「……シエル。まだか」
「あと少し…じっとしていて」
ベッドの縁に座らされたゼロは手持無沙汰に耐えかねて背後を見遣った。
じれったげな視線も気に掛けず、シエルは微かに水分を含んだゼロの髪を丁寧に梳いている。
一本一本毛先まで真っ直ぐに伸びるまで櫛を動かし、一つに纏めて整える。
「…はい、おしまい」
美しい光沢を放つ金色を満足気に見つめながらシエルが呟くや否や、ゼロは向き直って首を振った。
「もっと大事にしたほうがいいわよ。あなたの髪、こんなにきれいなのに」
「…そんなことを気にしていたら、ろくに動けないだろう」
「それはそうだけど」
興味がないといわんばかりのむっつり顔に、シエルは思わず苦笑した。
特殊繊維でできたゼロの髪は人のそれよりずっと頑丈だが、それでも日ごろの酷使ぶりで散々に乱れていた。
砂埃に塗れ所々からまっていた金髪が本来の美しさを取り戻したのは、見かねたシエルが定期的に洗髪するようになってからだ。
もっともゼロ本人はそれを歓迎しているわけではない。むしろ触られると落ち着かないと言ってしきりに逃げたがっている。
風呂を嫌がる猫のようだとシエルは思う。猫なら自分からこまめに手入れするだろうが。
「なぜ髪にばかり構う」
ゼロの腕がシエルを抱き寄せる。動きはゆっくりとして優しかったが、口元はへの字に結ばれたままだ。
付き合いが長くなってようやく察知できるようになった彼の感情の機微を微笑ましい思いで見つめながら、シエルはゼロの体を抱き返す。
薄い寝間着ごしに感じる互いの体温と、同じシャンプーの匂いがくすぐったい。
「ただのパーツにすぎん」
「なぁに?やきもち?」
「違う。こんなまるで戦闘に役立たないものに執着する意図が理解できないだけだ」
「そうね。でも、ゼロの一部だから」
綻んでいた少女の表情が一瞬だけ翳る。シエルはふっと息を吐いて、ゼロの胸に顔をうずめた。
「大事にしてほしいの」
ゼロは何も言わずにシエルの頭を撫でた。
シエルは甘えるように頬をすりよせ、ゼロの胸に耳を当てる。レプリロイドである彼の体からは、心臓の鼓動は当然聞こえない。
代わりにごく微かな機械の稼働音が耳に伝わってくる。彼の体が滞りなく動いている証拠だ。何度も確かめる。
ゼロは生きている。ちゃんとここに、いる。
彼は戦士として幾銭の戦いを切り抜けてきた。無謀な行動をとって、幾度もひどく傷つきその度に修復されてきた。
必ず自分のところに帰ってきてくれると信じている。それでもやはり、戦地に送り出す瞬間は恐ろしい。
帰りを待つ時間は長く、心細い。 せめて今だけは傍に……。
「…シエル」
ゼロの腕の力が強まる。痛いくらいにきつく抱きすくめられる。
シエルはそれに応えるように広い背にかきつき―――ふと腰の辺りに違和感を感じた。
「?」
もそもそと動いて確かめようとするシエルにつられて、ゼロも同時に下を向く。
体に当たっていた硬い感触の正体をゼロの股間に見つけ、シエルは凍りついた。
「……」
「……ゼ、ゼロ…あっ……あの……」
「……」
「こ、これっ…て」
思わずまじまじと見てしまったそれから慌てて目を背け、シエルは俯く。
顔が熱い。心臓はこれ以上ないくらいに速く鼓動を打っている。
まさか戦闘用レプリロイドの彼にこんな機能が付いていたなんて。
現象自体に嫌悪感はない。むしろ好いた相手に女として見てもらえていることが、純粋にうれしい。ただ、あまりにも不意打ちで、どう反応したらいいかわからなかった。
何と言ったらいいのか。 彼は何を望んでいるのだろう。
恥ずかしさでどうにかなりそうなのに、ゼロは黙したまま動かない。
どうしよう。どうしよう。
シエルの頭が沸騰する間際に、ぼそりとゼロが呟いた。
「…これは、なんだ」
「……え…」
拍子抜けしてゼロの顔を見上げる。彼は珍しく眉根を寄せ、シエル以上に困惑していた。
「ゼロ…もしかして…知らない、の?」
「ああ。この状態になったのは初めてだ……お前は知っているのか?」
「え、えっと…うん」
「教えてくれ。どうやったら治せるんだ」
「そ、そんな……」
私にもわからないよ――そう言いかけたとき、ゼロと目が合った。こちらを見つめる瞳は真摯で、本気で困っている様子が窺える。
こくんと唾を飲み込む。そもそも彼がこうなったのは私にも原因があるのだろう、きっと。 むやみに見捨ててしまってはいけない。 せめて、その、責任はとらなきゃ……
シエルは意を決して、ゼロの顔を見つめた。
「あのね…自信は、ないんだけど……精一杯がんばるから……じっとしてて、ね?」
「シエル?…なにを」
敢えて問いかけを待たず、シエルはアンダーアーマーから屹立したものを取り出した。
「っ…」
恐る恐る握って擦り立てると、短く息を飲む音がした。手の中で硬さを増すそれにややひるみながらも、シエルは一定のリズムで扱き続ける。
ゼロは黙って座ったままだ。とりあえず、こちらにまかせてくれる気になったらしいことにほっとする。
本で学んだ知識しかないから、お世辞にもうまいとは言えないだろう。どのぐらいの強さで動かせばいいかもわからない。
暫くすると手の中がしっとりと湿ってきた。ちらりとゼロの顔を見上げる。彼は何かに耐えるように眉根を寄せていた。
「ゼロ。大丈夫?痛く、ない?」
「あぁ…」
「こうされるの、いやじゃない?」
「……大丈夫だ。続けてくれ」
熱の籠った息を吐くゼロの表情はびっくりするほど色っぽくて、まともに見ていられない。上目づかいに何度も様子をうかがっていると、目線で先を促された。
少しだけ動きを速めてみる。応じるようにゼロの息が荒くなる。先端の括れたところを擦ると、それは悦ぶように脈打つ。
これは、ちゃんとできていると思っていいのだろうか……ちゃんと気持ちいいのだろうか。
だったら嬉しいな、なんて考えていると、ゼロの体が大きく震えた。
「シエル…っ」
「あ…」
張りつめたものから白濁した液体が飛び出す。至近距離で避けることもできず、温かなそれに頬を打たれる。
「んっ…」
びくびくとのた打ち回るゼロのものが収まるのを待って、シエルは手を離した。
頬を拭う指に粘ついた白が絡む。よくよく見ると、服や髪にも所々飛び散っていた。
ひとまず何とかなったようでよかったけど、シャワーと洗濯が必要になってしまった。
こんなところまで忠実に作られたものだ。少し複雑な気分になりながら体を起こそうとした途端、視界が反転した。
「え……ゼロ…?」
シーツの上に引き倒されたシエルは、息がかかるほど近くにいるゼロを戸惑いがちに見上げる。
どこか虚ろな目をしたゼロは押し殺した声で、すまないと言った。
金色の髪に。あどけない顔に。ゆったりした襟から覗く鎖骨に。
至る所に白濁をつけたシエルを目にした瞬間に、ゼロの自律回路は停止した。
気がつけば、ゼロは自分でも呆気に取られるほど衝動的に彼女を押し倒していた。
何故そうしたのか。何をしようとしているのか。
混乱する思考の中でどうにか把握したのは、暴力的な欲求のベクトルがすべて目の前のただひとりに向っていることと、
この状況に対してロボット三原則の束縛がまるで機能していないこと―――端的に言えば自分がシエルに対して脅威になるだろうということだ。
無防備にこちらを見上げてくる視線が、洗い立ての体から立ち上る甘い匂いがゼロの理性を追い詰める。
逃げろ、と言うべきだったのかもしれない。だが四十万にも小さな声で詫びるのが精一杯だった。
「…すまない」
言い終わるや否や、組み敷いたシエルの唇を奪い、舌を割り込ませた。
驚いてもがき始める腕を押さえつけ、まだ残った粘液が指に着くのも構わず、おとがいを掴んで頭を引き寄せる。
口腔をまさぐり、舌をすくい上げると、シエルは苦しそうに身を捩った。
「んっ……ふぁ…」
口を離したとたん、くぐもった声が零れる。人工体液と唾液が混ざりあって溢れ、シエルの顎を伝っていく。
頬を染め目元を潤ませた少女に吸い寄せられるように二度、三度と口づけてから、ゼロは白い首筋に食らいついた。
「や…ゼロ…あっ」
寝間着の裾に手をいれ、キャミソールごと捲り上げる。露わになった胸に手を這わせる。
ゼロの手にすっぽり収まる膨らみは、控えめながらはっきりと女性を主張していた。指を押し返す弾力にどうしてか手の動きが乱暴になる。
「ゼロ…っ…待って…おねがい!」
柔らかい体のあちこちを探りながら、ゼロは下へ下へと手を降ろしていく。
「だめ!」
足の付け根の内側に辿り着こうとした指を、シエルの手に押さえられる。捩じ伏せてしまいたくなるのを堪えて、ゼロはシエルを見つめた。
「…嫌か」
「え……い、嫌とかじゃない…けど…」
「なら何故拒む」
歯切れ悪く呟いて、シエルはまごついたように視線を反らした。
「だって、こんな……こんなの、恥ずかしい…」
「お前もオレに触れただろう。同じことじゃないのか」
「それは……」
「シエル」
痺れを切らして、ゼロは強引にシエルの瞳を覗き込む。青い双眸にはわずかな怯えが浮かんでいるものの、拒絶はない。
ゼロは努めて優しく小さな手を退けた。
この先にあることが何なのか、ゼロにはわからない。シエルは知っているのかもしれない。その上で躊躇しているのだろうか。
ああ、だがいずれにしても…
「……もう止まらん」
「や、待って、ゼロ……っ」
待たない。下着の上からそこをなぞる。同じ位置にある自分の器官とは似ても似つかない微妙な隆起は、胸と違った柔らかさで指を包む。
中心にくぼみを見つけて、ゼロは形を確かめるように圧迫を加えた。
「あぁっ…」
鼻にかかった少女の声が、ゼロの体を甘く震わせる。
やはり。自分の声に驚いているシエルを見ながら、ゼロは確信した。自分がシエルに触られたときに味わったものと同じ感覚を、彼女も感じているのだ。
ここに何かが、狂おしいほど自分を駆り立てる何かがある。
ゼロはおもむろに下着に手をかけ一気に引き下ろした。
「きゃあっ」
閉じようとする脚をこじ開けて、体を割り込ませ顔を近づける。
先ほどまで隠されていた場所に、滑らかな亀裂があった。ぴったりと閉じたそこを指で割り開くと、鮮やかな薄紅が覗く。
視界がかすむほどの興奮がゼロを襲った。下腹部にあるものが、シエルの手の中にあった時にも増して膨れ上がり、狂喜を訴える。
「見ないで!」
必死にゼロを引きはがしにかかるシエルの手は、しかし彼にとっては抵抗らしい抵抗にならない。
涙声の懇願をどこか遠くに聞きながら、ゼロはシエルのそこに口を近づけた。
「ひゃう…っ!」
不意打ちに敏感な個所を襲った刺激にシエルは背を反らせる。何か。何かぬるりとしたものがそこを這い回って――
「――!!」
反射的に視線を向けた先に、自分の脚の間に埋まったゼロの頭を見つけ、シエルは声にならない悲鳴を上げた。
「や、だ…っ、やめ、やめて…っ!」
慌てて逃げようとしたが、腰を抱え込まれていて叶わなかった。
血が通っていると錯覚しそうなほど生温かな舌の感触が、亀裂を前後に往復する。
「ふ、ぁあっ…!」
痺れるような感覚がシエルの背を駆け上がった。ろくに身じろぎもできないまま、シーツを握りしめてどうにかそれをやり過ごそうとする。
そうしている間にも、ゼロの舌は動き続ける。いくら彼の頭を掴んでも、猫がミルクでも舐めるみたいに顔をくっつけて離れてくれない。
「う、んん…っ…いや…いやあっ、ゼロ」
信じられない。ゼロの唇が、舌が、私の――――
考えるだけで顔から火が出るほど恥ずかしい。そんな汚い所にと強い抵抗を感じる。
なのに。 シエルの体は与えられる快感に素直に反応していた。
呼吸は乱れ、体が痙攣する。ひっきりなしに口をついて出る声は、自分のものだと思えないぐらい甲高くて、いやらしい。
ちゅぷちゅぷと湿った音がシエルの耳に届く。羞恥に耐えきれなくて顔を覆ったが、視覚を閉ざした分、かえって敏くなった耳が生々しく音を拾ってしまう。
「は…ぁ…あ、うっ…やぁあ…もうやだあ…」
粗雑だった舌の動きが、規則的になっていく。ゼロはシエルがより強く反応する場所を学習したらしく、そこに集中して刺激を与えてきた。
逃げ場を与えずに休みなく攻め手を加えられ、シエルはいやいやと子供のようにかぶりを振ることしかできない。
死んでしまうんじゃないかと思うくらい体が熱い。どうにかなりそうだ。
嬲られているそこにじんじんと熱が溜まっていく。ある一点を超えたとき、ぞわりと甘い悪寒がシエルの体を包んだ。
直後、堰を切ったように快感が押し寄せる。
「あ、あ…っ…ゼロ…ゼロ、ゼロぉ…っ!」
縋るように何度もゼロの名を呼びながら、シエルは意識を手放した。
シエルが落ち着くのを待って、ゼロはそこから顔を離した。
口の周りに着いた彼女の体液を指先で拭って、感触を確かめる。人差指と親指の間で透明なそれが糸を引く。
硬くなったものがずくんと疼いた。
アンダーアーマーから中途半端に顔を出していたそれを解放する。
指先にわだかまる粘液を、先端に擦りつけてみる。ぬらりとした触感が思考を溶かす。
足りない。もっと、もっと塗りたくりたい。
ゼロはまだ呆然としているシエルにのしかかった。
「……ゼ、ロ…?―――…っ!」
自分のものを、ぱっくり開いた亀裂に挟み込ませる。シエルの腰を掴んで、濡れてすべるそこに擦りつける。
「あ…っ…ゼロ…んんっ…だめ…だめえ…」
熱に浮かされたような表情で喘ぐシエルを見つめながら、ゼロは夢中で腰を前後させ続ける。触れ合っている部分はますますぬめりを増して、次第に動きが加速していく。
ふいにゼロの先端が何かにひっかかって止まった。急に動きを阻まれたゼロは焦燥に任せて、強引に腰を進めた。
「!!うぁああっ…!」
ずるり、と。ゼロのものが何かに包まれたのと、シエルが悲痛な声をあげて体を仰け反らせたのはほぼ同時だった。
ゼロははっとして体を起こす。
視線を下に落とすと、自分のそれがシエルの中に埋没しているのが見えた。押し広げられた小さな入口から一筋、血が伝っている。
怪我だ。シエルが傷ついた。
違う。オレがシエルを傷つけたのだ。
オレが。オレが。オレが。
こともあろうに一番守りたいと望んでいたはずの彼女を、自分で傷つけたのだ。
オレは狂っているのか?もはやイレギュラーになってしまったというのか?
頭を殴られたような衝撃を受けてゼロは完全に固まってしまった。
シエルの顔を見る。固く閉ざされた眦に涙が浮かんでいる。
ゼロは静かにシエルから離れようとした。
その背を抱きしめられた。
「待って…」
離れていこうとするゼロの体を、シエルは咄嗟に引き留める。
股間の痛みがひどくなったが、このまま置いていかれてしまうことのほうが彼女には耐えられなかった。
数回眼をしばたたかせて涙を払う。目の前にゼロの顔があった。
「どうしたの?」
「シエル」
言いよどむゼロの声はいつもより更に数段低いが、その表情は叱られた子供のようだった。
シエルは思わず手を伸ばして、彼の頬を包む。宥めるように撫でてやる。
ゼロは眼を伏せてシエルの手に自分のそれを重ねた。
「…血が。オレは、お前に、怪我をさせた」
破瓜の血のことを言っているのだと思い当たるまでに少しかかった。
レプリロイドは人間の血に対して過敏に反応する。あらゆる脅威から人間を守ると同時に、自身が人間に危害を及ぼさないようにするための制約として備わった機能だ。
だからゼロはシエルの血を見て動揺してしまったのだろう。自分が人間を傷つけることを厭わない存在―――イレギュラーになったように思ってしまったのかもしれない。
「あ、違うの。これはね……その、ケガとかじゃなくって…」
「?」
「その…」
口に出しかけて顔が赤らんでしまう。どう説明したものかわからない。
しばらく考えあぐねて、結局シエルは諦めた。理屈なんか今はどうだっていい。まずは誤解を解いてあげないと。
「とにかく、ゼロは私にケガなんかさせてないの。大丈夫。大丈夫だから……やめないで」
はにかみながらシエルは微笑んで見せた。だが、彼は依然強張ったままだ。
「だが…痛かっただろう」
「…平気」
実際は本気で悲鳴をあげてしまうくらい痛かった、今だって硬くなったゼロは内壁を擦ってシエルを苛んでいる。
でもきっと耐えられる。ゼロとなら、耐えてみせる。
彼とこんなことになるなんて考えてもみなかったけど、好きな人に抱かれるのはやっぱり幸せなことだ。
覚悟なら、もうできている。
「…おねがい。続けて」
「…シエル……」
本当にいいのか。躊躇いがちな視線が問いかけてくる。シエルはもう一度笑って、ゼロの体を抱きしめた。
ゼロはゆっくりとシエルを揺さぶり始めた。
浅く抜き差しを繰り返し、彼女の体から力が抜けるのを確かめると、徐々に深く沈めていく。
「く…ぅ…っ」
シエルの中はきつくゼロを締め付ける。最初より滑らかにはなったが、無理に動けば痛めてしまいそうだ。
思うさま突き上げてしまいたいのをどうにか堪えて、ゼロはシエルの髪を撫でた。
視線が合う。どちらともなく指を絡める。安心したように顔を綻ばせるシエルが愛しくて、ゼロはその額に唇を落とす。
こんな温かい気持ちを教えてくれたのは彼女なのに、自分を狂わせるのもまた彼女だから、不思議だ。
「あ…あぁっ……は…っ」
ゼロが動く度にシエルの頭が左右に揺れる。ゆるく開いた唇から甲高い声が上がる。
思わずゼロは抉るように腰を進めてしまう。
「んぅ…っ!」
「…、…っ」
ぬかるんだ壁が一斉に蠢いてゼロを飲み込んだ。強烈なその動きに呻きつつ、ゼロはシエルを抱き寄せて体を密着させる。
「や、あっ…ゼロ…」
「…シエル…どうした?」
「はぅ、ん…ぁあ……体が…っん…体が、熱い…の……」
うわ言のように呟くシエルの溶けた表情があっさりとゼロの自戒を打ち砕いていった。
「ひゃあっ、あ…!」
ゼロは衝動の赴くまま激しく腰を揺すった。限界まで引き抜いては、一気に突き入れてを繰り返す。
柔らかいシエルの体は乱暴に貫入するゼロのものを受け止め、出て行こうとするそれを引き留めるように絡みついて吸いたててくる。
気を抜けばすぐさま意識を奪われかねない。圧倒的な快感に歯を食いしばりながら、ゼロは強引に腰を引いた。
「ああっ!あっ!…ゼ…っゼロっ、ゼロ……ん!」
あられもないシエルの声に混じって湿った音が響く。爆ぜる寸前にまで膨れたものがぬめりながら、何度も狭い孔を出入りする。
シエルの中が小刻みにひくつきはじめる。より深く繋がろうとゼロは思い切り腰を突き下ろした。
「―――ふぁあっ!やぁあ…!も、ゼロっ、ゼロぉ…っ!」
一番奥を穿れたそこが、これ以上ないほど収縮する。
快感から逃れようともがくシエルを、逃すまいときつく抱きしめ、ゼロは温かな体の中に自らの白濁を吐き出した。
改めてシャワーを浴びたシエルは、ふらふらになりながらベッドに戻った。
何せ初めてだったのだ。正直バスルームまで歩いて行くのでもう限界だった。
体を洗って髪まで乾かせたのだから上出来なほうだと思う。
「シエル?」
自分の足でベッドにたどり着く前に、ゼロの腕に引き寄せられた。やんわりと抱きとめられ頬に手を添えられる。
「どうした」
「…、…ん……ちょっ、と……疲れただけ」
「…休め」
「……うん」
横たえられ布団を被せられる。柔らかなベッドに硬くなった背が沈んでいく感触に吐息が漏れる。ゆるやかに頭を撫でてくれる手が心地いい。
もともとおぼろげになっていた意識がまどろむのは時間の問題だった。
「……ゼロ」
「なんだ」
「……私、後悔してない、から……」
「……」
「……すき… …」
頭の半分はもう眠りの世界に入っていて、自分の言っていることもよくわからない。ただ、胸を満たすこの気持ちが少しでも伝わればいいと思いながら、シエルはゼロの手を握った。