コンコン
「……昴さん、ちょっとよろしいですか? 午後のことなんですけど……」
「んー、はいはい。いま開けるよ」
ドアを開けると女バスの5人が全員揃っていた。
ニコニコ顔の真帆、紗季、ひなたちゃん。
緊張した顔の智花。
涙目の愛莉。
……俺の脳に危険信号がともった。
「やあ、みんな。午後なんだけど、せっかくだからみんなで外に遊びに……」
「あ、あのっ、私たち、実は昴さんに折り入ってお願いがあってきました!」
先手をうった俺の言葉を遮って、智花が緊張しまくった声でしゃべり始める。
不吉なものを感じつつも、智花のこわばった表情に、俺はとりあえず耳を傾けることにした。
「……お願いって、いったいなに?」
「そ、それは、その、あの、昴さんには、ご迷惑だと思うのですがっ……」
「……うん、とりあえず、言ってごらん。……智花のお願いだったら、
俺のできることならたいていのことは聞いてあげるよ」
「えーとっ、その、あの、〜〜〜っ」
顔を紅潮させて一生懸命言葉を絞りだそうとしている智花を、俺は優しく促す。
この子がこんなに伝えようしていることならば、コーチとして、年長者として、
その言葉を聞いてやらなければならない。
そう思った瞬間、智花が意を決して叫んだ。
「――私たちに、えっちなことを、教えてくださいっ!」
俺の顔面が硬直した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ゴメン!」
それ、たいていのことの範囲外!
ソッコーでドアを閉める!
「あっ!」
――危ないっ!
思わず反射的にドアを閉めてしまったが、間に割り込んできた手や足をみて、
寸前のところでストップする。
くそっ、残る脱出口は、――窓か!?
この際、危険は覚悟の上だ!
ドアから手を離して、すぐさまUターン。
後ろからドタドタと人の入ってくる音が聞こえるが、当然無視!
「――すばるんっ、つかまえたーーーっ!」
「なにぃ、速い!」
ベッドの脇まで進んだところで、真帆から腰にタックルをくらう。
しかし、しょせん小学生。そんな力で倒れたりは……。
「おーっ、ひなもあたーくっ!」
「ちょっ、ひなたちゃん!」
運動苦手のはずのひなたちゃんまで、足にタックルをしてきた!
もちろん彼女の細腕に俺を押さえられる力などないが、
下手に抵抗すればひなたちゃんの顔を蹴ってしまう!
結局俺は二人をぶら下げたまま、ベッドの上に転がるしかなかった。
「もーっ、なんで逃げるんだよぉー、すばるん!」
「当たり前だ! お前らいったい何言い出すんだっ!」
「おー、おにーちゃん、つかまえたー」
俺の腹の上に馬乗りなり、ぶーっと文句を言う真帆に、当然の抗議をあげる。
ひなたちゃんも足の上に乗っているので、二人がかりでベッドに拘束されている。
「ふぇ……は、恥ずかしい……やっぱり……言うんじゃなかったよぉ……」
「と、智花ちゃん、大丈夫……?」
「だって、長谷川さんにお願いするには、トモが一番適任なんだもん」
「だ、だからって、あんな恥ずかしいこと言わせるなんて……。
ふぇ……昴さんに、変な子だって思われちゃたよぉ……」
「大丈夫、大丈夫。長谷川さんは、こんなことでトモを変な目でみるような人じゃないわよ。
それにトモだって全く本心じゃないってわけじゃないでしょ」
「うぅ、でもー、でもぉー……」
顔を真っ赤にしてへたりこむ智花を、愛莉と紗季が慰める……。
まあ、また真帆か紗季が発起人になって、智花を巻き込んだんだろうけど
……智花、そろそろ断るということを覚えようね。
「真帆っ、とにかく、人の上からどけっ! ひなたちゃんも!」
「すばるんが、ちゃんと教えてくれるって言ったら、どいたげるよ」
「だから何でそーなるんだ! お前ら小学生だろ、まだそーゆーことは早い!」
「長谷川さん、これだけITが発達した時代なんですから、小学生だって、ある程度の
性的知識はもってますよ」
「だったら、別に俺なんかが教える必要はないだろっ。ネットとかの知識で十分だろう!」
「いえ、ですから知識だけなんです。実際に試す機会がなったのですが、今回こうやって
長谷川さんのお宅にお邪魔することができたので、この際いろいろ実践してみようかと」
枕元までやってきた紗季は、上から俺を見下げてにこりと微笑んだ。
な、なんて恐ろしいことをおっしゃるんですか、君は。
「か、仮にそーだとしても、そういうことは好きな人としか、しちゃいけないんだ!」
「うん。だから、すばるん。あたしたち、みんなすばるんのこと大好きだから」
ちーがーうーっ!
君たち小学生のいう好きと、俺のいう好きでは、天と地ほどもかけ離れているんだ!
「す、好きかどうかは置いておいて、興味があって、それに応えてくれる人がいるならば、
ちょっとくらい教えてくれても良いと思いません? 私たちだって、いつまでも
子供ではいられないんですから。いろいろと勉強して、大人になっていかなきゃならないんです」
紗季……その学習意欲は評価するが、それは、勉強とバスケだけに向けてくれ。
こんなの無茶苦茶だ!
「だいたいっ、俺の意志はどうなる!? こんな無理やり押し倒されて、
俺が喜ぶとでも思っているのか!?」
「…………え? ……すばるん、うれしくないの?」
「当たり前だ!」
「え、だって、サキ?」
なぜか真帆は困ったように紗季に助けを求める。
紗季も少し驚いたような顔をして、確認するように俺の顔に近付いた。
「でも長谷川さん、今朝、あんなに気持ちよさそうにしてたじゃないですか」
「そ、それは……君たちが、勝手にしたことであって、……俺は知らない……」
「……知らない?」
怪訝そうにしていた紗季が、はっと思いついたように声を上げた。
「……あの、まさか長谷川さん、私たちが気付いていないとでも思ってたんですか?」
「気付いていないって…何を?」
「長谷川さんが途中から起きていたことです」
……うそ。
嘘だ、お願い嘘だといって!
いや、これはきっとカマカケだ。
気付いていたならその瞬間大騒ぎになるはずだ。
危ない、危ない、あやうく引っかかる所だった。
「なにをいっているんだいさや。そんなことあるわけないじゃないか」
「そんな棒読みで反論されても……それに、ねえ」
「だってすばるん、すごい腰浮いてたぜ。うなってるのも、丸聞こえだったし」
「そもそもあの状態でまったく起きないなんて、逆に変ですよ」
「それに証拠だってあるぜ! ねーアイリーン、あれ取って―」
「えぇっ、……あ、うん」
証拠?
真帆はそういうと、愛莉から小さな箱のような物体を受け取って、俺に見せる。
「……これは……なにかな?」
「えーーっ、すばるんそんなことも知らないのかよ。
これはビデオカメラっていうんだぜ。しかもこいつは最新型で
超小型で超軽量、操作も簡単で子供でも使えるんだぜ!」
むろんそんなことは知っている。
俺が知りたいのは、それがなぜここにあるかというとこだ。
おい、まさか、嘘だろ!?
「お前等、まさか俺の部屋盗撮してたのか!?」
「え、違う違う、すばるん。ちゃんと見てよ」
真帆はそう手を振ると、俺の目の前にモニターを
持ってきて再生ボタンを押した。
『えー、ではこれより、すばるんの寝起きを突撃いんたびゅーしちゃいますっ!』
『真帆、やっぱりやめよーよ。昴さん、怒っちゃうよっ』
『あんだよーっ、もっかんは毎朝すばるんの部屋に忍びこんでるから
いいけど、あたしらはすばるんの寝起き姿が見られるチャンスなんて
めったにないんだからなーっ』
『してない、してないっ。忍び込んでなんかいないもんっ!』
『ムキになって否定するところが怪しいわね』
『おー、ひなも、おにーちゃんのねおき、みたい』
『そ、そんな、男の人の部屋に入るなんて……はぅ』
『それでは、いざ突撃――――っ!』
「ほら、ちゃんと持ちこみだぜ! 設置なんかしてないぜっ」
「変わらんわーっ!」
まてまてまてっ!
ほんとかっ、本当にマジかっ!
ホントに今朝のことをビデオに撮られていたのか!?
いや、そうだ、彼女たちにだって良識というものがあるはずだ。
きっと撮ったのは最初だけで、肝心のシーンは自制して撮っていないはずだ!
「ねえねえ、ほら、みてみて。ここなんて、よく撮れてるだろ、すばるん」
『……すりすり……すりすり……
おー、おにーちゃん、びくんびくん、してるー』
…………こいつら、しっかり撮ってやがる。
それもよりによって、ひなたちゃんのほっぺですりすりされているところなんか
見せやがって!
ああ、やばい。思っていた通り、これは凶悪な光景だ。
ひなたちゃんの、まだあどけない輪郭を残す白いほっぺたに、俺のモノが擦りつけられ、
うずもれている。……シュールだ、シュールすぎる。
「ほらほら、ねっ、すばるん、すごい腰浮いてるでしょ?」
…………ええ、本当に。
まるでブリッジでもするかのごとく、すさまじく浮いてますね、腰が。
これは……ひなたちゃんに舐められて、絶頂寸前までいったシーンですね。
その後も、イキそうになる度に腰が浮いて、痙攣して、……ああ、確かに
うめき声も聞こえる。……これはどうみても、起きてるって分かるよな。
……どうりで後半、動きが大胆になっていたわけだ。
気付いているって分かってれば、そりゃ遠慮もなくなるよな。
そして――
「!!!!!!!!!」
うわっ、モロ見ちゃったよ。
真帆と智花のW顔コキシーン。
ああ、ホントに挟まれちゃってる……。真帆と智花、二人の顔が、あの元気な笑顔と、
俺を見つめる優しい微笑みが、俺のそそり立ったモノを、両側から…………。
あぁぁ、凄まじい罪悪感。
しかも、その挟んでいる顔のひとつが、目の前で同じシーンを見てるって、どういうことよ!?
「……うわぁぁ」
そして、最後のシーン――射精。
……なんつー量だしてんだっ、俺。
しかも、しかも、顔に、真帆と智花の顔に、全部、かかっている……。
小学生の、女の子の、とても大切な、教え子の、顔を、自分の精液が、真っ白に、塗りたくって……。
「……はは、なんか、こーしてすばるんと一緒にみると、さすがに恥ずかしーな」
「!!!!!!!」
――ごめんなさいっ、もう死にますから、お願いですから、許してくださいっ!
もう駄目だ。俺、もう駄目だ。立ち上がれないよ……。
「あれ!? どしたの、すばるん? なんか、泣いてるけど?」
「……こ、こんなものを一体いつの間に……」
「ああ、ほとんど私が撮ってました。真帆とかひなに渡すと画面がブレまくるし、
智花は長谷川さんのに魅入っちゃって全然協力してくれないから。
どうです、構図とか完璧でしょ?」
……ええ、ほんと。いつでもAVカメラマンになれる腕前ですよ、紗季さん。
特にほっぺたスリスリのシーンとかね、わざわざ枕元まで移動して、
男の目線でとるなんて、……キミ何者よ。
そういえば、紗季は指でつんつんしていただけで、それ以上触ってこなかった。
……つんつんだけでも十分凶悪な触り方して、しかもズームで撮ってたけど……。
それに、後半は真帆と智花の行為にほとんど絡んでこなかったが
……まさか撮影係だったとは……。
ん? 後半絡んでこなかったといえば、もう一人……。
「……ぶっ」
動画からその人物を探していた俺は、とんでもないことに気づいてしまった。
「ひ、ひなたちゃん?」
「おー、どーした、おにーちゃん」
俺に呼ばれて、ひなたちゃんはベッドからひょいっとおりると、
トテトテと枕元までやってきた。
……映像の中で、その舌ひと舐めで俺を決壊寸前に追い込んでから、
まったく俺に触ってこなかったひなたちゃんは、なんとその後、ずっと俺の枕元にいたのだ。
そして良く見ると、俺の頭からかぶさっていたはずの布団の入り口が少し開いて、
ひなたちゃんはその隙間じっと見つめていた。
つまりひなたちゃんの位置から、俺の顔が見えてた可能性があるということだ……。
……気付かなかった。
いや、あの時は射精を我慢するのに精いっぱいで、細かいことなど気にしてなかった。
俺はギギギ……と首をまわして、ひなたちゃんを見る。
ひなたちゃんはキョトンとしたまま、俺を見つめている。
「ひ、ひなたちゃん、あの……さ」
「おー、なーに、おにーちゃん?」
「ひなたちゃんは、もしかして、今朝、俺の顔、ずっと見てたの?」
ゴクリと喉が鳴る。
……ちがう。違うと言ってくれ! そうだ、あんな少しの隙間じゃ、暗くて
俺の顔なんか見えたはずないんだ! ああ、でもじゃあなんで、彼女は俺が射精するまで
ずっと枕元を離れなかったんだ!?
ひなたちゃんと俺の間に沈黙の時が流れる。それはとても長く俺には感じた。
そして悠久ともいえる時間がたった後、ひなたちゃんは俺の質問にYESともNOとも答えず、
ただニッコリと笑って……。
「おにーちゃん、とってもかわいかったよ」
「!!!!!!!」
み、見られてた!
ひなたちゃんに、俺のあられもない顔を全部見られてた!
小学6年生の女の子たちに寄ってたかってナニをいじられて、悶えて、あまつさえ
イってしまった顔を、全部見られてた!
この子の純粋無垢な心のメモリーに、俺の痴態が決して消えない記憶として残ってしまったなんて!
ああ……ビデオにとられていたことよりも、なんかこっちの方がよっぽどショックだ……。
「――とまあ、御覧の通り、あれだけ散々いじられても、注意もせず、止めもせず、
気持ちよさそうに私たちのなすがままになって、最後には射精までしてるんですよ。
これって私たちの行為を素直に受けて入れくれているものだとばかり思っていたのですが、
……違ったんですか?」
「…………違いません…………」
もはやあの映像の前には、どんな弁解も意味をなさなかった。
「では、私たちのお願い、聞いてくれますね?」
「…………はい……」
言いたいことは山ほどあったが、自分にその資格も、気力もないことは明らかだった。
しかしそれでも、人として、男として、最後の抵抗を試みるっ。
「……でも、今日一日、今日一日だけだ。後は絶対しないっ。
それと、あの動画は全部消せっ!」
「えーーーーっ! せっかくアイリーンのために撮っておいたのにーっ!」
「うそっ! わ、わたし、見ないよっ。見ませんからっ、長谷川さん!」
「今日一日は、さすがに短いですよ。せめて明日までにしません?」
「でもほら、昴さんも可哀想だし、今日一日でいいんじゃない?」
「おー、ひなはねー、おにーちゃんといっしょなら、いつでもいーよ」
「……では、一日という点をとって、今から24時間、長谷川さんは
私たちに……性に関することをいろいろ教えていただきます。
その代わり、今朝撮った映像は複製を含めてすべて消します。
それでいいですか?」
……こいつら、すでにコピーをとっておいたのか。危ないところだった……。
しかし、いくら24時間と言ったところで、母さんが帰ってくれば、さすがに
そういうことはできないはずだし、夜だってこの子たちは寝てしまうはずだ。
実質、今日の午後と、明日の朝を乗り切ればいい。
よしっ、勝てる、勝てるぞっ、この勝負!
「……わかった……」
こうしてわたくしこと、長谷川昴の、苦悩と快楽にまみれた長い長い一日が
始まったのであった。