二頭の馬が切る風は冷たく、国境の川は黒瑪瑙のようにしっとりと輝いていた。  
 
サファイアは今夜、生まれて初めて、父親以外の男の腕に抱えられて、馬に乗った――自分の背後で  
手綱を取るその人の――フランツの腕は、長くしなやかで、自分のものとは明らかに違う逞しさを  
持っていた。  
 
サファイヤの身体を支えながら、器用に馬を操ってきた隣国の王子は、海のように大きな川の畔で  
その歩調を緩めた。  
 
「この川を越せば、僕の国だ」  
そう言ってフランツは、真っ暗な河流に挑もうとする勇敢な馬を、手綱を引いて止めた。  
「君は、僕の国へは来たくはないだろうね……おめおめと捕虜になりに来るようなものだ」  
 
彼の口調にはまだ刺々しさが残っている。サファイアは、恐る恐る後ろを振り返った。  
「しかし、君の国に留まっていれば、いずれ君は殺される。僕は君を犬死させたくはないんだ」  
 
サファイアは無言で唾を飲み、彼の目を見た。  
無実の罪をなすりつけた敵として、自分の命を狙っていた人。それでも窮地から勇ましく助け出して  
くれた人。そして、こうして両国が啀み合う以前には、身分を明かさぬ自分を、恋人と慕ってくれた人……。  
 
まだ敵国の王子としての自分を恨んでいるのか、国の反逆者に囚われていたのを哀れんでいるのか、  
フランツは、真剣な眼差しでサファイアを見つめる。サファイアは、急に心臓をぎゅう、と掴まれた  
ような心地がして、彼から目を逸らしてしまった。  
 
「だから僕は、どうしても君を連れてゆく」  
微かに震える馬上でサファイアは、フランツのその言葉を、緊張と畏怖と、ほんの少しの甘さをもって  
受け止めた。  
 
「この道は、シルバーランドの追っ手も知りますまい。いかかでしょう、一旦、馬を休ませては」  
もう一頭の馬に跨った大臣が、暗い茂みに潜む山小屋を見やりながら言った。  
 
「……そうしようか」  
信頼する側近の言葉に素直に同じ、フランツは、馬の鼻先を山小屋の方へと向けた。  
 
山小屋は暗く埃にまみれていたが、反逆者に追われる身にとっては、かえって都合が良かった。  
大臣が火を熾して、古びたランプに小さな灯りを燈すと、小屋の中に暖かな光が満ちた。  
 
明るい場所で自分の着衣を見下ろしたサファイアは、みすぼらしいその身なりを恥ずかしく思った。  
狡獪なナイロン卿に捕らえられ、石切り場で労苦を強いられていたサファイアは、王子のそれとは  
似ても似つかない粗末な服を着せられ、髪や肌には砂が積もり、ぼろ布のように汚れていたからだ。  
 
けれどもフランツは、そんなことは気にもかけていないようだった。  
彼は小さなベッドに腰を下ろし、ほう、と溜息を吐いてマントを外すと、その日初めての笑顔を見せた。  
「勝負はしばらくおあずけだ。今は、束の間の休息としよう」  
 
サファイアは頷いて、ベッドの側にある小さな椅子に腰掛けた。  
 
「すまないが、外で見張りをしていてくれないか。僕は“彼”とふたりで話をしたいんだ」  
 
フランツは大臣にそう命じ、彼が小屋の外に出てゆくのを見届けてから、ゆっくりとサファイアの方へ  
向き直った。  
 
サファイアは今までに経験したことのない胸の高鳴りを感じていた。  
それは、目の前のフランツが、いつまた自分に剣を向けるかもしれないという恐れと、ここへ来る前に  
石切り場で放たれた「みんな聞いているぞ、お前は女だろう?」という言葉の衝撃、共に馬に跨って  
彼の腕に抱かれた時のほのかなときめきとが混ざり合って、サファイアの鼓動を速めているのだった。  
 
フランツは、自分に一体何を話すつもりなのだろう。  
シルバーランドの国王殺害という無実の罪を着せたことを罵るのだろうか。こうなった顛末を問いただす  
つもりなのだろうか。それとも――  
 
サファイアは落ち着きなく身動ぎし、視線をあちらこちらへと走らせていた。  
 
「緊張しているね」  
フランツは真っ直ぐにサファイアを見て、さっきとは打って変わった優しい口調で言った。  
「大丈夫、もう帽子を投げて決闘を挑んだりはしないよ」  
 
サファイアは僅かに気を休め、フランツと目を合わせた。  
「……でも」  
フランツはサファイアの瞳を見据えながら、さらに言葉を重ねる。  
 
「どうしても確かめたいことがある」  
 
サファイアは心臓が跳ね上がりそうな心地がした。避けられない詰問がすぐ目の前に迫って、彼女の  
最弱の部分を無遠慮に脅かす。  
 
「僕が、石切り場で言ったことを覚えているかい?」  
 
フランツの質問に対して、サファイアは、首を縦に振ることも横に振ることもできなかった。どう答えても、  
自分にとって不利なようにしかならない気がした。  
 
「僕だって、最初に聞いたときは信じられなかった……でも、今日君と一緒に馬に乗って、はっきりしたよ」  
サファイアは、ごく、と喉を鳴らして、フランツの次の言葉を待った。  
「君は女の子なんだね?」  
 
頭の中で、大きな鐘の音が響いたようだった。それは、今までの人生の大半を王子として――男として  
生きてきた彼女が、最も恐れていた台詞だった。そして、その秘密をこの世で一番知られたくない相手に  
目の前で口にされてしまったのだ。サファイアは必死で否定しようと試みたが、口元が強張って、うまく  
言葉が出てこなかった。  
 
「……何、を……」  
フランツから視線を外して、せめて動揺を悟られないようにと努めながら、やっとの思いで口にする。  
「何を言ってるんだ? 誰から聞いたか知らないけど、僕はれっきとした男だ。紛れもなく、シルバーランドの  
王子だよ」  
 
敗北は目に見えていた。けれど、彼の尋問を素直に認めてしまうことを、王子としての誇りが許さなかったのだ。  
 
フランツは口角を少し上げて、まるで小さな子どもを見るような顔で笑った。  
「ごらん」  
そう言って、自分の上衣を捲り、片腕をサファイアの方へ差し出して見せる。  
 
「君の腕とは違うだろう。これが男の腕だ。男の身体だ。君のその、ほっそりとして柔らかい腕は」  
フランツは怯えたような瞳で彼を見るサファイアの腕を、ぐい、と掴んだ。  
「君が女の子であることの、他でもない証拠だよ」  
 
ふたりはしばらく、そのままの姿勢で対峙していた。  
フランツは自身が言った通りの逞しい手で、サファイアの腕を握って離さない。  
サファイアは、自分の腕にじわじわと染みてくる痛みを覚えて、我に返った。  
 
「し、失礼な……! 放してくれないか!」  
 
サファイアは慌ててフランツの手を振り払おうとしたが、それは適わなかった。  
フランツはベッドから立ち上がり、顔を真っ赤にして抵抗するサファイアを引き寄せた。  
突然のことにサファイアの足がもつれたので、彼女の腰掛けていた椅子が倒れ、けたたましい音が響いた。  
 
「王子様、どうなさいました!?」  
小屋の外から、大臣が声を上げた。  
フランツはサファイアをしっかりと抱き締めながら、「大丈夫だ、何でもない」とドアの外に向かって言った。  
大臣が安堵して引き下がる気配がする。  
 
息が止まるかと思うほどの甘い驚きの中でサファイアは、上がってゆく息を必死に堪えていた。  
「ほら、こんなにか弱い身体の、どこが男だと言うんだ?」  
フランツの囁きは、サファイアの自尊心をゆるゆると溶かしてゆく。  
 
「違う、違うったら!」  
サファイアは、それでも必死に抗う。目をぎゅっと瞑り、大きく頭を振って、フランツを引き剥がそうとする。  
けれども彼女が離れようとすればするほど、フランツは抱き止める力を強くし、サファイアの身体を  
腕の中に絡め取ってしまう。  
 
「そんなに言うなら……確かめさせてもらうじゃないか」  
「何を……」  
 
フランツはサファイアの簡素なシャツをウエストのあたりから捲り上げ、その中に素早く手を入れた。  
「!!」  
サファイアは息を飲んで身を硬くした。  
フランツの手は、彼女の脇腹をするりと抜け、胸元まで一気に這い上がった。  
「いやっ、何す……」  
 
肩を捩って逃げようとするサファイアを強引に抱き寄せて、フランツは、シャツの下に潜んでいた小さな  
胸の膨らみに手を当てた。  
それは暖かく、柔らかく、確かな丸みを帯びていて、サファイアが紛れもない女の身であることを証明  
していた。  
 
フランツはサファイアの目を見た。  
サファイアも彼の瞳を見て、ふたりは一瞬、しっかりと視線を交わした。  
サファイアは僅かに唇を動かして、自分の乳房に触れたフランツに何かを言おうとしたが、声にならなかった。  
 
フランツの手は、柔らかな脂肪の丘をたどり、丸く包み込むように撫で回す。  
手のひら全体で優しく掴み、皮膚の感触を確かめるように、指先でやわやわと捏ねる。  
 
サファイアは、胸元からじわりじわりと上ってくるくすぐったいような甘い刺激に、思わず息を吐いた。  
緊張と上がってゆく体温のせいで唇が乾き、頬が強張る。  
フランツの顔を見ていることができなくて、目を閉じ、彼の手の感触だけに官能を任せる。  
 
フランツは少しずつ指に力を込め、小さな乳房をゆっくりと揉みしだいていった。  
そっと指を沈める度に、それは僅かに膨張して、手のひらに伝える温度を増してゆく。  
そして彼の手の中で、乳房の頂にある小さな蕾が、次第に硬く尖っていくのが分かる。  
 
フランツは徐々にその蕾を絞り込むようにして、周りの柔肌を揉み込んでいった。  
サファイアはほんの少し眉を寄せ、唇を戦慄かせながら、この甘美な刺激に耐えている。  
硬く熟した蕾の先を親指の腹でそっとかすめると、サファイアの肩がひく、と動いた。  
 
フランツは親指と人差し指で、その小さな蕾をきゅ、と摘まみ上げた。  
「あぁぁっ!!」  
サファイアは高い声を上げて、その身体を震わせた。  
彼女が、乳房を弄られて感じてしまっている証だった。  
 
フランツはシャツの下に差し入れていた手を、すっと抜き取った。  
肩透かしを食ったように瞳を揺らすサファイアを見つめながら、フランツは、  
 
「……君が、自分を女の子だと認めるなら、もうこんなことをするのは止める。僕は君を苛めたいわけじゃ  
ない。……さあ、本当のことを言うんだ」  
 
サファイアは、すぐ目の前にあるフランツの顔を見た。  
フランツは熱っぽいふたつの瞳で、彼女を真っ直ぐに見据えている。  
 
彼に何かを言えるような気はしなかった。もう、自分が女だとか、男だとか、王子だとかいうことは  
問題ではなかった。自分の胸に触れた彼の手は暖かく、優しく、はっきりそれと分かる熱情を身体の  
芯に燈してしまったのだ。  
彼に触れて欲しかった。焦れている自分の身体に、もっと、もっと、深く入り込んできて欲しかった。  
 
サファイアはどうしていいか分からなくなった。流れている時間はほんの一瞬でも、彼女の脳裏には  
様々な思いが押し寄せては消えてゆく。  
 
ああ、自分が普通の少女であったなら、こんな風に迷い、苦しむことはないのだろうか。  
それとも、女の子と呼ばれる生きものは皆、同じように、息もできない切なさに翻弄されるのだろうか。  
 
サファイアは、無自覚のうちに首をふるふると横に振っていた。  
何がそうさせるのか、彼女の唇は震え、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。  
 
「サファイア」  
フランツが彼女を名を呼ぶ。サファイアは潤んでしまった瞳を隠そうと、瞼を閉じた。  
 
「サファイア」  
サファイアは睫毛の根元に涙を滲ませたまま、首を振り続けた。ずっとこんな風に、名前を呼んで  
欲しかったのだ。彼が恋をした乙女は、名もない自分の分身……どんなに近くにいても、思われている  
ことが分かっていても、愛を語ることも、身を寄せ合うことも、名乗ることすらできなかった。  
 
サファイアの閉じた瞼から、涙が一すじ零れ落ちた。  
フランツは彼女の顔を両手で挟んで、親指で涙をそっと拭ってやってから、その唇に口づけた。  
サファイアの唇は一瞬、驚いたように微かに動いて、それでも柔らかく重ねられるフランツの唇を  
静かに受けた。  
 
しばらくそうして唇を合わせてから、フランツはサファイアの身体を、まるで子猫でも持ち上げる  
ように軽々と抱き上げた。  
 
突然に自分の身体が宙に浮いたので、サファイアははっとして手足を縮めた。見上げるフランツの  
顎や喉の線は、彼自身が言ったとおり、サファイアのものとは全く違う形を描いていて、背中と  
膝の下に差し入れられた彼の手は、暖かくて力強かった。  
サファイアは徐々に手足の力を緩め、フランツの腕に身を任せていった。  
 
フランツは、先ほどまで自分が腰掛けていた小さなベッドに、サファイアの身体をふわり、と下ろした。  
ベッドは木製の簡素な作りで、いつも彼らが寝台にしているものとは大きく違っていたが、  
内に抱いている愛情だとか、高揚だとかを、どう表現して良いのか図れずにいる若いふたりにとっては、  
むしろ相応の塒かもしれなかった。  
 
サファイアはそのほっそりした肢体をベッドに横たえ、不安げな瞳でフランツを見上げている。  
 
フランツはベッドに片膝を乗せ、サファイアのシャツの下にそろそろと両手を差し入れていった。  
彼女は、さっきのように抵抗する素振りを見せたり、拒絶するような声を上げたりはしなかった。  
その代わりに、小さな肩をもっと小さく縮めて、これから起ころうとすることへの緊張をひしひしと  
伝えてくる。  
フランツは、まるで瑞々しい果実の薄皮を剥ぐように、ゆっくりと、優しく、サファイヤのシャツを  
捲り上げ、上半身から抜き取った。  
 
ランプのおぼろげな光に照らされたサファイアの身体は、白く清らかで、柔らかな陰影を描いていた。  
 
サファイアは両腕を胸の前で交差させて、彼の目から自分の胸元を隠そうとした。フランツはその腕を  
解いて寄り添い、首筋に口づけ、片手で短いスカートの端を引っ張った。  
 
「あ……だめ、だめ……!」  
フランツが何をしようとしているのか悟ったサファイアは、フランツの手を握り、必死でその進行を  
止めようとする。  
「あまり大きな声を出すと、外の大臣に聞こえてしまうよ?」  
意地悪くそう言って、フランツはサファイアの手を外させた。  
 
「あぁ……」  
サファイアは自分で自分の肩を抱き、恥じらいに頬を染めながら、フランツの視線を避けようと身を  
くねらせる。その仕草は、初めてのことに戸惑う乙女そのもので、かえってフランツの欲情を煽るのだった。  
 
粗末な布でできたスカートを取り去ってしまうと、小さく薄い布だけを腰に纏ったサファイアの、伸びやかな  
全身が現れた。そのほっそりとして一点の汚れもない身体に、フランツは思わず溜息を吐いた。  
自らもシャツを脱ぎ、サファイアの初々しい熱情が待つベッドの上に跨る。  
フランツは、かつて感じたことのない滾りを身の内に覚えていた。  
 
フランツは両手でサファイアの乳房を包み、壊れやすいものを扱うように、じっくりと揉んだ。  
手を動かす度に、その丸みの先にある蕾が、硬く熟してゆくのが分かる。  
 
「ん……んっ」  
サファイアは目を閉じ、喉の奥から甘えたような媚声を上げている。  
フランツは蕾を絞り上げるようにして乳房を揉みしだき、その小さな果実が苺のように色づいたのを  
確かめると、それを徐に口に含んだ。  
 
「あぁっ!」  
敏感な部分にしっとりとした唇と舌の感触が走り、サファイアは高い声を上げた。  
フランツの唇はそこを軽く挟み、誘い込むようにして吸い立てる。舌を転がして舐め上げ、淡い桃色の乳暈を  
舌先で辿ってゆく。  
 
サファイアはもう、何も考えられなくなっていた。  
フランツの手と口で与えられる淫靡な刺激に上せ、知らず知らずのうちに嬌態を曝してしまっている。  
唇から零れる声は細く、甘く、彼の行為に感じてしまっていることをはっきりと示していた。  
逆らおうと思えば、できたのかもしれない――けれども彼女は、初めて男性の手によって与えられた官能の  
触手から、逃げることはできなかった。  
 
そこには、王子としての誇りや、護らねばならない自国のこと、母と交わした約束などは、寸分も存在していなかった。  
さっきまで自分を取り巻いていた羞恥の心すらも消えようとしていた。  
サファイアの、たった今花開いたばかりの瑞々しい本能は、彼女の身も、心も、思考すらも押し流してしまったのだ。  
彼女の中に残されたのは、女性だけが味わうことのできる真の悦び……それだけだった。  
 
フランツの片手がそろそろと腹部を伝い、サファイアの腰のあたりまで下りていった。  
その手は薄い下着の中に入り込み、サファイアの、まだ誰も触れたことのない秘めたる場所へと進んでゆく。  
 
フランツの指先が、ぴたりと閉じられた秘谷の緒に触れた時、サファイアの身体はぴくん、と跳ねた。  
そこは既に、しっとりとした熱を帯びていたものの、侵入者を拒むように固く結ばれていた。  
サファイアは怯えたように目を瞑っている。けれどもその表情には、ほのかな期待の色が見え隠れしていて、  
彼女が次の刺激を待ち侘びていることを物語っていた。  
 
フランツは中指の先で、その谷間をそうっと撫でた、  
サファイアの身体がまた反応する。指先を往復させて秘裂を割り、中に潜む花芽を探り出してゆく。  
サファイアの秘部からは、彼女の愛欲の証がじわじわと染み出してきていて、それは花芽を弄ろうとする  
フランツの指にぬるりと絡み付いて、その動きを滑らかに助ける。  
 
中指の腹で芽を擦ると、サファイアが腰を浮かせて高い声を上げた。  
「ああぁ……っ!!」  
 
「サファイア……感じているんだね?」  
フランツが耳元で囁くと、彼女は喘ぎ声の合間から、必死に否定してみせる。  
「んっ……ち、違……ぁ、ああっ」  
彼女が紡ごうとする言葉と裏腹に、その声色はますます甘さを増してゆく。執拗に悪戯を繰り返すフランツの指に、  
サファイアの淫らな愉悦は今にも極まろうとしていた。  
 
フランツは一旦そこから手を離し、彼女を包んでいる最後の苞に手を掛けた。  
薄い布地でできた下着には、うっすらと透明な染みができていて、サファイアが愛欲に溺れきっていたことを  
示していた。  
 
それはするりと彼女の両脚から抜け、儚い音を立ててベッドの上に落ちた。  
全ての衣を剥ぎ取られたサファイアは、たった今、泡から生まれたばかりの女神のように美しかった。  
 
フランツは腰のサッシュを解き、ズボンと下着を脱ぎ捨てて、サファイアの上に身を乗せた。  
 
荒い息に上下するサファイアの胸元を見やりながら、その両膝に手を掛け、ゆっくりと開いてゆく。  
彼女の身体からは力が抜けきっていて、フランツは容易に、サファイアを無防備な姿にすることができた。  
 
明るみに曝されたサファイアの秘部は、彼女自身の愛液でぬめぬめと潤み、ふっくりと膨らんでいた。  
フランツは中指を伸ばして、ひたひたとした花弁を捲り、愛欲の洞へと侵入させていった。  
充分に潤ってはいるものの、そこはまだ無垢な固さを残していて、フランツの劣情を躊躇わせる。  
それでも彼女から溢れ出る淫欲は、彼の指を飲み込むように誘い、いやらしい肉襞のうねりをもって  
受け入れてゆく。  
 
フランツは突き入れた中指を何度も往復させ、そこに淫猥な刺激を送り込む。くちゅ、くちゅ、という  
水音が狭い部屋の中に充満する。  
 
「あっ、あっ、あ……ぁぁ……ぁぁ」  
サファイアは腰を揺らめかせて、その快感に翻弄されている。  
 
サファイアの洞はひくひくと疼き、粘った蜜を溢れさせていた。  
肉壁は次なる快楽を求めるように膨張し、蠢いている。  
フランツはたまらなくなって、そこから指を抜き、とっくに硬く屹立した彼自身に触れた。  
 
サファイアは、愛欲に潤んだ瞳で彼を見上げている。  
眉を切なく寄せ、薄く開いた唇から熱い息を漏らし、何かを伝えたそうな表情を見せる。  
フランツはサファイアの目を見ながら、自身の張り詰めた尖端を、彼女の入り口にあてがった。  
サファイアの睫毛が震える。  
 
「もう一度聞こう……サファイア、君は……女の子なんだろう?」  
「……違……う……」  
「……悪い子だ」  
 
フランツはサファイアの腰を抱え、ゆっくりと彼女の中に押し入った。  
そこは非礼な侵入者を通すまいと、幾重にもなった襞を硬くして拒もうとする。  
それでもひたひたと溢れた蜜が手助けし、閉ざされた門が少しずつ開かれ、彼の侵入を許してしまう。  
 
「い……痛い……っ」  
サファイアの身体に、破瓜の痛みがじりじりと刻まれてゆく。  
 
フランツのすべてがサファイアの胎内に収まると、彼の中に痺れるような快感が走った。  
サファイアの襞は彼自身をねっとりと包んで、絞り上げるように舐る。  
自分と同じく高貴な立場にある身、しかも自分を男だと偽って譲らなかった彼女に対する征服欲と  
ほのかな憧れ、いつからか宿ってしまった愛慕の念が渦巻いて、喩えようのない愉悦とともに  
身体の中を駆けてゆく。  
 
フランツはゆっくりと腰を引き、また進めて、サファイアの中を何度か往復した。  
サファイアは苦しみに耐えるような表情で、唇を噛み、その行為に耐えている。  
 
それでもじっくりとした往復を繰り返すと、次第にサファイアは、あえかな声を発し始めた。  
洞の中はますます潤み、膨らんだ襞はフランツの陰茎にじわじわと絡みつく。  
フランツが耐えられなくなって腰を大きく動かすと、サファイアは首を仰け反らせて高い嬌声を上げた。  
 
「あぁぁっ……んあああぁぁぁっ……!」  
その声には快感を得た悦びの色が混じっていて、フランツは激しく腰を打ちつけ、湧き上がるような刺激を  
貪った。  
 
ふたりの交わる音と吐息が、部屋の中に充満してゆく。  
重なり合った影はゆらゆらと揺れ、少し離れては結合し、跳ね返ってはまた吸い寄せられて、その度に  
サファイアの喘ぎ声は乱れ、フランツの息は速まっていった。  
 
「う……ぅぅ……もう……!」  
フランツは高まる滾りを抑えられなくなり、自分自身を激しく往復させた。  
サファイアはぎゅっと目を瞑って唇を開き、彼の最後の瞬間を全身で受け取る。  
刹那、それはサファイアの中でびくびくと律動し、溶けた熱の塊を噴出した。  
 
大きく息をしながら吐出を続けるフランツを、サファイアは不思議な気持ちで見つめていた。  
頭の中にぼうっと霧がかかったようになって、夢の中で波に揺られているような、ふわふわとした心地よさが  
全身を包んでいた。自分の身に何が起こったのか、まだ完全には理解できていなかったが、それでも、  
フランツと結ばれたのだという喜びはふつふつと沸いて、心の中に少しずつ幸福の色を広げていった。  
 
ふたりはそのまま、手を取り合い、身を寄せ合って、静かな眠りについた。  
サファイアも、フランツも、この幸せな時が永遠には続かないことを知っていた。  
いつ大臣が、追っ手の襲来を告げるかもしれず、もしかしたらたった今愛を交わしたはずの相手も、目覚めた  
その瞬間には、また仇として自分に刃を向けてくるかもしれない。  
運良く無事に国境を越え、フランツの国へ辿り着いたとしても、彼らは番として認められることもなければ、  
人々に祝福されることもないのだ。  
 
いつの間にかランプの灯は消え、ふたりを漆黒の帳が包んでいる。  
たゆたう夢の中でサファイアは、守るべきものがひとつ欠けたような、増えてしまったような、奇妙な悲しさを  
覚えていた。  
 
 
《終わり》  
 
 

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