「まー姉?入るね?」
返事を待たず、扉は開いた。
「アニタ……?何?」
「部屋に居られないから、なんとなく」
そういえば今日は、また姉さんが本を大量に買ってしまっていた。
「あたしの方にはみ出すくらいあるもんだから嫌になっちゃって。
何か言おうとすると泣きそうな顔して、
『私はこの子たちを読んであげなきゃいけないのっ!』
とか叫ぶし。あのバカ姉は」
手厳しいが、姉さんも姉さんだ……。
「で、一人で居てもつまらないから来てみたの」
「でも、アニタはもう寝るだけじゃ……?」
「そーだよ。だから、毛布は持ってきたの。ここで寝ようと思って」
二人が寝るには狭いけど、たまにはいいかもしれない。
私たちは、姉妹なのだから。
「わかった。好きにするといい」
「ありがとっ!まー姉!」
ぎゅっ!
飛び付かれ、抱きつかれた。ちょっとびっくりしたけど、嬉しい。
しかし数秒の後、
「……まー姉?なんかさ、こう……ぷにぷにしてない?」
小さな声の問い掛け。
「そんなこと……あるかも……」
最近、薄々自覚はしていたけれど、まさか、アニタに指摘されるとは。
「やっぱり。まー姉甘いもの好きだし、大抵家にいるもんね」
「それは……」
食事当番は一番多いし、先生のお世話やお茶の相手もほとんど私だ。
読むための本を買いに行く必要も、姉さんのお陰で全然ない……。
「うあ、ほっぺたのびるのびる」
両頬を掴まれ、ぐにぐにとあちらこちらに引っ張られる。
「あにひゃ、いはぃよ……」
なんとか訴えると、少し名残惜しそうな顔をしつつも手を離してくれた。
「いや。面白くて。つい」
私はおもちゃじゃないよ……アニタ……。
「でも、これはまずいんじゃない?」
今度はお腹をつっつかれた。自分でも現実に愕然として、言葉がない。
「二の腕も。脚も。なんか美味しそうになってるよ。ほらほら」
いくら姉妹でも、身体中ベタベタ触られてこんなに言われたら、泣きたくなってくる。
でも、アニタは調子に乗って面白がってるだけだし……。
「あ。でもさ、こっちは増量したんじゃない?」
がしっ。ふに。ふに。
「……思った通り」
ええと、アニタが今掴んで、揉んでいるのは、私の……。
「まー姉、背だけじゃなくてこっちも結構あるよね。みー姉ほどじゃないけど。
あはっ、ふわふわしてる。やわらかーい」
ア、アニタ……!
「や、止め、て……」
声を絞り出す。顔が熱い。
心臓は、破裂してしまうのではないかと思える。
「えっ……?あっ……!」
手を止めて、こちらを見てくれた。真っ赤で、今にも泣きだしそうな私の顔を。
アニタの目から悪戯っぽい輝きが消えて、頬がどんどん朱に染まっていく。
「あ、あたし……。ごめん。まー姉……」
私だって、本気で嫌だったわけじゃない。
でも、あまりに驚いて、ドキドキしてしまったから。
「あたし……戻るね。ごめんなさい……」
うつむいたアニタは、出ていこうとしている。
全然悪くなんかないのに。
私がいけないだけなのに。
「待って……!」
身体はほとんど振り返っていたが、構わず後ろから抱き締める。
「ごめん……。ただ、びっくりしてしまって……。ごめん……」
謝ることしかできないのが、悲しい。
「……あたし、まー姉が好きだし、本当に柔らかくって気持ち良かっただけで、
それだけで、全然、泣かせようなんて思ってなかったの。
ホントだよ……」
「うん……。わかってるから。わかってる……」
片手は髪をゆっくりと撫でながら、耳元に口を寄せて答える。
これだけしか言えないなんて。情けない姉だ。私は。
「まー姉。お願い、してもいい?」
「何……?」
許してもらおうとは思わないが、できることならば。
「このまま、朝までぎゅってしてて?」
「わかった……」
脚を開いて座り、アニタを更に抱き寄せる。
そして、傍らの毛布を二人を包むようにして掛けた。
「まー姉の身体、やわらかくって、あったかい……」
「アニタも、あったかいよ……」
いつも牛乳を飲んでいるからか、アニタの匂いは優しくて甘い感じがして。
「まー姉。あたし、まー姉のこと大好きだからね」
「私もだ。アニタが大好き……」
アニタ。可愛い妹。
取り柄ない私を好きでいてくれる、過ぎた妹。
出会えて、こうして抱いていられるを幸せを、神と、紙に感謝しながら。
私は、とろけるような夢に落ちていった。