右手に何かを感じて、目が覚めた。
オレのベッドの隣で寝ていた斗貴子さんが、
上半身を起こし、オレの右手に左手を重ねていた。
目の前の斗貴子さんの背中を見て、
ヴィクター戦の屋上でのよく似た情景を思い出した。
あの時、斗貴子さんの慟哭でこの世に引き戻されたよう気がする。
今とあの時と違いは─
今の斗貴子さんは哭いていないこと、
今の斗貴子さんはハダカなこと。
そんな斗貴子さんの背中を指でつついてみる。
ピクッ、っと反応をした後、こちらを向いた。
うん、やっぱり、哭いてない。よかった。自然と笑顔がこぼれる。
「すまない、起こしてしまったようだな…ん?何がおかしい?」
「ううん、こうしていられるのがうれしいだけ。時間は?」
わずかに入る朝陽の中で、斗貴子さんが顔だけを回して、部屋の時計を見た。
「朝の見廻りまで間があるから部屋に戻るには早い─
かといって、寝なおすほどでもない─
微妙だな」
オレは無言で斗貴子さんの手を引き、抱き寄せた。
舌を奥まで入れたキス。そして、手を秘所に向けた。
「おい!夜にしたばかりじゃないか!」
強引に唇を離し、そんなことを言う斗貴子さん。
とっさに言葉が浮かばず、じーっと斗貴子さんを見つめる。
でも、秘所の奥まで入れた指は動かしっぱなし。
斗貴子さんの顔がだんだん上気してきた。
そして、しばらくしてから下を向き、根負けしたようにぽつりと言った。
「…一度だけだぞ」
オレは空いている左手で斗貴子さんの頭を抱いた。
体を一つにした後、何度か体位を入れ替えて、
今は、上に跨っている斗貴子さんを突き上げている。
突き上げる度に斗貴子さんの肉壁がリズミカルに脈動し、結合部からは蜜が溢れる。
粘膜を掻き分けた自分の分身が斗貴子さんの奥に当たる度に、先端が熱くなる。
そんな、突き上げを繰り返しながら、
両手を斗貴子さんの胸に当てて、持ち上げてみた。
「…あん、あっ…」
途切れず出ていた斗貴子さんの声の調子が変わった。
斗貴子さんの胸は大きい方じゃないけれど、
服の上から見るよりかは大きい。着やせするタイプなんだろう。
この胸に触っていると、なんか安心する。
「え─と、2年B組、武藤君?」
突然、ブラボーの替りの管理人代理の声が聞こえた。
まずい、いつのまにか見廻りの時間がきていたらしい。
没頭しすぎたオレたちは、時間を忘れていたのだ。
返事をしなかったり、おかしな様子があれば、確認のために部屋を見られてしまう。
あわてて手と腰を動かすのを止めた。
そうしたら、今度は斗貴子さんが腰を動かし始めた。現状に気づいていないらしい。
目をつぶってオレに腰を押し付け、前後左右に回し続ける斗貴子さん。
上下運動だけではありえない方向からの快感に、
オレも腰を動かして応えたくなったけど、なんとかこらえて、ささやいた。
「まずいよ…斗貴子さん?」
「…ん、あ…」…それでも腰を動かし続ける。
「はいぃ!」
しょうがないので、とりあえず、部屋の入り口に向って返事をしてみる。
自分の声が激しく上ずっているのがわかる。
「ん?武藤君、大丈夫ですか?」
そこをあなたが開けなければ大丈夫!─そんな返事をできるはずもなく。
開けられた時の用心に、斗貴子さんの頭を胸に抱き、布団をかぶせた。
そうしたら、やっと状況を把握したようで、声を潜め、動きも止めてくれた。
オレも腕と肩を布団にいれて、服を着てないことを隠した。
「武藤君?入るよ?」
「はい!はい!はい!武藤カズキ、一名。まったく問題なく在室です!」
それでも扉が開いてしまった。そして、その瞬間、ベッドから布団が落ちた。
オレはどうしていいかわからず目をつぶった。
寄宿舎内での男女同衾はもちろん厳禁だ。
(停学だったかな?…斗貴子さんといられなくなっちゃうのかな─)
これから起こる出来事が頭に浮かんだ。
しかし、覚悟していた破滅の音が聞こえてこない。
不審に思い、薄目を開けて様子を伺うと、元通りに閉まっている扉が見えた。
落ちたはずの布団も元に戻っている。そして、去っていく足音が聞こえた。
腰の両脇に金属に近い感触を感じ、布団の中を覗き込むと、
バルキリースカートで布団の端を内側から固定している斗貴子さんが見えた。
あの瞬間に無音無動作で発動し、対処してくれたらしい。
「ん…もう…大丈夫か?」
「うん…ありがとう」
ほっとしたら、射精感がこみ上げてきた。こらえきれずに放ってしまう。
斗貴子さんも目をつぶって体を震わせていた。
そして、その震えに合わせたような締め付けを感じ、
搾り取られるようにオレは出し続けた。
少しして、斗貴子さんがバルキリースカートで上半身を起こし、
オレの胸に両手を置いた。下半身は繋がったままで、お互いの息もまだ荒い。
「ハァハァ…あぶなかったな」
「ハァ…ハァ…うん、でも、斗貴子さんの部屋の見廻りまであとちょっとだよね?」
「…ハァ…そうだな、部屋に戻らないと…武装解除」
そう言いながら、バルキリースカートを核鉄に戻す斗貴子さん。
その斗貴子さんの中でオレのモノは回復しつつあるのだが、
見廻りをなんとかしないとそれどころじゃない。
その時、枕元に置いていた携帯が鳴った。
手にとって表示を見たら六枡からだったので、通話スイッチを押した。
「ハァ…カズキ、それは…ん…」
斗貴子さんが何か言いかけ、オレの手にある携帯を取ろうとしたが、
その動きで交わりの角度が微妙に変わり、体が反応してしまったようだ。
声にならない声を出し、動きを止めてしまった。
「六枡?」
『何故、お前がでるんだ?』
「え?あ─」
これ、斗貴子さんの携帯だった。
『お前の部屋の点呼の様子が聞こえたから、そんなことだろうと思ったよ』
「…ハァ…いや、これは─」
『心配するな、斗貴子氏の点呼はなんとかする』
六枡はそう言って、通話を切った。
寄宿舎からの通学路。
「…で、なんで、全力疾走してるんだ?」
「走らないと、遅刻するから!」
「朝食もとらずに?」
「朝メシとシャワーの2択でシャワーを選んだのは斗貴子さん!」
「その2択になったのは誰のせいだ!」
「オレたち、2人のせい!」
そう、朝の見廻りをやりすごしてちょっとだけ時間ができたオレたちは、
また、始めてしまったのだ。
次に時計を見た時は、朝メシの終了時間間際。
シャワーを浴びるなら朝メシは無理。ホント言うとシャワーの時間すらきびしい。
そして、今、学校に向って並んで走っていたりする。
突然、斗貴子さんが足を緩めた。いつもより内股に見える。
「どうしたの?」…オレも減速して、斗貴子さんに合わせた。
「…昨晩と、今朝の2回…」
「うん、した回数?」
オレの的確な表現に、斗貴子さんが顔を赤らめ、横を向いた。
「…キミの…が…その…これ以上走ると─」
斗貴子さんが言いたがらない単語を脳内で補って状況を推測してみた。
「…オレの精液が逆流して出てきた…とか?」
斗貴子さんが顔を真っ赤にして声を荒げた。
「ばか!はっきり言うな!」
そして、顔を下に向け、小声で言った。
「……その通りだ」
斗貴子さんの太股の内側に目をやる。慌ててカバンで隠す斗貴子さん。
一瞬だけ見えた様子からすると、まだそこまでは出てきてないようだ。
それなら。
オレは迷わず斗貴子さんを背負い、走り出した。
「カズキ、やめろ!恥ずかしい!」
「これなら走れるよ!」
「降ろせ!」「イヤだ!」
「降ろしなさい!」「イヤです!」
「降ろして!」「イヤん!」
「…こうなると、キミは何を言ってもやめないんだったな─」
「そういうこと」
あきらめたらしい。
さっきまでオレの背中を叩いていた拳を解き、オレの前に回した。
そして、オレの心臓のあたりに手のひらをあてて言った。
「黒い核鉄のこと…早く解決するといいな」
「うん、そうだね。ブラボー、早く戻ってほしいよ」
校門が見えてきた。どうやら、間に合いそうだ。