※ ネタバレスレ準拠  
 
「ゆかり、また悩みを溜めこんでるね」  
「まあ、ね…」  
 今度のミッションは、久々にかなり煩雑なものになる。  
 それを明日1日でつめこむのだ。ちょっとだけ気が滅入る。  
「いいおまじないがあるよ」  
「またぁ? …ま、いっか。じゃあ、やってもらおうかな」  
 最近はゆかりも、タリホ族の精神文化を受け入れるようになった。  
 マツリのおまじないはけっこう効くのだ。  
 
 
 マツリの歌を聴きながら、眠りに落ちる。意識が戻ると、自分はふわふわと浮いていた。  
 目の前に、母親に抱かれおっぱいを飲む赤子が浮かんでいた。  
 これは…私だ。  
 ゆかりは直感する。親子とも、顔は見えない。自分は、ここで浮いて見ている。  
だが、不思議なことだが、あの赤子もまた自分なのだ。そう直感していた。  
 ということは…顔は見えないが、あれは、お母さんだろうか。  
「マツリもまたなんつうか、ベタな幻覚を選んだなー」  
 癒し効果に母の愛情、なんて、なんかテンプレすぎないか。  
 母親のことは好きだが、なんたってあの母だ。甘えたいとかそういう関係でもない。と、思う。  
「母性ってタイプでもなかろーに…こりゃあ、今度のおまじないは不発かな」  
 そういいながら、笑ってる自分に気付く。  
 なんだかんだ、リラックスしていたらしい。マツリも中々やるもんだ。  
 ちゅ、ちゅ。  
「おお、なんか必死だ、我ながら」  
 ちゅ、ちゅ。  
 ちゅ、ちゅ。  
 頑張っておっぱいを飲む自分を見守りながら、また眠りに落ちた。  
 
「ほい、ゆかり! 起きよう。朝だよー!」  
「ん、もう朝…?」  
 寝覚めは良い。  
 たしか、昨晩マツリにおまじないをしてもらったのだ。毎度ながら、内容は憶えていないが、  
どうやら成功のようだった。  
「いやー、おまじないありがとね、マツリ」  
「ほい、ゆかりが元気だと嬉しいよ」  
 心なしか、マツリも活き活きとしている。なんか、肌もツヤテカしちゃって。生気に溢れてる感じ。  
 …かしゃん。  
「ん?」  
 なにか頭の中で、パズルのピースをぴったりはめたような、そんな感触。  
「あれ? なんだろ…」  
「ほい、どした、ゆかり」  
「ま。いいか…って、朝のそれは隠してっていってるでしょー?」  
 頭の中のパズルをおいやッたところで、マツリの元気な異物が目にはいる。  
「だけどもう、隠し事はしたくないよ。それにこれは生理、仕方ない」  
「今まで隠してたんだから、そのくらい…」  
「ほい…」  
 ふっと存外に寂しそうな目をするマツリ。  
「あー、わかったわかった。もういいよ、ごめんごめん」  
 自分が慣れるべきだってのは判っているんだが。  
 …かしゃん。  
「? また?」  
「ほい?」  
「いや、なんでもない…とりあえずシャワー浴びてくんね」  
 
 
 久々に煩雑なミッション、変わらずの一夜漬け。大変なことだらけだが、きっと上手くいく。  
ゆかりは、気力の充実を実感した。  
「大したもんだ、タリホ族」  
 いいながら、ぬるめのシャワーをざっと被り、手櫛で髪を流す…と、ひっかかるなにか。  
「へ?」  
 髪の間に、粘つくなにかがある。ガムかと思ったが、ガムを頭につけられる憶えもない。  
「あれ…あれ? 落ちないや…なんだこれ?」  
 流しても流しても、ぬるっと伸びるばかりで、落ちそうにない。むしろ被害は拡大していく。  
「あーくそ、洗うか、仕方ない」  
 さっと浴びるだけのつもりだったが、どうやらまともに髪を洗うハメになりそうだ。  
 …かしゃん。  
「なんなのよ、もう」  
 
 同時刻、SSA西門。  
 マツリを前に、守衛2人が、うつろな目で揺れていた。  
「マツリは西へいくよ」  
「マツリは西へいく…」  
「おいしい果物をとりに、西へいくよ」  
「おいしい果物をとりに、西へ…」  
 
 
 
 
「さーてはみがきはみがき」  
 シャワールームから出ると、マツリは部屋にいなかった。  
「あれ。もう先に行ったのかな」  
 チューブから歯磨き粉を練りだし、ハブラシにつける。鏡にむかって口を開いて、ごしごしごし…  
「んぐ、なにこれ」  
 口の中に違和感。  
 舌と指を駆使し、違和感の元を探る。  
「これか」  
 1本毛が口から出てきた。  
 だけど、誰のだろう。  
 自分の毛ではない。マツリにしては短い、茜にしては、ちょっとクセっ毛。そもそも、自分の部屋には  
自分とマツリしかいないはずだが…でもこんな毛はみた憶えが…  
 …かしゃん。  
 そこで、またも頭の中で音がする。続いて、難所を越えた知恵の輪のように、連鎖的に  
いくつもの記憶が浮かび上がってくる。  
 かしゃん、かしゃん、かしゃん…  
 
 
 少しのち、西門。  
 守衛所を破壊せんかの勢いでつっこんできたライトアーマー。  
 中に乗るゆかりが、守衛を問い詰めていた。  
「マツリ、知らない!?」  
「ああ、ゆかりさん。マツリさんなら、西の森に、果物をとりにいくと…」  
 きっ。  
 ゆかりは守衛の目を睨みつける。  
「本当!?」  
「ええ、本当です」  
「本当に西の森?」  
「本当ですってば」  
「……」  
「……」  
 しばし考えた後、運転席を蹴り飛ばし、  
「北だ!  運転手さん、北門へいって!」  
「わかりました!」  
 砂塵を巻き散らして急ターン、ライトアーマーは再び、基地内へ消えていった。  
「マツリのばか、やけにツヤテカしてると思ったら、なにを、なにを…ッ!」  
 
 
 
 
 そのころ、研修室。  
「……」  
「……」  
「茜君」  
 きく八号救出ミッションのチェックリストを抱え、怒りの形相の木下。  
「は、はいっ」  
 なんの受難かと、おびえきった茜。  
「2人が来ないわけだが」  
「き、きませんね…」  
「……」  
「……」  
 

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