目が覚めると、そこは闇の中だった。
……なんだ、いつの間にか夜になってしまったのか?
しかしそれにしては蒸し暑いし……ええと、布団布団……。
……ふにん。
手を伸ばしたら、布団とは違う、何か柔らかなものにあたった。
「ふぇっ!?」
「え!? な、なに!? 今の?」
「あ、長谷川さん、お気づきになられたんですね。良かったあ」
「おー、おにーちゃん、だいじょーぶ? ひな、心配しちゃった」
「きしし、ヒナが気絶させたんだもんな。しかも2回目だし」
「そういうあんただって一回やってるでしょ。しかもキックで」
すぐ近くからみんなの声がする。でもなんか反響しているような……。
それに今の柔らかな感触はなんだったんだ?
「す、す、昴さん、お、お目ざめになられて、なによりです……」
智花が何故か恥ずかしそうに小さな声で話し掛けてきた。
ちょうど今の柔らかな感触がした方向だ。
「うん。……それにしてもどうしてこんなに暗いんだい?
それに今の感触は……」
……ふにん。
「ひゃんっ!?」
「え? 智花?」
手を伸ばすと再び柔らかいものに触れた。
……この柔らかいのは、……もしかして智花の体?
その事実が頭に浸透してくるにつれ、だんだんと気を失う前のことが思い出されてきた。
「……ここは風呂か?」
「そーだよ。すばるん起きてくんないから、運んでくるの大変だったんだかんな!」
「おー、みんなで運んだ」
「そ、そっか。ごめんね」
ん? 今のは俺が謝る場面なのか?
「……ということは、目の前が暗いのはもしかして……」
恐る恐る手を動かして自分の顔を確認してみると、
案の定、そこには目隠しのタオルが巻いてあった。
……つまり俺は気を失った後、風呂場に運ばれて、目隠しをされたということか。
……たぶん裸に剥かれた後で……。
「なるほど、わかった。……で、重要なことを確認させてくれ」
「はい、なんでしょうか? 長谷川さん」
「俺が目隠しされているからって……まさかみんな裸ってことはないよね。水着とか付けているんだよね?」
いちるの望みを託して聞いたのだが、答えは――
「ふふ、何をおっしゃっているんですか、長谷川さん。
ここまできてそんな野暮な真似をするはずないじゃないですか」
「フロは裸と裸のつきあいなんだから、マッパでトーゼンじゃん!」
「す、昴さんとお風呂に入るとは思っていなかったから、水着は持ってきていないんです……」
「わたしも……それに去年の水着、む…………小さくなっちゃって……その……まだ買ってないんです」
「へんなおにーちゃん。おふろは裸ではいらないと、おからだ洗えないよ?」
……はい。ごもっともです。
「それに裸だってことは、つい今し方、トモに触って確認したでしょう?」
「ええっ!? と、智花、ゴメン! ……でもどこを触ったの?」
「ふぇっ!? それは、あの……その……か、肩です!」
あれ? 肩にしてはやけに柔らかかったような……。
「きしし、肩かー。まー肩って言ってもおかしくないよなー。
もっかんの場合」
「ま、真帆だって、どこから肩でどこから胸かわからないじゃない!」
「まーそーだけど。ねー、サキ!」
「きょ、境界線くらい、ちゃんとわかるわよ!」
……ようはとてもデンジャラスな部分を触ってしまったんだな。
申し訳ない、智花。
しかしこれで確定した。
俺は今、目隠しされた状態で、全裸の女の子五人と一緒にお風呂に入っているということだ。
……最悪だ。
いや、そんなことをいうのは彼女達に失礼かもしれないが、
それでも俺にとっては最も避けたかった事態に違いない。
てゆーか、さっきから太ももの両側からこれまた柔らかな感触を感じるんですけど……。
うちの風呂場は狭いわけではないが、小学生五人、高校生一人が広々と入れるほど大きいわけではない。
俺は浴室の壁にもたれかかるように座らされているから、
この太ももにあたる感触は勿論、密着している誰かと誰かの柔肌であろう。
「ええと、俺の前にいるのは、智花と……紗季かな?」
声のする方角からいうと、向かって左に智花、右に紗季がいる。
これだけ近ければまず間違うことはないだろう。
……問題は裸の女の子がそれだけ至近距離にいるということだが。
「ふふ、あたりです。真帆とひなは長谷川さんにご迷惑をかけたので、湯舟スタートです」
「おー、おにーちゃん、ごめんなさい。ひな、反省してます」
「うー、チンコ噛んだのは悪かったけどさー。結局サキが先にしたいだけじゃないのかよっ」
謝罪と抗議の声が湯舟の方から聞こえてくる。
うーん、こちらは手前にいるのがひなたちゃんで、その後ろが真帆かな?
「いや、ひなたちゃんが謝ることはないよ。むしろ俺の方こそ……」
そう言って声がした方に手を伸ばすと――。
……ぽよんっ。
「きゃあああっ!?」
「ええ!? あ、愛莉? ご、ごめんっ。俺、見えなくて」
「い、いえ、わたしこそよけなくてごめんなさい」
どうやらひなたちゃんの前に愛莉がいたようなのだが……
なっ、なんだ今のは?
あんな柔らかいところが人間の体にあったか?
「すげーな、すばるん! 目隠しされているのに、さっきから確実におっぱいばっかり触ってるじゃん。それとも実は見えてんの?」
「そ、そんなわけないだろ! 声のする方に手を伸ばしただけだよっ。
……って、おっ――!? ご、ごめんっ、愛莉!」
「い、いえっ、ほんと、ちょっとでしたから、き、気にしないでください!」
しまった。なんたることだ。
しかしこれで、だいたいの配置がわかったぞ。
左側に湯舟、右側に洗い場があって、湯舟の中に手前から愛莉、ひなたちゃん、真帆の三人、
洗い場に俺が壁に背中をつけて座り、その左に智花、右に紗季がいるということか。
……で、みんな裸……と。
下手に手をのばせば、ふにん、ぽよん、と女の子の色々な柔肌に触ってしまうということだ。
目隠しで女の子たちの裸体を視界におさめないのがせめてもの救いだが
(たぶん目を開いた瞬間にみんなの裸が飛び込んできていたら、俺は襲い掛かるか再び気絶するかのどちらかであったろう)
これでは手を出して制止することが出来ないじゃないか!
そして狭い浴室にむせ返るように溢れる女の子の匂い……。
やばい。さっきのひなたちゃんのアソコの匂いをかいだせいで、
かなり匂いに敏感になっている。
……でもほんと、すっごくいい匂い。
……女の子って、こんないい匂いがするものだったのか……。
……ん? でもこの目隠しって……。
「……ねえ、紗季。この目隠しってさ、その気になれば自分で取れるんだから、あんまり意味ないんじゃないか?」
俺は例によってこの状況を作った首謀者であろう紗季に疑問を呈した。
縛られているのならまだしも、こうして両手が自由ならば簡単に取ることができる。
そもそもタオルだからピシッと縛られておらず、激しく動かせばそれだけで外れてしまいそうだ。
「そこは長谷川さんを信用して……と言いたいところですが、
実際にはただの建前ですね。最低でも目隠しくらいしなきゃ
トモと愛莉は恥ずかしがって一緒に入ってくれませんでしたし」
「それは……普通恥ずかしいでしょう」
「私だって恥ずかしいです! でもここまでしておいて
自分たちだけ脱がないのは不公平でしょう?
そ・れ・にっ」
右の耳元にふっと濡れた吐息のかかるのを感じた。
「お互い裸にならなければ、次のステップに進めないじゃありませんか」
「なっ、紗季!」
「ふふ、トモも愛莉も自分の裸を見られるのが恥ずかしいってだけで、
長谷川さんとお風呂に入るのは嫌じゃないんですよ。
……恥ずかしがる理由は真逆ですけどね」
真逆?
言っている意味がよくわからない……と、剥き出しの右肩に紗季が手を乗せて体を寄せる。
ちょっ、それ以上はヤバイ! 君いま裸なんでしょ!?
「だから、長谷川さんがお好きなときに、タオルをとってしまわれて構わないんですよ。
入口は私がガードしているので逃げられませんし。
二人の裸を見て、ちっとも変じゃない。とってもかわいいよって褒めてあげればいいんです」
耳たぶに紗季の熱を帯びた吐息があたる。
闇に閉ざされた中で、そんな熱い息遣いで諭された日には、そりゃ条件反射的に頷いてしまう。
「……わかったよ。紗季の裸を見た時には、ちゃんとかわいいって言うよ」
「なっ!? わ、私じゃありませんっ。トモと愛莉の時です!」
ん? なんか間違ったか、俺?
「だいたい私はどちらかというとトモ側の人間なんですから、
そんな見て嬉しいものでは……」
「でも智花を褒めてあげるっていうことは、同じくらい紗季も褒めてあげなくちゃね。
大丈夫だよ、お世辞じゃなくて紗季はかわいいんだから、きっと裸も綺麗……」
――て、何また余計なことしゃべってるんだ、この口は!
紗季が自分を卑下するようなことを言うから、つい反論しようとしただけなのに、また問題発言をしてしまった。
「うぅ、私側って、どういうこと?」
「そうだぞ、すばるん。ウソはダメだぞ。サキのペチャパイなんてキョーミない、
オレはアイリーンのデカパイが大好きだって言わないとっ」
「で、デカ――わっ、わたし、胸、そんなに大きくなんか……うぅ」
「おにーちゃん、ひなの裸も見る? ほめてくれる?」
みんなの声がガヤガヤと響く中、ひとり紗季だけの声がしない。
顔が見えないのでどういう表情をしているかわからないが、
真帆の軽口にものってこないなんてちょっと心配だ。
……すっ。
「え?」
右手を握られ、上に引っ張られたと思ったら……。
ふにっ。
またっ、また何か柔らかいのものが、手に押し当てられた!
目が見えないって恐い。自分が何に触っているのかも、わからないのだから。
「……もう。長谷川さんってば、本当に天然さんですね。人の気も知らないで誰にでも調子のいいこと言って……」
紗季がしゃべるのと同時に、柔らかなものも動く。
ほっ……どうやら俺の掌が押し当てられているのは紗季のほっぺたのようだった。
たぶん右手で手首を掴み、左手を重ね合わせるようにして、
俺の右手をホールドしているのだ。
「いや、誰にもってわけじゃないよ。自分がそう思ったから言っただけで……」
ほっぺたに重ねられた掌から伝わる温もりに、ドギマギしながら答える。
すでにお湯をかけてあるのか、紗季の頬はしっとりと濡れていた。
「それが天然というんですが……ふふ、いいでしょう。
正直者の長谷川さんにはご褒美を差し上げなくては」
「ご褒美?」
「ねえ長谷川さん、私たちは裸だって言いましたけど、ホントは水着を着ているんじゃないかって、まだ疑ってません?」
「え? いや、疑うというか、そっちの方がありがたいなーと……」
でも嬉しいかな悲しいかな、そういうところで嘘はつかないんだよね、この子たち。
「……ふふ、そうですよね。目隠しされているんですもの、わかりませんよね。……こうでもしないと!」
「え!?」
暗闇に閉ざされていてもはっきりわかった。
紗季は手を重ねたまま、ゆっくりと俺の右手を下へとさげたのだった。
頬からあごへ移動し、あご下から細い喉へ。
喉を通った後、盛り上がった鎖骨を乗り越え、わずかに隆起しているなだらかな胸元へと……
まるでなぞるように、ことさらゆっくりと俺の掌を自分の体に這わせていく。
「ちょっ、ちょっと待っ! 紗季!?」
「ふふ……ここからですよ」
トクン……トクン……と胸元に押し付けられた手から規則正しい鼓動を感じる。
紗季も緊張しているのか? そう思った瞬間――
「ええっ!?」
「んっ!」
今までのゆっくりな動きから一転、一気に手が急降下した!
なだらかなカーブを描く二つのふくらみの間を抜け、鳩尾を通り、
子供らしいぷっくりとしたお腹を撫でた後、最も重要な場所へ――
「ていっ」
「!?」
――到達するのかと思ったら、紗季のいきなり舵を切り、俺の手は下腹から太ももへと通り過ぎて行った。
ぞわぞわーーーー!!!!!!
触っている最中には意識しなかった少女のハリのある肌の感触が、電撃のように掌から腕へと駆け巡った。
右手がっ、右手が死んだ!
なんてことをするんだっ、この娘はっ!?
「ふふ、どうです? これで水着なんか着ていないってわかっていただけました?」
そりゃあんな際どいルートを通っても布地を感じなかったのだから、水着なんて着けていないのだろう。
全裸か、着ているとしてもせいぜい絆創膏くらいか……いや、それは着ているとは言わない。
「――だ、駄目だよ紗季っ。女の子が、軽々しくこんなことしちゃ……」
そう言いつつも俺の右手は紗希のスベスベして所々とっても柔らかな肌と肉の感触に、もう痺れて動かなくなっていた。
ああ、紗季の頬や喉、鎖骨のみならず、……む、胸の谷間(?)とかお腹まで撫で上げた触覚が、右腕にまとわりついて離れない……。
「私も誰にでもってわけではないですよ。長谷川さんだけです♪」
お返しとばかりに、紗季が先ほどの俺の言葉をマネして嬉しそうに言う。
くそう……きっとかわいい顔してるんだろうな。
「さっ、というわけで、長谷川さん、次はトモの番ですよ」
「は?」
「ふぇええええええ!!!??? な、なに言うの、紗季!」
「あら、だってさっきから私の方をうらめしそうに睨んでたじゃない。
『私の昴さんを誘惑しないで!』って」
「し、してないっ! そんな顔してませんからっ、昴さん!」
「ふふ、でも私だけじゃ不公平でしょ? トモもしっかり長谷川さんにアピールしないとね」
「…………」
――ぴとり。
くあっ。
今度は左手が握られ、柔らかなほっぺたに押し付けられた。
このほっぺたは智花のもの。
……智花はどんな表情で俺の手を握っているのだろうか。
「……す、昴さん……」
ひどく緊張した声で、智花は俺の手に自分の手を重ね合わせる。
ほっぺたから智花の火照りを感じる。……やっぱり顔を紅潮させているんだろうな。
「智花、無理する必要はないよ。そんなことしなくても、俺は智花のことが大好きだよ」
俺は智花にやさしく語りかけるが、智花がフルフルと首を振るのが左手越しに伝わった。
「こ、これは、私が昴さんにして差し上げたいからするんです。だから――えいっ!」
頬に触れていた手を智花が一気に下におろす!
――って待て! そんな勢いよくおろしちゃっ――
――コリッ。
「ふぇえええええええええええ!!!!!!!????????」
「ぬあっ!?」
今っ、なにか小指に引っかかった!
智花は勢いあまって喉とか鎖骨を通り越して、いきなり胸に手を持ってきてしまったのだ。
幸いコースは間違っておらず胸部の中央を通ったようだが、わずかに俺の小指に突起が触った。
――今のは、もしかして!?
しかしそれ以上考える暇はなかった。
「ふぇぇぇぇぇ!!!!!」
混乱した智花は止まることなく、そのままの勢いで俺の掌を自分の体に滑らせてしまう。
一直線に!
――つるんっ!
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
……えっと、俺の手は、智花の乳首を引っ掛け、その後、お腹をまっすぐに降下して……
……中指と薬指で、智花の一番大切な所をしっかりとなぞったのであった。
ええ、それはもう、毛一本無い、見事なツルツルであった。
間違いなく、絆創膏一枚も着けていない、ザ・ゼンラである。
ぞわぞわーーーー!!!!!!
はい。左手も轟沈です。
つか触った感触は紗季よりもヤバイ。
コリッに、ツルッだ。
「……やるわね、トモ。私もまだそこまでやる勇気はなかったのに……さすがだわ」
「ふぇええっ!? ち、違うよ! わざとじゃないよっ」
「さすがもっかん! うちのエースだぜっ」
「え、エースって、なんのエース!?」
「おー、ともかすごい。ひなも負けてはいられません。
おにーちゃん、次はひなのおっぱいさわって」
もうナニがナニやら……。