月からの帰路では宇宙実験とメディアへの対応を求められ、ばたばたと忙しい時間  
を送ることとなった。月の氷サンプルの中から発見されたアカネムシの観察。ハード  
シェルスーツを脱げなくなったソランジュへの対応。唐突にわけのわからない儀式を  
始めたマツリへの対処。予定にない作業が次から次へと現れ、ポアソンの少女達を  
悩ませた。  
「ぷわ〜。疲れたぁ」  
 ゆかりがシェルターに飛び込み、手足を伸ばして漂ったところでソランジュが笑う。  
「どこかの中年男性みたいな声だこと」  
「あにさ。どこかのヒステリー教師みたいな物言いで」  
 寝床となっている薄暗いシェルターの中で少女達は顔を背け合う。互いにリーダー  
気質の二人だ。性格上、衝突してしまいがちだった。が、ゆかりとソランジュは月面  
から命がけの生還を果たした仲でもあった。軽い衝突はすでに挨拶代わりで、すぐに  
どちらともなく笑いがこぼれる。  
「睡眠はしっかりとっておいた方がいいわ。起きたらまた分単位でスケジュールが埋  
まっているわ」  
「そだね。八時間目一杯眠るぞ」  
「……ハードシェルスーツが脱げて良かった」  
 ソランジュがぽつりと言う。狭いシェルターの中では厚さ三センチのハードシェル  
スーツでも空間を占領してしまう。どのみち帰路では船外活動の機会はほとんどない  
だろうということで、ジュピター2の指導を受けながらソランジュのスーツを解体し  
てしまった。今は折れた右足にだけスーツの残骸を残しギプスの代用にしている。  
「ゆかりには今回、最初から最後まで助けられたわ」  
 シェルターの最奥で膝を抱え、丸くなったソランジュが言う。  
「やめてよ。アリアンの女王様がそんなこと言ってもてんで似合わない」  
「ゾエとシャルロットが脱落した時、あなたに励まされなければ私は月への道を諦め  
ていた。ヴェルソーとの衝突事故の時もそう。月面でも『駄目な双発機』だったから  
こそくじけずに済んだのかもしれないわ」  
「まあいいじゃん。あんたが殊勝なことを言うと不吉な気がするよ。やめやめ」  
 ソランジュが溜息を吐く。  
「感謝の言葉くらい言わせなさい」  
 ソランジュは器用に姿勢を変え、ゆかりの正面に滑り込んできた。シェルターは狭  
い。こうして向かい合うとほとんど抱き合っているような近さだ。  
「あなたと二人でクレーターの縁から地球を眺めたこと、絶対に忘れない。――あり  
がとう」  
 ゆかりと変わらない小さな、けれどグラマラスな体が抱き着いてくる。素直な感謝  
の言葉を口にしたり抱擁したりと、女王様然とした常のソランジュからは到底想像も  
できない振る舞いだった。ゆかりのスキンタイト宇宙服もソランジュのハードシェル  
スーツ用インナーも下着同然の薄い布きれだ。柔らかな双丘の感触と、頬に接した金  
髪からほのかに漂うソランジュの香りにゆかりは落ち着かない心地になる。  
「ちょ、ちょ、ちょっと。近い。近すぎっ」  
「何? 感謝の抱擁も受けてもらえないのかしら?」  
「あんたらの国と違ってうちらの文化ではやたらに抱き合ったりしないのっ」  
 ゆかりがじたばたと抵抗すると、絡み合った二人は反動でおかしな回転を始めた。  
そのままシェルターの壁に音を立ててぶつかる。  
「――ぐっ……うううううっ」  
 爪を立てて全力でゆかりにしがみつき、苦しい息を吐く。ゆかりはようやくソラン  
ジュの骨折を思い出した。脚部の骨折は肋骨や指とはわけが違う。重傷なのだ。無理  
は禁物だった。  
「ちょっと! ソランジュ! 平気?」  
「ぐ……。月面では必死だったからかしら。我慢できたけど……緊張が解けるとちょっ  
と耐え難い……わね」  
 脂汗を滲ませてしがみつくソランジュにゆかりの保護欲が頭をもたげた。傷つき、  
縋り付く生き物にゆかりは弱い。  
「あー、もう。変な悪ふざけをするから。鎮痛剤、取ってこようか?」  
「……いい。少し、このままでいて」  
 シェルターの中は静かだった。空調機器のかすかな作動音と電磁ポンプ類の音が時  
折響く。マツリと茜の声は遠い。カタカタと響いてくるのは茜がキーボードを叩いて  
いる音だろうか。宇宙には風の音も地鳴りもない静かな世界だ。小さな機械音が耳に  
付く。  
 
 抱き締めたソランジュの金の頭をそっと撫でるうちに吐息や温もり、鼓動が気に  
なり始めた。スキンタイトスーツは温もりは伝えないが、柔らかに押しつぶされた胸  
の量感は紛れもない。  
 ――うう。これってちょっとばかりアレな状況では?  
 苦痛が引いてきたのだろう、ソランジュの体からは緊張が抜けていた。代わりに胸  
どころか腰までがしなやかにゆかりの肢体に張り付き、いつのまにか腿が絡んでいた  
りもする。  
「あらためて。感謝しているわ、ゆかり」  
 左右の頬に交互に押しつけられる唇に、フランス式というよりはロシア式の抱擁を  
思い出した。  
 ――つーか、これって感謝なんでしょーか?  
 接触の多さにゆかりはなんとなく「発情」という言葉を思い出した。ゆかりの下腹  
部を圧しているのはソランジュの腰骨で、ゆかりの大腿に押しつけられているのはソ  
ランジュの恥骨ではなかろうか。どうにもセックスアピールのような気がしてならな  
い。  
「……感謝の表明だけじゃ物足りないわね」  
「はい?」  
 有無を言わさずにソランジュが唇を重ねてきた。一瞬、突き放したい衝動に駆られ  
たものの、足に触れるハードシェルスーツの感触がゆかりを思いとどまらせる。  
「んんんんっ。んはっ。ちょっと。ソランジュ!」  
 腕の中に抱え込んだソランジュの背中をばんばんと叩いて中断させる。  
「あんたの国では感謝の印に唇にキスをするんか!」  
「しないわよ」  
 しれっと答えたソランジュはしかし、ゆかりの首に回した腕を解こうとはしない。  
「じゃあなんなの、今のは」  
「自分への褒美、かしら」  
「なんであたしがあんたへの褒美にならなきゃならんのだ」  
「キスくらいで騒がないで。――もしかして初めてだったのかしら?」  
 覗き込んでくる翠の瞳は挑戦的な色を湛えている。  
「〜〜〜〜っ」  
 再び唇を近づけようとするソランジュをゆかりは慌てて制止する。  
「ちょぉぉっと。たんまたんま。待ってってば」  
「私じゃだめかしら」  
「そうじゃなくって」  
「じゃあ問題はないんじゃなくて?」  
「あるっ。問題大ありっ。つーか、リセエンヌは嫌いじゃなければすぐにキスしたり  
ベッドに転がり込んだりするんかっ」  
「構わないでしょう。妊娠してミッションを危機に追い込むこともないわ」  
「フランス病ってかアリアン病かい、そりゃ。……違う。そうじゃなくてあんたは女  
でもいいっての?」  
「失礼ね。女が好きなの。でも誰でもいいってわけじゃないわよ」  
「…………」  
 ゆかりは無言でシェルターの入口へ泳ぎだそうとした。が、壁に手をかける前にソ  
ランジュがきつくゆかりの体を掴む。  
「ちょっと。どこへ行くのよ。人が勇気を出して告白したのにその態度はあんまりじゃ  
ない?」  
「マツリか茜にシフト交代してもらう。だいたい告白なんてしてないじゃん。いきな  
り迫ってきただけで」  
「……なんだか足が痛んできたわ。失恋の痛手かしら」  
「ぐ」  
「痛みでも心臓発作を引き起こしたりするのよね。人って簡単に死んでしまうものら  
しいわ」  
 わざとらしく胸を押さえてみせるソランジュ。  
「ぐぐぐ」  
「心臓マッサージしてもらわないとだめかもしれないわ」  
「んなわけあるかっ」  
「月面で――」とソランジュは関係のない話を始める。「――クレーターの縁に腰掛  
けて私たちは地球を眺めたわ。恋人同士のように並んで、ヘルメットをくっつけてね」  
「それは無駄な音声をジュピター2に流さないためで」  
「あの時に神様の話をしたわよね」  
 
 ソランジュは少しもゆかりの話を聞いていないようだった。  
「月世界は人類が宇宙へと飛び出していくために神様が用意した階梯なんだって。同  
じように私はね、あなたとの出会いも神様が恵んでくださったのだと思う」  
 神様を持ち出されてはゆかりには返事のしようもない。ゆかりは典型的な日本人と  
しての宗教観を持っている。正月には神社に詣で、結婚式はキリスト教の教会で、葬  
式は仏前で。ようは、本気で信じている神様など持たないのだ。  
「だから、これは冗談でも遊びでもないの。私は真剣にあなたを欲しているわ、ゆか  
り」  
 シェルターには観測窓も照明もない。出入口には気密ハッチがあったが、これは非  
常用だ。通常は開放され、半透明の仕切で視界を遮っているだけだった。その仕切板  
から漏れる乳白色の光にソランジュの金の髪とマスカット色の瞳が光る。真剣な色を  
湛えた視線にゆかりは返そうと思っていた軽口を飲み込んだ。  
「その……あたしはよくわかんないよ。『欲している』って言われても困る。女同士  
なんて考えてみたこともないし」  
 ふふん、とソランジュが笑い飛ばす。  
「無理な理由を挙げるのがリーダーだったかしら?」  
「ミッションとこれとは――」  
「違う? じゃあ、そうね。ゆかり。恋をしたことは?」  
「……ないわよ」  
「でしょうね。それで臆病になっているだけなんだわ。嫌なら嫌と全力で拒否すれば  
いい。そうじゃないのなら、私とぶつかってごらんなさい。同性だから駄目? 異性  
にさえ恋したことのないような娘のセリフじゃないわね。それとも恋の主導権を握れ  
る自信がないの?」  
 一瞬、むっとしたゆかりだったが、これはゆかりの性格を理解したソランジュの挑  
発なのだと思い当たり、笑い出した。  
「ソランジュ、あんた、愛を囁くのにも女王様みたいに挑発的なの?」  
「悪い?」  
「悪かないけど、そんな口説き方じゃ誰もなびかないんじゃ」  
「う……」  
 軽口のつもりで返したゆかりだったが、その一言はソランジュには痛烈な一撃となっ  
たらしい。喉の奥で声をくぐもらせるばかりで反論も出てこなかった。そんなソラン  
ジュを眺めながらたっぷりと逡巡した挙げ句にゆかりは思い切る。  
「いいわ。あんたの挑戦、受け取った。実を言えばソランジュの横顔、いいなって思っ  
てたの。最初はね、地球軌道を離れてアースビューを取ったとき。ギリシア彫刻みたい  
だって見とれたよ。二度目がクレーターの縁で。月の女神――アルテミスだっけ? そ  
んな風に見えた」  
 ゆかりはソランジュの顔を両手で挟み、ぐい、と引き寄せる。加減もよくわからな  
いまま唇を押しつける。そっと表情を窺ってみると、エメラルドの瞳が間近に見開か  
れていた。全身を硬直させていることといい、どうも思い描いていたキスとは違う。  
「ええと、ソランジュ……さん?」  
「…………」  
 至近距離でソランジュは固まっていた。目は見開かれ、唇はかすかにわなないてい  
る。たっぷりと二十を数えるほど沈黙が続き、やがてソランジュの目にぶわりと水玉  
が浮かんだ。水玉は見る見る間に育ってマンガのように大きくなり、瞬きと同時に宙  
に泳ぎ出した。  
「な、何? どうかした?」  
「なんでもない。ゆかりの決断の速さに、その、ちょっと驚いただけ」  
 そのまま肩口に顔を押し当てて小さく「良かった」と繰り返し呟くソランジュは憶  
えがない神妙でしおらしげだった。ならやら感動しているらしかったが、ゆかりはそ  
んな湿っぽい――いや、情緒的な雰囲気は少々苦手だ。わざと明るい声を上げる。  
「のっけからそんな有様じゃ、リーダーシップはあたしのもんかな」  
 それでも囁く声はどこか甘くなってしまう。指先でそっと金の髪を掻き上げて額を  
露わにする。細く癖のない髪が宙に広がった。  
「ばか。そんなのこの私が許すわけないでしょう」  
 睫毛の先に涙滴をひっかけたままのソランジュが笑みを作って唇をついばみに来た。  
軽くそのキスを受け、初めてゆかりは思い描いていたものに近いキスをした気がした。  
さらに二度、三度、短いキスを繰り返す。よく見ればソランジュは睫毛も金色だ。  
 ――?  
 幾度か口づけを繰り返したところでソランジュはゆかりを抱き締めたまま身動きを  
止めた。困惑しているようだった。  
 
「どした、ソランジュ」  
「その、次の手順に移るべきかどうか考えて……」  
 ぶふ、とゆかりは噴き出した。  
「次の手順も何も恋人《アムール》の国、フランスの誇るフレンチキスはどうしたの  
さ」  
 ソランジュは眉をしかめる。  
「あなたの言うフレンチキスってディープキスのことでしょう? フランスではそれ  
は英国式《アングレ》よ。人前で慎みのないキスをするのはイギリス人と決まってい  
るもの。アメリカ人もね。フランス語だと正しくはpalotと言うわ」  
「語順だけじゃなくて呼び方まで英語圏と対立してるんだ」  
「やっぱりゆかりにはフランス語の美のなんたるかについてじっくりと教えるべきね」  
「睦言から覚えるよ」と鼻の頭に軽く口づけする。「――で、続きは?」  
 こうかしら、とぎこちなく触れてきたキスは形ばかり舌を差し入れるばかりだった。  
唇の隙間を軽く舐めて離れる。  
「…………」  
「…………」  
 ゆかりの批判を含ませた視線にソランジュは居心地が悪そうに身を竦める。  
「あたしのこと『恋をしたことがない』なんてくさしてたのにあんたがそれ?」  
「仕方が無いじゃない。同性のパートナーなんてそうそう見つからないんだから」  
「ふううん。でも、ちょっと安心した。なんでもかんでも完璧な女王様も純朴な乙女  
だったんだな、って。んじゃ、不肖このゆかりさんがハリウッド映画仕込みのキスで  
もひとつ」  
「恋愛映画ならフランスでしょう」  
 髪よりやや濃い、やはり金色の眉毛を上げてソランジュが抗議する。ゆかりは構わ  
ずに大きく首を傾けて唇を塞ぐ。  
「んっ……ぐっ」  
 それはキスというよりはマウス・ツー・マウスの人工呼吸のようだった。開いた口  
を深く合わせ、差し入れた舌を闇雲に動かしてみる。息を止めたまま舌を探り合う。  
「むはっ」  
「ぶはっ」  
 苦しくなって唇を離し、大きく呼吸する。  
 二人は間近で見つめ合った。合わせたままの胸の間で互いの乳房は柔らかく潰され  
鼓動を響かせてはいたし、吐息の熱さも互いを昂ぶらせてはいたが、初めて絡めてみ  
た舌の感触は生々しさが先に立ち、少女たちの夢見た甘美な口づけのイメージとは隔  
たりがあった。  
「レ、レモンの味とはほど遠い……」  
「蜂蜜の香りもしないわね」  
 ぼそりとそれぞれが口にする。次の瞬間には揃って噴き出した。  
「あんた、いつの時代の乙女よ」  
「ゆかりこそ。レモンって何? キスの前にレモンでも齧ってこいっていうのかしら」  
 二人はひとしきり笑い合い、笑いすぎて目尻に涙を溜めながら息を吐く。  
「特訓よ」  
「おうさ。受けて立とうじゃないの」  
 体育会系の筋肉脳の持ち主と宇宙を見上げて駆け続けてきた二人には「うまくいく  
まで努力し工夫する」以外の発想はなかった。そこに甘やかな恋人達の雰囲気が入り  
込む余地はない。  
「とりあえずその首のアダプターリングが邪魔ね。鎖骨に当たって痛いわ」  
「スキンタイトスーツもあんたの体温が感じられなくてつまんないや。脱いじゃえ。  
――って、何赤くなってんのよ。今更。こっちが恥ずかしくなるじゃない」  
「しょうがないでしょう。意識しないで済むよう、これまではあなたの肌を見ないよ  
うに努めてきたんだから」  
「あー、なんかあたしだけ脱ぐのは不公平な気がしてきた。あんたも脱ぎなさい。ほ  
れほれ」  
 ゆかりはソランジュの衣服を剥ぎ取りにかかる。船内服代わりにしていたハードシェ  
ルスーツのインナーを鼻歌交じりで脱がせたのだが、その下から現れたソランジュの  
白い体に手が止まる。陶器のような、という表現が似合いそうな肌に圧倒され、ブラ  
とショーツまでは手がつけられなかった。特に、ぎょっとするほどのボリュームで胸  
肉を押し上げているブラは、開放すれば敗北感を呼びそうな予感が、確かにした。  
「……目のやり場に困る、というか心許ないわ」  
「だね。抱き締めていれば多少はマシかな?」  
 
 肌を露わにしてみると離れているのも、近づくのも恥ずかしいように思われた。もっ  
とも向かい合っている二人の距離はほとんどゼロだ。  
「準備よくてよ。まずは恋人のキスとやらをマスターするわ」  
「ウェイポイント・ワン設定、と」  
 互いの体を引き寄せる。慎重に抱き合わせた胸が柔らかく、量感たっぷりに押しつ  
ぶされ、ふうわりとした感触の中に胸の先が軽く沈んでいく。重なる鼓動は速い。互  
いに割って入った太腿が擦り合わされ、その接点から走る感覚が鼓動を加速する。  
「じゃ、キス……するね」  
「負けなくてよ」  
 触れるだけのキスから復習を始めた二人は、それから二時間あまり、納得の行くま  
で舌を絡める恋人のキスに没頭したのだった。  
「……そらんりゅ、あたし、そろそろ限界」  
「こっちも。――次の直まで六時間を切ってるわ」  
「うん。続きは明日にして」  
「今日はこのまま眠りましょう……」  
 往路をポレールの習熟訓練に費やしたためか復路ではメディアも宇宙ラボも少女た  
ちに休む間を与えず分刻みで扱き使った。月面での過酷な活動からの休息も十分には  
取れていない。その疲れが瞼に重くのしかかる。  
 ――暖かい。  
 肌の感触と髪の香りに互いを包んで少女たちは夢の中へと滑り落ちていく。眠りの  
縁へと落ちていきながらゆかりが鼻の頭にキスをするとソランジュは微笑んだよう  
だった。  
 ――人は体の中に海を持っているというけど。  
 人の細胞は海水に等しい成分を含んでいるらしい。ソランジュの胸に顔を埋めると  
心音や呼吸音の底からかすかに潮騒が聞こえるような気がした。  
 ――ソランジュは地球《ホーム》だ。  
 命は地球をその身に宿しているから、抱き締められてこんなにも安心できるのだと、  
納得できた。ソランジュのエメラルドの瞳はソロモンを囲む珊瑚礁の海の色だ。ゆか  
りにとってソロモンが第二の故郷であるとしたら、ソランジュは第三の、宇宙での故  
郷となるのかもしれない。そんなことを思いながらゆかりは深い眠りへと落ち込んで  
いった。  
 
                                 ――了――  
 

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