VAVA、シグマ、そしてルミネのイレギュラー化を、エックスは『反乱』と呼ぶよ  
うになった。  
恐らく自分はその意味を半分も捕えられていないだろうと、エイリアは自覚して  
いた。ゼロなら分かっている気がする。何故かエックス本人に聞こうという気に  
はなれなかった。普段から躊躇うことが多いエックスが更に塞ぎ込んでいるから  
だ。今日も集中が切れていつもなら難無くこなすところで思わぬ損傷を負った。  
「大型メカニロイドの停止を確認。現場処理班と接触を取り次第帰還して…」  
「っく!…了解」  
いつも以上に暗い声音にエイリアは沈痛な気持ちで眉間に皺を寄せた。  
「やっぱり恋人が悩んでるとこっちまで暗くなっちゃいますよね〜」  
「パレット!」  
悪戯っぽくパレットが隣の席で笑った。レイヤーは黙ってうつむいている。  
「あっでも彼氏が怪我してるのを健気に献身なんて素敵ですぅ」  
「もう、本当に怒るわよ!」  
オペレーターには女性型が多い。設計段階で骨格が頑強な男性型は前線に狩り出  
されるから、結果として女性型が支援に回る。  
人間もレプリロイドもさして変わらないのは、女性が多いと恋愛話は荒野に火を  
放つが如く広がり、燃え盛る。柔軟な思考回路の賜物とも言える。  
「いつも強い男の人が弱ってたりするとキュンと来ちゃうのよね!分かる分かる  
!」  
「ときには頼られたい、甘えられたいみたいなね!」  
最早エイリアでも抑えることが出来なくなった雰囲気を一本のメッセージが鎮圧  
してみせた。  
『―エックス転送完了・必要修理Lv3―』  
エイリアに痛手だったのは、火に注がれたのが水でなく油だったことだ。  
「きゃー!ほら先輩早く行ってあげないと!!」  
「あとの事は私達がやっておきますッて」  
せわしなく皆に押されるようにエイリアは修理室に向かった。  
 
エックスとはいつからこういう関係になったかは覚えていない。  
ハンター内で一番強いハンターと一番優秀なオペレーターのエリートカップル。  
周りはそう呼ぶが、当人は―少なくともエイリアはそうは思っていない。エック  
スもそうだろう。  
エックスほど合理性に欠けるレプリロイドはいないのだが、いつも悩んでいるエ  
ックスの支えになりたいと純粋な好意を抱いたのだから、それがマイナスな要素  
とは思えない。むしろ 母性本能をくすぐるような魅力だった。  
「エイリア!?」  
本来ならデスクワークの真っ最中であるはずのエイリアが息を上げて目の前に居  
のだからエックスが驚くのも無理はない。  
「来ちゃった…」  
それにしても酷い怪我だと、エイリアはグッと胸に迫る辛さに耐えた。捕まれた  
際に脚部に異常が起きた。修理段階は3であるから、少しすれば直る範疇だが、そ  
れでも起き上がる事もかなわない恋人の姿は掴みようのない苦しさがある。  
「皆がやっとくって聞かなくてね…隣いい?」  
「あ、あぁ…」  
そのうちライフセーバーが手際よくエックスの左脚部を外すと、二人に一礼して  
その場から消えた。もう今のエックスは立つことすら出来ない。  
「痛い?…わよね。そんなに怪我してたら…」  
「まぁ…いや、っふくく」  
らしくもなくエックスが含み笑い。  
「なにか変なこといったからし?」  
「変わったなって…『怪我』って言ったろ。昔なら『損傷』って言ってた筈じゃ  
ないか?」  
確かにそうだ。イレギュラーハンターに赴任した頃は与えられた任務の善悪を問  
わず、戦士達の被害も仕事の効率を下げる弊害としか捉えなかった。  
「色々な事に疑念、私情を抱くようになったわ。これってイレギュラー?」  
「優しくなった。と言うべきじゃないかな?」  
エックスが首をもたげて、どちらからでもなくキスをした。  
 
後々考えたなら不用心なもので、周りがあれほど自分達に興味があると知りなが  
ら、監視カメラというものを一切考慮していなかった。  
「キャー!!」  
モニターいっぱいに映された二人のキスに、オペレーター達は歓声をあげた。  
そんな事を、エックスもエイリアも知る由もない。  
 
 
「ん…」  
レプリロイド同士のキスなど意味も味もない、筈だ。しかしエイリアにはこの上  
なく甘美なものに感じられてならない。  
唇を離すと昔の話をした。互いに堅物で近寄りがたい印象だとか、労うような任  
務の話。  
「ねぇエックス…よく人間が言うけど『愛』って有ると思う?」  
「…分からないな」  
「私はね、最近になって有るんじゃないかって思っているの。私達がこうして話  
したり、キスをしたり…本来なら不要でプログラムされてないものでしょ?」  
そこまで言うとエイリアはエックスの胸を撫でた。  
「でも私はエックスといると確かに安らぎを感じる。何かをしてあげたいと思う。  
これが愛なんだなんて思っているのよ。笑う?ただのレプリロイドよ」  
エックスは静かに目を瞑って首を振った。  
「俺は幸せなんだと思う…。エイリアが居る。それだけで『満たされる』」  
もう一度エックスは幸せだと言って、エイリアの手を握った。  
 
レプリロイドはデータを編集することで子供をもうけられる。  
 
「エックス、私達も子供を作らない?貴方が死のうだなんて一時も思ってほしく  
ないの」  
エックスは小さく笑ってエイリアの頬を撫でた。  
「大丈夫だよエイリア。もう死のうだなんて思ってない。エイリアの元に絶対に  
帰ってくる…そう誓える」  
二回目のキス。愛はある。プログラムにないこの高揚が証拠だと信じた。  
負けない愛がきっとある。  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!