「…にあ」
「にゃあ」
「うにゃ」
「にぃーあ」
四匹の猫の鳴き声のみが響き渡るアストラル社内には二人の人影が佇んでいた。
片や猫を愛して止まぬ灰色の髪の陰陽師、猫屋敷蓮。
片や堂々足る歴史と実力とを持ち合わせる、魔術結社ゲーティアの美しき首領、アディリシア=レン==メイザース。
アディリシアは憂鬱そうに目を細め窓の外を見遣った。
夕暮れ色に染まった風景に更に気怠さを促される。
「イツキ達はまだかしら…」
思わず心中を零して、ちらりと強つく陰陽師も見れば、さも幸せそうに猫の顎といわず背といわずさすりさすり、幸せ一辺といった感じであった。
さする手つきがなんだかいやらしくてさっと顔を背けた。
アディリシアの少し顔が赤く見えるのは夕焼けのせいではないだろう。
ああ、なんだか無性に腹立たしい。
アディリシアは思う。人の憂いなどお構いなし。むしろここにアディリシアが存在することすら眼中に無いのではないかと。
気高い彼女がそのような事我慢できるはずも無い。
外はいよいよ暗くなる。
屈辱だ屈辱だ屈辱だ、これは一種の拷問だ。
激昂を沸々とたぎらせ黄金の呪力が体の内から染み出さんとした時だった。
「社長達、遅いですねぇ」
その猫馬鹿はようやくのんびりとした声を発した。
「『遅いですねぇ』…じゃありませんわ!本当に、ええ、本当にイツキ達はいつ仕事から帰って来ますの!?」
「いやぁ、それがさっぱり。実の所、社長達が出掛けるとき原稿の為に部屋にこもっておりまして」
アディリシアの顔からサーッと血の気が引いた。
まさか、まさか。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
「いつ戻るか…聞いてませんでしたの!?」
恐ろしいまでの剣幕で迫ったにも関わらず、言われた本人の返答は、開き直った、最悪のものだった。
「いやぁ、お恥ずかしい。人間集中すると周りが見えなくなるものですねぇ」
あっはっはと笑うその様子に、アディリシアは自分の中の何かが切れたのを感じた。
「それならそうと最初からそう言いなさいっ、全く、時間の浪費も良い所ですわ!!」
「いやいや、申し上げたじゃあないですか。社長達は留守にしてますよって。それでもアディリシアさんが『なら待たせていただきますわ』と仰った訳で…」
「黙りなさいつ!」
猫屋敷の言い分をぴしゃりとはねつけ、長い睫毛に縁取られた碧眼で睨めつける。
怒りも深々といった様子に流石の猫屋敷も肩を竦めた。
「まぁまぁ、短気は損気ですよ。我々のような魔法使いなら尚更です。ご存知でしょう?」
「そんな事は言われなくても重々承知していますわ!貴方のその態度がいけないんです!!」
「まぁ、ほら、冷静になさって下さい。そんなんだから、螺旋なる蛇(オピオン)に遅れをとってしまうわけで。」
「そんな話を何故今持ち出しますの!」
アディリシアは自分でも頭に血が上っているのはわかっていた。
わかってはいたのだが、この強つく者の人を小馬鹿にした態度が許せなかったのだ。
アディリシアの誇りが、それを許さなかったのだ。
だからこそ、彼女は必死に自分を抑えようとしていた。
「私は、ちゃんと勝ちましたよ?」
「だから、その話は今は関係ないでしょう」
「魔法使いなら、敗れたことへの反省はした方がいいと思うんですが」
「確かに、それは正論ですわね」
アディリシアは一つ頷いて、言う。
猫屋敷を真っ直ぐに見つめた強い言葉だった。
「でもやはり、それは貴方に言われることではありません。私、人に説教を受けるほど未熟でも浅慮でもありませんもの」
「―…なるほど」
これには猫屋敷が頷いた。
「これは失礼、ただ、宜しければ私が色々と助言差し上げようと思いまして」
「助言?」
アディリシアは白い首を微かに傾げた。
黄金の縦ロールが、それにつられて僅かに揺れる。
猫屋敷は猫達をあやしながら笑って応えた。
「これでも、いろんなタイプの魔法使いと一戦交えたりしてますからね、やっぱり色々と対策も考じて来た訳なんですよ」
「あら、その経験を生かしてご教授頂けるのかしら?随分ご親切な話ですこと」
すん、と小さく鼻を鳴らしてアディリシアは答えた。
優雅に微笑を浮かべて猫屋敷の出方を窺う。
以前別の陰陽師に無償の情報を流され、結果良いように動かされていたという苦い経験があるのだ。
同じような過ちは犯すまい。
「そう構えないで頂けると有り難いんですがねぇ、別にアディリシアさんから見返りに何かぼったくろうという訳じゃあありませんし」
「尚更怪しいですわ」
「そうですか?困りましたね、あっ、ほら」
猫屋敷は思い付いたように人差し指を立てた。
「アディリシアさんとて社長とお茶するために入札したことがあったじゃないですか。今回のも、友好を深めるため、じゃあいけませんか」
「……友好…ですの」
アディリシアは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「アストラルの大株主としては、確かに必要なことですわね。」
納得の表情を見せ、更に尋ねる。
「それで、何をもって友好の証といたしますの?失礼ですけれど、二人きりでお茶というのは賛同しかねますわよ」
猫屋敷は尚、笑って答える。
「そんなお手間をとらせはいたしませんよ。そうですね、社長達が帰ってくるまでに終わらしちゃいましょう」
「…?えらく手短ですのね。で、何を?」
猫屋敷の笑みが、一層深くなった。
「社長達が帰ってくる迄の間、」
「間?」
「私の子猫になって下さい」
「………………………は?」
アディリシアは一瞬意味がわからなかったが、見る見るうちに赤面して耳まで真っ赤になった。
「ふ、ふざけないで!!」
一言言い放つと、瞬時に踵を返しドアに向かおうとする。
あのように愛玩されるなど冗談では無い。無視に勝る屈辱だ。
「ああ待ってください、ちょっと鳴いてもらったり、触らせていただいたり、舐めていただければ良いだけなんですって」
とんでもないことを日常行動のように言ってのける猫屋敷に目眩を覚えて、早々と立ち去ろうとするが細い手首を掴まれそれも叶わない。
あっという間に抱き込まれ体の自由を奪われた。
「は、離しなさい!さもないと…」
「魔神を呼び出しますか?無駄ですよ。アストラル社内は一通り私の術式を組み込んでありますから。ご存知でしょう、私、呪力の操作は得意なんです」
霊体が実体化する前に散開するでしょうねぇと猫屋敷は付け加えた。
「………っ」
アディリシアは絶句する。
絶句すると共に後悔していた。
アセイミの一つでも持ってこなかった事を。
此処を、アストラルを全く敵地だと思っていなかった事を。
心の内で歯噛みするも今の自分にはどうしようもない。
すぐに事は始まりを告げた。
猫屋敷の手が頬から、顎から、首元まで、撫でるように触ってくる。
その気持ち悪いようなくすぐったいような感覚にアディリシアは身を震わせた。
「や、やめなさいっ!こんな事は…」
精一杯の抵抗を試みるも、力で敵うはずも無い。
ただ猫屋敷の興奮が高ぶるだけだった。
「おや、おかしいですね。猫は皆生まれたままの姿をしているんですよ?」
後ろから抱きすくめたまま、にっこりと笑ってアディリシアのドレスに手を掛ける。
「えっ」
もうあまりの恥ずかしさに顔が燃え、アディリシアはどうすれば良いのかよくわからなくなって来た。
ただじたばた猫屋敷の手から逃れようともがく。
その様子を見ても猫屋敷は楽しそうに言った。
「ははぁ、本当に、まだ馴れていない子猫さんのようですよ。可愛いですねぇ」
言って、一気にドレスを剥ぎ取ると、アディリシアの白い肌が露になった。
恥ずかしさのためか、うっすらとピンク色に染まっている。
「例えば、青龍。あの子は何て言うかシャイで、躾るのに時間がかかったんですよ。意外でしょう。」
一方的に喋り続けながらも手は休むことを知らない。
体中さすって、遂にブラジャーの下に潜り込む。
胸の先端をいじくり、弾くと、アディリシアの熱い息と共に短い悲鳴が漏れた。
「あっ、ゃ、いやっ…いやぁ!」
きめ細やかな肌の形のよい胸はしっとりと手に吸い付くようである。
その感触を楽しみながら何度と無く揉みしだく。
そして空いているほうの手はアディリシアの下肢へと迫った。
ショーツの上から割れ目をなぞると、うっすらと濡れているのが感じられる。
「アディリシアさん、嫌とか言いながら満更でもないんじゃあないですか?お好きなんでしょう、こういうプレイ。」
「違います…違います…こんな……」
かぶりを振って否定すれば、クリトリスを強く押し潰された。
「ああっ!」
切なげに細い眉を寄せ、悲鳴をあげてしまう。
その声が僅かながらも快楽の色を帯びていることに気付き、アディリシアは情けなくなった。
2ヵ所を同時に攻められて嫌でも性感が高まっていく。
「ほらほら、トロトロですよ。ご覧なさい」
アディリシアの頭を押さえつけ下を向かせると、ぐりぐりと弄られ続けた割れ目からは、愛液がしとどに溢れていた。
「……っ…やぁ」
ぐっしょりと濡れたショーツを取り払って更に猫屋敷は告げる。
「そうですねぇ、じゃあ次は舐めていただきましょうか」
アディリシアは朦朧とした意識の中でその声を聞いた。
強い光を帯びていた碧眼は朧げであった。
「舐…める?」
猫屋敷の笑みがますます深くなる。
「いやだなぁ、わかっているでしょう?舐めると言ったら決まっているじゃあないですか」
事もなげに言う声を聞きながら、アディリシアは自身の下のほうに当たる固いものに気付いた。
今度こそ心底震え上がる。
猫屋敷に奉仕する自分の恥辱の姿をありありと想像してしまった。
「いやっ、それだけは…出来ません!」
「出来ない?はて、やり方がわからないんでしょうか」
猫屋敷はふむと頷くと四匹の猫の名を呼ばわった。
「白虎、朱雀、青龍、玄武、アディリシアさんにレクチャーして差し上げなさい」
「…にあ」
「にゃあ」
「うにゃ」
「にぃーあ」
呑気な声と共に四匹の猫が動き出した。
すると猫屋敷はアディリシアの脚を後ろから抱え、大きく開かせる。
「なっ、なにをするつもりですの!」
「アディリシアさんは慣れていない子猫さんですから、優しくしてあげてくださいね」
その言葉を皮切りに、猫達はそれぞれ、乳首を、クリトリスを、肛門をペロペロと舐め始めた。
「あんっ、だめっ、だめぇぇええっ!!」
ざらざらとした舌の触感にアディリシアは翻弄されてしまう。
ビクッビクッと大きく体を震わせ珠のような涙を散らした。
脚を閉じようとしても固定され、快感をやり過ごすことが出来ない。
乳首は時々猫の牙が掠め、時には割れ目に舌が挿し込まれる。肛門はヒクヒク痙攣していた。
アディリシアの可憐な唇からは絶え間無く嬌声がもれた。
猫達の攻勢が止むことは無かった。
「いやあぁぁぁぁぁっーっ!」
眼帯を付けた少年の顔が一瞬脳裏を掠め、
大きく背を弓なりに反らしてアディリシアは果てた。
ぐったりと自分にに体を預ける恰好となったアディリシアを見て、猫屋敷は満足そうに微笑む。
「皆さん、お疲れ様です。子猫さんもようやく大人しくなったようなので、休んで頂いて結構ですよ」
猫達はにゃあと鳴いて向かいのソファーに転がった。
猫屋敷はそれを確認するとアディリシアをソファーに寝かせる。
「もう、この様子だと舐めてもらうのはむりそうですねぇ」
そう苦笑してアディリシアに覆いかぶさる。
いつの間に脱いでいたのか、焦点を失ったアディリシアの瞳に巨大な男根がぼんやりと映った。
「…ぁ」
何か言おうとするのだが体がいうことを聞かない。
アディリシアの気持ちに反して、体はこれから起こるであろうことに興奮し、割れ目から新たな蜜を溢れさせた。
「これだけ濡れているのならこれ以上慣らす必要はありませんね」
猫屋敷が指でアディリシアのナカを掻き回して言う。
脚を持ち上げ割れ目をよく見えるように開かせると、自身をそこにあてがった。
アディリシアの心臓が、ドクンっと跳ねる。
体は小刻みに震え、目には涙が浮いた。
そして――――…
グチュリ、と猫屋敷は一気に奥まで挿入した。
「ひ、ぁああああああっ、痛ぁあっ…抜いて、抜いてください!」
あまりの痛みに、アディリシアは恥もプライドも捨てて泣き叫んだ。
「おや、アディリシアさん非処女だったんですか。純情そうにみえて、やりますねぇ。それに『抜いて』だなんて」
面白そうに言うと、アディリシアの懇願もよそに猫屋敷は動き始めた。
痛い、痛いという声が聞こえるたび、ピストン運動が徐々に激しくなる。
「本当はこうして犯される事を望んでいたんじゃありませんか?」
魔法に全てを捧げたはずのアディリシアは、揺さぶられながらも猫屋敷の言葉が聞こえてしまった。
聞こえてしまって、悲しくて涙が溢れた。
そんな最中でも、動く度にグチョグチョと淫猥な音をたて、接合面から愛液が零れる。
「あふっ、ぅう…、止めてぇ…」
「良い絞まりですよアディリシアさん、名器ですねぇ。流石はメイザース家の御令嬢」
そう言って何度も何度も打ち付けた、ぱんっぱんっという音がリズミカルに続く。
「いやぁ!イく…っ、またイッちゃう!!」
泣き声に近い悲鳴をあげてアディリシアは無意識のうちに腰を降っていた。
膣が猫屋敷に男根をぎゅうぎゅうと締め付け、精感をもよおさせる。
「いやぁ、そろそろ私も限界で。中に出しちゃいましょうか」
猫屋敷がにんまりと笑う。
「それだけは…それだけはダメェェエっ!」
「そうですねぇ、それも失礼です」
最奥を突いて、猫屋敷は自身を引き抜くとアディリシアの顔に白濁した液を浴びせた。
それと同時にアディリシアは勢い良く潮を吹いていた。
結局いつき達が帰って来たのは翌朝のことである。
「そういえば、ご助言のほう如何しましょう」
と、素知らぬ顔で尋ねて来た猫屋敷とそれから暫く目も合わせなかったのは言うまでもなく。
『あの陰陽師、しっかり教育しておいてくださいませ!イツキ!!』
そう言われがてら頬をおもいっきりぶたれた伊庭いつきが、わけもわからず涙目になっていたのは想像に難くない。
おしまい