「はなせ、はなせってば、なによ見せられないものでもあるわけっ!?」  
「てめえらっ! 大の男がなに情けねえザマみせてんだっ!」  
 なおも暴れるゆかりに跳ね飛ばされた保安部員を、黒須が怒鳴りつける。  
「宇宙飛行しさんよ、あんたもあんただ。いつまでも手だしできねえと思うなよ」  
「痛ッ」  
 ゆかりの手を抑えていた黒須が、軽く掌を返すと、ゆかりにいままでに感じたことのない  
痛みが走る。鋭い痛みが一瞬、その後、鈍い痛みと、妙にしびれた感覚。  
 黒須の手を振り払おうするが、どうにも手の先まで力が入らない。どこかで感覚が途切れているような…これは―――  
「オウ、黒須ヨォ。今日ハ辞メテオクワ。リストヲ外サレチマッタ」  
「ふふん、アンチェインの真似した所で許しゃあせんぞ小娘」  
「な、なによ、許さな…ぐうっ!」  
 外された右手首に目がいった隙、左肩に、さっき以上の激痛が走る。  
 また振り払おうとするも、今度は全く力が入らなかった。肩から先が無くなったかのような  
錯覚にとらわれる。全身で暴れようと肩を揺すると、一瞬づつ遅れてぶらり、ぶらりと揺れるなにか。  
「えっ…」  
 振り向くと、左肩が外されていた。  
「SSAがある今は、安定した稼ぎもあるが、傭兵ってのは中々に自転車操業でな。  
 俺ァ柔道整復師として骨接ぎをして暮らしてたこともあるんだ。  
 こういったことには中々詳しいんだ。どうだ、中々上手いもんだろう」  
「う、上手いもんだろうってあんたね…ッ!」  
「さーて次は右肩、と」  
 一瞬走る激痛と、なにより腕の自由を奪われるショックに、短く悲鳴を発してゆかりが崩れ落ちる。  
「どうした、宇宙飛行士様? まさか自分がこんな扱い受けるとは思わなかったか?  
 宇宙飛行士なんてのは大人しくロケットに乗ってナンボだ。  
 暴れて施設壊すような奴にゃあ、ちょっとは躾をしてやらねえとなあ」  
「ふ、ふ…」  
 ゆかりはキッと顔をあげ、黒須を睨み返すと、  
「ふざけるなあッ!」  
 その顔を全力で蹴り上げる。  
 
…が、  
「おおっと」  
 蹴り足は大きく黒須をそれ、バランスを崩したゆかりは、そのまま1回転、地面に倒れ込む。  
「アホか。下半身だけでまっとうにバランスがとれるわきゃねえだろう。  
 むしろ今、お前の腕はぶらぶらと、バランスの邪魔でしかないんだ」  
そういいながら、黒須はうつぶせに倒れたゆかりの足を掴む。  
「まあ、最後まで抵抗するその気の強さは流石かね」  
 そういって、ゆかりの背中を踏みつけ抑え込むと、今度は右足の股関節を思いきり、外しにかかる。  
「おら動くな。手間かけさせんな…よっと!」  
「ぎいいッ」  
「痛かねえだろうが。情けねえ声だしやがって」  
「ひ、い…、や、…いや、た、たすけて…」  
「あぁ?」  
 黒須が左足に移ると、ゆかりは、逃げようとのたうちはじめた。涙声が混じる。  
 が、背は黒須に踏まれ、三肢は付け根から外されている。  
必死に胸だけをベたべたと波打たせるが、その力はいかにも弱い。  
「せっかく気の強さを見なおしてやったってのに、結局はこれか」  
 愚痴りつつ、黒須は左足に手をかけ、  
「あ、やぁ…おねが、お願い、助けて…もう外さないで…」  
「よっと!」  
 悲鳴をまるっきり無視して、股関節を外した。  
「あ、あ…ぅ…」  
 2、3度身体を揺らし、完全に四肢に力が伝わらないと実感すると、諦めたのか、  
ゆかりは動かなくなった。  
「黒須…さん、ごめんなさい、もう、ゆるして…」  
 黒須に向きかえろうと、うつぶせのゆかりはばたつくが、じたばたともがくだけに終わる。  
 外れてみると四肢というのは中々に重く、とてもじゃないが上半身だけの力では  
持ち上げ身体を返すことはできそうになかった。  
 糸の切れた操り人形のように、四肢をぐねぐね振りまわしていたが、これも結局諦めて、  
首だけを黒須に向けた。  
「ごめんなさい、ごめんなさい…もうしないから、だから…」  
「いやーそれは所長にいってくれや。俺はお前を確保する権利しか無くてね。  
 捌く権利は無いんだわ。俺に謝られたって、どうしようもない」  
「……」  
 そういう黒須の顔は、だがまだ満足げではない。確保だけではなく、まだ、なにかしようとしている、  
ように見える。ゆかりは、底知れない恐怖に震えた。  
 
 こいつは、何をしようというんだろう。これから何をされるんだろう。しかし自分は、なにをされても  
抵抗ひとつできないのだ。  
 体力には自信があった。負けん気もあった。ゆかりは特に自覚したこともないが、その頭の  
回転の早さも武器であった。その二つで、今までの困難を切りぬけて来た。唐突に、こんな  
南国の島に来ても、それなりにやりぬいて来た。だが、今、その体力も、知性も、どちらも  
全く役に立たない状況にある。欠片も立ち向かえない危機というものに、生まれて初めてたった。  
「ま、ともかくお前をここから運び出さなきゃな。クリーンルーム前で暴れやがって」  
 そういうと黒須は、にやり、と唇の端を歪ませる。  
「だが、それじゃあお前、歩けないだろう。這うこともできなさそうだ。  
 かといって、車椅子もない。松葉杖もない。あっても使えないだろうな」  
 黒須の企みに気付いたのか、保安部員らがゆかりを取り囲んだ。みな、口元は見難く歪んでいる。  
 自分を動けなくして、そのまま担いでいこう、なんて素直な確保ではなさそうだ。一体…  
「よし、じゃあ仕方がない俺に乗っていくか? 俺の、コレに」  
 そういうと黒須は、ベルトを外し、ズボンを下して、黒光りする剛直を取り出した。既にギンギンに充血したそれは、  
脈動する血管を浮きだたせている。  
「や、やあああっ!」  
 全てを察したゆかりは、再び逃げださんともがき始める。  
「無駄無駄。大人しく俺に乗って帰ろうや、ゆかりちゃーん」  
「いやああああああああっ」  
「むーだだって。あんまり騒ぐと、アゴも外しちまうぞ」  
「ひぃっ」  
 黒須の手が、両の脇の下を通り、ゆかりを抱えあげる。もがく身体と、それにくっついて  
ぶらぶら揺れる四肢。  
「判ってるだろうが、抵抗なんて無駄なんだよ。さあ、まずはこの水着脱ごうや、邪魔だから  
 手は使えないだろうから、俺が脱がしてやるよ」  
 そうして黒須の手が、水着に…  
 
 
 
 
向井 「いや、いいからとっとと帰れよお前ら('A`)」  
 

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