どれくらい、スプラッシュとの交際の日が続いたのだろう。気付けば、海に遊びに行く人の足が、遠のく季節になっていた。  
 今日も僕は、人のいない寂しげな海で、一人佇む彼女の事を思っていた。最近は休日が減ってしまい、なかなか会える機会が巡ってこない。  
 その日も、会社は僕を縛り付けていた。会いたい気持ちも山々だが、僕も忙しい。  
 だが、会えない事に対する焦りはなかった。  
 会おうと思えば、何時だって会える。その時は、そう思っていたから。  
 
「ふう……」  
 自宅に帰り着き、ため息を吐きながらカバンを放る。  
 明日は休日。この日が過ぎれば、彼女に会いに行ける。そう思うと、心が弾んだ。  
 上着の内ポケットにしまってある物を、手の感触で確認する。包装された箱の中に入っているのは、帰りに寄った店で買った指輪だ。  
 本物の宝石を使っているわけではないが、スプラッシュのヘルメットや瞳の色と同じ、青色の石がはめ込まれている。  
 彼女に似合うだろうと思って選んだ物だ。明日会う時に渡そうと思っていた。  
(喜んでくれるかな……)  
 なんて言って渡そうかなと思いながら、何気なくテレビの電源を入れた。丁度、夕方のニュースが始まっていた。  
 
 そして、ニュースキャスターが無感情に発した言葉。  
 少しの間、僕の脳はその意味を汲み取る事ができなかった。  
 そして理解した時には、僕は着替えもせずに家を飛び出していた。  
 耳の中で、先のニュースの内容が断片的に蘇る。  
〈ロボット新法、可決……〉  
(そんな……)  
〈多くなりすぎたロボットの調整、管理のため……〉  
(そんなのって……)  
〈期限の過ぎたロボットの廃棄処分……〉  
(スプラッシュ……)  
〈廃棄処分〉  
(スプラッシュ!)  
 
 夜の浜辺に、人は一人もいなかった。  
 波音がやけに強く、辺りに響いていた。  
 思った通り、いつもの場所……二人がいつも話し合った波打ち際に、スプラッシュは座っていた。  
「スプラッシュ」  
 僕の声が届いたのだろう、スプラッシュは振り返ると、寂しそうな目で僕の名前を呟いた。  
「スプラッシュ……」  
 言いながら、彼女のすぐ傍まで近寄った。  
「お別れの時が、来ちゃいましたね」  
 スプラッシュは悲しそうに微笑んで、そう言った。  
「まさか……」  
「ええ」  
 彼女の口から、信じたくなかった言葉が発せられる。  
 
「二、三日もしたら、あたしは回収業者に引き取られ、廃棄処分されます。今日限りで、あたし達はお別れですわ」  
「そんな……」  
 理解できなかった。  
「君は生きているんじゃないか。なのにどうして、そんな簡単に命を奪われなくちゃいけないんだ」  
 楽しかった彼女との思い出が、フラッシュバックする。  
 彼女がいてくれたから、僕は命を救われた。彼女の歌声で、僕の乾いた人生は潤された。  
 彼女に会えて、僕は愛の素晴らしさを知った。  
 彼女を、失いたくない。  
「仕方有りませんわ。あたしは、ロボットだから……、人間のために生まれ、人間のために死に行く定め」  
 いつもの彼女の声だが、どことなく強がってる風に聞こえた。  
「そんなに長い期間じゃなかったけど、今まで本当に楽しくって」  
「君を助ける」  
「え……?」  
「君を連れて、どこか遠く、誰の目も届かない所まで逃げよう。人気のない所にでも」  
「そんな、そんな事をしたら貴方の身だって危なくなる。そんな事」  
「じゃあどうすればいいんだ!」  
 思わず叫んでいた。  
「君が、君がこのまま消えていくのを、ただ黙って見ているしかないなんて……、そんなの……そんなの……」  
 
 言葉を続けている内に、段々と声が震えてきた。  
 本当に、彼女は死ななければならないのか。本当に何もできないのか。  
 あまりの悔しさに俯き、思わず両手を強く握りしめていた。その手に、スプラッシュはそっと自分の手を重ねてきた。  
 顔を上げると、そこにはいつも見てきた愛しい彼女の顔が、すぐ傍にあった。  
「あたしだって死にたくはない。仕事だって続けたいし、いろんな歌を歌いたい。何より……、貴方ともっと一緒にいたい」  
「だったら……」  
「でも」  
キッとした目で、彼女は言った。  
「例えあたしの命に代えても、貴方を危険な目に遭わせるわけにはいかないの」  
 瞳の奥に、強い決意を感じた。  
「貴方があたしのために危険な目に遭うというのなら、あたしはそれを絶対に止める。人の命を守るロボットとして、そして……」  
 言いながら、彼女の表情が段々と、決意から悲しみへと変わっていく。  
「貴方を愛する者として」  
「スプラッシュ……」  
「だから、あたしの事はもう諦めて。あたしなんかのために、無茶はしないで。貴方には、あたしの分まで生きて欲しい」  
 突然スプラッシュが僕に抱きついてきた。胸の辺りに、柔らかい感触が返ってきた。心臓が高鳴る。  
 
「だけど、せめて……」  
 狼狽える僕の耳元で、彼女が囁くように言った。  
「せめて最後に、あたしが死んだ後も、貴方との出会いを決して忘れないよう、この身体に、貴方の全てを刻んで欲しい」  
「最後って、そんなの」  
 僕の言葉をかき消そうとするかのように、彼女の唇が、僕の唇にぶつかってきた。  
 この前の軽いものとは違う、強く、僕を求めてくるキスだった。  
 互いを味わった後、二人はゆっくりと離れる。彼女の青い瞳は、心なしか潤んでいるようだった。  
「お願い」  
 今度は僕の方から、彼女へと向かう。  
 絡み合う舌。口に広がる甘い香り。  
 永遠のような一瞬だった。  
 
 夢なんじゃないかと、ふと思った。  
 いつかはこうなるかもしれない、こうなって欲しいと、心のどこかで思っていただろうけど。  
 それでも現状を見直すと、一瞬疑いたくなるくらいの光景だった。  
 夜の砂浜の上で、ズボンも下着も脱がされ、露わになった僕の下半身の上に被さる彼女。  
 むき出しになった僕の性器を、優しく両手で包み込み、ゆっくり、しかし丁寧に快感を与えていく彼女。  
「熱い……」  
 スプラッシュの口から、うっとりとした言葉が漏れた。  
 
 その間にも彼女は、すっかり固くなった僕のモノをしごいていく。  
 触れている柔らかい掌や指先から、彼女の優しさが、愛が、伝わってくるようだった。  
 この愛撫だけで、呆気なく果ててしまいそうだった。だが、そんな早くに己を解放しては何だか悪い気がしたので、とにかく我慢した。  
「ふふ、我慢してる顔、可愛い……」  
 頬を軽く赤らめながら、クスクスとスプラッシュは微笑んだ。  
「好きな時に、イッて下さいね」  
 囁きながら裏筋を人差し指で、つつっ、と撫でられる。  
「ん……!」  
思わず声が出てしまった。砂浜の砂を握りしめる。  
「それじゃあ、そろそろ……」  
 そう言うと、愛撫していた手をそっと放した。  
 何をするのかと思っていたら、彼女が僕のモノに軽く口付けをした。淡い唇に僕の我慢汁が触れて、透明なアーチを作る。  
 かと思うと、今度はぺろぺろと舌を根本付近から全体に這わせてくる。  
 そうして頂上にまでたどり着くと、そのまま亀頭からチュルチュルと口の中に入れ始めた。  
 押し寄せる快感に抗いながら、自分の息子がスプラッシュの口へ吸い込まれていく様子を見つめていた。  
 やがて彼女の口内に、竿のほとんどが収まってしまった。  
 
 吹き付けられる暖かい吐息が、溶けそうになるほど気持ちよかった。  
 と、僕のモノを口からゆっくり引き出した。かと思うと、再び口の中へと入れていく。  
 段々と往復のスピードが上がり、喉の奥の方に当たる感触が何度か返ってくる。  
 何もかもが初めての僕に、スプラッシュはディープスロートを始めたのだ。  
「く、苦しく、ない?」  
 喘ぎながら聞くと、ストロークを続けながら、上目遣いで彼女は微笑んだ。どうやら平気のようだ。  
(それも、そうか……)  
 ロボットなのだ。息苦しさは感じないはずだ。  
 それにしても、自分でもよく保っていると思った。我慢強い方ではないのに、スプラッシュの猛攻にまだ耐えている。  
 そんな事を思っていると、スプラッシュの頭の動きがゆっくりになり、やがて竿の半分くらいを残した状態で、ディープスロートを止めた。  
 どうしたんだろうといぶかしむ暇もなく、更なる攻撃が襲いかかった。  
 空いていた右手の指が僕の男根の根本の辺りをさすり、左手は睾丸を包み込んで、優しく揉みしだき始めた。  
 そしてとどめと言わんばかりに、口の中で、鈴口をチロチロと舌先で掘るように探ってきたのだ。  
 
「うわ……あぁ……!」  
 あまりの気持ちよさに、情けない悲鳴を上げてしまった。知らぬ間に目もつぶっていた。  
 まるで僕の弱点を知っているかのようだ。いや、もしかしたら知っているのかもしれない。  
 とにかく、彼女の的確な攻めに僕は一気に追い込まれた。  
「スプラッシュ……もう……!」  
 限界だった。  
 彼女の了承を得るとか、そんな余裕もなかった。  
 歯を食いしばりながら、スプラッシュの口内目掛けて、思いっきり己を解き放った。  
 ずっと我慢していたせいか、自分でも驚く程の量が暴れ出た。  
「きゃぁ!」  
 彼女が驚いて僕のモノを放す合間にも、精液は溢れ出た。僕の白い濁流が、彼女の口を、顔を、身体を、汚していく。  
 氾濫が治まった後で、彼女は口の中の精液を弄ぶかのように舌を使って転がし、やがて目を閉じ、ゆっくりと飲み干した。  
「ん……!」  
 こくん、と彼女の喉が音を鳴らす。  
 その時のスプラッシュの姿は、僕の欲望で濡れ、あまりにも艶やかだった。  
 
 

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