レプリロイドが真の自由と平和を勝ち取るための闘争。  
『レプリフォースの反乱』、後にそう呼ばれるこの事件は収束に向かいつつあった。  
当初は、部隊長クラスを中核とした少数精鋭の電撃作戦で各地の主要施設を押さえたレプリフォースだったが、  
エックス・ゼロによる各個撃破で拠点を失い、人間達の物量の前に宇宙への後退を余儀なくされた。  
彼らの撤退したスペースコロニーは巨大なレーザー砲があるが、これを地上に撃つことはない。  
一般市民を巻き込む攻撃、人間やイレギュラーのような攻撃など、誇り高き軍人である彼らには出来ない。  
それは、以前彼らと共にいたアイリスにはよく分かっていた。  
もはや、彼らは人間たちに十分あらがうことは出来ない。  
彼らは負けたのだ。  
――戦わなければいいのに  
争いごとが嫌いなアイリスはそう思う。  
平和を愛するための誰よりも優しい心と、平和を守るための誰よりも強い力。  
その二つを併せ持つ、最強の、平和のためのレプリロイド。  
しかし、そのレプリロイドはコンフリクトを起こし、完成しなかった。  
まるで、平和なんてあり得ない、と言うかのように。  
平和を愛するための心は、アイリスに託された。  
平和を守るための力は…  
平和を守るはずの力は、滅び行くレプリフォースを守るための捨石として散った。  
「兄さん…」  
もし彼女が人間ならば、アイリスの頬を涙が伝っていただろう。  
レプリロイドの平和のための闘争は、  
アイリスの最愛のレプリロイドと、  
アイリスのかけがえのないレプリロイドとの戦いを引き起こした。  
「平和なんて、この世界にはないのね」  
ゼロと、兄と、自分が笑っていられる平和…  
この世界では、平和になれない。生きていては、平和になれない。  
アイリスは、彼女の手に冷たく光る兄のビームソードに語りかけた。  
「兄さん」  
ゼロと二人で、兄の待つ平和な世界へ行きたかった。  
「私は、ゼロと、戦います」  
平和を愛するはずの心は、戦いを選んだ。  
 
赤い破壊神 ゼロ。彼を倒す力はアイリスにはない。  
でも、兄の力を借りれば…平和のためのレプリロイドの力ならば、ゼロを倒せるかもしれない。  
兄の、平和のためのチップは、その力の象徴であるソードにある。  
彼女の、平和のためのチップは、その母性愛の象徴である胸部にある。  
この二つのチップデータを使えば、一時的にでも最強のレプリロイドの力が使える。  
 
アイリスは胸に手をあてた。メンテナンスモードをONにしないまま、アーマーを開く。  
「くっ」  
胸が裸で晒されていることへの危険信号が頭を刺激する。  
刺されるようなその刺激に耐え、両手の指を胸の先端の突起に延ばす。  
「ふあぁ」  
指先が、触れた。アーマーなしの本体への接触。先ほどとは比べ物にならない刺激が頭に突き刺さる。  
――でも、ちゃんと入力しないと  
ロックボタンになっている突起を、両方同時にぐっと奥まで押し込む。  
「ああンっ!」  
先ほどまでの刺激に、さらに結合モード起動準備とロック解除の警告がガツンと来た。  
思わず離しそうになってしまう指を、しっかりと押さえる。  
――だめ…最後まで離しちゃだめ…  
アイリスの残りの指が、開放され入力待機で敏感になっている胸を覆うように掴む。  
「んンっ!」  
歯を食いしばって刺激に耐える。  
「!ッッハァ、ハァ、ハァ…」  
情報過多でオーバーヒートしている頭を冷やそうと、呼吸が激しくなる。  
呼吸が落ち着くのも待たずに、アイリスは左右の胸を動かしだした。  
「あっ、くンッ、うぅ…」  
――右、左、回して…  
声を漏らしながら起動コードを入力する。  
――最後に、寄せる  
入力が完了した。  
「きゃあああぁっ!」  
結合モード起動。それに関する警告でついにアイリスは悲鳴を上げた。  
 
股間の結合ユニットに灯が入る。  
下腹部が熱い。  
センサー部の保護粘液がユニットの中に流れ、余剰分が股間の穴から垂れてくる。  
邪魔なスカート部を外し、寝そべってビームソードの柄を穴の入り口にあてた。  
――ここにゼロがセイバーを突き込んでくれたら、どうなっちゃうのかしら  
そんな妄想をしてドキドキしたこともあった。  
今は兄のソードを差し込んでいく。  
先端がセンサー部に触れた。  
「はぁぁ」  
センサーが兄のチップデータを読み取ろうとする。  
今まで使われなかった回路に情報が流れ、頭がショートするように痺れる。  
――もっと、もっと奥まで…  
ズブズブと、粘液を溢れさせながらソードを奥に進める。  
「ふあ、あっ」  
過剰なデータの処理に、頭がオーバーフローしそうになる。  
その刺激が痛気持ちいい。  
「あっ、あっ、ああぅッ!」  
進めば進むほど作動するセンサーは多くなり、大量のデータが流れる。  
ノイズで手足がぴくぴくと痙攣する。  
走馬灯のように過去の出来事のメモリーが再生される。  
優しく強くたくましい兄との思い出。  
「に、兄さん、奥に、もっとぉ!」  
そして思い出の中にゼロが現れる。  
「ゼロっ、ゼロっ、ゼロぉ」  
ソードの柄がほとんど埋まった。  
「来て、二人とも、きてぇっ!」  
柄が最後まで突き込まれた。  
最深部のラッチが兄の形見を受け止め、全データの転送が始まる。  
「んああああぁぁっっ!!」  
データの奔流に、アイリスの意識は真っ白にフリーズした。  
 
 
数分後。  
膨大なデータを処理するために意識をカットし、無意識野で処理していたのだろう、  
アイリスが気がついた時データの結合は完了していた。  
下腹部がドクンドクンと鳴動している。結合データを具現化装置に取り込み、保護シールドを張ってからコアが排出されるはずである。  
下腹部の鳴動が大きくなった。あわてて、アイリスは近くにあった配管にしがみつく。  
そして、排出が始まった。  
しかし…  
「お、大きい」  
穴のサイズよりも大きいサイズのコアが、排出されようとしている。  
「い、痛、や…」  
メリメリと穴を無理矢理広げながらコアが押し出されてくる。  
「やめてえ!!痛い、痛い、いやああぁ!!」  
耐え難い激痛がアイリスを襲う。  
「いやぁ、ゼロ、兄さん、助けてぇ!!」  
しがみついた配管が、アイリスの力でベコッとへこむ。  
「やああ、あああああ、ああアアアア!!」  
アイリスの絶叫が、誰もいない部屋に響き渡る。  
 
「はあ、はあ、はあ」  
アイリスはスカートを装着し、産み出したコアを抱きしめる。  
その時シャッターが開き、ゼロが現れた。  
「兄さん…私を守って」  
 
--終了--  
 

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