窓から差し込む月明かりに、目の前の女の肌が仄見える。
元々危うげなのに、満月でもない月の光は実にか弱く頼りない。
だがそれでも、燭台が一つとしてついていないこの部屋では、なければ女の肌を見失ってしまうだろう。
「本当に、黒しか着ねえなてめえは」
「……女は、自分が似合うものしか着ないものよ?」
軽いからかいに薄く笑う口元が返す。
その唇は、年に似合わない毒々しさを感じさせる濃い紫だ。
昼の陽光の下では生白く見える肌は、この暗闇に輪郭を伴わず写り込み、その「らしさ」に俺は聞こえないよう溜め息を吐くのだった。
「それとも、似合わないものをわざわざ着て欲しいの?」
「…いや、てめえは黒以外身につけんじゃねぇ。脱がす楽しみが、無くなるからな」
「ふふ…、そうよね」
頷くと同時に、額に生暖かい感触が触れる。
それは鼻筋を辿り唇へと降りてくる。
衣擦れに似た音をたてる長い髪が、俺の顔を覆ったとき、俺は黒峰との位置を素早く入れ替えた。
「は、っ…ん…」
首筋に軽く触れて舌で舐める。
耳元で喘ぐ声は、何度聞いても慣れることがねぇ。
「は、ぁ、あん…あぁ……っ!」
下着を脱がし、肌を吸う。その瞬間。
仰け反る喉とか力の籠もる爪先もたまんねえが、行為そのものが良い。
黒しか纏わない黒の似合う女。
ソイツから、俺だけが黒を奪い赤い色を付けているという、単なる事実に酷く興奮する。…欲情する。
そしてそれは、半ば永遠に続くのだろう。
ベッドの軋む音に紛れて、適当な言葉をかけると、女の頬に朱がさした。
「馬鹿…」
要は俺がコイツに惚れているかぎりは。