午後10時、ハンターベース内の一室…エイリアの部屋での出来事。
「……まだなの?」
「ううっ、も、もうちょっと…」
エックスとエイリアがなにやら険悪そうなムードで向かい合って座っていた。
「早くしてくれよ」
「もう少し待って!!」
そして、二人の間のテーブルには。
「お…王手! これでどうよ!!」
日本式チェス、つまり言う所の「将棋」の盤があった。
「こ…これでやっと私の勝ちね!」
悩んだ末にようやく出せた王手に胸を張るも…。
「王手。飛車、角、銀取り。」
「ええーっ!!」
あっという間に、エックスに逆転されてしまったのであった。
「これで俺の25連勝だね、エイリア」
「ふええ…な、なんでー?」
「何でもなにも、君が弱いだけだろ? ナビゲートは上手なくせにこういうのはからっきし弱いんだからな」
「お…オニ! アクマ! 野獣! 小鳥」
「大体君から吹っかけたんだろう!?」
〜ここで話は、二時間前にさかのぼる。
二時間前。午後8時。
『エイリア〜』
いつものように、勤務を終えたエックスがエイリアにイチャイチャしようとすると…
『ダメ!!』
『何ィ!? お…俺に飽きたって言うのか!!』
『ちっ…違うわよ!』
『愛が足らないって言うのかい!?』
『いや、愛は…たっぷり貰ってます』
『じゃあしようぜ!? 今日も沢山可愛がってあげるから…もご。』
『だ、だーかーら、それがダメなの!!』
キスしようとしてくるエックスの顔を両手で必死に遠ざけようとするエイリア。
『な、なんで?』
『なんでって、最近のエックスったら、そればっかりなんだもん!
私だって、気分が乗らないときだってあるのよ!?』
『じゃあ…これから寝るまで何すればいいって言うんだよ!? ゲームだってもう飽きたし…』
『…こ、これ! レイヤーから借りてきたの!!』
そう言ってエイリアが取り出したのが、将棋の盤であった。
『結構面白いわよ!?』
『ふーん…だけどそれだけじゃあ面白くないなぁ。ペナルティがないとね』
『ぺ、ペナルティ!?
…そうね。じゃあ私が勝ったら明日のお休みでの家事全般エックスにやって貰います!!』
『…いいよ。但しエイリアが負けたら、今日もさせてもらいますよ?』
『えーっ!?』
『それと、もう一つ…』
「ううっ…!! そ、その通りです」
しゅんとしてしまうエイリア。
「だろう?」
「ふぇぇん…レイヤーにもパレットにも負けなかったのにぃ…エックスがこんなに強いなんて〜!!」
「そりゃあ、ゼロやヒャクレッガーやケイン博士とかに散々鍛えられたからね。
チェスとか卓球とかマージャンとか『大貧民』とか」
「(ど、どういうハンターよ!!)」
「さて、どうするかい? …まだやる?」
手で、さっき取った飛車と角行、銀将の駒をチャラチャラと音を立てて弄るエックス。
ズーンと沈みながら、エイリアは右手を挙げた。
「…参りました」
それは降参の合図。
「ファイナルアンサー?」
「ファ、ファイナルアンサー……」
数十秒。21世紀初頭に流行したという某クイズ番組のような重苦しい空気が流れ…。
「じゃあ俺の勝ちって事で!」
ここでようやく、エックスがニンマリと笑う。
「約束を実行してもらいますよ、エイリアさん」
「はっ、はぁい…」
駒を片付け、将棋盤を畳み、落ち込むエイリアをちゃっちゃと運んでベッドに腰掛けさせる。
目をキラキラ輝かせるエックスとは対象的に、"こんな勝負するんじゃなかった…"と、今更悔やむエイリアだったが……、時既に遅し。
気付けば押し倒され、エックスを見上げる形となってしまっていた。
「今日は早めに終わらせてあげるから。…明日の為にね」
「(ふぇぇ〜、エスケープ不可能!!)」
「愛してるよ…」
エックスとのキスも、今度は逃げる事は出来なかった。
そして、翌日の昼前。
何事もなかったかのようにハンターベース内を歩いているエックスと、どこかいそいそとしながら彼のすぐ後ろを歩くエイリアの姿があった。
「…エイリア。
あんまりおどおどしてるとバレちゃうよ? いつもみたいにしていなきゃ」
「そんな事…言ったって……!!」
どこか妙に楽し気な彼と裏腹に、エイリアの身体は震え、少し息が上がっていた。
休日だけあって、通り過ぎる職員の数は殆どまばらで、すれ違う職員も数えるほどしか会っていない為、この彼女の異変に気付いていたものは誰もいない。…はずである。
「あっ! せんぱ〜い、エックスさ〜ん」
ふと気付くと、反対側からよそ行きの格好のアクセルとパレットがこっちに走って来ていた。
「エックス! 遅いけど、おっはー!」
「やあアクセル、パレット」
「こ…、こんにちは…お、お出かけ?」
「そうなんです〜!
…あれ〜? エイリア先輩顔赤いですよ〜?」
「!! え…?」
パレットの何気ない言葉に、エイリアの肩がビクンと跳ねる。
「どうかしたんですかぁ? 心なしか、震えてるみたいですけど…」
「(な、なんでこうこの娘は鋭いの!?)
え…ええ。ちょ、ちょっと風邪ひいちゃったみたいで…ケホンケホン。」
慌てて、わざとらしくせき払いをする仕種をする。
「そ、それでエックスに…一緒にお薬でも貰ってこようと……」
「え〜? そうなんですか? 大事にしてくださいね?」
レプリロイドも、時々ではあるが人間で言う風邪に似た症状になる事もある。
パレットは何ら疑う事はなかった。
「あ、有り難う…」
そう話し込んでる女の子組の反対では。エックスがアクセルにプロレスで言うブルドッキング・ヘッドロックを掛けていた。
「お前! これからデートだろ!! 上手くやりやがって〜」
「ギブギブギブ!! そ、そうだよ! なんか文句あるの!?」
「…別に。なにもないさ」
もちろん、本気ではなく一種の悪ふざけのようなものである。
「…ボソボソ(それで……やったのか? やっちゃったのか!?)」
「…ゴニョゴニョ(は…ハイ。最高でしたであります隊長!)」
ボソボソ声で通路のど真ん中で男の猥談をする二人。
「お前も成長したなぁ…」
「…いゃあそれ程でも……ところで、エックス。」
「…なんだ?」
ヘッドロックされながらも、自分の彼女と話し込んでるエイリアをチラッと見た後、ヒソヒソと耳打ちする。
「何かエイリアの様子、おかしくない? チラッと風邪だって言ってたのを聞いたけど…」
「ああ。アレな…。」
エックスは少し考えた後、こう耳打ちした。
「…お前にだけは話しておいてやるよ。その代わり、誰にも。パレットにも言うなよ?」
「……? ボクが言う訳ないじゃない」
アクセルは首を傾げながらも、一応承諾した。
「実は……ゴニョラ・ゴニョリロ・ゴニョリータ!」
「えぇ!んがぐぐっ」
驚愕したアクセルの口を慌てて塞ぐエックス。
それを聞いたパレットは一瞬、首を傾げるがすぐにエイリアとの話に夢中になった。
「バカ! 大声出すな!!」
「もご…、な、なんでそんな事を!?」
「仕方ないだろう…! これも想うが故だよ」
「そ、そういうもんなの…?」
「そういうもんだ。さ、行ってこい」
ヘッドロックを解いて、ポンと軽くアクセルの身体をパレットのほうに突き離す。
「おわっと!」
アクセルは勢いに膝を付くが、すぐに立ち上がった。
「ま…まったく乱暴なんだから〜」
「アクセル、だいじょぶですか?」
「あ、ああ、うん。それより行こ!」
アクセルがパレットの手を握ってやや強引にさっき来た通路の方向へ引っ張る。
「ちょ…どーしたんですかぁいきなり!?」
「いーからいーから。それじゃ、行ってきまーす!!」
パレットを引っ張りながら、後ろで小さくなっていくエックスとエイリアに向かって手を振るアクセル。
「もう、ごーいんなんだからぁ〜。(えへへ…。でもそんな所も大好き!)
エックスさん、エイリア先輩、行ってきま〜す」
仕方なくパレットも、引っ張られながらも後ろに向かって手を降るのであった。
「い、行ってらっしゃい…」
「迷子になるなよー」
エックスの言葉で、走ってた二人がズッコケたのは言うまでもない。
二人の姿が完全に見えなくなると、エックスはホッと胸を撫で下ろした。
「どうやら嵐は過ぎたみたいだね…まったく人騒がせなんだから」
「そ、そう、ね……っっ!」
そんなエックスを尻目に、エイリアは膝をガクガクと揺らし、その場にへたり込んでしまった。
「エイリア!?」
「だ、ダメ…エックス! もぉ…耐えられないっ……!!」
涙目でガタガタ震えるエイリアを、エックスは優しく抱きかかえる。
「まぁ、初めてにしてはよく頑張ったね。…外して欲しい?」
エックスの言葉に、彼女はコクコク頷く。
「ここからじゃあ部屋は遠いし…!! 仕方ない、あそこに緊急避難するか」
取り敢えずエックスは、休日で使用されていない資料室に、エイリアを抱えたまま入り込んだ。
資料室の中は薄暗く、気休め程度に絨毯が敷き詰められた足元が見えるぐらいの明かりしかなかった。
本棚の蔭に入ると、そこにエイリアをそっと降ろす。
「エ…、エックス……!! お願い、早く…外してぇっ…!!」
もうエイリアは満足に立ってもいられない状態だった。
「ああ、いいよ…」
そんな彼女を見て満足そうに微笑むと、彼女のアーマーを一つずつ外していく。
「う…、ああ……! えっ、えっくすぅっ…!!」
「よくパレットにもバレずに済んだね…」
アーマーも防護ウェアも全て外し終えたエイリアの両の乳首には、ゴム製の小さなクリップのようなものが取り付けてあり、下のクリトリスには、ブルブル振動するキャップ状の道具が付けられていた。
昨日のゲームのもう一つのペナルティ。それは……
"SMごっこ"。