「ウェンディさんっ!ウェンディさんっ!お願いですっ!」  
 
読子の声にウェンディは長い回想から完全に引き戻される。銃撃戦はその間も続いていて彼女自身2つの弾倉を空にしていた。  
味方のエージェントは2人やられ後は一人しか残っていない。官邸からこの部屋に戻るまでに予定外の時間が掛かりシャワーを浴びて髪を乾かし、再びこの部屋に戻った時には彼女の上司はエージェントと打ち合わせを既に開始していた。  
その直後に読子たちの襲撃を受けたのである。  
 
予定外の襲撃ではあったが読仙社への連絡と救援の約束は取り付けてあった。ヘリのローター音がもう既に微かに聞こえてくるような気がする・・・。頃合いだった。部屋の右手、ドアが開け放たれた続き部屋の、通りに面した窓からなら救援のヘリで脱出できるだろう。  
問題は脱出のタイミングと・・・読子だけだった。ヘリからのロープに乗り移ってすぐに窓から離れてしまえば銃撃はまず当たらない。  
敵の銃撃手たちはなすすべが無いだろうが、紙使いの読子はそれを何とかして脱出を阻止してしまう可能性があった。  
読子だけはここで足止めしておかなければならない。  
 
その読子の、投降を促す必死の説得はなおも続いていた。  
勢い込んだ様子の読子の舌足らずな声が部屋に響き渡る。  
 
「ウェンディさんっ!ウェンディさん!  
 今のあなたは無理をしてます!  
 セリフだって棒読みで生彩に欠けてます。ぜんぜん駄目です。似合ってないんです。脚本が間違ってるんです。  
 どうして・・・どうしてそれが・・・解ってもらえないんですか?あなたは・・・こんな仕事が似合う人じゃありません!  
 昔どおりのウェンディさんに戻って下さい!  
 
 ・・・そうだ・・・これ・・・」  
 
大きなお世話よ!ウェンディは楯にした机に屈み込んだ背中を押しつけその声を聞きながら心の中で叫んだ。  
人には色々大人の事情ってものがあるんだから・・・素人のあなたなんかに言われたくないわ!  
だがその一方でそのウェンディの目は読子の動き、ダブダブのロングコートの内側からゴソゴソと読子が取り出したモノに釘付けになってしまっていた。  
 
「そ・・・それ・・・  
 その推定直径12インチ、センチで直すと30.05cmの純銀の光沢に光る2つの物体は!」  
 
「そうです。ウェンディさん、これはあなたのお盆です。  
 5年前大英図書館が炎上した時、私がドサクサまぎれに・・・あ、いえ・・・  
 これ売ったらそのお金で本がどれくらい買えるかなって・・・あ、もとい・・・  
 何か記念品代わりになるモノがないかなっと思ってガメて、いえ持ち出しておいたんです」  
 
「それは・・・火事場ドロボウっていうんじゃ・・・」  
 
読子はそのウェンディの言葉をキッパリと否定した。  
 
「そんな事はありませんっ!今、こうやって持ち主にちゃんと返すんですから借りてたのと同じですっ・・・  
ほら・・・ちゃんと2枚あります。本物です。  
その証拠に、ここに・・・見えますよね、ちゃんと’for Wendy Only'て刻んであります。  
これは昔ウェンディさんがこれを使って*裸・お・ど・り*をした時にジェントルメン自らそれを忘れないようにって命じて  
刻ませたものですよね。間違いありません。  
ほらほらっ!」  
 
「は・・・裸踊りじゃありません!ちゃんと下着付けてましたっ!少なくても最初のはっ・・・」  
 
ほらほらっ!ぢゃないっ!突然何をとんでもない事を言い出すのよこのボケはっ!  
部屋の向こうにむけて思わず大声を返してしまいウェンディはあせった。  
話の意外な成り行きに銃撃をしていた味方のエージェント達もその手を止めてこちらを見ている。  
ウェンディは自分の顔が紅潮してしまっているのが解るような気がした。  
読子はそんな彼女の困惑にはお構いなしで話を続ける。  
 
「隠す必要なんてないです。私、感動しました・・・  
 ウェンディさんにあんな才能があったなんて・・・  
 ウェンディさんっ、どうか昔を思い出して下さい。  
 あれは・・・確か・・・最初は創立記念パーティでしたっけ・・・違いましたっけ・・・あれ・・・・・・?」  
 
違う。ウェンディは頭を振って心の中で呟いた。駄目だ・・・振り払えない。読子の声はまるで魔術か何かのようにウェンディを再び遠い昔の回想へと引きずりこんでしまう。彼女の脳裏には当時の出来事が鮮明に蘇っていた。  
あれは・・・ウェンディが最初に大英図書館特殊工作部に配属された翌年、  
NewYearパーティでの偶然の出来事がそもそもの始まりだったのだ・・・・・・  
 
 
 
 
 
その日、新年最初の図書館の開館日の終業後、大英図書館員と特殊工作部、大英博物館の有志を集めて  
内輪の、といっても200人近くにもなる参加者の立食パーティが図書館内の講堂を利用して行われたのだ。  
ウェンディはそこで同期の新入り3〜4人と一緒に壇上に上がり、余興でステージダンスをする事になっていた。  
 
「そんな・・・わたし踊りなんかできまっせん。出来るように見えるひとは視力検査が・・・・・・」  
 
自分で考えても無謀な企画だった・・・ドジらずに廊下の端から端まで普通に歩く事すら怪しいのに  
そんな私にダンスなんか出来る訳ない!  
だがそう命じられて驚くウェンディに返ってきた先輩の言葉は  
 
「や・る・の!  
 新人と2年目の女の子は毎年みんなやる事になってるんだから。宴会芸だと思えばいいのよ。  
 それに意外な才能があるかもよ?とにかく今年出るのは特殊工作部からはアナタだけなんだから  
 アナタに特殊工作部の名誉が掛かってるって訳。  
 頑張って貰わないと困るわよ。わ・かっ・た・の?」  
 
という強引なものだった。今考えてもどうしようもなかった、と思う。  
当時怖かった先輩に両手を腰に当てその姿勢で正面に立たれこちらを睨んだまま顔を近づける様にして  
そう宣言されてしまったからには・・・  
その時のウェンディとしては  
「・・・・・・ウィす!よろこんで!」  
という返事を返すしかなかったのだ。  
 
どうせみんな酔っぱらってるんだから適当でいいのよ適当で、と極めていい加減に最低限の振り付けだけを先輩に仕込まれ迎えたパーティの当日、名指しで出番だから集まれと呼び出されたときに、ウェンディも酒に酔っていたのは確かだった。  
あちこちから声を掛けられ酒を注いでまわり自分もその返杯で随分飲んでしまっていたのだ。  
 
あれは普通いちいち返杯を一気飲みするべきモノではなかったのかも知れない。同期達はと見渡してみると  
彼女たちはなんとか上手にそれを断っている様子だった。でも自分は・・・たまたま頼まれたのと別の種類のお酒を運んでいったり、偶然に蹴つまづいて盆の上のグラスの中身を相手にぶちまけたり、たまたま運悪く人混みのなかで人の足を踏みつぶして飛び上がった相手が手のグラスの中身を他人にぶちまけるのを手伝ったり・・・  
ええと・・・とにかくそういうので忙しくて・・・とても勧められた返杯を断れるような雰囲気ではなかった。  
だが・・・今思うとそれが全ての誤りの始まりだった気がするのだ。  
 
「ちょっとちょっと大丈夫なの?」  
 
ステージとなる会場の壇上の脇の小部屋に集合したとき、ウェンディは結局繰り返された返杯の為に目の下を赤く染めた顔をして相手を選ばず誰彼かまわずに陽気に笑いかけるといった完全な酔っ払い状態だった。  
心配顔で眉をひそめ声を掛ける先輩たちにウェンディは、  
「おまかせ下さいっ!ウェンディ、立派に任務を果たして見せますっ!」  
と掛け声だけは立派に壇上に飛び出したのだったが・・・  
 
「あはは(笑)、あははははは(笑)、あははははははぁ(笑)」  
 
すっかり酔っぱらってしまった状態で壇上で踊るのは気持ちが良かった。それに意外と上手く踊れている実感があった。  
普段から何でもないところで転びかけてあわてて体勢を取り直すコトが多かったから、たぶんそれで  
バランス感覚が鍛えられたのに違いないかった。あのコケ続けた日々は決して無駄じゃなかったのよ・・・そう心の中で叫びながらその時のウェンディはとにかく完璧に酔っ払いながらも絶好調だったのである。  
 
 
そのあと何でそれを始めてしまったのか今でもハッキリしないのだが・・・踊っているうちとにかくなんだか・・・  
制服の肘にいつも付けている事務用の腕抜きが、踊るのに邪魔っけに感じて仕方なくなったのである。  
それで踊りの立ちポーズの時に、まず左腕を真っ直ぐに正面に伸ばして手を広げ、脚を広げてポーズを決めて立ち、そのままゆっくりと腕抜きを抜いて壇上から下に向かって投げ入れてみた。それがウケた事を示す笑い声が一斉に起こって気分が良かった。それですっかり気を良くしたウェンディは右腕の腕抜きも同じように脱いで投げ捨てはじめたのだった・・・  
 
壇上で座り込むポーズで、手を胸元のネクタイにかけた時には見ている観客たちから歓声が上がった。制服のベストを脱ぎ捨て、それからブラウスの前のボタンを全て外し、ゆるめてあったネクタイを伸ばした手で引っ張るように外して見せると観客に投げ入れた。  
スカートは立ちポーズの時に腰に手を回してファスナーを下ろし、足元に落としてそれも派手な仕草で壇下に投げ入れた。  
壇上で一緒に踊っている彼女の同期達は踊りを中断する訳にもいかず声を掛けてなんとかウェンディを止めようとしていたがそのウェンディ自身は酔っぱらっていて下着の上に前をはだけたブラウス一枚だけのそんな恰好で極めて陽気に踊り続けていたのである。  
 
同期たちもウェンディのストリップがそこでとりあえず一段落し、それ以上その脱衣が進行しない様子なのを見て結局止めるのを諦めて踊りを続けた。あの時の自分の状態で最後の一線を越えてしまわなかったのは  
ウェンディにとってただ幸運だったと思うしかない。実は最後の方は完全に酔いが回ってしまっていて自分ではあまり良く覚えていないのだ。  
そんな状態だったから、その後で上司から罰として山ほどの小言と追加の雑務を喰らったのは言うまでもない。  
 
まあでも楽しかったから良いかな、と内心で思っていたのは秘密だった。  
とにかくアルコールにだけは気をつけよう、ウェンディはその時心にそう堅く誓ったのだが・・・・・・  
 
 
 
 
銃撃戦の合間にも読子の話はまだ続いていた。  
 
「凄かったです。とっても。  
 あ、それにそのときの様子はDVDの付録動画にもなりましたよね・・・  
 
 『大英帝国図書館 -全ての叡智を英国に- Vol.6、付録:緊急特典映像・ウェンディのメイドパラパラストリップ#1付き』  
 確かそんなタイトルでした・・・究極の動画枚数で女性の踊りの動きを再現したモノとしては史上最高傑作と絶賛されて  
 それが定価6000円15%OFFの900円引きのお得価格で発売されて確か爆発的に売れたんですよね!  
 特大サイズでパラパラ踊りながらスムーズに服を脱ぐ特殊工作部ソフトウエア部門特製のデスクトップマスコットも付いてて  
 一時期、工作部のモニタ端末ほとんど全部でウエンディさんが裸おどりしてたじゃないですか・・・  
 
 それで今までちっとも売れてなかったDVDが爆発的に売れて工作部予算に大いに貢献して特別ボーナスも出たって  
 わたし企画部の人に直接聞きましたからそれは確かです。  
 昔のウェンディさんはそんな風にそれはもう立派な人でした。  
 ウェンディ・・・さん。お願いです・・・それを思い出して下さい!」  
 
「そんなの思い出したくありません!」  
 
頭が痛い・・・机越しにまくしあげるような読子の舌足らずの声で否応なく過去に引き戻され、思い出したくない記憶まで  
脳裏に蘇らせてしまいながらウェンディは思った。  
銃撃戦中の、こんな・・・こんな緊迫した状況だというのに・・・このボケはっ・・・・・・  
 
 
 
 
・・・読子が言っているのは2回目のストリップの事だった。  
館内行事としてはNewYearパーティに次ぐ大きな行事だった大英図書館の設立記念日パーティを前にして  
余興演目のアンケートがウェンディには内緒でこっそりと行われていたのだが、  
そこで「ウェンディその他のステージダンス」というのがなんと獲得総数で堂々の第1位を獲得したのである。  
大英図書館の宴会演目のアンケートにそんな項目があるのは明らかに問題だと思うのだが。  
 
「ええっ!?・・・そんなの・・・その・・・なんとかなりませんかぁ(泣)」  
 
「うん。なんとかならない(笑)」  
 
「でも・・・このメイド服・・・可愛いのはいいけどスカート丈がいくらなんでも短すぎますよぅ・・・  
 これじゃ下着を見てくれと言ってるようなものじゃあ・・・(泣)」  
 
「どうせすぐ脱ぐんだから一緒よ(笑)」  
 
また制服を脱ぐのでは地味だし何度も同じでは芸がないから今回はメイド服で・・・そう言われて  
渡されたメイド服のスカート丈がウェンディのだけ明らかに極端に短かったのである。  
 
だが宴会でウェンディのその演目を取り仕切る事になった先輩たちは笑ってウェンディの抗議を聞き入れなかった。  
今になって考えればその頃にはウェンディのそのたぐい稀なる職務遂行能力、平たく言えばそのドジッぷりはその頃にはもう既に彼女の同僚たちの間で知れ渡ってしまっていた。  
というかその頃にはもう既に先輩たちにも色々な迷惑をかけっぱなしの状態だったのである。  
 
こんなとき位、そのウェンディに少しぐらいは頑張って貰ってもバチは当たらない、先輩たちがそう考えていたとしても無理はなかった。  
 
「わかりました、わかりました、わかりましたっ。  
 しかたないです。お手伝いしますからっ。ウェンディ頑張りまっス(泣)。  
 ところで・・・この2枚のお盆は何に使うんですか?」  
 
ウェンディはあきらめて2度目のストリップ出演に同意した。  
先輩たちはあなたならやってくれると思っていたわ、と言わんばかりににっこりと微笑んでいた。  
そればかりか続くウェンディの問いにやはりにっこりと笑って返した返事はこんなものだった。  
 
「ああ、それ。ほら、振り付けで脚を上げるところあるでしょう?  
 それとか床に座って脚広げて上げるところとか。その時そのお盆交互に使って前を隠すの。  
 丸見えだとみっともないでしょ」  
 
「・・・それってもうすでにステージダンスとか言わないんじゃぁ・・・(泣)」  
 
そんなとんでもない話ではあったのだが・・・それでもウェンディは壇上で3度もコケたものの何とかその任務をこなして見せたのである。  
ストリップとは言えそこは大英図書館のパーティの余興。脱ぐのも前回と同じで下着を付けたエプロン姿止まりで最後の一線は越えない。  
即興で脱いだ前回と違って今回は振り付けがきっちり付いたし、それにウェンディのバックで踊る新人の同僚たちも10人近くに増員された。  
ショーとして形が付いていたし人数が増えた分、まだ前回よりマシと言えた。  
 
確かに恥ずかしいことは恥ずかしかったのだが・・・ステージが終わったときにはウェンディには覚悟ができていた。  
2回もやればもう充分。職場でこれだけ連続で恥をさらしたからにはもはや先輩たちの行き遅れ同好会に参加するしかない・・・と。  
もうここまで来れば何でもドンと来い、といった気分だった。  
だがそれも・・・甘かった。3回目があったのである。  
 
 
3回目のストリップはウェンディにとって忘れられないものとなった。  
その舞台になったのはウェンディにとって大英図書館での2度目の経験となるNewYearパーティでの余興の演目だった。  
本来ならウェンディはその頃には時期的に見習いを脱し、このあたりで新人専門の余興からはもうお役御免となっていた筈だったのだが・・・  
 
今回のパーティは特別に大晦日に開催、しかもカメラが入ってその様子が全世界の支部に中継されるという話だった。 
規模も大きく盛大かつ羽目を外した内容になる筈で、それを取り仕切る事になった先輩スタッフたちの力の入れようも半端ではなかった。  
そしてその先輩たちに、演目にも花が欲しいの、ウェンディ、アナタみたいなヒナゲシのような花が・・・  
と言われ、頭を下げられてしまってはウェンディには断りようがなかったのである。  
 
何しろ動画配信され世界中の全支部から注目されるとあって通常の勤務の定時後に行われる振り付けの練習は過酷を極めた。  
容赦なくウェンディを足蹴にする先輩たちの厳しい演技指導を健気に受けながらウェンディは  
自分は司書資格を持つ大英図書館特殊工作部スタッフ見習いではなくてダンサーへの栄光の道程を  
歩み始めているのではないかと半ば本気で思い始めていた位である。  
練習はきびしく、特に両手に持ったお盆の扱いについては位置がずれると容赦なく先輩の叱咤が飛んだ。  
 
「なんでそんなにきっちりやらなければダメなんですかぁ?(泣)」  
 
「そうじゃなきゃ困るからよ(笑)」  
 
泣き言を言うウェンディに先輩たちは笑って指導、いや愛のムチを加え続けた。  
ウェンディがその意味を理解したのはNewYearパーティの当日、壇上に上がる演目開始の直前だった。  
 
「あ、今回下着はいらないと思うの(笑)」  
 
「えっと・・・先輩・・・?、いま何といいましたかっ?」  
 
「今回下着はいらないと思うの(笑)」  
 
出演を控えメイド服に着替えようとするウェンディを前に彼女の先輩の一人はにっこりと微笑んでそう言い放った。  
ウェンディの両脇にはいつのまにか先輩スタッフたちが立っていて、彼女は両腕を取られ簡単に身体を確保されてしまっていた。  
そのウェンディの前に立った先輩はあっさりとウェンディの下着を足元まで引き下げると両足をくぐらせてそれを自分のポケットに入れた。  
上の下着も同様である。  
 
「ウェンディ、アナタすぐドジるから・・・演技に緊張感がほしいの。  
 下着がなければ頑張らざるを得ないでしょう?(笑)  
 大丈夫、大丈夫。後はいつもとおんなじだから・・・  
 頑張ってね(笑)」  
 
「そんなあ(泣)」  
 
本来だとウェンディは踊りの最後には下着の上にエプロンドレス一枚を付けた姿になる筈だったが  
このままだと丸裸の上にエプロンドレス一枚で踊る事になりそうだった。そのフリルのついた白いエプロンドレスのスカートも・・・  
なんだか心なしかいつもより丈が短いように・・・見えるのだけど。  
 
そのまま、壇上脇まで連れて行かれ壇上に放り込まれたウェンディはその場を見て目を見張り再度泣き言を言う羽目になった。  
壇上前側の中央には前に大きく張り出すように足場が組まれ、通常ウェンディが立つ位置に円形の特設ステージがあつらえられている。  
さらに頭上からそこを照らす眩しいスポットライト。  
 
あのぉ・・・もしも〜し?あそこで踊ったり脱いだりするんですかぁ?(泣)  
ウェンディは舞台の袖でウェンディを見守る先輩たちのにっこりとした笑みを思わず振り返ってしまう。  
これは・・・ぜんぜん前と同じじゃないっ。ぜんぜんそれまでと同じなんかじゃなかった。  
 
「ズルだあ(泣)」  
 
そう心の中で泣きべそをかいてはみたもののもはやどうする事もできない。顔を紅潮させてその下着を付けないメイド服姿のまま広い壇上を見渡すと、一緒に踊ることになっている各部署の新人達はメイド服を着てすでに一列に並んでいる。  
その列の数歩前、舞台中央のスポットライトが照らすステージにしかたなさそうに入るウェンディを尻目に  
 
「皆さん!大英帝国図書館特殊工作部所属、スタッフ見習いウェンディ嬢に拍手を!」  
 
とマイクによる進行係のアナウンスが入り、会場の全員の視線が一斉にウェンディに集まる。  
その背後では拍手を打ち消すようにダンスミュージックが開始された。  
もう行くしかない!ウェンディは心の中で自分を励ますしかなかった。  
 
目の前のステージの下には会食中の観客たちの姿が見えた。  
ウェンディは金髪の下の顔を紅潮させたまま、こっそりと銀のお盆を持ったままの手でメイド服の上から自分の身体をまさぐりそれからスカートの裾をもじもじと引っ張ってみる。下着を着けないで着ているメイド服が身体に伝えてくる感触に違和感があった。  
 
でもっ・・・見ている人にはわからない筈だしっ・・・もうやるしかないっ  
ウェンディはヒールの高いストラップ付きの黒いパンプスを履いた脚を真っ直ぐ伸ばして広げしっかりと立ちポーズを決める。  
突き出すようにした腰の後ろにお盆を持った片手を当て、服の下で剥き出しの胸を大きく反らすようにして  
もう一方の腕を真っ直ぐ正面へ伸ばして止める。  
 
そしてダンスミュージックのボーカルが開始されると同時に横を向きうつむいていた顎を上げ、髪を揺らして顔を正面の観客に向けると伸ばした腕を手招きするようにゆっくりと引き戻し、人差し指を唇に押し当てて悪戯っぽい挑発的な表情と仕草でウインクをしてみせる。  
 
決まった・・・恐ろしいほどに・・・  
ウェンディは振り付けを開始しながらそう考えていた。これならなんとかなりそうだった。  
 
・・・そうよ、私はウェンディ・・・数々の失敗を全て笑顔ひとつで乗り越えてきた英国で2番目に堅い鉄の心臓を持つ女。  
怖いものなんかない・・・第一あんなに練習したんだからっ  
負けるなウェンディ、ファイトだウェンディ・・・エル・オー・ヴィ・イー、Lovelyウェンディ・・・  
 
ボーカルが本格的に始まりそれに合わせて壇上では一斉にステージダンスが開始される。  
ウェンディは意を決して踊り始めた。もう後戻りなどできる筈がなかったのである。  
でも、でもっ・・・スカートの下では下着を付けていない大事な場所が・・・風を受けて涼しいんですけどっ・・・・・・(泣)  
そう心の中で呟きながら。  
 
 
その日、余興としてはかなりの長帳場といえるステージダンスを最後まで踊り通すことが出来たのは  
ウェンディにとって、もはや幸運を通り越して奇蹟としか言いようがなかったように思えた。  
先輩たちが考案しウェンディの身体に叩き込んだダンスの振り付けは、確かに実に良く検討されてあって  
危ない箇所は巧妙にきわどいところで避けられるようになっていたのだけれど・・・  
 
それでもウェンディは踊り始めてすぐ、まだ服を一枚も脱がないうちにこれがきわどい綱渡りであることに気が付いていた。  
メイド服のフリル付きのスカートは丈があまりに短すぎて服を着ているからといって安心ができなかった。  
 
メイド姿のまま、ウエストの位置に捧げ持ったお盆を持って軽快にステップを踏み、もう片方の手や腰や肩を揺らしてリズムを取りながらスカートを翻して踊る。それそのものでは思ったより心配するような状況には陥らなかったのだが・・・  
その後の、そのままくるりと後ろを振り返るといった本来何でもないはずの動作の方がかえって危険極まりなかった。  
裾から白いペチコートを覗かせた丈の短いスカートが風を受けて膨らんで一瞬、両脚の付け根まで見えてしまいそうになるのである。  
 
ウェンディのエプロンドレスの前掛けは上のウエストの部分が後ろへと続く比較的しっかりした作りの物だったがそれでも舞い上がるスカートの裾を抑えられるほどのものではなかった。  
 
腕と肩でバランスを取りながら髪を揺らしてくるりと後ろを向くとき、前はとっさに手で押さえる事ができたもののウエスト近くまでスカートの裾が舞い上がってしまう後ろは・・・たぶん・・・そこに見える筈の下着を付けていない、不自然にむき出しなウェンディの脚やその先の後ろ向きの下半身が、すっかり観客の目にさらされている可能性があった。  
 
「明るく!元気に!可愛らしく!そう、そうよ!それでこそ私たちのウェンディよ!」  
 
練習の時の先輩たちの掛け声が脳裏に蘇る。ウェンディは自分の今の状態を考えないようにしながら  
壇上で右に左にくるくると回って踊り続けた。後ろ向きで背中を見せながら顔だけ正面を振り返り、  
目立たないように片手で後ろ手にスカートの裾を押さえながらタイトなリズムにのせて強調された動きで腰だけを振ってみせる。  
 
そのたび際どいところまでスカートの裾がまくれ上がり、むき出しの下半身の上でスカートの柔らかい布地が左右にゆれる感じがステージの上のウェンディに伝わってくる。  
 
ヒールが高めの黒いパンプスを付けた脚を真っ直ぐにのばす。下着をつけていない脚の間をどうしても意識してしまう。  
それでもウェンディは観客たちの前で明るく踊り続ける。踊りはそんなに上達したとは思えないし元々それほど大したものではなかった。  
 
実際たいていの振り付けは上から下まで黒と白を基調としたメイド服にきっちりと身を固めたその姿で、脇を締めてウエストの位置に揃えた肘や肩を振るようにしながら、リズムにあわせ腰や身体全体を左右に揺らしているだけで、後ろ向きのときもだいたい同じだった。  
 
それでもじゅうぶんに可愛らしく見えているはず・・・ちょっと不器用に見えてしまっているかもしれないけれど・・・  
ただ・・・そのスカートが極端に短くて・・・とウェンディは考えていた・・・  
・・・そうよ・・・その下にあるはずの下着が・・・ないというか穿いてないだけっ!  
踊りの合間の立ちポーズの時には明るい笑顔と可愛い仕草、壇下の観客に投げるウインクを忘れない。  
 
そうよ・・・負けるなウェンディ、ファイトだウェンディ・・・エル・オー・ヴィ・イー、Lovelyウェンディ・・・  
踊り続けながら頭の中ではその掛け声と、自分に必死に言い聞かせる声がごっちゃになって渦巻いていた。  
大事なところだけは・・・見えてない見えてない・・・見えてないったら見えてないっ・・・・!これは大丈夫!  
 
だがしかし・・・それから先の一列に並んで踊る仲間達に合わせてそのまま後ろを向いて、お盆を持った両手を前に突きだし腰を上に掲げて振ってみせる動作、それからその場に屈んでお盆をそこに置く動作・・・  
このあたりの振り付けは・・・もう既にアウトかも知れなかった。  
 
「・・・あふぅ(泣)」  
 
ウェンディは心の中で泣きべそをかきながらそれでも笑顔で踊り続けた。  
会場が立食形式で参加者が皆雑談にふけっていてウェンディたちが登場した最初以外はあまり注目されていないのがウェンディにとって救いだった。それとあまり信頼はできないが先輩たちの振り付けの正確さが、である。  
踊りがあまり露骨に下品になってしまっては振り付けを指導した先輩たちも困る筈だった。  
 
困る・・・筈・・・よね?ウェンディは心の中でその考えを微妙に修正する。困る筈といったら困る筈。  
・・・ここでくじけちゃダメよっ、ウェンディ。  
 
その一方でパーティの参加者たちもそれぞれの会話に熱中しているとは言え、ウェンディのその特殊な状態に何も気付かないとは思えなかった。  
工作部の先輩たちがわざわざそんな意味のない、見ても違いが解らないような振り付けをするとも考えられなかったからである。  
ウェンディは踊りながらも時折目に入る、ひときわ背の高い金髪の上司の姿が気になってしかたなかった。  
こんなショーに興味を持つ人ではなかったが・・・変なところに目端が効く恐れは充分すぎるほどあったから。  
 
もし・・・後で仕事で顔を合わせた時に・・・声を掛けられたらどうしよう・・・・・・  
それで正面に控えるウェンディの前で顔色一つ変えず、  
「ウェンディ君・・・先日のダンスの際に何だか下品なモノが見えていましたよ。あまり感心しませんね・・・」  
とか言われた日には・・・立ち直れないっ(泣)  
 
 
ステージでは踊り始めの序盤の音楽が終わっていた。ショーは中盤に入りウェンディの心中をよそに振り付けはどんどん進んでいく。  
エプロンを着けたまま脱ぎやすく工夫されたドレスを脱いで、ウェンディは今やほとんど裸エプロンと呼んでも良い状態で踊り続けていた。身に付けているのはエプロンドレスの他には・・・後は頭に付けた給仕者用の白い髪留めである2重フリル付きのカチューシャ、取り外しの利く替え衿になっていて黒いリボンタイと一緒に首元に残してある同じく白いフリル付きの首衿、腰の白いガーターベルトとストッキングが残っているだけだった。中盤最初のウェンディのソロパートで脱いでしまっていたからである。  
 
エプロンドレスを外さないようにしてメイド服のワンピースをすっかり脱いでしまうのは難しい作業だった。言うまでもなくエプロンの下の何も付けていない自分の身体を観客たちの視線から隠し続けなければいけなかったから・・・  
 
ウェンディはリズムを取って身体を揺らしながら後ろを向き、観客に背中を見せて首から後ろに回した手でファスナーを大きく開くと今度は下から回した片手でゆっくりとそれを引き下げる。それが終わると羽のような白いフリルの付いたエプロンの肩ひもを外して片方づつ今度はワンピースの肩も手で撫でるように引き下ろして、むき出しの・・・メイド服のワンピースの下の裸の背中とウエストラインを少しずつ観客たちに向けて見せていく。  
 
後ろ向きで露出した肩や剥き出しの背中越しにふりかえって観客をその青い瞳で見つめながら服を滑らせて脱いでいくあいだ白いフリルのカチューシャを付けた頭の金髪の後ろ髪が裸の肩にかかって揺れて、その髪の感触でウェンディは否応なく今、観客たちの前で服を脱いで裸になっていく自分の姿を強く意識させられてしまっていた。  
 
ううう・・・(泣)。これを始める前までは誰の前だって服を脱いだりしたことはなかったのにっ!  
そんな想いが観客たちを見つめる瞳の奥をよぎる。だがそれは今なんの役にも立たなかった。  
 
両方袖を脱ぎ終わって黒いワンピースが半脱ぎの状態になるとウェンディは立て膝をしてその場に座り込んだ。身体を少しだけ観客から見て斜めに向け、むき出しになった裸の丸い肩を見せつけるようにしながら、胸の前で重ねた両手で頼りなく身体の前に垂れ下がるエプロンの柔らかい布地をしっかりと抱え込む様な恰好をして、うつむき加減の上目がちな困った表情で観客達を見つめてみせる。  
 
そこから白いカチューシャを付けた金髪の下の碧眼を大きく見張り、幾分はにかむようなその表情で白い袖口が付いたワンピースをもじもじと不器用に脱いでいく。そうしながらウェンディは実際に当惑している自分の瞳の色や、微かに赤くなっているに違いない頬の色、今の自分の羞恥の表情を観客から隠せているかどうかが不安だった。  
 
・・・だって・・・今回は・・・前回と違って・・・何も下に付けてないんですからっ(泣)  
 
それでも両袖をすっかり脱ぎ終わると、黒いワンピースは立て膝をしているウェンディの胸元からウエストに向かってウェンディの裸体の曲線に引っ掛かって垂れ下がっているだけの状態になった。ウェンディはそれを音楽に合わせてゆっくりと身体からすべらせて足元へと揺すり落としていく。それが終わると最後に床の上の足元に落ちた脱いだ服の上に座り込んでいるような恰好になり、そのあと再びエプロンの布地を身体の前で抱きかかえるようにして膝をつけて脚を開いた女の子座りでその場にぺたんと座り込む。  
 
こんなに大勢の人間の前でエプロン付きとはいえ全裸になるのはこれが初めてだった。前回まではそれでも下着があったために、脱いだと言ってもウェンディとしては水着姿になった程度の感覚でしかなかったのである。  
だが今回は・・・肌に直接伝わってくる床の冷たさに下着を付けていない自分の姿や、この会場の広さを実感させられずにはいられなかった。  
音楽の間奏が続くあいだじゅうずっと、ウェンディは前を隠している頼りない布地だけを頼りに座り込んだまま幾分伏し目がちに上目がちに眼前の様子を伺いながら観客たちの前に自分の裸の姿を晒していた。  
 
母方がインド系の血を引いているウェンディの肌は他の一般的な英国人に比べると少しだけ褐色がかって見えた。 
ただそれほど血が濃くはないためにウェンディのそれは日焼けした小麦色というよりはむしろ褐色がかったミルクコーヒー色の乳白色に見える。  
そして柔らかい身体の中の丸みを帯びた部分、肩のなだらかな丸みや乳房の下のふくらみ、臀部といった  
ウェンディの身体の中で丸みを持ったあちこちの部分の肌が日焼けしそこねた肌のように生白く浮き出て見えていた。  
 
それはまるで普段隠されていて日焼けすることのない性器やその周辺の肌の色を連想させていて  
そのためにウェンディの褐色がかった乳白色の肌の裸身は健康的というよりはむしろ普通より不健全な  
見てはいけないものを連想させる、そんな印象が強調された裸の姿になってしまっていた。  
隠しているものを剥いてしまい露出させてしまった印象がその裸身を眺めているとどうしてもぬぐえないのである。  
 
政府職員として立派に働いている一人前の女性であるとはいえ、その年齢にしては幼めなウェンディの顔立ちや体つきから普段は工作部の元気な女子職員であるという以上の関心を男性から持たれているという自覚はない。  
 
だがウェンディ自身も薄々とは自覚していたのだが、今こうして肌をさらして裸になってしまうと、年齢相応の身体の女性らしさに加えてウェンディ自身の様子、体つきを柔らかく見せるその褐色がかった乳白色の肌、それに鮮やかな金髪、くすんだ青い瞳のその取り合わせがウェンディの裸身を見る者に特別な印象を与えているらしかった。ウェンディ自身にはそんなことは全く理解できないのだが・・・  
今、ステージの下からウェンディの裸身を見つめる紳士淑女然とした観客たちの瞳には、明らかにそうした好奇の色があった。  
 
・・・そんな目で見ないで欲しいんですけどっ(泣)  
 
ウェンディはステージの上でもじもじと身を縮める。壇上で体を斜めにして座り、身体の前を抱き締めたエプロンの布地で隠すウェンディはいま、座りこんだ脚、くびれて曲線を描いている腰から背中、隠された胸元までを剥き出しにしたままその肌の色を晒している。  
 
観客たちのその好奇心に満ちた瞳は冷たい無関心を装いながら、まるで褐色がかった肌をしたウェンディの身体の他の部分、彼らとは違う見慣れない色の筈の布地に隠された乳房の先端や・・・それ以外の場所が、一体どんな風に見えるのを探っているかのように見えて間奏のあいだ中ずっと、ウェンディは観客たちの視線にその露出した肌のあちこちを触られているように感じて落ち着かなかった。  
 
観客たちの視線の中、ウェンディは座ったままポーズを変えて振り付けをこなしていく。  
壇上でしっかり脚を閉じて斜めに座り込んだ脚のあいだに手を突いてその前屈みの姿勢で、裸の肩を剥き出しにしながら白いフリルの付いたエプロンドレスの両肩がすっかりずり落ちて胸が露わになってしまわないように、胸の乳房のふくらみの下の辺りをもう一方の腕を交差させて布地ごと胸を支える。  
 
白いエプロンの柔らかい生地はウェンディの丸い乳房を包むように覆っているだけで、薄い布地越しにその乳房の形や先端の乳首の突起が透けて見えてしまっているのが解る。ウェンディはそれを意識したように剥き出しの肩をすくめてお茶目に小さく舌の先端を出した表情をしてみせるとその表情のままでゆっくり身体を前屈みにしていき、そのウェンディの顔、あごの下にのぞいて見える胸元や、剥き出しの背中、前屈みになってなだらかにしなる細いウエストの曲線、そして後ろに突き出された恰好の座ったままの腰、そういったウェンディの裸身の体つきのすべてをまるで相手に理解させようとしているように観客たちにゆっくりと見せていく。  
 
壇上でバックに流れる音楽はそれまでのテンポのある物からムードのある物に切り替えられていて、さらに  
スポットライトの光源もあきらかにウェンディの裸の肌の色に合わせたらしいよりハッキリとウェンディの身体のラインや肌の色や裸身そのものが良く見えるような柔らかい光の色に換えられていて、ウェンディは前の客席に張り出した形の相手にくまなく自分の姿が見えるようになっている特設ステージの上で、そのスポットライトを浴びながら様々なポーズで振りをつけながら自分の身体を観客たちにさらし続けなければならなかった。  
 
・・・あのぉ・・・もしも〜し?(泣)  
 
まっすぐ正面を向いて中腰に膝を開いて座り、脚のあいだにエプロンの前掛けを垂らした恰好で胸を突き出すようにしてウエストの曲線を作り、その柔らかく身体にまとわりつく白い布地の上から両手で少しづつ前掛けで隠された脚のあいだ、くびれたウエスト、袖を落として剥き出しの肩と半分露出した胸元、白フリルで細いリボンの付いた首衿、うなじへと自分の両手で自分の身体を撫で上げるようにして、最後にフリル付きカチューシャを付けた頭の金髪を掻き上げるようなポーズをつけて自分のうなじを観客に見せながら前を見つめる振り付けの最中のウェンディは泣きそうな気分になった。  
 
壇上の自分を見つめる観客たちの視線が強すぎる、と感じたからだった。  
先輩たちがウェンディのために用意したこのソロパートの振り付けは時間が長く、観客たちの前で座ったままポーズを変えて身体をさらし続けるこの時間がウェンディにはそれまでの踊りの時間に比べて何倍もの時間にも感じられていた。  
踊っている時の方がまだマシでこうして座ったままポーズを変えて振り付けを続けるのはその何倍も恥ずかしかった。  
 
前を見ながら振り付け通りに自分の身体を両手でまさぐるウェンディには、その最中の自分の身体がどんな風に見えているのか全く解らないのが不安に感じられた。下着を着けて無いから・・・身体のラインは丸見えなのは解ってるけどっ・・・  
観客を見つめたままさらに膝を広げ、白い布地の上から両手で乳房の先端をもてあそぶようにいじって見せながらウェンディは考えていた。・・・中には工作部の同僚の人だっているんだし・・・もうちょっと遠慮ってものが欲しいんですけどっ(泣)  
 
間奏が終わり音楽が再開されると何とか大事なところだけは露出しないように立ち上がり、それから後ろ手でエプロンの腰のリボンをしっかりと結び直すとウェンディは安堵のため息をつきながら群舞に戻った。  
無事ここまでクリア・・・それほど・・・心配するほどの事はないのかもしれない・・・  
 
再開された踊りの今度はエプロンだけの恰好で後ろ向きになって再び腰を突き出し高くそれを掲げ上げたまま腰を振るしぐさは・・・  
下着を着けていてもきわどくて、今回は特にそこで下着を着けてないことに気付かれるはずだから・・・あぶないけど・・・  
必死に左右に持ったお盆で交互に素早くお尻を隠したから大丈夫・・・大丈夫に決まってる・・・  
 
それでも予定されていた中継先の各支部へむけた挨拶のアナウンスと、それに合わせて皆で一斉にカメラに向け微笑みかける群舞での振り付けを終えステージダンスも無事に後半にさしかかった頃には、ウェンディはなんとか落ち着いていつもの自分のペースで踊り続けることができるようになっていた。ここまでのステージは練習の内容から外れるようなことはなかった。  
 
それに・・・踊るのが楽しくなってきていてその時の気持ちも、酔っぱらって初めてステージの上で踊った時と同じようにいつものウェンディらしく前向きに明るくなっていたように思うのだ。  
 
そうよ・・・努力の末にようやく大英図書館特殊工作部スタッフ見習いになれた時の・・・あの時の気持ちを忘れないようにしなくては・・・  
ここでくじけちゃ駄目の駄目っ。  
 
ウェンディ、あなたは英国を背負って立つ星になるってそう心に決めたはず。  
星ともなれば・・・人に見られるのはあたりまえっ。頑張らなくちゃ頑張らなくちゃ頑張らなくっちゃ!  
 
それに・・・ウェンディは心の中でこっそりと考えていた。  
誰にも言えないけれど・・・ちょっとだけ・・・えっと・・・ほんの少しだけど・・・  
こうして服を脱いで踊るのは・・・開放感があって気持ち良いような気がするしっ・・・  
 
 

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