サファイアがこの結婚式の“新郎”に仕立て上げられてしまったのは、とにかくフリーベという女が強引だったから、ただそれだけの理由だった。  
それでも、以前のサファイアであったなら――強い意志と誇りと、フランツへの愛情を持っていたサファイアであったなら――こんな突然の出来事を、容易く受け入れたりはしなかっただろう。  
しかしサファイアは今、生命の危機に曝されたことが原因で、自分の名前と身分すらも思い出せない身の上になってしまったのだった。  
 
自分のルーツを探そうと北を目指し、その途中で辿り着いた武術大会で、サファイアはフリーベと名乗る女剣士に出会った。  
フリーベは男並みに腕の立つ剣士で、同時に女性特有の勘の良さを持ち合わせた人物だった。また、一度決めたことは、たとえどんな障害に逢おうともやり遂げる、強靭な意志と行動力を持っていた。  
サファイアを一目見て「生涯の伴侶」と悟るや否や、持ち前の強引さでサファイヤに言い寄り、あっという間に結婚式にまで押し進めてしまった。  
 
サファイアには相変わらず追っ手が付きまとっていたが、サファイアを変装させることでその目を逃れ、ふたりはうまくチャペルへと潜り込むことができた。  
結婚の誓いを立てるのに必要な聖書も、神父も、フリーベの花嫁衣裳も、すべて完璧に整っていた。  
ただひとつ間違っていたのは……“新郎”であるはずのサファイアが、フリーベと同じ女性だったということだ。  
 
サファイアは、神父の変装を解くため、チャペルの傍に設えられていた控え室に入った。そこは長椅子が置かれているだけの狭い部屋で、窓すらなく、木材と誇りの臭いが充満していた。  
サファイアは長椅子に腰を下ろし、がくりとうなだれた。  
 
……どうしてこんなことになってしまったんだろう……彼女の頭の中は混乱していた。武術大会の興奮や、突然に投獄された衝撃、脱獄の恐怖……それらが一気に押し寄せてきて、どっと身体が疲れていくようだった。  
記憶はまだはっきりと戻ってこないし、不確かなことが多すぎる。このままこの街にいていいのかどうかも分からない。  
それでも、この結婚式は間違っていると思う……何しろ、自分も、フリーベも、女の子なのだから。  
フリーベを傷つけてしまうのは忍びないけれど、それでも……。  
 
「サファイア? サファイア?」  
ドアの外から、フリーベの声がする。サファイアは返事をする気になれなかった。  
 
バン、と音を立ててドアが開き、真っ白な花嫁衣裳を身に纏ったフリーベが現れた。  
「サファイア、早く支度をしてよ! 早く結婚式を挙げなくちゃ」  
「……う、うん……」  
フリーベはまたバン、と音をさせてドアを閉め、長椅子に座ったままのサファイアの方へ歩み寄ってきた。  
 
「それとも、ここで『結婚式』をする?」  
フリーベはサファイアの隣に腰掛け、サファイアを見つめながらしなだれかかってきた。  
「えっ……」  
サファイアが上げた声は、フリーベの唇で塞がれてしまった。  
「サファイア、好きなの」  
フリーベは思いつめたようにそう呟き、サファイアに熱い口づけを送った。  
 
「う……ん……」  
フリーベの潤んだ唇が、サファイアの唇に重なる。柔らかく、甘い感触が伝わってくる。  
サファイアは身体を固くして、それでもごく自然に、フリーベの唇を受け入れた。  
フリーベの口づけは不思議と心地よかった。その感触は、サファイアの心の奥に隠れていた官能の芯に、小さな灯を燈した。  
 
それでもサファイアは、まだ頭のほとんどを占めていた理性をもって、フリーベから顔を背けた。  
「だ、だめだよフリーベ! こんな……っ」  
「どうして?」  
フリーベはまたサファイアに顔を近づけ、口づけようとした。  
とろんとした目つきでサファイアを見つめ、唇を少しだけ尖らせて、ねだるような表情をしてみせる。  
ふわりとカールした金髪が揺れ、フリーベのぱっちりとした瞳を透かす。その様子は、女のサファイアから見ても充分に官能的だった。  
 
「だめ……なんだ、フリーベ。よく聞いて」  
サファイアはフリーベを引き剥がし、昨日まで鎧を纏っていたのが信じられないほどに華奢なその肩に両手を添えて、真っ直ぐに彼女を見た。  
「フリーベ、僕は……ううん、私は、女の子なんだ」  
 
フリーベはきょとんとした顔でサファイアの目を見ている。  
「信じられないかもしれないけど……ね、ほら」  
突然の告白を受け入れられないのだろうと思い、サファイアは、思い切って自分の胸元をはだけて見せた。  
そこからはふっくらとした胸の膨らみが覗いており、サファイアが女であることを確かに証明していた。  
 
フリーベはサファイアの胸元に目をやり、それから軽く微笑んで見せた。  
「そんなこと、とっくに知っていたわ」  
「えっ?」  
サファイアはまた驚きの声を上げた。  
 
「私が気付いていないとでも思っていたの? サファイア。可愛いのね」  
フリーベは指を伸ばして、サファイアが自らの手で外した胸元のボタンを、さらに外していった。  
「本当に可愛い子ね、サファイア……こんな風にして、私を誘っているんでしょう?」  
「ち、違……」  
 
フリーベのひんやりとした指先が、サファイアの乳房に触れる。  
「さっきのキスで感じてしまっていたくせに……ねぇサファイア、もっといいことをしてあげるわ」  
フリーベはサファイアのシャツのボタンをすべて外し、サファイアの上半身を顕わにした。サファイアの白い乳房が零れ落ちる。  
 
「何をするの、フリーベ……」  
「言ったでしょう、いいこと、よ」  
フリーベは手のひらでサファイアの乳房を包み、そっと揉んだ。  
「んっ」  
サファイアは思わず目を閉じて、高い声を上げてしまった。  
 
フリーベは両手でサファイアの乳房をやわやわと弄ぶ。フリーベの手はしっとりと冷たく、サファイアの胸元を心地よい刺激で満たしていく。  
フリーベの唇が、再びサファイアの唇に重なる。サファイアはもう抗わなかった。  
「ん……んん……」  
「いい子ね、サファイア……ほら、もうここがこんなに固くなってる……」  
フリーベは指先でサファイアの乳首を摘み上げた。  
「あぁっ!」  
サファイアは甘い嬌声を上げ、首を仰け反らせた。  
 

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