アニタは学校に行き、先生は仕事を始め、
私と姉さんだけがのんびりと本を読んでいる。
そんな、いつも通りの時間。
「マギーちゃん。お茶をいれてくれないかしら」
「あ、うん。あれ……?」
立ち上がって台所へと思った瞬間、頭がくらくらして倒れこんでしまった。
「マギーちゃん!?」
姉さんがびっくりしながらも、身体を起こすのを手伝ってくれる。
幸い手は突けたので、鼻をぶつけたりはしなかった。
「ごめん、姉さん。ちょっと、重いんだ……」
正直に話しておく。全く、こればかりはどうしようもない。
「そうなの。仕方ないわね。お茶はいいから、少し横になりなさい」
「うん……。そうする」
素直に甘えておこう。
優しい姉に感謝しながら自室へ戻ろうとすると、引き止められた。
「待って。ここでいいじゃない」
でも、ソファや床を占領してしまうのは申し訳ない。
私は、無駄に大きいから……。
「マギーちゃん、また余計なこと考えたでしょう?悪い癖よ?」
見抜かれた。流石は姉さん。
「膝枕してあげるから。ね?」
満面の笑顔で言われると、断れない。
こうなれば甘えついで。姉さんの望みどおりにしよう。
陽の当たる窓際で、私は姉の柔らかい膝の上に頭を預けた。
太陽の暖かさと、姉さんの温かさ。
だいぶ、楽な気分になる。
「マギーちゃんは全然甘えてこないんだもの。
手が掛からないいい子だけど、ちょっと寂しいわ」
髪を撫でてくれながら、姉さんが言う。
「……そうかな?」
「そうよ。アニタから見れば私たち二人お姉さんだけど、
私にはどちらも可愛い妹なんだから。
マギーちゃんは、アニタちゃんの姉役を頑張りすぎよ」
「確かに、そうかもしれない……」
「ねっ。だからこんな時くらいは妹しちゃいなさい」
「うん……!」
微笑んで答える。手は、自然に姉さんのスカートをぎゅっと掴んだ。
「あらあら早速ね。でも嬉しいわ。ふふっ」
「姉さん……」
「あら?マギーちゃん。その指……」
視線の先は、スカートを掴んだままの左手。
「これ?ああ、朝ご飯を作ってるときに……。
絆創膏は見つからなかったし……」
集中できないときは、うまくいかないものだ。
「もう、すぐ言ってくれればいいのに。ちょっと見せて?」
言われるまま、取られた手を姉さんの運びに任せる。
「深くはないし、血も固まってるから大丈夫ね。
でも、早く治るようおまじないしてあげる」
目を閉じた姉さんが、私の指を口元に持っていき。
かぷっ。……ちゅっ。
私の指はくわえられ、そして離された。
「これでいいわ。……マギーちゃん?」
一瞬でも、姉さんの口の中は温かくて、包んでくれる感じがして。
嬉しいし、とても姉さんらしいけど……。
「顔、真っ赤よ?」
やっぱり、恥ずかしい。
思わず足も縮めて丸くなる。
「ああ、なんだか私まで顔赤くなってきちゃったわ。
もうっ!マギーちゃんのせいよ!」
……私たちは、根の部分では結構似ているのかもしれない。
これは、同じ紙使いであることよりも遥かに嬉しいことだ。
頬を自分でつねる癖を出しながら、まだ何かつぶやいている
姉さんの膝の上で、私はそんなことを考えた。