ったく、なんだってのよ、みー姉もまー姉も。そりゃ、あたしは、自分が落ち着きないってのぐらい分かってるけど、  
だからって追い出さなくってもいいじゃん。  
 もー、こんな時に限ってねね姉もいないし、どうしろってのよ。  
 久ちゃん・・・・は、駄目。いきなり押しかけたら迷惑だもんね。   
 あいつはどこに住んでるのかも知らないし・・・・あー、もう、せっかくの休みでごろごろできると思ったのに!  
 大体、読書の邪魔になるからって理由で、可愛い妹を追い出す姉がいるかっての!  
 ったく、あの馬鹿姉どもは・・・・今度のごみの日を覚えてろよっ。  
 あー、でも、ほんっとに暇だぁ。いい天気だからって散歩したくなるような性格じゃなし、どっか見て回ろうにも  
この辺の地理とか全く分かんないし・・・・・・あー、駄目だ。  
 悔しいけど、帰って謝って、部屋でじっとしとこう。うん、そうだ、宿題だってやんなきゃだし、要は馬鹿姉たちの  
読書の邪魔しなけりゃいいんだよ。  
 っていうか、なんであたしが気を遣わなきゃなんないかなぁ。  
 ま、いいや。帰ろ。  
 ぶらぶら歩いていたけど、目的地ができると歩くのも軽くなる。車の数が物凄い通りを抜けて、  
すんごい豪華なマンションに入る。もともとはねね姉の家なんだけど、最近だと部屋に居ついてる時間は、  
あたしたちの方が長い。その中でもまー姉は飛び抜けていて、もう日の光なんて浴びなくても生きていける  
んじゃないかってぐらい、ずっと部屋の中に引きこもってる。  
 
 人間、お日様を浴びないと不健康になるっていう代表者みたいだ。  
 マンションの扉の前で立ち止まって、ノブに手をかける。鍵はかけないで出たから、開いてるはず。  
「・・・・・・・・・・」  
 あれ、開かない。  
 んん? 読書するためにあたしを追い出した二人が、鍵なんてことに気が回るとも思えないんだけど。  
 もしかして、ねね姉が帰ってるのかな?  
 ・・・・・・・そうだったら、あんま戻らない方がいいかも。  
 ただでさえ炊事・洗濯をさぼりまくってるっていうのに、帰宅したら二人は読書、あたしは追い出されたにも  
拘わらず遊びに出てるって思われたら・・・・うわ、最悪。  
 ぜぇったい、キレるよ。ぶちギレだよ。  
「・・・・・・どうしよ」  
 ベランダから様子だけでも見てみようかな。  
 もしねね姉がいたら、久ちゃん家に押しかけて、匿ってもらおう。久ちゃんには迷惑かけちゃうけど、  
ぶちギレ状態のねね姉に怒鳴られるのを考えると、きっと久ちゃんだって分かってくれるはず。  
 階段を駆け上がって、屋上に出て、そっからベランダを見下ろす。  
 ちょぉっと目立つかもしんないけど、まあ、大丈夫だよね。一瞬だし。  
 屋上から飛び降りて、目的のベランダが目の前に来たら、携帯してる紙を取り出してロープを作る。  
 後はベランダの柵にしがみついて、よじ登るだけ。  
 素晴らしい運動神経を使って無事にベランダに着地できた。目の前には大窓があって、換気のためか、  
窓は開け放されている。カーテンが風に踊ってるけど、その向こうにみー姉・まー姉の姿はない。  
「・・・・あれ?」  
 ねね姉もいないみたい。  
 どうしたんだろ、二人とも。いつもなら、風が通り抜けるリビングで、ねっころがって本を読んでるのに。  
 靴を脱いで忍び足で部屋に踏み込むけど、人の気配がない。みー姉もまー姉も、どこ行ったんだろ。  
「・・ま、いっか」  
 あの二人がいないなら好都合だ。部屋で音楽でも聴きながら、宿題でもやろ。  
 
 冷蔵庫から牛乳のパックを取り出して、それをらっぱ飲みしながら、部屋に向かう。その途中で。  
「・・・・・・・・・・・・・・」  
 なんか、聞こえた。  
 声・・・・だったけど、みー姉でもまー姉でもなかった気がする。なんか、変な訛りがあるっていうか、  
とっぽい印象のする声が聞こえた。  
 あたしの部屋から聞こえたってことは、一緒の部屋のみー姉の友達でも来てるのかな。  
 そろそろ歩いて部屋の前に辿りついて聞き耳を立てると、また間延びした声が聞こえる。  
「・・・・・・?」  
 でも、その声は何か話してるとか、そういう言葉じゃなくて、呻きっていうか・・・・だけど呻き声って  
わりに、声は呑気に間延びしてるっていうか、なんか変な声。  
 なんだろ?  
 扉のノブに触れて、ゆっくりと慎重に、扉を開ける。さすが豪華なマンション、扉が軋むなんてことは  
全くない。僅かな隙間に目を凝らせば、見えるのはみー姉のベッド。  
「・・・・・・・・・・・・」  
 みー姉のベッドに・・・・・・誰かいる。  
 違う、誰かじゃない、二人、いる。  
(・・な、なに・・?)  
 薄い掛け布団が捲れる度に、二人の肌が露になる。二人は、なんかごそごそ動いてて、その動きに  
合わせてるみたいに、上擦った声が漏れてる。  
(・・・・うそ、これって、もしかして)  
 まさか・・・・エッチなこと?  
 学校で色々と聞いたけど、うわー、まさか見れるなんて・・・・って、駄目じゃん!  
 みみみみみみー姉の部屋でそんなことしてるってことは、二人のうち一人って、みー姉じゃん!  
 う、うそ、みー姉ってそういうこととは無縁とか思ってたけど、ちゃっかり恋人とか作ってたんだ・・・・。  
 爆走する心臓の鼓動音と、段々と声の大きくなる二人と、うねるシーツと、絡まってる足と・・・・。  
(・・うぅわ、すっごー。うー、でも相手って誰なのかなぁ)  
 やっぱ身近な姉の相手ってのは気になる。  
 二人は夢中みたいだし、もうちょっとぐらい扉を開けたって平気だろう。ほんの少し、心持ち開けて、  
ベッドの頭の方を盗み見る。  
 ・・んん? みー姉の金髪が上になってるってことは、相手の人は下かぁ。あ、髪は黒、髪型は・・・・うーわ、  
ただ伸びてるだけっぽぉい。  
 むー、駄目だ、こっからじゃ顔までは見えん。  
 
 こうなったら声で判別するしかない。  
 耳を澄ますと、二人の意味のない喘ぎみたいな声が、言葉として聞き取れるようになる。  
「・・んふ、どう?」  
「・・・・は、ぁ・・」  
「・・答えてよ」  
「・・・・・・ぁ、いい、よ・・・・姉さん」  
 ・・・・・・・・・・姉さん!?  
 驚きのあまり扉が開いて、けたたましい音を鳴らした。途端、ベッドの中の二人がびくっと大きく震える。  
 シーツの中から顔を出したのは、苦笑いのみー姉と、頬を真っ赤にしているまー姉だった。  
「・・・・あ、アニタちゃん・・」  
「・・・・・・アニタ」  
 まー姉は誤魔化す時の常套手段みたいに手を頬に当てて、みー姉は真っ赤な頬を隠すみたいにシーツを  
引き寄せて自分の姿を隠す。  
「・・・・・・・・・・」  
 ・・・・えーっと。  
「・・何してるの、二人とも・・」  
 何してるのかなんて一目瞭然だけど。っていうか、あんたらさ。  
「姉妹でしょ!? みー姉もまー姉も、姉妹でなにしてんの!」  
 まー姉は完全にシーツに隠れたけど、そのせいでみー姉は隠れることもできないで、おっきな胸と白い  
肌を見せ付けてる。  
「・・あ、あは、アニタちゃん、これはね・・・・」  
 目を泳がせるみー姉の肌は汗ばんでいて、感じたこともないやらしさが出てる。  
「し、姉妹の仲を深める、コミュニケーション・・・・」  
「・・・・みー姉ぇ・・」  
 あくまで誤魔化そうとするみー姉を睨みつける。  
 みー姉は困った笑顔で目の端に涙を溜めて、もう自分で誤魔化すのを諦めたみたいで、まー姉の  
くるまっているシーツを引っ張っている。  
 でもまー姉は出てくる気配すらない。  
 しばらく、あたしの睨みと、みー姉の泣きそうな笑顔が交錯したけど、折れて素直に頭を下げたのは  
みー姉の方だった。  
 
「・・・・ごめんなさい、アニタちゃん・・」  
 急に弱気になったみー姉の声を聞いて、まー姉もやっとこさシーツから顔だけを出す。  
「・・・・・・姉さん」  
「・・ほら、マギーちゃんも謝るのよ」  
「・・・・うん」  
 まー姉が真っ赤な頬を見せて、あたしと視線を交わらせる。  
「・・・・・・アニタ、ごめん」  
 はぁーっ、と溜息を吐くと、二人の馬鹿姉が体を震わせて申し訳なさそうにする。それを無視して、  
ベッドに歩み寄って、どすんと乱暴に腰を下ろす。  
「・・・・で? 二人はいつからこんなことしてんの」  
 みー姉とまー姉が目を合わせて、みー姉が答える。  
「・・ちょっと前から・・だってマギーちゃんが、こういうことに興味あるっていうから・・」  
「・・・・・・ね、姉さん・・」  
「あー、もう、言い訳はいいから。ったく、人の部屋で隠れてこそこそと・・・・まー、今回は  
珍しいもん見れたから、許すけど・・次にあたしにばれることがあったら、そん時はねね姉にも  
話しちゃうからね」  
「そ、それは駄目よ、アニタちゃん、そんなことしたら・・・・」  
「あー、うるさい! 馬鹿姉たちが変なことしなかったらいいでしょ! ったく・・姉妹だって  
こと忘れてんじゃないの?」  
「・・・・・・ごめん」  
「・・ごめんなさい」  
 
 しゅんとなった二人に、もっかい溜息を吐いて、布一枚で区切ってる自分の部屋に入る。  
「・・ったく、馬鹿姉・・」  
 ベッドにねっころがって、もっかい溜息を吐く。  
 あー、にしてもまー姉が本以外に興味持つなんて・・・・あたしもまー姉ぐらいの年になったら、  
興味持つようになんのかなぁ・・・・。そうなったら久ちゃんと・・・・・・。  
 あー、駄目駄目駄目! ったく、何を考えてんだ、あたしは。  
 と、すぐ真横で、小さな呻き声が聞こえる。強引に仕切りの布を外すと、唇を合わせてる二人。  
「・・・・・・あ」  
 慌てて離れて、みー姉は誤魔化し笑顔、まー姉はシーツにくるまるけど、もう遅い。  
「・・この・・馬鹿姉ぇ!」  
「あひん!」  
 素っ裸でベッドから落ちたみー姉は、無様な悲鳴を上げた。  
 あー、ったく、もう。  
 
                     終わり。  
 
 

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