「爆心地付近、前方500Mにライブメタル反応! これは……モデルXです!」
オペレーターの報告を聞いた瞬間、矢も盾もたまらず私は飛び出していた。
完全には着陸していない小型飛行艇のハッチから道路に飛び降り、建物の爆発であちこちに飛び火して火の粉の舞うハイウェイを走る。
……いた。崩壊した敵の本拠地……セルパンカンパニーの本社ビルの跡地の方から、炎を背に人影が1人歩いてくる。
肩を押さえて、足を引きずって、それでも二本の足でちゃんと立って、こちらへと一歩ずつ歩いてきていた。私は時折転びそうになりながらも、
その人影へ向かって走り続ける。炎の照り返しを受けた青いアーマー、ヘルメットの下に灯る緑の双眸。傷ついてはいるけれど、でも初めて
私の前で変わった時そのままの姿で、彼は再び私の目の前にいた。
走りを緩め、歩み寄り、彼と向かい合う。彼は焦げ痕や小さなへこみのあるヘルメットを重そうに持ち上げて、顔を上げて私を見た。
憔悴しているのがありありとわかる、けれどいつものように、彼は笑った。用事から戻った時のように、散歩から戻った時のように、ミッションから
戻った時のように。
「よう、プレリー。……勝ったぞ」
そう言った瞬間、彼の体が光に包まれて、その身を包んでいたアーマーが消え去った。その足元に、青いライブメタルが落ちる。
彼の体がふらりと揺れるのを見て、慌てて抱き留める。ヴァンは私の手の中で力を抜きながら、夢見るように言った。
「頑張ってくれたな、ありがとよモデルX……さすがにしんどかったもんな、今回は……」
力の抜けたヴァンの体の重みに、私は彼を抱えたまま地面に膝をついた。言葉が出てこない。触れている彼の胸が確かに鼓動を刻んでいる。
彼の体のぬくもりが私のそばにある。……私のところへ、帰ってきてくれた。最後の敵を倒して、戦いを終わらせて、そして生きて帰ってきてくれた。
そう、彼は、私との約束を守ってくれたのだ。ライブメタルが休眠状態に入るほどの大変な戦いをして、本人もこれほど疲れ果てて……それでも。
それなら、私は彼に言わなければならない。約束を守って、いつものように帰ってきてくれた彼に、私は言わなければ。
「……おかえりなさい、ヴァン」
うまく言えない理由がわかった。私は泣いていたのだ。だから、なんとか形に出来たと思った言葉も、かすれていた。けれど、彼は聞き取って
くれたらしい。私の肩の上に顔を預けて、眠そうな声で、でも微笑んで、返事をしてくれた。
「……ただいま、プレリー」
私の後ろから、ヴァンや逃げ遅れた人達を助けるために駆けつけたガーディアンの飛行艇が次々と降り立ち、メンバーが道路を走り出す。
技術者のフルーブや、メディカルスタッフのローズらが追いつき、集まってきた。
耳許に聞こえるヴァンの吐息が、寝息に変わりつつある。私は彼をベースへ運ぶ用意が整うまでの間、そのままずっと彼を抱きしめていた。
ヴァンはそれから、三日間眠り続けた。
医務室の主任であるミュゲやローズによると、体には軽い外傷以上の異常はなく、ただ長時間の戦闘やライブメタルとの高度なシンクロ、そして
崩れる建物からの脱出などを経て心身が極度に疲労したため……つまりヴァンは疲れ切って泥のように眠っているだけ、という診断だった。
そして彼が目を覚ました時、私は彼の寝ているベッドのそばでリンゴをむいていた。
「あ、プレリー……? ここはどこだ?」
果物ナイフを思わず指に刺しそうになったけれども、普段から着けている厚手の手袋のおかげで大事には至らなかった。
おはようヴァン。気分はどうですか? 頭が痛いとか、どこか痺れるとかはありませんか?
と思わずちょっと色めく私に、ヴァンは寝起きのぼんやりした声で伸びをした。でも、笑っている。
「ああ……気分はいいよ。ずいぶん長いこと眠ってた感じがするな……どのくらい寝てたんだ、俺」
三日三晩ほど。今日あたり、起きてくれるのではないかと思っていました。でもよかった、ちゃんと目を覚ましてくれて。
あ、この場所のことでしたね。ここはガーディアンの保養施設です。普段はあまり使いませんが、今のあなたをガーディアンベースに乗せて
連れ回すわけにはいかなかったので、ここで休んで貰っていたんです。
そのように説明すると、ヴァンはかなり大きめのを用意したベッドの上で三日もかともう一度伸びをして、それでだいぶ意識がはっきりしたように
窓の外へ目を向けた。
「保養施設か……そういや、緑がきれいだな。森の中にあるのか?」
はい。インナーとアウターの境界付近の森林の中に建てられていた施設を利用しています。イレギュラーの巣になっていたのを攻略して、
改造を施しました。そう簡単には誰かに見つかることのない場所ですよ。
「イレギュラーは、やっぱりまだいるのか?」
ええ。まだうろうろしています。けれど、発生の原因となったモデルVはあなたが破壊してくれたから、徐々に減少傾向にあることは既にわかって
います。アウターがイレギュラーの巣窟であるのはしばらくは変わりないでしょうけど、もうインナーに入り込んだイレギュラーにガーディアンの
手が回らず、対応が追いつかないということもなくなるでしょう。
「……インナーの方は、どうなってる?」
そちらは、さすがに落ち着いているとは言えません。国の中核となるまでに勢力を広めていた、セルパンカンパニーの本社ビルの崩壊……
今は各メディアが事の詳細を調査していますが、真相に行き当たれば混乱は免れないでしょう。支配者であったセルパンが本当は何を企んで
いたのか、そしてこの国と人々に何をしようとしていたのか……頃合いを見計らって、その事をずっと追い続けていた私達の口から人々に告げ
なければならないと思います。
「……みんな、わかってくれるかな」
それは断定はできません……。セルパンカンパニーが真の目的はどうあれ国に貢献してきたことは事実で、そのトップであったセルパンが
倒れたことで、動揺が広がっているのも確かですから。ただ幸いなのは、カンパニーにいた人の多くはセルパンがこの世界を滅ぼそうとしていた
事など知らずにいた事と、彼がいなくなった上で、新しい運営体制が再び作られつつあるらしいという事です。だから、カンパニーの機能が
止まって国が傾いてしまうという心配は、今のところはないみたいです。
「ほとんどセルパンが1人で何もかも取り仕切ってたはずの、あのカンパニーがか。……人間って、やっぱり逞しいんだな」
ええ、本当に。だからこそ言えます。私達は、セルパンと戦って良かった。彼を止めなければこの国は三日前に確実に滅びていました。それを
乗り越えることができて、本当に良かった。たとえこれからいくつもの問題や試練が待っていたとしても、滅びてしまってはそれと向き合うことさえ
できない。
友達と、家族と、親しい人と、手を取り合うことも、笑いあうことも。だから、ヴァン……本当にありがとう。勝ってくれて、そして生きて帰ってくれて。
そして……本当に、おつかれさま。
「プレリー……」
ヴァンが、しんみりと微笑んで、頬をかいた。そんな彼の表情を見ていて、私は穏やかな微笑みが、心の中から宿るような気持ちになる。
本当に……無事に帰ってきてくれて、よかった。
話すべき事を話して、私とヴァンの間に穏やかな沈黙が降りる。私は彼と時折目を合わせ、時折微笑みあって、過ごすともなく過ごした。
……ただ二人で一緒にいるだけなのに、とても安らかで、でも少し心がざわざわして、時に落ち着かなくて、でもそれが心地良い。
ヴァンは不思議だ。私の部屋で過ごしている時も、そうだった。同じ空気を吸っているだけで、私の心を爪弾いてくれる。
そのとき、ヴァンのお腹が軽く音を立てた。無理もない、三日も寝ていたのだから。
「あはは……わりぃ、プレリー。何か食べるものあるかな」
はい。今はとりあえずこんなのでいいですか?
私はヴァンに、切ったばかりのウサギカットのリンゴを差し出す。
「お、リンゴか。……へぇ、耳の形に切り抜いてあるのか。器用なもんだな」
あなたが寝ている間、練習していたんです。病人には愛情を込めた兎リンゴがいいとローズが教えてくれました。ここまでできるようになるまで
大変だったんですよ。失敗したぶんは、ちょっと泣きながら食べたのは内緒です。
「愛情ね……」
? どうかしたのですか、ヴァン。はい、あーん。
「お、おう」
何だか顔の赤いヴァンが口を開けると、フォークを刺したリンゴをその中へ運ぶ。しゃくりと半分かじって、耳の部分をもそもそと唇の中に
引っ張り込む。ちょっと可愛いですよ、ヴァン。
「……」
ヴァンは結局、リンゴ一つ分の兎をまるまる食べてくれた。こう綺麗に食べてくれると、むき甲斐もあるというものだ。
空腹が満たされて一息ついたヴァンは、ごちそうさまと私に言った後、何かが気になっているのか、ちらちらと私を見る。
どうかしたのですか? 私の顔に何かついていますか?
「いやあのさ、プレリー……俺が、エリアOに……カンパニーに、セルパンと戦いに行く前の夜の話だけど」
ヴァンは、おもむろに切り出した。私は彼の表情から、なんとなく居住まいを正して彼と向き合う。
そのときの事についての話なら、私も緊張せざるをえない。何しろ……
「そういえば俺、あの時プレリーに返事してなかったと思ってさ……」
どきん、と私の胸が強く高鳴った。ヴァンは、姿勢を整えた私と向き合って、じっとこちらを見つめてくる。
目を反らすことができないので、彼の少し緊張気味の、真っ直ぐな眼差しと見つめ合うことになった。動揺してしまう。
あの時というのは、私が彼に告白した時のことだ。その時、遠くへ行ってしまうかも知れなかったヴァンに伝えずにはいられなくて、私は自分でも
信じられないほどの勇気で、彼に私が抱いていた好意を伝えて、そして初めてのキスを捧げた。どうか彼が無事に帰ってきてくれるようにとの
祈りも込めて。
その時、ヴァンは私のキスを受け容れて、私を抱きしめてくれた。でも確かに、彼が言うように、具体的な返事の言葉は聞いていない。迷惑では
ないとは言ってくれたけれど、それ以上はっきりとした言葉は受けていない。
でも、その、今になってこんなふうに改まって、急に答えを聞かせてやると言われても、困る。心の準備ができていない。
「俺もプレリーのこと好きだ」
……それなのに、ヴァンは人の気も知らず勿体つけずに不意打ちで宣言してきた。ちょっと、ちょっと待ってください、あの、その……ええと。
私は頬に血が上ってくらくらするのを感じながら、ベッドに手をついた。好き、という言葉ががんがんと頭の中を跳ね回っている。……好きという
言葉は、こんなに重いものだったのか。ヴァンに伝えたときは言ってしまった後という感じですっきりしたのに、いざ言われると、とても効く。
そんな私の手に、おずおずとヴァンの手が重ねられてきた。一瞬強張って、でも力が抜けてしまう。私は顔を上げて、ヴァンを見た。ヴァンも、
真剣な目でじっと私を見つめている。
……そんな目で見ないでください、ヴァン。その、そんなふうに、思い詰めた顔されたら、私……
「……プレリー」
ヴァンの顔が、近づいてきた。私はどうにもできずに目を閉じて、顔を上向ける。唇に感触があって、軽く啄まれた。頬に手を添えられて、たぶん
慣れてはいないけど、きっと彼なりに丁寧なキスをされる。
窓から吹き込んできた若葉の匂いのする風が、私の髪を撫でていった。
ほんのり甘酸っぱい味がする。私が一生懸命むいたリンゴの匂いがする。
頬に両手を添えられたまま目を開くと、ヴァンの顔がすぐそばにあって、頬を赤くして目を細めながら、私を覗き込んでいた。……わかる。今、
きっと私もヴァンと同じように、頬を染めて……。
ひどいです、ヴァン。いきなりキスするなんて。こんな不意打ちされたら、おとなしくキスされるしかないじゃないですか……。
「……ごめん、プレリー。でも、プレリーだって、俺に同じ事したろ?」
えっ……た、確かに……。で、でもあの時は、行きがかり上、ああでもしないと、避けられてしまうんじゃないかと思って……。
「俺も、避けられるんじゃないかって、ちょっと不安だった。嫌だったか?」
……いいえ、イヤじゃないです。 ヴァンになら、避けるつもりも、拒むつもりも……
「……そうか。じゃ、もう一回、いいか?」
小声で訊かれて小さく頷くと、ヴァンは一度と言わず、二度も三度も、何度も私にキスをした。
キスをされるうちに、私はヴァンに抱きしめられて、私も彼に抱きついている。
「プレリー、好きだ」
ヴァンにキスに混ぜながら言われては、私もです、と答えるしかない。
最初は唇を触れ合わせるだけだったのに、いつしか舌と舌がお互いの口の中に入り合って、身をすり寄せたり絡みついたり、抱き合ったりした。
涼しい部屋のはずなのに、そうして想いを伝えながらキスしていただけで、私もヴァンも体中に汗をかいていた。
幸せだった。
「なぁ、プレリー……そういえばここ、他のガーディアンのメンバーは」
私があなたが元気になったと連絡を入れれば、迎えが来てくれます。今は……私とヴァンしかいません。
「……二人っきりなんだ」
はい……。
私とヴァンはどちらともなく、おずおずと手を伸ばして、着ていると暑くて仕方のない服のボタンに手をかけた。
自分の服ではなく、お互いの服をもぞもぞと脱がせ合う。
私はヴァンの手で裸にされて、私もヴァンの身体を裸にしてしまった。
「少しは、涼しくなったかな。プレリー」
ええ、少しだけ。……ヴァンは?
「……まだ暑い。というより、熱い。どきどきして、熱くてしょうがない……」
お風呂場をプールにできるはずですけど……入りますか?
「うん、後で……」
私は、ヴァンにベッドに組み敷かれて、彼に上に乗られた。彼の顔から下の身体のラインが、特に肩や胸が目に入って、息が乱れる。
ヴァンも、私の身体を上から下へと見下ろしている。彼の目の前に自分の裸を晒して、とても恥ずかしいのに、もっと見て欲しいという気持ちがある。
彼の目は、私の胸が気になっているようだった。それほど大きいとは思わないし、魅力的なのかどうかもよくわからない。でも、肌に感じるヴァンの
視線はとても熱くて、とてもいやらしかった。
私が何も言わずに頷くと、ヴァンは私の胸に触って、撫で回してきた。手のひらで上から胸をおされて、軽く握られたり、指を押し込まれたりする。
その手つきのいやらしさに、私はヴァンの顔を抱きしめた。すると今度は、私の胸の間で舌を出して肌を舐めて、ちゅっと吸ってくる。
抱きしめた私の手の中でヴァンは胸の裾野から頂へとキスを続けて、そして先端を吸われた瞬間、私ははしたない声を上げてしまっていた。
弱点を晒してしまった私は、左右を交互に吸われて、彼に弄ばれる。そして唇と舌で私の胸を苛める一方で、胸の下から脇腹、お腹、そしてその
下へとヴァンの手はたどたどしく動いていた。手が触れたり離れたりするたびに、私の身体は彼の指が触れてくれるのを待ちわびるように躾けられ
ていく。
そしてヴァンの指はとうとう、私の一番見られたくなくて、そしてヴァンには知ってほしい場所にやって来た。触れられた瞬間に肩が跳ねて、私は
思わず太股をきつく閉じて、ヴァンの指を挟み込んでしまう。
「プレリー……」
でもヴァンは私の顔を正面から見下ろすと、私と目を合わせたままで、私の太股に挟まれた指をそっと動かし始めた。
特に命令されているわけでもないのに、私は表情をヴァンに隠すことができない。目を背けることができず、ヴァンの指が私のそこを調べるたびに、
どこに触れられるとどういう反応をしてしまうのか、彼につぶさに観察されてしまう。
彼の指に、一番刺激に弱いところを見つけられ、そこを剥かれていじられると、私は彼の手をぬるぬるに汚してしまった。ヴァンは私の恥ずかしい
ぬめりを指に掬うと、その場所から太股の内側全体に、ソープのようにいやらしく塗り込めていく。
そして、恥ずかしいところを弄られ、揉まれて力の入らなくなった私の太股をぬるぬるにしてこじ開けると、ヴァンはその間に身体を入れてきた。
ヴァン、だめ、と思わず口にしてしまった言葉は、唇から漏れた瞬間から、恥ずかしい期待をたっぷりと含んでいたことに私は気づいてしまう。
そして彼は言葉の意味より私の感情を見透かしたかのように、私の太股をそのまま抱えて、私にキスをする。
私の大切なところに、ごりごりとして柔らかくて、長い何かが添えられた。それがヴァンの大切なところだというのは見なくてもわかる。
女の子の大切なところに、男の子の大切なものを入れる。その行為を私とヴァンが今しようとしているという事を思い知らされて、私はくらくらした。
でも、ヴァンに言ったとおりに、私は避けるつもりも拒むつもりもなかった。彼が私とそうしたいと思ってくれているなら、私は抗わない。
なぜなら、たぶん、彼を好きだという気持ちに早く気づいていたぶん、そうなりたいと思っていた気持ちは私の方が強いはずで……。
「プレリー……!」
熱くて水っぽくて生々しい感触が、私の腰の中を上の方に這いずってくる。痛いと思っていたら、すぐに全部入ってしまった。ヴァンの根元が、
私の入り口にぴたりとくっついて、丸く揺すってくる。
体中がお湯にひたされて、その中でうっとりしているような、不思議な気分だった。私の中でヴァンが脈打っているのがわかる。ヴァンのどきどき
している鼓動が、私の中にあるなんて。
ヴァンが、腰を引いて私の中から引きずり出していく。唇をすぼめるみたいにヴァンのに吸い付いている私が、その内側まで掻き出されていく気が
して、そしてまた中に入れられてしまう。抜かれる時と入れられる時に、私の中から熱くてとろとろしたものが雫となって何滴も溢れて伝うのが
わかる。
「プレリー……痛くなかったか? すごく気持ちよさそうな顔してる……」
恥ずかしいこと、言わないでください……まだちょっと痛いけれど、痛みより……。ヴァンだって……すごく、いやらしい顔してますよ……
「くっ、プレリー!」
ヴァンに抱きすくめられて、唾液がこぼれるほど激しくキスされる。ヴァンの抜いたり出したりが勢いを強くして、どんどん早くなって、私は耐え
られずに彼の腰に脚を絡めてしまった。ヴァンのことしか見えなくなっていく。ヴァンに愛してもらっている事以外、何も考えられなくなっていく。
今にも閉じそうになりながらヴァンを見つめる目の奥に、白い虹のような火花が見える。突き上げられて、そこに押し上げられて、私はヴァンの手
の中で踊った。ヴァンに背中に爪を立ててしまうほど強く抱きついて、身体を強張らせる。
ヴァンも身体を固くして私を抱きしめ、私の中に火傷しそうなほど熱いものを出した。腰をきつく押しつけたまま震わせて、何度も何度も出す。
それが終わっても、彼が抜き取ってくれないので、私の中はヴァンの出してくれたものでいっぱいになってしまった。
ヴァンの手の中で激しい運動をして息を荒くする私がうっとりと彼を見ると、彼も優しい目で私を見ていた。彼はそっと唇を寄せて、軽くキスを
してくれる。私は甘えるように自分も唇を押しつけて、でも彼がまた舌を入れてきたので、慌てて顔を離した。
見下ろす目が、またいやらしくなっている。そればかりか、私の中に入ったままのヴァンのが……また、固く大きくなっていた。
ちょ、ちょっと待ってくださいヴァン、その……まだ、するのですか? したばかりなのに……
「だって俺、プレリーとキスしたら、なんかまたムラムラしちまって……イヤか?」
イヤではありません、で、でも、続けてもう一度なんて……ちょっと休ませてください、せめて、余韻に浸らせてくれても……
「ごめんプレリー、我慢できない!」
ヴァ、ヴァン、そんな、いけません、そのまま動かしたりしたら、私……
……結局、ヴァンはそれから2回、ベッドの上で私を抱いた。そして温めの水を貯めた大きな浴場で私と一緒に身体をきれいにして、そして
その夜、3回私を抱いて……やっと眠ってくれた。
翌朝、私とヴァンはベッドの上で、簡単な朝食を取っている。
二人ともすっきりした顔をしているのだけれども……だからこそ、気恥ずかしいものがあって、あまり口数は多くない。特に私は、彼にされた
事の片鱗を思い出すだけで、頬が火照ってしまう。でも、幸せな気持ちには違いなかった。
「……なぁ、プレリー」
そんな時、ヴァンはふいに私に言った。
「プレリーはこれから、俺とどうしたい? まだ俺に何か、できることはあるのか」
ずいぶん、いきなりな問いだった。詳しく聞くと、彼は彼の体力の回復に一役買っていた、休眠状態のライブメタル・モデルXを取り出して話す。
ヴァンは元々、運び屋の先輩だったジルウェさんの事や、この国を自分の目的の生贄にしようとしていたセルパンの事があって、私達に協力
してくれていた。過去にお母さんを失ったイレギュラーの件もある。
そしてセルパンやモデルVを倒し、この国が滅びる危機はひとまず去ったと言える。イレギュラー発生の調査と掃討を目指していたガーディアン
も、ある意味でその目的に近づいたと言える。
ヴァンはつまり、モデルXに変身して戦うことのできる自分がいなくても、もう大丈夫なのではないかと言っているのだった。
私は彼に、運び屋一本に戻るのかと尋ねた。確かにそれもいいと思う。何より、戦わなくて済むのだから彼の身に危険が及ぶこともなくなる。
彼が言うには、ジルウェさんがいなくなった後で運び屋は確かに大変だったが、今は新しいリーダーもいるし充分な姿勢も整えて、なんとか
やっているという。
「セルパンカンパニーといい、ジルウェ・エクスプレスといい、人間ってのはたくましいよな。誰かがいなくなっても、その後をちゃんと継いで、
元通りに、元気にやろうとしてる」
そう思う。だから自分の今後は、まだ決めていないという。
運び屋の1人に戻って、みんなと一緒にジルウェさんの後を継いで仕事をこなすのもいい。
そしてモデルXの適合者としてまだ私が必要としていることがあるのなら、力を貸してもいいと。
力を貸してください、ヴァン。
私は、そういうことならと遠慮無く言った。
お姉ちゃんは、モデルVの起こすだろう未知なる災いへの対抗手段とするためにモデルXを作った。でもそれは、モデルVがなくなったからと
いって、その役目を終えるものではないと私は考えている。
モデルVによって生み出されたイレギュラーは今も世界中にあふれている。そして、人々はイレギュラーによって立ち入ることの出来ない地域
をアウターと呼び、それによって分断されたインナーと呼ばれる世界で身を寄せ合って暮らしている。
イレギュラーの数は未だに多く、そして人々が踏み込めないアウターは未だに広大なのだ。だからモデルVが消えたからといって、ガーディアン
の戦いは終わらない。この国での戦いは終わったのかもしれないけれど、世界はまだイレギュラーから人々を守り、インナーを広げる力を必要
としている。いつか、アウターとインナーの境界がなくなり、人々が怯えることなく暮らせるその日まで。
だから、ヴァン……もし迷惑でなければ、私達に力を貸してください。私と一緒に、戦ってください。これからも。
「……俺たちの世界を、未来へ送り届けるためにか」
ヴァンは軽く微笑んで、そう言った。その言葉の意味はわからなかったけれど、ヴァンは私の顔を見て、頷いてくれた。
その時、施設の向こう側で何かが押し寄せてくるような音がした。
私とヴァンが窓に近づいてそちらを見ると、施設の外壁のすぐ向こう側の森の中を、武装したイレギュラーが群になって移動しているのが見える。
そして、その中の何体かが、外壁を乗り越えて、施設の敷地に入ってきていた。
「イレギュラーか……。どこかに行こうとしてるみたいだな。もしかして、街か」
分かりません。でも、あの方角にそのまま進めば遠からずインナーに入り込みます。エネルギーを求めて移動しているのか、人間の気配を
見つけて接触しようとしているのか。
「どっちにしても、何匹かはこっちにも来ようとしてるみたいだな。 どうするプレリー、隠れてやり過ごすか」
冗談を言わないでくださいヴァン。目の前を通り過ぎられて、放置できるはずがないでしょう。
「じゃあミッションの指示を」
はい。私はガーディアンベースに連絡を入れ、インナー側から迎撃部隊を出撃させて防衛戦を張ります。
ヴァン、変身はできますか?
「大丈夫だ。モデルXも、ちょうど起きたところだってさ」
ヴァンが手にしたライブメタルが、目に見えるスリットからまばたきするような光を洩らしている。
ではヴァン、あなたはこの施設に侵入してきたイレギュラーを掃討、この作戦をここから指揮する私を守ってください。
やってくれますね?
「ああ。任せとけ」
ヴァンはモデルXを手の中で弾ませ、窓から身を乗り出した。私はそんな彼の肩にそっと手をかける。
ちょっと待って、ヴァン。
「なんだ?」
振り向いた彼の頬に、唇を触れさせる。
あの……お守りです。効果、あったみたいですから。
「……ありがとよ、プレリー」
ヴァンはとても魅力的な顔で笑うと、窓の桟に足をかけ、両手を広げて飛び降りた。
吹き込む風になぶられる髪を押さえながら、私も身を乗り出して、再び戦いに飛び込む彼の背中を、その変身を見守る。
……お姉ちゃん、あなたもこんな気持ちで、あの人を送り出していたのかな?
彼のことが心配、それは確か。でも、なんでだろう。もう不安じゃないの。約束を守って私のところに帰ってきてくれた彼が、負けるはずがない。
そんなふうに、理由もないのに、信じられるの。そして、私がそう信じている以上、ヴァンは絶対に負けない。そう確信できる。
見てる、お姉ちゃん。お姉ちゃんが作ったライブメタル・モデルXは、今、あの男の子と共にあるの。
とても優しくて、時々鈍くて、強い心を持っていて、そしてすごく勇気がある男の子だよ。お姉ちゃんが好きだった、あの人にも負けないくらいの。
私は、彼の青い背中を、今は私だけが見ていられる青い英雄の背中を誇らしい気持ちで見つめながら、青空に響く彼の高らかな声を聞いた。
「ロック・オン!!」
END.