカズキと斗貴子、管理人のC・ブラボーの3人だけだった。  
「そうだね。皆いないんだね。皆今頃クーラーが効いた部屋で…」  
寄宿舎には当然のようにクーラーがない。  
「クーラー!?」  
ただ一部屋、管理人室を除いて。  
「そうだ斗貴子さん!ブラボーのところに」  
「もう行ってきた」  
斗貴子の不機嫌そうな顔が、一層苦痛をおびた。  
『クーラーが壊れたので一時市街に避難する。ブラボーな戦士斗貴子・カズキ、留守番を頼んだ』  
斗貴子は腕を組んだまま、明らかにブラボーの筆致の書置きを見せた。  
「…………」  
「…………」  
カズキも、斗貴子も、ブラボーの行動に本気で殺意を覚えたのはこの時が初めてだった。  
 
「斗貴子さん…暑いのダメ?」  
カズキはベッドに突っ伏したまま、聞いた。  
「…弱い方だ」  
斗貴子はベッドに腰掛けて、答えた。  
「…暑いね」  
「…言うな。余計に暑くなるぞ」  
「……あ゙ぁ」  
「………これは」  
所在無げに部屋を見渡す斗貴子が、机の上に団扇があるのを見つけた。  
「カズキ、団扇は使わないのか」  
「いや、使っても…」  
扇いだ途端、むぅっとくる生暖かい風が斗貴子の頬を撫でた。  
「風自体が暑いんだ」  
斗貴子は団扇を取り落とし、しばし呆然とする。  
「これではサウナだ…」  
「ホント、暑いね…」  
瞬間、斗貴子の中で何かが切れた。  
「さっきから『暑い』とばかり言っているのはこの口かぁっ!」  
「イタイ!斗貴子さん目がヤバい!イタいって!」  
カズキのほっぺたを両手でつねり上げ、ぐるぐる目で斗貴子は叫んだ。  
「イタいって!痛い!イタ…い…?」  
痛くない。ほっぺたの手はいつの間にかつねる手から撫でる手つきに変わっていた。  
「斗貴子…さん?」  
ほっぺたに触れた手に手を重ねて、カズキは解った。  
「カズキの頬…冷たい」  
「うん、斗貴子さんの手も冷たい」  
灼熱の砂漠と真夏の寄宿舎では、体温より気温の方が高温になる。  
そんなとき現地人は  
「カズキの首も…」  
「斗貴子さんの肩も…」  
互いに抱き合って涼をとるらしいのだ!  
(三笠山出月『うめぼしの謎』より)  
 
朦朧とした意識の中で、斗貴子はカズキの首に腕を巻いて、  
カズキは斗貴子を両腕で抱え込んで、ひんやりと冷たい肌を寄せ合った。  
 
(あれ?私は何をやっているんだ?)  
斗貴子の理性は暑さが奪っていった。  
(胸がドキドキする…これは…)  
カズキと抱き合っているから、とは考えられない。現に何度も抱かれたじゃないか。  
抱かれて坂を転げ落ちたり、カズキがヴィクター化したときも抱いたり抱かれたりしたから違う。  
そうだ。違うにきまってる。  
(暑さのせいだ…)  
 
(斗貴子さんの体、すべすべで、やわらかくて、いい匂い…)  
カズキの理性は暑さが曖昧にしてしまった。  
カズキの指先が、背中から首筋にかけて斗貴子の体のラインを這った。  
「ひゃ…」  
びくんと背筋が伸びて、斗貴子はカズキの腕の中で丸くなった。  
指先にわずかな湿り気、背中に汗がにじんでいる。  
ぴったりとシャツが張り付いた背中は小さくて、丸くて、もそもそと動いていた。  
(もそもそ?)  
そう、もそもそと。  
「気持ち悪いな…」  
もそもそとシャツを脱いでるのだった。  
 
ぺちゃりと濡れ音をたてて、斗貴子のシャツは床に落ちた。  
「とっ斗貴子さん!ノーブラだったの?」  
微妙に論点がずれている。たぶん暑いから。  
「私だって…下着が嫌なときくらい…ある…」  
妙にしおらしい。たぶん暑いから。  
「いや、そうじゃなくて見えちゃうって!」  
「見える…?どうせこの寄宿舎には私とキミしか…」  
カズキがいる。一番近しい、けど一番弱い自分を見せたくない人がいる。  
「見るなぁっ!」  
「うわっ!」  
斗貴子は一瞬だけ我に返って、あわてて胸を手近にあったもので覆った。  
「…見るな…お願いだから…」  
「でも…斗貴子さん…」  
それは見られるよりも恥ずかしいよ、とカズキが冷静なツッコミを返すには、  
気温が高すぎて、刺激が強すぎて、当事者でありすぎた。  
そのとき斗貴子に一番近くて、手っ取り早く胸を隠すものは、カズキの両手しかなかったのだから。  
掌に伝わる柔らかさと、心臓の鼓動、小さな突起の感覚。  
カズキの掌を自分の胸に押し当てた恥ずかしさと、不思議な安心感。  
「………」  
「…………」  
いつも話し声と足音が絶えない寄宿舎は、その日はとても静かな日だった。  
「…斗貴子さん…」  
「…どうせこの寄宿舎には…私とキミしか…いないんだから…」  
胸にカズキの手を当てたまま、斗貴子はベッドにカラダを横たえ…  
「キミがいいなら、その…一線を越えても…」  
その言葉は、最後まで言えなかった。  
たがいの顔が頬を擦りあうまで近くにあって、  
たがいの吐息が絡まりあった途端、  
唇を擦りあわせるだけのかすかなキスと、  
カズキのかすれたささやき声が  
「一線…越えようか」  
と、言っていた。  
 
カズキがシャツを脱ぎ捨てた後、もう一度抱きしめあった。  
ぺたり  
汗みどろの肌がひんやりとして、大きな安堵の息をつかせた。  
触れ合った肌に熱がこもらないように、カズキは体を動かしている。  
ぬちゅ…くちゅ…  
それが体全体を使った愛撫になって、斗貴子の胸がじんじんとせつなさを増していく。  
「斗貴子さんの肌…シャツ越しより、気持ちいい」  
「そんなコト…言わないでくれ…」  
「…?」  
「布越しで、その、当たっているんだ」  
斗貴子の股間に、カズキの固くなったモノが。  
「これ以上のコト、キミにされると思うと…」  
ショートパンツの中は汗と愛液でぬかるんで、カズキのモノと擦れて、ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てていた。  
「最後の理性のひとかけらまで…んくっ」  
わずかに意識が飛び、つま先がぴんと伸びた。  
「…ぁ…ぁぁ…」  
うつろだった目を閉じて、快感に浸る斗貴子の顔が、カズキの頬を染めた。  
「斗貴子さんのその顔、かわいい」  
いつもは恥ずかしくて言えない言葉が、暑さとふたりだけの部屋のせいで漏れ出す。  
「やめ…恥ずかしいから…ん…」  
「本当に、かわいいよ…斗貴子さ」  
言葉を遮るように、斗貴子が唇を重ねる。  
「それより…下…脱がせてくれないか…気持ちよくて、気持ち悪くて、狂ってしまいそうだ…」  
「うん…」  
軽く頷いてカズキは腰に指をかけて一気に引き降ろす。  
「いや…君が脱ぐんじゃなくて…」  
自分のハーフパンツと下着を。  
そそり立ったモノが揺れているのに、斗貴子の目は釘付けになった。  
「ああ、斗貴子さんの、ね。ゴメン。」  
カズキの理性は、暑さがほとんど奪っていた。  
 
「いや、いいんだ。どうせキミも…するときは脱ぐんだろうし」  
そう言いながら斗貴子は自分で下着を降ろしていく。  
薄く生えた恥毛の奥で蜜と汗が溢れて、カズキの目を止まらせた。  
「コラ、あまり見るな」  
仰向けに膝を立てて寝かされた斗貴子は、視線が怖いみたいに目を腕で隠した。  
「ゴメン、今の斗貴子さんすごいエッチだったから」  
隠しきれない言葉が(多分)暑さのせいで自然に口をつく。  
脚の間に割り入って、斗貴子の目を隠した腕に指を絡めて、取り除く。  
「もっとエッチな斗貴子さん…見たい」  
斗貴子の裂け目の入り口に、直に当たる肉茎の感覚。  
誰にも触れさせたことのなかった花弁がうねり、カズキを迎えようとする。  
「あうっ」  
股を押し開いた奥の、さらに奥に分け入ろうとするカズキの一部の感覚。  
「かはっ…あっ…」  
割り裂けそうな下腹部に、熱を帯びた固いモノが埋まっていく。  
「……あ…ぁぁ…んっ…」  
子宮口に達し、鈍く、内臓を突き揺さぶられる。  
「ん…」  
「入れちゃったね…」  
「まだ…ちょっと…動くな…」  
斗貴子の目の端に涙の露が光る。  
斗貴子の体はカズキを受け入れようと、痛みをかき消そうと、弛緩と収縮を繰り返した。  
薄くしなやかな粘膜はカズキを包み込み、破瓜の血が太股をつたう。  
「大丈夫?痛くない?」  
「痛いが…だいぶ和らいできた…あ」  
目の端の雫にキス。ビクンと斗貴子の体が反応して、つながった部分が擦れる。  
「熱っ…」  
薄い柔襞が掻き乱されて、熱さに似た痛みが走る。  
そのたびにカズキのモノを媚肉が快感に導いて、突き上げたい衝動に誘う。  
「熱っ…熱い…んむっ」  
斗貴子の声は、カズキの唇が塞いでしまった。  
 
「暑いって言ったら、余計に暑くなるよ、斗貴子さん」  
「それとこれとは…ちがう…うあっ…ぁ…」  
傷つけることを恐れるようにゆっくりと、カズキは動き始める。  
唇を軽くはみあって、どちらともなく舌が絡みあって、たがいの痛みと衝動、そして熱さをかき消そうとした。  
それでも、互いを求めようとして体が動き、斗貴子の肉壁は熱く乱れる。  
そのたびに蜜は溢れ、じゅぷ、じゅぷ、と水音が響く。  
「…んくっ…つ……ひあっ!」  
汗まみれの肌がぬめり、全身が粘膜のようになる。  
斗貴子の綺麗に切りそろえられた後ろ髪から覗くうなじを、カズキが撫でた。  
斗貴子の薄く心臓の鼓動が直に伝わる乳房の先端が、カズキのそれと擦れあった。  
そのたびに意識が薄らいで、より強い快感が身を引き裂いてしまいそうになる。  
「いやっ…深っ…ぃ……」  
いつしか腰の動きは深く、濃密に貪るモノへとかわり、それに応えるかのように柔肉は締め付け、硬肉を導いた。  
「斗貴子さん…もう…」  
苦しげなカズキの声が、果てるのが近いことを伝える。  
幾度となく突き上げられた子宮口がじんじんと疼き、内臓が微細な振動で蕩け、全てを受け入れようとする。  
「くぁ……あぁ…あっ!」  
胎内に、熱い、熱い濁流がはじけたのを感じた途端、斗貴子の全身は蕩けきって、意識はしあわせとせつなさで満たされた。  
 
 
べたり、とした肌触り。  
「ちょっと、気持ち悪いね」  
背中合わせに座ったカズキが言った。  
チリリ…と虫の鳴く音と、薄暗い部屋。誰もいない夜。  
「キミに嫌われないうちに汗を流して帰ることにする」  
頬を紅く染めた斗貴子の、精一杯の告白。  
「じゃあ、一緒にお風呂に行こうか」  
裸のままの斗貴子を抱きかかえ、カズキは部屋を出ようとする。  
「コラッ!やめろ」  
「大丈夫。夏休みで誰もいないんだし」  
いつも喧騒の絶えない廊下は、その日は嘘みたいに静かだった。  
それでも誰かが見ているような不安に襲われて、斗貴子はギュッと体をこわばらせる。  
カズキはそんな姿が愛らしくて、いつまでもこの腕の中から離れないで、と願った。  
 
「せめてシャワーを浴びる時くらい、降ろしてくれないか」  
「ああ、ゴメン」  
冷たいシャワーの雨に打たれて、口付けを交わす。  
太股をつたって、血交じりの精液が流れ出した。  
「もう1回、しよ」  
「こっ、ココで?」  
「片脚、上げて」  
「立ったままは…やめ…あ…」  
斗貴子は背中を壁に預けて、片脚をカズキが担いで、ふたりはもう一度繋がる。  
「すごい…斗貴子さん…繋がってるところが見える…」  
「見えても言うなぁ…んっ…キミは…失礼だ……っ」  
 
そのころブラボーは  
「源さんの生き様、ブラボーだっ!」  
漫画喫茶で『湯けむりスナイパー』を全巻読破しようとしていた!  
 
さらり、とした肌触り。  
夜が訪れて、気温が下がり、涼やかな風がカズキの部屋、寄り添い寝そべったふたりを撫でる。  
「…斗貴子さん」  
パタ、パタと団扇で涼風を送りながら、カズキが言う  
「…どうした?」  
目を閉じて体に涼風を受けながら、斗貴子が応える。  
「明日も、暑くなりそうだね」  
「そうだな…」  
「明後日も、暑くなるかな」  
「そう、だな…」  
「夏が、終わらないといいな…」  
「そう…だ…な」  
「いつまでも、斗貴子さんと、一緒に…いたいな…」  
「……」  
 
コトリと、団扇が、落ちた。  
頬に団扇が当たって斗貴子は目が覚めた。  
あどけないカズキの寝顔に、斗貴子は思わず微笑んだ。  
団扇を取って、カズキを扇いだ。  
いつまでもこの夏が続けばいいと、願いながら…。  
 
コトリと、団扇が、落ちた。  
頬に団扇が当たってカズキは目が覚めた。  
安らいだ斗貴子の寝顔に、カズキはしあわせに満たされた。  
団扇を取って、斗貴子を扇いだ。  
いつまでもこの夜が続けばいいと、願いながら…。  
 
コトリと、団扇が、落ちた。  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル