直人に言われたとおり拓己は七海の部屋にいってみることにした。
時計の針は八時をさしている。
「七海、いる?」
ドアノブに手をかけてみた。
部屋にカギがかかっているか確かめようと思ったのだ。
しかし、ちゃんとしまっていなかったのかドアが開いてしまった。
部屋は闇に沈み、月明かりが七海の姿を浮かび上がらせていた。
床に座り込み、何かを握っている。
拓己はモノクロの世界に浮かび上がる赤い色に気付いた。
血だ。
二人は声にならない声をあげなあがらみつめあう。
七海の左の手首から流れ出したそれは、
とても、とても綺麗だった。
「拓己、どうして?」
そうつぶやく七海の右手にはカミソリがあった。
後片付けをする七海に事情を話した。
七海は手を止める。
「死のうと思っていたわけじゃないの。わたしは、生きるためにこれをやってるの」
七海は傷のたくさん残った手首を見つめながら続ける。
「むかしから、いろいろあったのよ。家庭のこととか」
「つらかった?」
「そうでもなかったけど、切ったら楽になったのよ。自分があやふやな感じがしなくなってね」
いつも強そうな彼女のことを何一つわかっていないことに気付き愕然とした。
「軽蔑した?」
「ううん、わかるよ。すこし。僕も自分が生きてるのかわからないときがあったから。全部壊れてしまうんじゃないかって、そう思ってた」
そうだ。結局壊れてしまったのだ。
家族も、良太も、有香も、街も。
そして唯も。
「七海」
すこし迷って、言う。
「カミソリ貸してくれないかな」
「え、なんで?」
「お願い」
訝しがる七海はカミソリのケースを持ってきた。
「気をつけてね」
ケースをあけて一枚摘み上げた。
灰色の月の光を鈍く反射した刃を眺め、おもむろに手首に当てる。
「ちょっ、なにしてんの」
七海が慌てるが無視してカミソリを手首にずらす。
「――っ」
激痛が走った。
まだ薄らと筋が入っただけだったが、耐えきれずカミソリが手から離れる。
「まったく、どうしてこんなことしたのよ」
「試してみたかったんだ。同じ事をしてみたら七海のことがわかるかもしれないと思って。無理だったけどね」
そういって拓己は無理して笑って見せた。
痛みに耐えかねてベッドに腰を下ろす。
「バカッ!バカ!バカ、ばか、ばか……」
七海は泣き崩れた。
「なんでこんなことすんのよ、あたしなんかのために、あたしなんかの……」
七海がしなだれかかってくる。
拓己は慌てた。
が、されるがままにした。
自分の腕の中で泣いている七海の手首と
七海の背中に添えられている自分の手首に同じ傷があることが、
ちょっと哀しく、そして嬉しかった。
七海はひとしきり泣いた。
撫でてやった髪はさらさらで淡く香る。
腕の中の七海はいつもの七海と違ってとても小さい。
おもむろに顔を上げて離れると七海は右手で拓己の左手を引っ張る。
「手首、見せて」
左手を差し出したそのとたん、拓己の唇に温もりが溢れる。
一瞬意識が飛び、その後また一拍おいて
七海とキスしていることを理解した。
焦って離れようとするがそれは後頭部に回された左手に阻止される。
いつのまにか閉じていた目をあけた。
目を瞑り涙を浮かべた七海の顔は、哀しくて切なくて、優しかった。
唇を合わせ抵抗を止めてから数分が経った。
顔を上げる。
舌こそ入れなかったが、強いキスだった。
腕の中の七海が、小さくはっきりつぶやいた。
「あたし、あたし、好きだよ。拓己のことが」
「でも、僕は唯が」
「じゃあ優しくしないでよ!そんなに、そんなに優しくされたら誰だって!」
「七海……」
「唯に勝てなくてもいい、唯の次でもいい、でもあたしは……」
――七海に押し倒された。
荒々しく唇が合わされ、歯がぶつかり合う。
一瞬躊躇しながら拓己の口に温もりが入ってくる。
初めての感触。
ぎこちなかったがお互いに労わりあい舌を絡めていく。
快感が走る。
がむしゃらに絡めあい撫であった。
ぎゅっと抱きしめあった。
背中と髪を撫でると七海は体を預けてきた。
心地よい温もりを感じる。
七海も自分の髪を撫でてくれた。
唇を離す。
白銀の筋が伝った。
「好き、好き……」
顔を胸にうずめられる。
七海の髪に軽く口付けをした。
七海は頭を上げると、そっと拓己の鎖骨に唇を這わせた。
左手でワイシャツのボタンが外されていくが
その手は痛みに震えていた。
自分は何をやっているんだろう。
こんなに好いていてくれているのに何一つ返せないなんて。
煮え切らない心を振りきった。
七海の指を押しとどめ、唐突に体を起こす。
「大丈夫、自分でできるよ」
そういいながらワイシャツとその下のTシャツを脱ぐ。
七海が息を呑むのがわかった。
ベルトに手をやりながら七海を見ると
頬が赤く染まっている。首を傾げてみると、
「その、自分からしといてだけど、
そう言うことがしたいとかじゃなくて、拓己と一緒にいたいっていうか、
こんな未来も見えないところだし」
そう七海は言い訳がましく言って顔を伏せてしまった。
ぎゅっと抱き寄せる。
「いいよ。七海のこと、ちょっとわかった気がするから。もっとわかりたいから」
まぶた、頬、そして唇に口付けながらうなじと襟の間に手を這わせ撫でる。
女の子の服のことなどわからないその意図に気付いたのか
七海は服を脱ぎだした。
あらわになった白い左肩に吸いつき、ホックを探す。
探り当てると案外簡単に外れた白い布がはらりと落ちていった。
「――綺麗」
月明かりに照らされた七海の乳房は決して大きくはなかったが、神々しく見える。
ベッドに倒れこみながら舌を這わせた。
「っ」
くぐもった声を上げる七海をひたすら愛撫しつづける。
突起に口付けると途端に硬直した。
「大丈夫だよ」
一回唇を離して七海の目を見ながらささやくき、
また唇を戻す。
そして両の突起をひとしきり撫でつづけた後
徐々に唇を下ろしていく。
程好く引き締まったわき腹にちいさなへそがかわいらしかった。
「くすぐったいよ」
七海は笑いながら身体をくねらせる。
顔を上げて微笑みあった。
スカートに手をかけると、
七海はちょっと躊躇して腰を上げた。
ホックを外しそっと引き抜く。
七海のそこはかなり湿っていた。
「そんなに、見ないで」
顔に手をやって恥ずかしそうに言う。
七海の隣に横になると、後ろから抱きしめた。
「好きだよ、七海」
「初めて言ってくれたね」
首に顔をうずめて息を吸う。七海の匂いがした。
ちょっといたずら心が芽生えて、耳たぶを甘噛みしてみると
「きゃっ」
と声が上がった。
そして下に手を伸ばす。
太ももを撫でた後、布の上から筋に指を這わせた。
「いたいっ」
慌てて力を抜いた。
こわばる七海がとても愛おしい。
唯に悪い気もしたが、
やっぱり好きなんだ、と思う。
抱きしめる力を強めながら、湿っているソコをなで上げる。
指を動かすたびに七海が震えて湿り気も増してくる。
なれてきた七海のソコは大分強くさすっても大丈夫になったようだった。
「ふうっ…」
布越しに指をうずめてみると、
七海の押し殺した声が漏れる。
もっと強く触りたいと思った。
パンツの端に指をかけるようとするが、
「いや、そんな、だめ」
と七海は見を捩って拒んだ。
七海の首筋に向かって
「そんなこといわないでよ。もっと、もっと七海を触りたい。だめ?」
と優しく呟きながら太ももを擦る。
「んっ、じゃあ、いいよ……」
小さくうなずいた七海の髪を撫でながら
手をそっと差し入れる。
びしょびしょだった。
そして暖かかった。
さっきと同じようにすじに手をやると
七海が懸命に声を押し殺すのがわかる。
その間も髪を撫でながら
さらに調子に乗って中指をうずめる。
「うっ、うん……ひゃっ」
七海の体温が一気に増した。
そのまま手のひらで突起を押しつぶすと
びくりと電気が走ったように震える。
「ふっ、ふうぅ。はうっ」
懸命に我慢する七海をさらに指と手のひらで撫で擦る。
「指、入れるよ」
そう言って中指を七海の花弁に割り入れる。
「やっ!」
七海の体が一瞬にしてこわばった。
「い、痛くない?」
「……ちょっと痛いかな、けど平気だよ」
第二関節まで差し入れて少しずつゆすってみると
中から溢れ出す液体が襞にからみつき指を締め付けてくる。
「拓己……」
ますます身体を縮める七海をさらに強く強く抱きしめた。
指を動かすと小刻みに身体を震わす七海。
その七海の背中に自分の肌が密着しているのがわかる。
未来なんか見えないここで、ただひたすら温もりが欲しかった。
腕の中の七海の鼓動と息が感じられるこの距離が心地よかった。
愛おしくなって、我慢できなくなる。
ズボンの下の棒が圧迫される。
「七海、いい?」
意味を察し小さく頷いた七海が身体を捩って唇を合わせてくる。
舌を絡め口内を味わいあう扇情的なキス。
さっきと違って、労わりあいながらも互いに欲望をぶつけあう。
首に回された両腕と流れの止まらない蜜壷が、
指を動かすたびに、舌を動かすたびに締め付けてくる。
唇を離した七海の顔に女を感じた。
「拓己」
親友に対する愛しさでも、守ってあげたい父性でも、求め合いたい気持ちでもなく
とろんとした眼と濡れた唇にに妖艶さを覚える。
びしょびしょに濡れた右手を使いベルトを外し下着を脱ぐ。
そして七海の下側にまわって邪魔なものを取り去ると
もう一度想いを伝える。
「七海と、したい」
「うん」
遠慮がちに広げられた太ももの間に割り入って、
肉棒をあてがう。
そして徐々に体重をかけていく。
狭い。
先のほうだけ入ったがそこで突き当たる。
さらに奥へ進もうとすると
「つっ」
必死に下唇を噛んで我慢する七海の唇から声が漏れた。
目じりに口付ける。
「痛くなったら、ちゃんと言ってね」
七海が頷くのを確認し、一呼吸置いて一気に突き入れる。
「きゃああぁっ」
大きな悲鳴が上がる。
「痛くないっ?」
「くっ、ちょっと、痛い、けど、大丈夫、かな」
そのまま動かずにかなり痛そうな七海の髪を撫でた。
しばらくそのまま撫で続ける。
呼吸が落ちついてきたのを感じた。
「あったかいね、拓己の」
「七海の中もあったかいよ」
そろそろ肉棒がうずき出してきた。
七海の目を覗く込む。
「いい?」
「うん……動いても、大丈夫、かも」
「じゃあちょっとずつ動くよ」
そう言いながら徐々に腰を動かしていく。
肉棒に襞が絡みついて締め付けられる。
押し寄せられる快感。
「あっ、くっ、やぁっ」
喘ぎ声が七海からこぼれる。
抱きしめながら激しく腰を打ちつけた。
「はあっ、はあ、ふゎぅん、ふうっ、ふあっ」
結合部から水音をたち、愛液がだらだら溢れ出している。
何度も強く襞をめくり、擦りあう。
声を出さないと、もはや耐えられなくなってきた。
「拓己、ひろき、ひろきぃっ、大好きだよ!」
「七海っ!」
深く押しつけて鋭く引っ掻き回す。
快感がはじけ飛んだ。
「ひろきいいぃぃぃぃっ」
七海が絶頂を迎えると同時に搾り取られるように締め付けられる。
胎内に全てを注ぎ込む。
ほとばしる熱さが七海を駆け巡った。
温もりが二人を満たした。
力が抜けた後、しばしの間抱き合う。
満ち足りた気分が二人を包んだ。
自分の腕の中の七海を見てこの時間が永遠に変わらないものであって欲しいと思ったが
平穏は仮初のものでしかないだろうということもなんとなく悟ってしまう。
だからこそ仮初の平穏の中で七海を大事にしなければいけない、
そんなことを考える。
微笑み、寄り添い、抱き合った二人は
いつしか眠りに落ちた。