ザッザ・・・  
・・・  
(ここが、エマの館か・・・)  
私は、“沈黙の羊”亭の主人から得た情報をもとに、ヨアトルの案内でルダが捕まっているであろう、隠れ家に忍び込んでいた。  
本来なら、このような役目はミレルに頼むところだったが、ルダの居場所を聞き出すのに随分と余計な時間を使ってしまった。  
私は、無駄に消費してしまった時間を取り戻すため、ヨアトルに仲間との待合せ場所に向かってもらい、一足先に”エマの館”で見張るつもりでいた。  
はやければ、あと一時間もしない内に仲間たちがきてくれるだろう。  
私は、館の構造を大まかに掴むため、月の光が届きづらい草むらに身を潜めながら、館の外周から確認する。  
進入路から、最悪の場合の脱出口、うまくすればルダの居場所の手掛りくらい見つけられるかもしれない。わたしは、はやる気持ちを落ち着けながら、音を立てないよう、静かに歩を進めた。  
 
・・・・  
・・・・  
私は、館の外周を一回りしおわると、館の2階にまで幹が届く大樹の根元に身を潜め、現状の把握に努めた。  
第一に敵の居場所だが、一階3名、2階に続く階段から近い部屋で、交代に見張りをしているようだ。人数までは、わからないが2階の部屋にも人の気配が見て取れる。  
階段から離れた、小さな蝋燭の灯りが揺らめいている、部屋には誰かいるのだろう。手誰の男と、おそらくはルダが捕らえられていると推測できた。  
2階にいる理由は、ルダの脱出を困難にさせるためであろう。1階に見張りが階段の近くにいるのは、2階と1階の進入者やルダの逃走に対して対処がしやすいからだろう。  
これは、明らかに訓練を受けた者の配置だった。  
私は、心の中で舌打ちをする。敵がどれほどの腕をもっているかは不明だが、この配置だけを見ても、私一人でルダを救出は難しいと結論づけた。  
第二に進入路、敵に気づかれにくいと思われる進入口を確認したが、全て鍵が掛けられていた。おそらく、1階の全ての進入路の鍵は閉じているのだろう。  
まったく用心深いことだ。あとは、2階だが、1階の用心深さを見れば、とても期待できそうにはない。  
第三の脱出路の確保だが、館自体は、窓が多いため、窓をつきやぶってどこへなりとも逃げることは可能だろう。幸い、館の外にまで見張りはいない。  
 
やはり問題は、敵の、特に手誰の力量がわからない点と、ルダの居場所が分からないことが問題だ。  
1階で戦闘が始まってしまっては、2階にいるであろうルダが、最悪、生死の危険にさらされる。やはり、仲間の到着を待つほかないか・・・・  
 
仲間の到着を待ちながら、緊張を高めていると突然大きな物音が近づいてきた。  
・・・・・!  
ガタガタガッタ  
馬の蹄とともに、2台の馬車が館の前に止まった。  
そして、すばやく馬車の業者が玄関の前に近づくと、扉を3回、2回、1回と一定の間を置いて叩いた。  
しばらくして、中から男が出てくると、何度か言葉を交わし業者は、馬車に戻っていった。  
私は、急速に高まる不安に身を強張らせていた。  
館の中が、少し騒がしくなったと思ったら武装した男たちが、慌ただしく出てきた。  
その最後尾には、体中の手足を弛緩させたルダが、ぐったりと男に抱えられた姿を現した。  
ここからでは、意識があるのか分からない。疲れきっているようにも見える。私は、静かにルダに近づいていく。  
すると、ルダの頬にはうっすらと涙が月の光に照らされ、輝いた。  
私は、猛烈な怒りが込み上げてきた。あの気の強いルダが・・・  
 
何がその身に起きたか想像して、背中の大剣に手をかけた。  
このまま、馬車に乗られては、再びルダを探しだすのは困難だと考えられた。  
ならば、一か八かあの中に飛び込んで、ルダを助け逃走するしかない。  
仲間がいない状態では、戦闘は避けたいところだが、最悪ルダだけでも逃がしたいところだ。  
仲間の到着まで、時間を稼ぐでもいい。ともかく、今飛び出さなければ、ルダは確実に連れ去られてしまう。  
私は、背中を大剣を引き抜くと、最後尾の男めがけて突っ込んでいった。  
・・・・ガッ!!!  
なっ!  
 
私は思わず、驚嘆の声を上げた。  
ルダを抱える男めがけた放った刀身が、その手前で止められたからだ。  
私の渾身の一撃を止めたのは、細身の黒剣だった。うっすらと光輝く刀身からすると、魔法剣の類かもしれない。  
わたしと最後尾の男の間に割って入った男は、にやけた笑みを浮かべると、最後尾の男に声をかけた。  
「・・・大丈夫でしたか、旦那・・・」  
どうやら最後尾の男が、リーダーらしい。  
「ああ・・・何者かしらんが、あとあと面倒だ・・・殺せ・・・」  
その酷薄な鋭い眼をした男は、冷静に言い放った。たった今、切られそうになったというのに、なかなか肝が据わった男だ。  
「・・・残念ですね・・・私好みの女なんですがね・・・わるく思うなよっと」  
男は、一気に間合いを詰めると躊躇なく心臓目掛けて斬撃を放ってきた。  
私は、大剣をあて、そこを基点に体を捻る。剣先が腕をかすめる。  
危なかった・・・  
私は、全身の毛穴が開く感覚を感じると、一気に汗が噴き出した。  
まずいな・・・  
 
「・・・ほ〜、やるね、あんた・・・」  
この一太刀で、男の力量を感じとった。  
気を抜いたら一瞬でやられる、それほどの力量を感じつつ、取り囲む数人の男たちを見回した。  
これは・・・・やられるな・・・  
じっとりと、頬に汗が伝う  
・・・  
じりじりと詰まる間合いに、極度の緊張があたりを包む  
「ね・・・姉さん・・・」  
ルダが、私に気づいたように呟いた。  
私は、瞳だけを向け、ルダの姿を確認すると、小さく頷いた。  
大丈夫だと、声をかけてやりたかったが、緊張で舌がのどにはりついたようだ、うまく声を出せそうになかった。  
私は、全身の筋肉を高め、必殺の一撃を叩き込む準備する。  
まずは、黒剣の使い手からだ  
「カイル・・・やめだ」  
リーダーらしき男が、黒剣の使い手を静止した。  
私は、緊張をとかず、敵のリーダーに視線を向けた。  
「殺すな、こいつも連れていく」  
ルダの言葉に、なんらかの思惑を巡らせたように、ルダと私を交互に伺うと、男は、何の感情も込めずに、ただ短い命令だけをした。  
私には、真意がつかめなかったが、カイルと呼ばれた男は、軽薄そうな唇を軽く持ち上げると満足げにうなずいた。  
「ありがたい、殺すには、惜しい女と思っていたところです・・・なるべく傷つけたくないので、あれ使ってもいいですかね」  
「・・・・・・・好きにしろ、時間をかけるなよ・・・・」  
「まかせて下さい・・・なぁ、女・・・そういうわけだから、手間かけさせないでくれよ」  
男は、懐に手を伸ばすと何かを握ったようだった。  
 
「なめるな!」  
私は、男が、懐から妙な物を取り出す前に決着をつけるべく一気に間合いをつめた。  
カイルという男は、私の剣激を黒剣で受け止めると、懐から取り出した小瓶を私の大剣にぶつけた。  
小瓶が粉々に割れたと思うと、中の液体が飛び散った。  
液体は、私と、カイルの衣服に降りかかった。  
「な・・!」  
私の衣服から、香水のような強烈な臭いが鼻についた。  
「・・・なーに毒ってわけじゃない・・もっといいものだよ・・・すぐにわかる・・・」  
カイルは、にやけた笑みを崩さず、何度か剣激を打ってくる。  
私は、それを打ち返すが、次第に体が震えるように腕から力抜けていくのを感じた。  
そして、それと入れ替わるように、急速に性感が高められているような気分になる。  
「ど、どういことだ・・・か、体が・・・?」  
「・・・・・どうやら効いてきたようだな・・・いまに、立てなくなるくらい感じてくる・・・我慢できるかな・・」  
「く・・・っ!」  
カイルは、とどめばかりに私の剣を叩き落とすと、私の腕を掴んで引き寄せた。  
すでに自らの足で立つことが出来なくなっていた。  
リーダーの男は、私とカイルとの決着がついたと見たのか、ルダを連れて先頭の馬車に乗り込んだ。  
 
私は、なんの抵抗もできず、男の胸に体を預けるしかなかった。  
まるで、発情した動物のように、下肢がうずいてたまらなかった。  
「・・・どれ」  
カイルは、おもむろに私の下肢の中心に手を差し込んだ。  
「あ!ッ」  
「おお、おお、もう濡らしてんじゃないか、こりゃ思いがけず上玉が手に入ったな・・・」  
「やっ・・・やめろ・・・」  
わたしは、あえぎ声でるのを必死にたえ、言葉すくなに抵抗の意思をしめしたが、頭のなかでは、この状況が理解できず混乱していた。  
「驚いただろ・・・通常は、水で薄めて火にかけてゆっくりと使うものだ。原液のまま体にふりかけるようなものじゃない・・・・効果は抜群だが、中毒になっちまうからな・・・」  
「はぁはぁ・・はぁはぁ・・・」  
もはやその声すら耳に届かなかった。ただこの体の疼きを抑えるのに必死だった。  
私は男たちに囲まれ、抗う事が出来ないまま2台目の馬車に運ばれた。  
「まぁ、効果がきれるまで、しっかり面度をみてやるから、安心しなっと・・・!」  
男が言葉の終わりに、私の臀部を叩き馬車に押し込んだ。  
私は、その衝撃で一瞬に頭が冴えわたる。  
「・・・ジー・・・ニ・・・ジーニ!」  
通りの向こうから、ミレルの声が響き渡る。  
しかし、その声は馬車の音にかき消されて次第に遠のいていった。  
私は、何も出来なかった・・・ルダを助けることも、仲間の到着まで時間を稼ぐことも・・・  
私は、ただ自分の無力感に心が支配されていった・・・・  
カイルを含め車中には男4人と私が一人、不規則な馬車の揺れが体を揺らし、さきほど浴びた香水の臭いが中を充満していた。  
頭が再び朦朧とし、体中がうずきはじめる・・・  
カイルが私の耳元で囁く・・・  
「さぁ・・・はじめましょうや・・・」  
 
 
 

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