昼下がり・・・  
私は、足早に小高い丘の中腹を目指して歩いていた。  
その頂には、街の中心たるオーファンの王城が、そして城を挟んで、反対側には魔術師ギルドが位置する。  
目指す中腹には、アレクラスト大陸西方のマイリー教団を統べる大神殿がある。  
私は、そこに、戦いの守護神マイリーに信仰を捧げ、現在リウイの従者となった待祭メリッサに会いにきていた。  
本来なら、もっと早朝に訪ねるつもりだったが、酒場“沈黙の羊亭”で、思わぬ足止めを食ってしまった。  
まさか、晩から昼にまでかけて、獣2匹とひよっこ一匹の面倒をみることになろうとは・・・  
体が酷くだるい上に、体中に男の臭いが染み付いているような気がする。  
おまけに、肢体の中心には、まだ物が挿入されているように感じる。  
私は頬の刺青をなぞると、口からは深いため息がもれた。  
 
身なりだけは整えたつもりだが、情事のあとすぐに神殿に行くというのも気が引けるし、なにより、男性経験のないメリッサに悟られては、不快な思いをさせてしまいそうだ。  
とはいえ、一刻もはやく胸の内の不安を払拭させてたかった。  
“沈黙の羊亭”の主人から聞いた情報では、故郷で妹の様にかわいがっていたルダが、深刻な面持ちで私を探していたとのことだった。  
よほどの事がなければ、ルダ故郷を離れることなどありえないだろう。何か、深刻な事態が故郷ヤスガルンで起きているのか。  
しかも、さらに不安の募らせたのが、何人かの傭兵らしき者が、ルダを追って酒場を訪ねたということだった。  
ルダは、精霊使いとして確かな実力がある、めったなことはないとは思いたいが、残念ながら追っ手の実力は分からない。  
酒場の主人の話から想像すれば、おそらく酒場から神殿に向かったはずだ。冒険者として、日々所在の知れない生活をしているので、何かの時には、マイリー神殿を訪ねるように言っておいたはずだ。  
いまごろ、マイリー神殿でメリッサと一緒にいることだろう。  
私は、淡い期待をしつつ、目前の神官にメリッサへの来訪を伝えた。  
あとは、メリッサとルダを待つばかりだ・・・・・  
 
私は、いつもの待合わせ場所に到着すると、大剣を肩からおろし手近な壁に体を預けた。そして、日差しを避けるように腰を下ろし、わずかな休息をと、瞼を閉じた。  
 
 
「・・・・いいえ、今はいらっしゃらないです」  
メリッサの一言に、不安が一気に膨れ上がった。  
部屋に通されてから、ルダのことを尋ねた私に、メリッサは申し訳なさそうに返答をした。  
「今は・・・?」  
「ええ、ルダは確かに神殿を訪ねにきたようです。ただ、ひどく急いでいたようで、私が礼拝所で説教をしていると知ると、神官にことづけを頼んで足早に去っていったそうです。」  
「そうか・・・それで、ことづけとは?」  
「はい、私にこの手紙を渡してほしいとのことでした。」  
私は、メリッサから手紙を受け取った。  
その内容に、ルダの切羽詰まった状況がうかがえた。  
 
手紙によると、ルダは、酒場の追っ手のほかにも、かなりの手誰に追われているらしい。  
追われる理由は、くわしく書かれていなかったが、故郷の集落が危機であること、そしてその危機を解決するためにルダが、ある物を持っていることが書かれていた。  
どうやら、ルダが追われているのは、その追っ手が“ある物”を取り返すためであるらしい。  
くわしい経緯は会って話したいと、待ち合わせ場所と時間が手紙の最後に書かれていた。  
 
「・・・はぁ〜・・・理由はわからないが、ルダはかなり危機的状況に陥っているらしいな・・・」  
「さっそく、ミレルとリウイに連絡を取って、待ち合わせ場所に参りましょう」  
メリッサは、真剣な面持ちで訴えた。  
「そうだな・・・メリッサ、すまないが、二人に連絡を取ってくれ。私は、少し早いが待ち合わせ場所に行ってみる。」  
「はい、では、さっそく」  
 
私は、メリッサに別れを告げると、ルダとの待ち合わせ場所、“一角獣の角”亭に向かった。  
不安は募るばかりで、足早に待ち合わせの冒険者の店にたどりついた。  
そして、店の扉を開けると事態は悪い方向に向かっていく予感にさいなまれた・・・・  
 
私は、店の扉の脇に寄りかかり、みなの到着を待った。  
なぜなら、店の中は乱闘の跡で、ひどく荒れていたからだ。  
嫌な予感がする中、店の主人に何があったかを尋ねると、一人の若い女性が、数人の男を相手に大太刀まわりをしたらしい。おそらくは、ルダが追っ手の間で争いがあったのだろう。  
しかし、最悪なことに、店に主人の話では、ルダが捕らわれてしまったらしい。  
ルダも最初、追って相手に優位に戦っていたが、一人の男が出てくると、なすすべがなかったらしい。おそらくは、手紙に書いていた手誰のことだろう・・・  
店の客も、見かねて何人もその手誰に立ち向かったが、あっという間にのされてしまい、ルダはそのまま、男たちに連れ去られてしまったらしい。  
店の主人とは、顔馴染みだったが、ルダが私の知り合いとまでは、知らなかったらしい。  
だが、私がきたら、渡してほしいと手紙を預かっていた。  
そこには、簡単な地図と部族の言葉で、例の“あるもの”の隠し場所が書いていた。  
どうやら、ルダは、もしものために大事なものを隠していたらしい。  
みなの到着まで、焦燥感で駆られ、すぐにでもルダを探しに行きたいところだが、仲間の力を借りたほうが確実だ。  
そうして、私は、みなの到着まで、店の外で待ち続けた・・・・  
 
仲間が皆到着すると、私は今回の出来事のあらましを説明した。  
メリッサは、深刻な面持ちで心配し、ミレルとリウイは、強い憤りを覚えていた。  
そして、状況を理解すると、仲間たちは、すぐに行動に移した。  
ミレルは情報を得るため、さっそく盗賊ギルドに向かっていった。  
リウイは、ミレルとは、また違った方法で情報を得るため、アイラの家に、メリッサは、私とともに、地図にかかれた、“あるもの”を探すため、同行を申し出てくれた。そして、再び落ち合う場所と時間を決めて、パーティーは分かれた。  
 
待ち合わせの時間、再び“一角獣の角”亭に、ミレル、メリッサ、リウイ、そしてその連れのアイラが、顔を揃えてた。  
そして、店の隅のテーブルにつくと、それぞれの持ち帰った情報をつき合わせた。  
まず口火を切ったのが、ミレルだった。  
「ギルドの情報屋を通じて、ここ最近のルダと思われる女性の足取りを追ってみたんだ。そしたら、やっぱりルダを追ってか、ギルドにヤスガルン山脈の若い女性の情報を買った男がいたらしい。  
やっぱり、呪い払いの刺青は、目立つからね、どうやらルダは、最初に一角獣の角亭にいったあと、いろいろな所にいったみたい、情報屋が売った情報には、ジーニの家、マイリー神殿、一角獣の角亭の場所を教えたそうよ。  
どうして追われているかまでは、ギルドもわからなかったみたい」  
 
次は、リウイが渋い顔で、一応の成果を報告したが、ミレルの集めた情報以上のものは得られなかったようだ。  
ミレルとは違った方法で、酒場や歓楽街で情報を求めていたようが、このような仕事は向いていないのだろう、さしたる情報も得られず、どういうわけか乱闘の痕が体中に見受けられた。おもわずため息がもれる。  
私は、とりあえず、例の“あるもの”袋の中から取り出し、テーブルに置いた。  
ひとつは、香草、もうひとつはどこかの貴族の紋章の絵だった。  
それを見て、アイラが、驚きの声をあげる。  
「どうした?」  
「うん、この紋章はよく分からないんだけど、こっちの香草・・・・これってたしか・・・」  
「アイラしってるのか?」  
リウイが、乗り出すように尋ねた  
「これってたしか・・・その・・・」  
「なんだよ、はっきりいえよ」  
 
「一種の興奮剤を作る原料・・・もちろん加工しなければならいのだけど、性欲を異常に高める効果のある(アロマ)芳香剤を作れるの・・・じつは、アロマセラピーってものが、  
一部の上流階級ではやりだしているんだけど、その副産物で、最近開発された加工技術があるの、さっきいった興奮剤を作るのに必要な加工っていうのも、最近開発されたこの加工技術が必要なのよ・・・・ただ・・・」  
「ただ?」  
「女性にしか効かないって効いたことあるわ。しかも効果の反面、中毒性が高いから、つい最近、取引が禁じられているはずよ・・・  
もちろん一部の上流階級での需要があるらしく闇市にいけば、手に入らない品物ではないわ・・・ただ、繁殖地がめずらしく、一部の山岳地帯で少量みつかる程度で稀少品と聞いたことがあるわ・・・」  
「どうして、そんなものをルダが・・・」  
メリッサは眉を寄せると、手を組んで、神に祈りを捧げる。  
なるほど・・・そういうことか・・・  
「なるほどな・・・」  
「なにがわかったんだ、ジーニ」  
リウイが身を乗り出した。  
「この香草にそんな使い方があったとはな・・・じつは、この香草は、私の故郷では群生地があってな。集落では、ある祭事には、巫女が香草として焚き火で燃やしたりもする。  
もちろん、加工などもしないから、香草としてしか使わないが、集落では、稀少というわけでもないんだ・・・・」  
「なるほど・・・みえてきたな・・・」  
みな、納得顔で自体が飲み込めてきた。  
 
「つまり、ルダは、村から輸出しはじめた、この草の用途を知り、禁制の品と知る。知らなかったことといえ、集落から禁制を輸出していることがオーファンに知られれば、自治権を認められているとはいえ、集落の存亡に関わる自体だろう。  
そこで、内密に私に相談し、内々に解決しようと試みたのだろう・・・・」  
「ということは、この紋章は、取引相手の手がかりって事になるのかな」  
ミレルがマジマジと紋章を見つめる。  
「そうだろうな・・・」  
リウイも横からジット紋章をみつめる。  
「問題は・・・この秘密を知っているルダを、捕まえた奴らがどうするかだな・・・・」  
私は、最悪の事態を想像していた。  
「秘密を守るだけなら、ルダを捕らえて連れて行くなんてリスクを負うことはしないだろう、おそらく、ルダ自体にもそれなりの必要な理由があるに違いない。だから、すぐ命を奪ったりはしないだろう。だが、時間が経てば、それだけ探すのは、難しくなるのは間違いない。」  
リウイは、冷静に状況を分析した。  
「とりあえず、この紋章だね、私、ギルドに行って詳しい奴に聞いてみるよ」  
「わたしも、この香草がどこから、手に入るのか流通経路をたどってみるわ」  
「では、残りのリウイとメリッサは二人で、追っ手が隠れそうな場所を探してくれ、私も別の方法で、奴らのいそうな場所を探しみる。」  
そういって、私たちは、再び待ち合わせを決めて、パーティーは別れた。  
 
別れ際、私はミレルにあることを確認する。  
それは、秘密を扱う店の情報は、ギルドでは扱えるかということだ。  
ギルドに関する情報は、本来タブーとされているのは知っているが、場合が場合だ、ありがたい事にミレルは真剣な面持ちで説明をしてくれた。まず前提として、ギルドに伝わった情報を完全に秘密にするのは現実には不可能だという。  
どんな情報でも時間とお金、そしてリスクを払えば手に入らないことはないという。だが、情報を売買する組織でも、不文律が存在していて、秘密にしたい情報の対価をギルドに払えば、たとえ情報屋が情報をもっていても、その情報の売買をしてはならないとのことだった。  
それでも、ギルドが情報を持っている確信があれば、情報屋の統領と交渉するか、直接、秘密を扱う店で交渉するしかないとのことだ。  
ミレルは、私の真意は探るように、何か心当たりがあるなら、頭領と交渉してみると申し出てくれた。しかし、情報に対する対価が何かがわからない上、ミレルにリスクを負わせる訳にはいかない。これだけ話してくれれば充分だ。私は、ミレルに感謝を言うと、申し出を断った。  
 
さっきのミレルとの話から、つまり、この街で身を隠すなら、ギルドの情報屋の頭領とパイプを持つ秘密を扱う店で、情報を隠蔽することが必要ということになる。たしは、そのことを確認すると、”沈黙の羊“亭に再び足を向けた。  
そこにいけば何かが掴めるという確信めいたものが、感じられたからだ。  
なぜなら、先ほどミレルが話した情報屋が売った情報の中に、“沈黙の羊”亭の情報がなかったからだ。つまり、追っ手の奴らが情報を秘密にしたと考えられる。だから、情報屋は、あえてミレルに“沈黙の羊”亭のことを隠蔽し、いろいろな所にいったと伝えたのだろう。  
足取りは酷く重く感じたが、私は、“沈黙の羊”亭に向かった。  
 
ギィ・・・・  
木製の扉をゆっくりと開ける。  
「あっ! いらっしゃいませ・・・ジーニさん」  
ヨアトルが驚いたように私の名前をつぶやいた。  
私は、店の主人のいるはずのカウンターに向かって、ゆっくり歩きだした。  
しかし、店の主人はおらず、若い男の店員が一人とヨアトルが主人の代わりに働いていた。  
私は、若い店員に店の主人のことを聞いたが、今日は不在だと告げられた。行き先を聞いても答えられないとのことだった。  
私は、直感めいたある種の違和感を感じていた。横にいるヨアトルを盗み見ると、後ろめたそうに、私から目を背けたからだ。  
ふっふっふ・・・・正直な子だ・・・  
「そうか、邪魔したな・・・・すまないが、裏口はどちらかな・・・」  
若い店員にそう告げると、そうそうにこの場立ち去るようにした。この店員からは、主人の居場所は聞き出せまい。私は尋ねる相手を変えることにした。私は、ヨアトルに裏口を案内してもらうことを口実に、裏口からヨアトルを店の外に連れ出した。  
「あっ・・・あの・・・案内はここまでですけど・・・」  
そんなことは、わかっている。私は、ヨアトルの顔に唇が触れるほど、顔を近づけた。  
「ヨアトル、店の主人は、どこにいる・・・・」  
「あ・・・いや・・・その・・言えません」  
知らないではなく、言えないというところが、ヨアトルらしいが、こんなことでは、この商売には、向かないな。だからこそ、助かるわけだが、私はついついヨアトルの心配をしてしまった。  
 
「お願いだ、ヨアトル。主人に大事な話があるんだ。」  
「だ、駄目ですよ・・・今日は・・なにがあっても誰も通すなっていわれて・・・って、んっむむっっ・・!」  
私のヨアトルの口を塞ぐように、自らの唇を押し付けた。暴れるヨアトルの顔を両手で挟むと、しばらく間、ゆっくりとヨアトルの口内を舌先でかき回した。二人の舌が充分に絡まり、舌先が糸をひくようになって私が顔を離す頃には、ヨアトルはうつろな目で私を見つめていた。  
私は、ヨアトルの顔を両手で挟んだまま、真剣に目をみつめると、再び主人の居場所を尋ねた。  
ヨアトルは、私の真剣な願いを受け止めてくれたのか、しばらく黙考した後、自分についてくるようにと言った。  
私は、ヨアトルに礼を言うと、もう一度軽く口付けをした。  
 
私はヨアトルの後について、裏町にある一軒の民家の裏口に立っていた。  
中からは、女性のあえぎ声とベッドの軋む音がもれ聞こえていた。  
「・・・・もしかして・・ここに主人が・・・?」  
「・・・はい」  
ヨアトルは、顔を伏せたまま、うなずくと主人を恐れてか、扉から離れると私に道を譲った。  
 
私は、扉の前に立つと、無粋を承知で扉を叩いた。  
女性のあえぎ声は、鳴きやまないようだが、主人の声で返答が聞こえた。  
「どなたですかな?」  
「・・・ジーニだ・・・知りたいことあって尋ねてきた」  
「そういうことでしたら・・・お役には立てそうにもありません、お引取りを・・・」  
当然そういうだろうな・・・  
私は、主人の言葉など無視して、目の前の扉を蹴破った。  
ドカっ!!・・・ンンッ  
「キャッ・・・!」  
目の前には、浅黒い肌をした全裸の女性が仰向けのまま、店の主人に突かれ、胸を躍らせていた。  
女性は、私を見咎めると手元の衣服を掴んで胸元を隠した。そして上体を起こして主人から離れようとしたようとした。だが、当の主人に両肩を掴まれると、再びベッドに押し倒された。  
主人は、私たちを無視するように女性を押し付けたまま注送を続ける。  
女性は抗議の声を上げたが、主人はそれを無視して両肩を抑えたまま、腰を振り続けた。女性は、店の主人に抗議が届かないことを悟ると、非難の声を止め、私たちから顔を背けた。  
そして、主人になすがまま、諦めたように、小さくあえぎ声をもらしはじめた。  
 
主人は、女性の抗議が止むと、何事もないように私に尋ねてきた。  
「ハァハァ・・・ハァ・・ずいぶん、お急ぎのようですが・・・ンッ・・何か御用ですか?」  
主人は、女性の足を大きく開かせると腰を振り続ける。  
「もし、いつもの様にご利用でしたら・・・」  
「・・・いや・・・今日はその用事ではない・・・実は、情報がほしいんだ」  
私は、我に戻って、咳払いをひとつすると、ここにきた用件を述べた。  
「お言葉ですが、・・・ここで扱っておりますのは秘密・・・情報がほしいのでしたら、ここよりも、もっと相応しい場所が・・・」  
「分かっている、だが、ここでしか手に入らない情報があるだろう・・・たとえば、ここで扱っている秘密とかな・・・」  
しばしの沈黙に、女性の小さなあえぎ声と、ベッドの軋む音だけが響く・・・  
「・・・・そういうことですか・・・・・」  
主人は、思うところがあるのか、小さく呟くと、腰を振るスピードを上げていく。  
そして、目の前の女性の髪を掴み上げ、上体を起こさせると濡れぼそった一物を、強引に女性の口内に突っ込んだ。  
女性は、驚いた顔をした後、一度私たちに視線を向けたが、目を伏せて、黙ってそれを咥え込んだ。  
「飲み込むんだ・・・」  
主人は、女性に命令すると、腰を大きく振るわせた。  
女性は、目を伏せたまま主人に頷くと、大きく喉を鳴らした。  
主人は、自らの精液を女性が飲み干すのを確認すると、掴んでいた女性の髪を離し、女性を開放した。女性は、ベッドから降りると急いで服を着て、ベッドの脇おいてあった報酬を掴み一目散に部屋を出て行った。  
 
主人は、全裸のままベッドに腰を据えると、私に向き直り、私の要求に対する返答を返した。  
「申し訳ありませんが・・・私は、ある種の情報を隠蔽したり、人目のつかない場所を提供することがすることを商売としています。したがって、それを明かすことは、出来ません」  
店の主人の答えは、しごく当然のことであり、予測していたものだった。しかし、ここで引き下がる訳には絶対にいかなかった。なにせ、ルダの命がかかっているのだから・・・  
「・・・・昨日、若い女性を追ってきた輩がいただろう・・・」  
「・・・・」  
店の主人は、口を閉ざしたままだった。私は、それに構わず言葉を続ける。  
「昨日・・・立ち去ろうした私を引き止めてまで、よこした情報だぞ・・私の躯と引き換えにな・・・・・」  
「・・・・」  
「ギルドにも分からないように、居場所を隠そうとすれば、ここを利用するしかないよな」  
「・・・そこまで、お分かりなら、秘密を明かすことがどれだけ危険なことかお分かりですよね・・・・つまり、秘密が漏れた場合、まっさきに疑われのは、ここであり、私なのです・・・秘密を漏らされた者の報復を恐れるのは当然だと思いますが・・・」  
主人は堰を切ったように、商売上の鉄則を述べた。  
つまり、秘密の隠蔽を請け負ったら、その秘密は最後まで隠蔽しなければならないということだ。多額の金銭を要求するのは、主人が代償しているのが命であるからだ・・・この商売の信用は、それに基づいている  
 
だが、逆をいえば、契約を破棄しても、主人の命を保障されれば、秘密は手に入るとも考えられる、もちろん、主人が、その保障を信用あるいは、その信用にかわる代償を受け取れればだが・・・  
 
「まず、お前の命の狙われないように、お前の依頼人の命は奪うつもりだから、報復の心配はしなくてもいい。もちろん、秘密を明かしてくれた代金は払うつもりだ・・・」  
私は、断れることを承知でとりあえずの条件を提示する。  
「・・・ふ〜、まず、あなたは考え違いをしていらっしゃる・・・まず、私の命の保障ですが、あなたが返り討ちにあって、依頼人が生きていたら、どうなされるともりですか?  
腕に自信はるようですが、所詮は、女・・・いくら自信がおありでも、私が、あなたの腕を信用できなければ、意味がありません。  
それに代償ですが、私はこの情報にかなり高額な金額を頂戴しております、冒険者であるあなたが・・・まして、貴族に身売りまでしているような方が、お支払いできるとは、到底思えません・・・」  
私は、主人の女性として私を卑下した言動に憤怒を覚えた。  
 
私は、女だからといって男に剣の腕で負けはしない、金とて、冒険者としてそれなりの成功を収めている今、支払えない金額ではないだろう。まして、金のために身売りなど一度としてしたことはない。  
貴族のアーヴィンと寝たことは確かだが、そのことで金を要求したことなど一度もない。  
私は、唇をかみ締めながら、そっと剣の柄に手をかける。  
・・・つまり、この条件では、主人が納得できなければ、あとは・・・・、脅しということになるが、いまは脅しで済むか自信がないが・・  
「・・・であるなら、お前の命を助けてやる代わりというのでは・・・?」  
私は大剣を引き抜くと、最後の交渉をはじめるべく、それを主人の目の前に突きつけた。  
主人は深いため息をつくと、目の前の剣を見植えて言葉を続けた。  
「・・・さらに、あなたは、考え違いをされています。  
第一に、この脅しが無意味であること、情報が他から手に入る確証がなければ、私の命は奪えないでしょう。そして、一番思い違いしているのが、これが最後の交渉と思っている点です。」  
わたしは、その言葉に剣を引く。  
つまり、私が言った条件以外に、主人の要求を呑めば、交渉の余地があるということになる。  
 
「・・・で、要求は?」  
「・・・話がはやいですね・・・実は、私、お金や自分の命にそれほど、執着があるわけではないんですよ。」  
「まどろっこしい話はいい、はやく言ったらどうだ」  
「しいてあるとすれば、女・・・とくに浅黒い肌に大きな胸、真っ赤な髪に、引き締まった肉体美を持ち合わせた女性が好みなんですよね」  
奴の好みが本当かどうかは知らんが、押し入った時、私たちを無視して女を犯し続けていた姿を思い出すと、なるほど、女好きは確かなんだろう。  
とはいえ、私を御所望とはな・・・まったく、どうして私の周りには、くだらん男が多いのだろうか・・・私はそっと、のろい払いの刺青を指でなぞった。  
「私の言わんとしたいことが、おわかりでしょうか?」  
「ああ、いわんとしたいことはな・・・・」  
「一日・・・体をお借りさせて頂ければ・・・」  
主人は、いやらしい目つきで、まるで私の体を舐めまわすように視線を這わせた。  
「悪いが急いでいるんだ・・・用事を済ませてからなら、いくらでも相手してやる・・・という約束ではだめか・・・?」  
「信用できませんね・・情報だけもらってということもあります。こういった場合、前払いが基本だと思いますがね・・・」  
「・・・・・・」  
私の沈黙に、主人は、今日一番の深いため息をついた・・・  
「・・・では、最大級の譲歩をしましょう・・・ここで一晩とはいいませんが、とりあえず、一回・・・・あとは、あなたの用事が終わってから、二晩、私の相手をしてくれる約束してください・・・  
ただし、約束を守って頂けない場合、あの若い貴族との情事を秘密に出来なくなりますが・・・よろしいでしょうか・・・」  
 
「・・・分かった・・・、だが、仲間との待ち合わせの時間もあるんでね、一回といっても昨晩のような訳にはいかない・・・どんなに長くても・・・1時間だ・・・」  
わたしは、長引かないようにサバをよみながら、最終交渉を提示する。  
「・・・・2時間で、その条件を飲みましょう・・・それでよろしければ、・・・その物騒なものをどこかに置いて、こちらにきてもらえますか?」  
主人は、私の大剣指差して、全裸ベッドに座りながら、手招きをした。  
私は、頬にある呪い払いの刺青をなぞると、大剣を壁にかけ、ついでに体を覆うマントを外した。そして、主人の座るベッドに歩を進めた。  
 
「交渉締結ですね・・・」  
「ああ・・・・だが、・・・その・・自分でやっておいてなんだが、ドアが壊れたままでは・・・ちょっとな・・・そのどこか見えない場所に移動しないか・・・」  
わたしは、少しでも行為の時間を短くするため、場所の移動を提案した。  
「急いでらっしゃるんでしょ・・時間がもったないないですよ、」  
「し・・しかし・・・」  
「安心してください。扉をたてかけて押さえておけばいいですよ・・・ヨアトル!そこに、いるな!」  
主人は、扉の外で隠れていたヨアトルを呼びつけると、部屋に招きいれ、壊れた扉をたてかけさせると部屋の中から、扉を押さえているように命令した。  
「なっ!、ちょっ、ちょと待って、ヨアトルが部屋にいる中でやるっていうのか」  
「ええ・・そうですよ、ヨアトルには、私の居場所をあなたに教えた罰を与えます、もう、交渉は締結しました。わたしの言う通りにしてもらいますよ。それがいやなら、情報は明かせませんが、よろしいですか・・・?」  
「くっ・・・・わかった・・・だが、せめてヨアトルには見えないように・・・」  
「それは、ヨアトルに頼んでください・・・目をつぶっているようにお願いしてみては?私からは、かわいそう過ぎて、そんなことは、いえませんけどね・・・」  
主人は、交渉は、これで終わりとばかりに、私に膝まづいて自分の一物を立たせるように命令した。私はヨアトルに、マントをかぶせると小声で願いを伝えた。  
「・・・すぐに終わらせるから・・・・我慢して見ないでいてくれ」  
 
私は、ヨアトルから離れ、主人に向かうと、その目の前に膝まづいて、濡れぼそった一物を握った。そして、硬さを増すように、ゆっくりと舌を絡めていく。  
他の女の愛液に抵抗を感じたが、愛のない肉体関係に嫌悪感もないだろうと、冷めた考えに割り切ることにした。だが、ヨアトルのことを考えると、ひどい罪悪感ととも不思議な興奮が湧き上がった。私は、それを振り払うように、主人の一物を口に含んだ・・・・  
 
 

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