「どうやら眠ってるみたいね」  
「無理も無い、あんなことがあったんだからな…」  
後ろのほうから両親の話し声が聞こえる。  
ベッドの中にいる金髪の少女、ルナは二人に背を向けた状態でその会話を聞いていた。  
普段はろくに話もしない、いや、してくれない二人だが、今夜に限って妙に優しかった。  
だが、そんな両親とは裏腹に、娘である彼女は慣れないその優しさに戸惑い、未だに正直になれないでいた。  
(お願い、早く行って……)  
やがて、パタン、という音を堺に話し声が聞こえなくなった。  
どうやら2人とも行った様だ。  
「眠れるわけ無いじゃない……」  
寝返りを打って仰向けになり、ふーっと深いため息をつく。  
あんな事があったからでこそ、今夜はそう簡単に眠れそうも無い。  
特に、ロックマンの正体があのスバルだった、という事実がいろいろな意味でルナを苦しめていた。  
(まさか、彼がロックマン様だったなんて……)  
よくよく考えてみれば、ロックマンがいる時はスバルは必ずいなかったし、身長も声も二人ともまったく同じである。  
何故もっと早く気付かなかったのだろう。  
ロックマンのことは誰よりもよく見ていたはずなのに。  
ルナはベッドの脇にあるゴミ箱にチラリと視線を向けた。  
ふたをされていて中身は見えないが、実は愛液で濡れたティッシュでいっぱいだった。  
小学校低学年の頃から始めた自慰。  
快楽を得るために、この手を汚さなかった日は無かった。  
したいがために、用事を全て断って家に帰った日もあった。  
ロックマンと出会ってからというものの、彼のことを思い浮かべながらするのが習慣になっていた。  
 
それと同時に行為はエスカレートし、一日二回だったのが、四回に増えていた。  
朝、起きた直後に。昼、学校のトイレで。学校から帰ったあと、自分の部屋で。夜、眠る前に。  
だが、学校のトイレでは、他の誰かが入ってきて、喘ぎ声を聞かれる危険性があった。  
もしそうなったら絶対、驚かれるだろう。それだけならまだしも、その人が同じクラスの子で、言いふらされたら大変だ。  
「あのね、さっき私がトイレに行ったら、どこからか変な声が聞こえてきたの。あの声は間違いなく、うちの委員長ね。」  
「トイレで変な声出すなんて…まさか、委員長……」  
とても恥ずかしい。いや、恥ずかしいどころじゃない。  
そうなったら、自分の学級委員長としての地位が失落するだけでなく、  
みんなからいじめのターゲットにされるだろう。  
もう、学校にいられなくなるかもしれない。  
さらに、情報は子から親へと伝わり、やがて自分の親にも知れわたる。  
プライドがズタズタになった両親は激怒し、親子の縁を切って、自分を家から追い出すかもしれない。  
一人ぼっちになり、誰からも冷たい視線を向けられ、地元もろくに歩けなくなる。  
そんな先に待っているものは……破滅……。  
なんという最悪のシナリオだろう。  
そうならないためには、声を出さずに、行為を済ませる必要があった。  
これはこれでかなり苦しい。  
こんな苦しい思いをするくらいなら最初からやらないほうがいいのかもしれない。  
にもかかわらずやってしまう。それほど行為はルナの人生の糧になっていた。  
気が付くと、今日もまた、右手が下半身へとのびていた。  
(あ……)  
手がパジャマのズボンの中、下着の中に入り、やがて指に濡れた感覚が伝わってくる。  
 
「スバルくぅん……」  
今までだったら、ロックマンの名を叫んでいただろう。しかし、今日からは違う。  
スバルの顔を浮かべながら、まだあまり成長していない胸を掴み、揉み始める。  
同時に、股間で動く指のスピードも増していく。  
愛液を絡ませ、くちゅくちゅと音を立てながら。  
「スバルくん…大好き……」  
荒い息をはぁはぁと吐きながら、体がゆっくりとリズムを刻み始めた。  
愛しい人を想うその姿は、とてもというほどではないが、小学五年生には見えない。  
「あんっ…スバルくん…スバルくぅん……」  
指で中をぐちゃぐちゃにかき回したあと、両足を開き、指先を大事な部分にあて、中へと潜り込ませる。  
ためらうことは何も無い。まるで生き物のように、中で指を思う存分暴れさせた。  
「ああんっ!スバルくんっ、きてぇっ!」  
ルナは叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。  
それと同時に身体中を刺激と切なさが一気に駆け回る。  
「はぁ……はぁ……はぁ……」  
絶頂を迎えたあと、濡れてない左手で枕元に置いてあるティッシュ箱からティッシュを  
数枚取り、愛液でまみれた右手と秘部をふいた。  
どうかティッシュがこの世の中から無くなりませんように。  
そんなことを考えながら、今日もまた、ゴミ箱へ濡れたティッシュを押し込めた。  
「スバルくん……」  
ティッシュ箱と同じ枕元にある、スバルの写真が入ってる写真立てを引き寄せ、抱きしめてみる。  
写真の中の少年は少し戸惑いを見せつつも、いい笑顔をしている。  
新しいカメラを買ったから試させてくれ、と嘘をついて撮った写真だ。  
実際のところ、始めて会った時からスバルのことは好きだった。  
ロックマンほどではなかったが、二人が同一人物と知った途端、ますます好きになった。  
 
彼のいない世界なんて耐えられない。もう私にはスバルくんのことしか見えない。  
このままずっと想うだけの状況を続かせるつもりは無い。  
あんな元アイドルにスバルくんを奪われたくない。  
最終的には、スバルくんと一つになり、ずっと一緒に生きていく。  
それがルナの野望である。  
負けず嫌いで、一度狙った獲物は絶対にしとめなきゃ気がすまない。  
そんなところは親譲りだった。  
しかし、ここで彼女はふと思った。果たして彼は、こんな私のことを受け入れてくれるだろうか?  
彼は私のことを、嫌ってはいないだろうか?  
普段は他人に高慢な態度で、いつもえらそうにしているくせに、いざ自分のこととなると何も出来ない愚か者。  
今回の事件ではそんな姿をさらけ出し、暴走してしまった。  
しかも、それだけにとどまらず、自分のことを止めようとしたスバルを本気で殺そうとまでした。  
もし、あの時、逆に自分が彼を倒していたら………考えるだけで身の毛がよだつ。  
「私って…弱い人間ね……」  
唇を噛み、爪が皮膚に食い込むほど、拳を強く握りしめる。  
その目はすでに涙でいっぱいだった。  
どうしてあんなことをしてしまったのか。どうして悪の誘惑を振り切れなかったのか。  
ロックマンなら、絶対にそんなこと許さないと分かっていたはずなのに。  
本当に彼のことを思っているなら、いやだと言えたはずなのに。  
今回の行動は何もかもが滅茶苦茶だった。  
 
蛇たちを操って、両親を拘束して、デパートに来ていた人たちを恐怖に陥れて……。  
その後は何も考えていなかった。どうしたら、目の前にいる人々を深く傷つけられるか。  
そんなことばかり考えていた。終わらせる方法をまったく考えていなかった。  
自分が一番不幸だと思い込み、周りの人たちを気が済むまで傷つける。  
いわば、タチの悪い八つ当たりだ。  
事件が解決したあと、スバルは「君は何も悪くない」と言ってくれたが本心だろうか?  
本当は自分を傷つけない為についた嘘ではないだろうか?  
オヒュカスは自分をそそのかしたが、結局のところ主犯は自分自身だ。  
多くの関係のない人たちを巻き込んだにも関わらず、私は誰にも謝ってない。  
何も償いをしていない。そんな私が本当に許されるのだろうか?  
あの時、ルナは一匹の毒蛇にミソラを噛ませた。  
憎い。ただそれだけを理由に。  
もしかしたら今頃、彼女は死んでいたかもしれない。  
そうなったとしても、スバルは「君は何も悪くない」と言ってくれるだろうか?  
何はともあれ、自分のせいで多くの人々に迷惑をかけてしまった。  
私がもっと強かったら、私がもっと他人のことを思いやることができていたら。  
私のせいで……私のせいで……  
「馬鹿……馬鹿っ!私の馬鹿っ!」  
ルナは声を上げて泣き始めた。拳を何度も枕に叩きつけた。  
悔やんでも悔やみきれない。そんな後悔の念が自分への怒りに変わっていった。  
 
 
しばらくした後、涙もだいぶ乾いてきた。息を整え、少し冷静になってみる。  
時計にふと目をやると、二つの針がちょうど真上で重なろうとしていた。  
「もう寝なきゃ……」  
パジャマの袖で涙をぬぐい、深くため息をつく。  
写真立てから写真を取り出し、唇の部分が重なるようにそっとキスをした。  
「おやすみ、スバルくん……」  
ルナは写真の中の少年にそう話しかけ、写真立てを元の場所に戻した。  
毛布をかぶり、目を瞑る。  
明日、学校に行ってスバルくんといろいろお話しよう。  
思い切って自分の考えをぶつけてみよう。とにかく、彼の答えが聞きたい。  
そんなことを考えながら、ルナは深い眠りに就いた。  
 
 
迷える衛星女 終  
 
 

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