『好き』と言う言葉にも、種類があると思う。  
ロール=キャスケットはロック=ヴォルナットのことが好きだった。ただそれは  
兄妹のような好意である。0歳の頃からずっと一緒に居たのだ。当然と言えば当  
然であるかも知れない。  
それが最近少しだけ歪んだ気がする。  
「…巧くいかないなぁ」  
ぽつねんと一人フラッター号の自室で呟く。新しく開発しようとしていたのはロ  
ックの次なる装備。構想段階に過ぎず、発想を並べてみるがどうもまとまらな  
い。時計の秒針の音だけがする部屋に、小さなノック音。  
「ロールちゃん、入って良い?」  
ロックの声だ。なぜかロールは焦った。ロックがこの部屋に来るなど何でもない  
はずなのに、急いで机の上を整えた。  
「い、良いよ!」  
「?…ゴメン。もしかして取り込んでた?」  
「う、ううん全然全然!!」  
一人で勝手にパニックに陥って本当に訳が分からない。ロックの顔を見るのもで  
きない。ロックはさぞいぶかしげな顔をしているだろう。  
「えと…その、どうしたの急に?」  
「あぁ、いや。この前からバスターの調子が少し悪くて」  
「えっ!?早く診せて!」  
メカニックの話になると、今までの心苦しさが一気に吹き飛んだ。ロックの手を  
取ると、急いで装甲を離す。  
「う〜ん…………あっ、出力回路にささくれが立ってる!ここにも!!ロックす  
ぐに直るからね!」  
慣れた手付きと、信じられない集中力でロールは『縫合』を完遂させる。  
「…っくく」  
「どうしたの?」  
「ロールちゃんやっぱりいつも通りだったなって…なんか変だったよ?」  
ロックがずいと顔を寄せる。何も考えていなかっただろう。ただロールには今一  
番効く刺激だった。  
急にロックの唇が近づいた。  
心の中で何かがぐらりと傾いた。  
 
「…ロー…ルちゃん?」  
キスしていた。  
唇を触れさせるだけの稚拙なものだが、二人の心音は早鐘を打ったようにけたた  
ましい。  
「………あ、あははゴメンねロック。…ちょっと、ちょっと滑っちゃってさ…」  
顔が熱い。必死に言い訳するほど、血が頭に昇ってきてどうしようもない。  
「そうだ、チューニングの続きね!…」  
手が震えて止まらない。その手をロックが握った。  
「あ…」  
「ロール…ちゃん」  
ロックに体をぐいと引っ張られる。抵抗出来なかった。  
「僕は少し、本気になったかも知れない…」  
ロックはそのまま背中に腕を回して、強く抱き締めた。  
「好きだった。姉弟みたいな『好き』じゃないってやっと分かったんだ」  
(あぁ…ロックも。私もきっと…ずっと前からロックの事が好きだったんだ)  
「だから……」  
「うん」  
「だから…?あれ?だから、どうすれば良いんだ?」  
好きであるからと言ってロックがロックでなくなる事はない。いつも通りロック  
は優しくて強くて、どこか抜けている。互いの気持ちが分かっただけで涙が出た。  
「分かるよロック。もう一度良い?」  
「うん…」  
ロールは待つように目を瞑る。  
唇を落とす直前にロックが可愛いと呟いたのがどうしようもなく嬉しかった。  
「…んっ。っむ」  
先程よりもしっかりと唇を重ねる。まるで永遠のようにも感じるほど永く思えた。  
ロックの舌がロールの唇に触れた。びくんと全身を硬直させるが、乏しいながら  
聞き覚えた知識に従い、結んだ口をゆっくり開く。  
「ふぅっ…、…」  
舌同士が触れて、撫であうように絡む。上手なのかは赤ん坊の頃から祖父のバレ  
ルに育てられてきたから、男性経験などあるわけがない。ロックもそうだろう。  
ただ生まれて初めてのそう呼ぶのも躊躇われるほどやさしいディープキスに、ロ  
ールは溶けそうになっていた。  
 
二人が口を離すと、光る糸が間に成った。糸は二人の真ん中で、どちらのか分か  
ない唾液の一滴になって消えた。  
「ハァ……ハァっ」  
お互いに真っ赤になった顔で見つめあう。『この先』に恋人や夫婦が何をするか  
を二人はぼんやりと知っている。  
切り出すのが恥ずかしくて、時計の音だけが響く。  
「…ロールちゃん。僕達…恋人……」  
男だからリードしなくてはとロックが言おうとしてみるが、声が小さくなってし  
まう。自然、遠回しな聞き方をしてしまう。  
「ロールちゃんも知ってる…?」  
「…うん。多分」  
「しても良い?」  
返事を声に出せなくて、ロールはうなずいて返した。ロックはぎこちない手付き  
でロールを自分の横に座らせた。  
また向かい合って何故か一度お辞儀。パジャマのボタンに手をかけようとすると、  
ロールはロックの手を弾いてしまった。  
「……!ゴメンね。嫌なんじゃなくて…ちょっと恥ずかしいから、自分でやらせ  
て?」  
「う、うん。ゴメン」  
異性の前で裸を晒す。燃えてしまうのではないかと言うほど顔が熱い。  
そう言えば前にロックにお風呂を覗かれた事もあったが、今回は自分から脱いで  
いる。こういうことになるなら、もっと華のある下着にしておけばと一人で後悔。  
「ロックも…」  
「うん」  
ロックは遥か昔に居た存在だとか、ロールがデゴイと言う人工生命体だとかは今  
はどうでもよかった。  
二人が互いに好きであって、それを表現するのには無粋だ。  
「ロック」  
下着も取り払って、生まれたままの姿を互いに見せる。  
「綺麗だ」  
ロックはあっけにとられたように溢し、耐えがたい衝動に任せてロールに抱きつ  
いて二人でベットに倒れこんだ。  
「もう…ちょっと強引だよロック」  
ごめんと謝っても、ロックの意識はロールの肌に傾いている。初雪のように滑ら  
かな美しさ。柔らかな曲線。いつも見ている筈なのに、改めて世界で一番魅力的  
に感じる容姿。全てがロックの感情を高ぶらせた。  
 
もう一度暖かいキスをして、気持ちを高めて緊張を取り払った。  
体を擦り合わせたり、手を繋いだり、離して色々触ったり。苦しい程に性器が張  
っている。  
「良いよ。ロック。私達繋がれるんだよ」  
その言葉にロールを汚してしまう恐怖が消えた。  
「何かあったらすぐ言ってね」  
性器が触れ合い、擦りあうだけでも体が熱くなる。先端がロールの秘裂に入り込  
んだ。  
「…っあ。ロッ…クぅ」  
中は熱くて、痛いほど狭いのに柔らかい。その未知の快感に腰を沈め続ける。  
 
信じられない異物感。  
快感を得るなど論外で、体が押し広げられるような痛みに耐えるだけで精一杯だ。  
「動いていい?」  
どれほど挿ったかは分からない。  
ただ自分に覆い被さるロックの顔が気持ち良さそうなのが唯々幸せだった。  
「…ゆっくり、ね」  
自分の中の道をロックの分身、それ以上ロック自身とでも言うべきモノが行く。  
凸凹した二つが擦れて、痺れた感覚が残る。痛い。強く目を閉じた。  
「やっぱり痛い?」  
「うん…でも平気」  
本当は言うべきではないのかも知れない。ただロックと愛し合う時間に気遣いは  
してほしくなかった。  
「ありがとうロック…」  
再度舌を絡ませてロックの背に腕を回した。  
「あっ…」  
予期せずして声が漏れた。ロックのモノが動いたとき甘い快感が静電気のように  
走った。痛みが一瞬消えた。  
「今の…何だろ。すごい気持ち良かった…」  
ロックはうん、と了解の意を伝えると、出来るだけ狙うように動いた。  
「あ!あぁんっ!」  
ロールは女としての全身で悦びを思い知った。  
 
水音が室内で大きくなる。二人はしっかりと抱き締めあって、今この瞬間に歓喜  
していた。  
「ロック…ロック!!」  
「ロールちゃんッ!」  
二人とも熱にうなされるように名を呼んだ。どこかに浮いているような現実感の  
なさ。すがるようにロールはロックにキスをした。腰の動きは激しさを増し、最  
高潮に達していた。  
「ロールちゃん!!」  
ロックはこれ以上ないほど強く抱き締めた。  
「ごめん!……っうぁック!」  
登りつめたロックは体を硬直させ白濁をはきだした。  
「ひ!!ヤああぁあッつ!!」  
熱い欲望にロールも決め手の快感を押し付けられて絶頂した。  
「っ!…ああ!!あ…やぁ…あ!」  
膣の中に残る熱さに、何度も絶頂を味あわされ、ロールは体をびくびくと震わせ  
た。ロックが自身のを引き抜くと、少しして二人の愛し合った跡がゆっくりと垂  
れた。  
 
 
「データ、本当に今は危ないんだ…」  
ロールに替わりロックがフラッター号の舵をきり、その目の前にデータが例の媚  
び媚びダンスを踊るという、いつか見覚えのある光景。  
「ロック〜ロック〜」  
「何だよ、もう?うわっ!危なかった」  
データは媚び媚びダンスを続けたまま跳ね回った。  
「昨日の晩に何してたか、僕がメモリーからロックの視点で再生することも出来  
るんだよ〜。ムチューって」  
まったく予想していなかった答えにロックはパニックになる。データは喜々とし  
てどこかに消えた。  
その日バレルが『赤飯』と言う東の料理を出したのは、一概に関係がないとは言  
えない。  
 

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