ホテルTK。  
アイドルで絶好調の響ミソラ。今日はTKシティと呼ばれるハイテクシティにて、  
明後日の午後からライブを始める。今日はゆっくり羽休めしたかったが…  
 
「A598室」  
 
コンコン。ノックが鳴った。マネージャーさんかな?  
私はドアに向かおうとしたが、立ち上がった次に、扉の下に一枚の手紙が部屋の中にするりと入った。  
もしかして私への熱狂的なファン?だとしたら困る。私は今日はゆっくり休みたい。  
できればアイドルの仕事も、今日だけは無かったことにしたいのだ…  
 
でも手紙だけは読んであげることにした。私にある良心が、そうしろと囁いたのだ。  
 
<拝啓 ミソラ殿>  
 
扉 開 けて  
〜  
 
 
それだけだった。しかもまるで怪物が人間の文字を謎って書いたかのような、  
気持ち悪い文字だ。何度も何度も、消しゴムで消しては、鉛筆で書き直し、  
ミソラ様に不快を与える文字を書くわけにはいけない…といった、逆に恐怖を与えるような。  
しかも内容が「ドアを開けろ」、つまり、部屋の外に誰かいる。私は身震いした。  
開けたら、誰か危ない人が押し込んでくるかもしれない。電話をかけて助けを呼ぶか迷った。  
でも小さな子供だったり、私への思いを寄せる人なら、ここで追い払ったりしたら絶望を与えるだけで、  
それはなんとなく嫌だった。  
 
 
あーだこーだ考えている内に、私は結論を編み出した。  
握手だけでもしてやろう…  
 
私もドアの向こうの人に尋ねるように、ノックした。すると、向こうもノックを返してきた。  
 
「あ、握手だけですよ?」  
私は恐る恐るドアを開けた。私の瞳が、ドアの向こうを覗く。  
しかし、誰もいなかった。人気さえ無い。  
私は部屋の外に出て長い廊下を見渡した。どういうことだろう。  
周りに個室などない。(特別に与えてくれた部屋だし)  
さっきノックしたばかりなのに、この長い廊下を走り抜けて下の階へ逃げるなんて  
陸上選手でもそうできないだろう。  
 
 
気のせいだったのか?しかし、あの手紙が人がいたという証拠…  
私は怖くなってドアを閉めた。何事も、無かった。  
私は気にしないことにした。手紙は破り捨て、ゴミ箱に放った。  
しかし…私は何か嫌な予感がした。部屋に、妙な違和感を感じるのだ…  
 
 
まるで、誰かが私をずっと見つめているかのような、変なきぶん…。  
 
 
緊張がほどけると、私は肩の力をなくし、ベッドに寝転がった。  
──寝よう。もう、目を開けることさえめんどくさくなってきた。  
  しかしこのとき、私はまだ知らなかった・・・  
 
この部屋に、欲望という名の魔獣を入れ込んでしまったことを。  
 
 
目を開けた。あれから、随分経ったと思う。  
窓を見ずとも、差し込んでくる夕焼けが私の普段着を照らす─・・・ッ?!  
 
「ふ、服が、無い・・・」  
 
妙にお腹が温かいと思っていた。  
なんと、ピンクの服が、きれいさっぱり消え、胸着が外に露出している。  
下半身は無事のようだ。  
嫌な予感がし、私はバッと立ち上がった。しかし、次の瞬間、思いもよらぬ魔手が私の顎をベッドに押し付ける。  
身動きができない。相当な怪力だ。私は確信した。  
私には見えないけど、目の前には誰かがいる。  
ワタシは何とかその手を払いのけ、部屋の隅に逃げ込んだ。見えない恐怖が、襲ってきた。  
こんなときハープがいれば、電波変換して逃げれるのに。でもハープは今、ここにはいない。  
私は涙目だった。怖い。肩と足が震え、まともに立つこともできなかった。  
そして攻撃は激化していった。まず最初に、胸をぐみゅっと掴まれた。私は何とかこらえ、手探りで殴ろうとしたが、その手も  
大きな手で鷲づかみにされたらしく、細い腕に筋力に自身がない私にとって、絶望的だ。  
逃げようと思った。でも、もうそれもできない。  
次は、お尻だ!両腕でモニュモニュと、更にそのまま尻から相手の胸にかけて圧力をかけてくるもんだから、  
苦しかった。私の露出した肌が、そう、まさに透明人間の見えない肌に擦り付けられる。  
 
「くっ、ううう・・・」  
私は理性と本能の境に迫られた。どうする?このまま身を見えない相手に委ねるか?  
それとも、反抗するか?  
答えは決まっていたが─…  
 
「やめて!やめてぇ!見えないところから攻撃するなんて卑怯っ!  
卑怯者!大嫌い!変態、馬鹿、変態、だいきらい・・・!!」  
私は涙ながらに必死に身動きできない体で訴えた。しかし、非常にも、  
冷徹にも、相手がその言葉に応じることは無かったのだ。  
 
 
 
無言の透明人間は、本能のままに女性を狩るのだ。  
 
 
 
正に、絶望。  
身動きも取れず、抵抗もできず、手も足も出せないダルマとはこのことだ。  
次々と、嫌らしい攻撃の連続。頬をぺろりと舐められたり(唾が汚くて、私は片目を瞑った)、  
一番苦手な脇をくすぐられて、無理矢理私に笑顔をさせたり、息を吹きかけてきたり、  
そして、色んな性攻撃を加えられ、早三十分が過ぎた頃かな。  
背中に手が当てられ、足を掴まれ、お姫様抱っこをされた。一体コイツは、何がしたいの。  
そしてすぐにベッドへ投げつけられた。──丁重に扱いなさいよ、この変態・・・!  
まだ私には理性がある。絶対、こんな変態にむちゃくちゃにされてたまるもんですか・・・・・!  
 
 
次に何をしてくるのだろう。もう恐怖など無い。ただ、耐えるしかない。  
明後日の、コンサートまで。そう、ずっと、ずっと。  
私の足に圧力がかかる。なんと、のしかかってきた。今度は馬乗り・・・?!  
唇に、何かが触れた。キスをしてきた─私は真っ青になり、眼を喝と開け、泣きそうになった─  
嫌だ、やめてぇん─私の髪の毛をくしゃくしゃ撫でてくる─私の体と透明人間の体が、密着してる─  
感触は気持ち悪かった─相手にとっては、この上ない極楽なのだろうが─  
最後に、これは意外だった─突然、宙に紫のハンカチが現れた─きっと、きっと相手がポケットから出したんだ─  
そのハンカチは私の口に体当たりしてきた─眠気がした─眠り、粉・・・─、  
 
私は、眠ってしまうの?その間に、嫌らしいことをされるの?  
そんなの絶対ダメ。私は貴方の玩具じゃないのぉ、ああ、やめて、胸を揉むな・・・っ!  
壊れる。そう悟った。もうすぐ、私は人格が崩壊して、更に相手の思うがままにされてしまう。  
壊れた響ミソラは、平気で相手に身を渡し、何だってしてしまうだろう。  
そう思うだけで、ぞっとした。背筋が、一筋に寒さと痒みが再びきた。  
最後に視界に入ったのは、私のズボンが、ゆっくり、下ろされていき、  
ピンクの細い紐パンツが、丸見えになり、それをとにかく揉まれ、私は快楽になり・・・  
とどめには、ブラジャーが、ブラジャーのフックが、ピン!と音を立て、外される気持ち良い音が。  
ブラジャーは奴に取り上げられ、宙で消えた。ポケットにでも突っ込んだのだろう・・  
眠っている間、色んなことをされる──神様、スバル君、ごめん、私、もう死んでしまいたい・・・  
過去の記憶がどんどん流れ込む。これが、いわゆる、走馬灯─、  
 
 

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