俺の左脇に黒のセクシーランジェリーの真帆がどん!と乱暴に腰を下ろし、  
反対側の右脇にはピンクのベビードールの智花がちょこんっと座っている。  
 
「もーかんねんしろよ、すばるん! サキがトロトロやっているうちに追い抜いてやるんだからなっ」  
「…………」  
 
散々おあずけをくらったまほまほ姫は大変ご立腹であった。  
隣にいる智花も怒ってはいないが、なんだか機嫌の悪そうな顔をしている。  
 
ちなみにその間にも紗季は嬉々として補習講座を始めているのだ。  
 
「このカメさんみたいな形をしているのが亀頭で、ここのスジみたいになっているところが裏スジよ。男の人はここが一番気持ちいいの。  
 特に長谷川さんはここを触ったり舐めたりされるのが大好きだから要チェックよ」  
 
「ふあ……長谷川さん……ココが大好きなんだ」  
 
「おー。かめさん、ほっぺですりすりしてあげるのも好きだよー」  
 
「はぅぅぅっ。ほ、ほっぺたで!?」  
 
ああ、愛莉の中の俺のイメージがどんどん崩されていっている……。  
 
「こらっ、よそ見すんな! なんだよーすばるん、ひなやアイリーンばっかみてデレデレしてさっ。  
 あたしだってこーんなキワドイの履いてんのに」  
 
ぴらぴら。  
 
真帆が縦に開いたベビードールの裾をぴらぴらとめくる。  
黒い下着の中から眩しいほどに白いおなかと、ギリギリの所しか隠していない逆三角形の黒い紐パンが目に飛び込んできた。  
 
「だぁーーーっ、やめさない!」  
 
だからみえるっ。見えちゃうから、そのパンツ!  
 
透け透けなんだって!  
 
俺は慌てて真帆から目を反らし智花の方を向く。  
……と智花は相変わらず浮かない顔をしていた。  
 
「…………」  
 
「……あの、智花。もしかして、怒ってる?」  
 
「……ふぇ? べ、別に怒ってなんていませんよっ。……ただちょっと……」  
 
「もっかんはすばるんがアイリーンのデカパイばっか見てるからスネちゃったんだぞ!  
 どーやったってもっかんには勝ち目ねーもんな!」  
 
「ち、違うよ! それに真帆よりはあるもん!」  
 
「なにおーっ! よーしっ、ならすばるんに見てもらおう。  
 ねーすばるん、あたしともっかんどっちがおっぱい大きい?」  
 
真帆はぐぐっと俺に向かって胸を突き出して見せた。片や智花は慌てて胸を隠す。  
突き出して見せた……はいいが、実際には全然突き出ていない。  
 
「……いや、そもそもその下着の上からじゃ判別できないぞ。  
 ゆったりした作りだし、レースとかたくさん付いてるだろ?」  
「おおっ、それもそーだ。じゃーはいっ!」  
 
ぺろっ。  
 
「!!!!!!!」  
「真帆っ!」  
 
こともあろうか真帆はブラの部分を持つと、そのままぺろっとめくってしまったのだ!  
即座に智花がスティールの手際で元に戻したが、俺の目に白い肌に浮かぶピンク色の物体が  
しっかりと焼き付いてしまった。  
 
「きゃっ! すごいっ。今ビクンッて跳ねた!」  
「ふわわわわ……」  
「よーしよーし。いーこいーこ」  
「なんだ、すばるん。ちゃんとあたしんでも反応するんじゃん。……それとももしかして、実はひんにゅー好き?」  
「昴さん……」  
 
違う、違うんだ! これはびっくりしたから反射的に反応してしまっただけであって、決して――。  
ああ智花、そんな目で俺を見ないでくれ!  
 
「昴さん……ひどいです。先ほどから愛莉やひなたや紗季にばっかり構って。  
 ……真帆にまでそんな風になっちゃうのに……私には……」  
 
智花がもじもじと指でのの字を書く。  
 
はうっ、でもそこっ、床じゃなくて俺の胸だから! しかも乳首付近!  
 
「なっ、なに言っているんだ! 智花だってすっごく魅力的だよ。  
 その下着だってとても可愛いくて似合っているし……  
 それに突然あんなもの見せられたら、ついびっくりしてドキッて反応しちゃうよ」  
 
「ドキッ……ですか?」  
 
「うん」  
 
「…………」  
 
何を思ったのか、智花はすくっと膝立ちになって俺の方を向く。  
そして俺が自分を見ていることを確認すると、ベビードールの裾に両手をかけ――  
 
ぴらっ。  
 
「ぐふっ!」  
 
めくった。  
膝立ちだからレースの下、智花の健康的な両太ももの間の布地がよく見えた。  
 
「ひゃんっ! ま、また。またビクンッてなった!」  
 
「長谷川さん、相変わらずすごい元気ですね。ふふ、これは楽しみがいがありそう」  
 
「おにーちゃん。あとでひなのも見せてあげるね。おっぱいと、ぱんつ。ひなのときもびくってしてね」  
 
見せたのはほんの1秒か2秒。  
その後智花はぺたんっと尻もちをつくように座ってパンツを隠した。  
 
「……うぅ、すっごく恥ずかしかったけど…………昴さんがちゃんと反応してくれて嬉しいです……」  
 
照れ笑いのようなものを浮かべて、智花は安心したようにほっと息を吐いた。  
 
智花! 君のパンツはレースの下はすっごい鋭角な切れ込みになっているんだぞ!  
履いた時気付かなかったのか!?  
 
……でもあの布の幅で見えないってことは……やっぱりまだ生えてないんだろうな……。  
 
「……真帆、言っとくが同じことをしようたって、俺は見ないぞ」  
 
「ちぇーっ。すばるんのケチンボ。あたしの方が露出エグイのになんでダメなんだよ―。  
 やっぱあれ? ちらりずむがいいの?」  
 
……君のはチラリズム以前に正視できないから。  
 
「ま、いーや。そんなもん、あとでたっぷり直で見せてやるんだから。  
 それより……すばるん――」  
 
真帆がくっと身を乗り出して俺に覆いかぶさってきた。  
その目が――妖しく光る。  
 
「――キス――しよ。べろちゅー。サキにしたのよりも、ヒナにしたのよりも、ずっと濃いの……」  
 
かぱっと開いた唇から、まだ生まれたてのような新鮮なピンク色の舌が蠢いていた……。  
 
 
舌舐めずりをした真帆が俺に襲いかかる!  
 
「…………」  
「…………」  
「……で、どーすればいいの? すばるん」  
 
がくっ。  
 
「……真帆っお前な、わかってないのにやろうとしてたのかよ」  
「んなこといったって、したことなんだからしょーがないじゃんか!」  
 
ぷくーと頬を膨らませて文句を言う真帆の姿に思わず笑みがこぼれる。  
肩すかしを食らった形だが、そんな真帆の姿に少しだけ安心している自分がいた。  
 
「……そうだな。とりあえず、キスしよう。真帆の好きにしていいから、最初はキスから始めよう……」  
「キス? ……うん。わかった」  
 
上にのしかかった真帆が目を閉じて、ゆっくりと顔を降下させてくる。  
俺も礼儀として瞼を閉じて真帆の唇を受け入れる……。  
 
「ん……」  
「ふぅん……!」  
 
相変わらず真帆の唇はぷりぷりして弾力に富んでいる。  
上から覆いかぶされているから真帆の二つ結びの髪の毛がふさっと垂れて少女特有の甘い匂いを発する。  
 
好きにしていいと言われた真帆は、強く唇を押し当てた後、口を開いて俺の口をついばむように動かしてゆく。  
 
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……」  
「……あむ……ふぅん! ちゅぅ……」  
 
真帆の口の動きに合わせて、俺も口を動かし、彼女の唇を吸う。  
実際真帆の唇の感触は独特のものがあって、気がつくとそのぷりぷりの唇に  
どんどんのめり込んでしまいそうになる。  
 
「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」  
「んあっんあっんあっんあっ!」  
 
口を吸うたんびに、真帆の瞳孔がどんどん開いていく。  
まだ1分もたっていないというのに……俺は少し強引に顔を横に向け、唇を離した。  
 
「んあっ……はえ?」  
「真帆、ちょい待ち。お前また意識飛びかけてるだろ?」  
「……はあはあ……そんなこと……はあ……ない……」  
 
はあはあと荒い吐息を繰り返す真帆……。  
その瞳はすでに虚空をみつめている……。  
 
……最弱だ。  
運動神経抜群で、バスケでも物凄い上達ぶりを見せている真帆だが、  
こと性分野においては部内最弱のようだった。  
 
それにしてもこんなにキスに弱くて大丈夫かな、この子。そっちの方が心配だ。  
お金持ちのお嬢様なんだからキスひとつで失神して誘拐でもされたら大変だ。  
いやそれよりもこんな可愛いんだから、それこそ変質者にでも会ったら、  
キスされてそのまま犯されて監禁されて、もう二度とお嫁にいけない体にされちゃうぞ。  
 
「……………………」  
 
……自分のことを完全に棚に上げているのはわかってるが、心配なことは確かだ。  
 
「真帆。とにかく一旦休憩な。少し休んで落ち着いたらまたすればいいんだから……な?」  
「……うん。……わかったぁ」  
 
そのまま、くたぁ〜と脱力して俺の胸にもたれかかる真帆。  
 
やれやれ。  
こういう真帆も可愛いっちゃー可愛いが、どうも調子が狂う。  
やはり真帆は元気なのが一番…………あれ?  
 
「……ぶー……」  
 
「……あの、智花さん? 随分御機嫌が麗しくないようで……」  
 
「……ふぇ!? いえ、そのっ、あの、そんなことないですよ!」  
 
「長谷川さん、トモは嫉妬深いんですから、ちゃんと気をつかってあげなきゃ駄目ですよ」  
 
「え、そーなの?」  
 
「ふぇええち、違います! ――紗季! ひどいっ。そんなこと昴さんに言うことないでしょ!」  
 
「いや長谷川さん超がつくほど鈍感なんだから、そこははっきりさせておいた方がいいと思うわよ。  
 トモもいい加減、長谷川さんに良いとこばっか見せようとしないで、自分の感情に素直になったらどう?  
 『真帆ばっかりにキスしてないで私にもしてください』って」  
 
「……してほしいの、智花?」  
 
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………………………………………………………はい」  
 
智花は顔を俯かせて観念したようにコクンと肯く。  
うわ、紗季の言う通り、全然気付かなかった……。  
智花は聞き分けの良い子だとばかり思っていたから……。  
 
「もしかして、今まで他の子たちとキスしているのって、智花イヤだった?」  
 
「……嫌ってわけではないです。ちゃんとみんなとも話し合ったし、真帆も、紗季も、愛莉も、ひなたも、  
 私にとって大切な友達だから。……でも、実際に目の前でしているのを見ると……ちょっと……」  
 
なんてこった。知らず知らずのうちに智花を苦しめていただなんて!  
そういやこの子は意外と負けず嫌いだったんだ。しかもそのくせ俺には遠慮ばっかりして  
自分の感情を隠そうとするから、俺が気付いてあげなきゃいけなかったのに……。  
 
「なら、こんなことは今すぐ止めよう。俺は智花に嫌な思いをさせてまでこんなことをしたくない!」  
「いえっ、それはもっと嫌です! せっかく昴さんと……想いが通じ合えるっていうのに……。  
 それに私だって納得しているんです。みんな昴さんのことが好きだって気持ちは一緒なんだって。  
 ……ただ、感情の一部がざわつくだけで……」  
「智花……」  
「だから……あの……ひとつだけ約束して頂ければ、その感情にも整理がつきます」  
「わかった。何でも言っていくれ。俺ができることだったら、何だってする!」  
「……4人にしたこと、全部私にもして頂けないでしょうか。  
 それなら、変な嫉妬もしないですむと思いますから……」  
 
 …………………………はい?  
 
「……ぜんぶ?」  
「はい。ひとつの漏れもなく。そうすれば安心できると思うんです」  
「……智花にしちゃっていいの?」  
「……ふぇ。そ、そんな凄いことをなさってるんですか?」  
 
……いけない。この約束はしてはいけない。  
絶対に後でとんでもないことになるぞ。  
特に紗希とかひなたちゃんとかにした……いや、されたことを俺から智花にするなんて……  
 
犯罪だ。  
 
加速度的にエスカレートするからな、あの二人の場合。  
 
それに愛莉にしかできないことをしてしまった場合はどーなるんだろう?  
 
「あの……やっぱり、こんなお願いご迷惑ですよね。いいんですっ、忘れてください!  
 って、そもそも私嫉妬なんかしてませんから。ほんと、気にしないでください!」  
 
無理やりに作った智花の笑顔が、事実を知ってしまった俺には痛々しく見える。  
……そうだ、なにを迷っている。俺は智花にそんな笑顔をしてほしくはないんだっ!  
 
「……わかった。約束する。でも智花が嫌がったり、智花を傷つけてしまうようなことはしない。……それでいい?」  
「――はい。ゼンゼン構いません! 昴さんのその言葉だけで不安なんて吹き飛びます!」  
 
涙ぐみながら見せる智花の笑顔は、今度は本当に心からのものだった。  
その笑顔をみて、俺は自分の決断が正しいものだと思った。そう――長くは続かなかったが。  
 
「ふふ、良かったわね。トモ。……でも長谷川さん、嫉妬はなにもトモだけの専売特許じゃないんですよ」  
 
「へ?」  
 
「今の約束、もちろん私ともしてもらいますからね。私だって、他の子がして  
 自分がされてないことがあるなんて、我慢できませんから。特に真帆とか!」  
 
「おー。おにーちゃん。ひなも、ひなにもみんなにしたことぜんぶして! やくそく、だよ?」  
 
「……冗談……だよね?」  
 
しかし紗季もひなたちゃんも、ウンとは肯いてくれなかった。  
 
「わ、わたしは…………ごめんなさいっ! まだそこまでの覚悟はないです。……恐いから」  
 
紗季とひなたちゃんを見て震えながら愛莉は言う。  
このふたりのキスシーンを見ていた愛莉には、さすがにそのヤバさが理解できたらしい。賢明な判断だ。  
てかシャレになってないぞっ、これ!  
 
「大丈夫ですよ、長谷川さん。私より過激なことするのなんてひなくらいなんだから。  
 結局私たちにしたことをトモにしてあげればいいだけの話です」  
 
「むー、なに? その上から目線……」  
 
「ふふ。悔しかったらトモも長谷川さんが驚くようなことをしてあげることね」  
 
やめてくれ、紗季! これ以上智花を炊きつけないでくれ!  
下手したら智花は女の子として取り返しのつかない行為に及んでしまうかもしれないじゃないか!  
つーかもう早くも後悔なんですけど……。  
 
「……ふぇ? みんな……どーしたの?」  
 
唯一の救いは真帆が上の空で何も聞いていなかったことだけだ。  
この諍いに真帆が加わったことを考えるだけで……身の毛がよだつ。  
 
ベッドに縛られた状態で体を震わせる俺に、そっと智花の顔が近付く。  
 
「ええと、それではまず……べろちゅーを、していただけますでしょうか……」  
 
なぜだかこの時俺の脳裏に、できない約束はするんじゃない!という葵の言葉と、  
男なら一度した約束は死んでも守れ!とミホ姉に体に教え込まれた記憶が思い出された。  
 
ごめん、葵。  
どうやら俺は、ルビコン川を渡ってしまったらしい。  
 
 

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