「……ひどいよ、すばるん……」  
「はは……ごめんごめん」  
 
ちょっと涙目の真帆に、謝る俺。  
でも、こころなしか、真帆のほっぺが紅く滲んでいる。  
俺はそのほっぺたに右手を添える。  
 
「……あっ……」  
「……真帆、お前は本当に良い子だぞ。明るくて、元気で、いつもみんなを照らしている太陽みたいな子だ」  
「ひゃっ、た、たいよーって、ナニいーだすんだよっ、すばるん!?」  
 
聞き慣れない言葉を言われたのか、仰天した表情になる真帆。  
 
「自分の決めた道に一生懸命で、がむしゃらに突っ走って、みんなを引っ張って行っている。  
 ……まあ、多少空回りしちゃうのは御愛嬌だけど、そんなお前の姿は、見ていて嬉しくなるよ」  
「あ、あたしっ、そんな良い子じゃないよ。ただ、自分のやりたいこと、やってるだけでっ……」  
「……ジャンプシュートの練習、1日200本か? ちゃんと続けてるだろ。  
 いつでもチームのピンチを救えるエースになるために……」  
「――ッ! すばるんっ、なんでそのことっ……」  
「だからお前は良い子だよ。自分のしたいこと、仲間のしたいこと、全部努力して  
 なしとげようとしてるんだから。真帆、俺、お前みたいなやつ、本当に――」  
 
目を大きく見開いた真帆の顔に、自分の顔を近づけ、  
 
「大好きだよ」  
 
唇を重ねた。  
 
 
「――んっ……」  
 
最初に感じたのは、温かさ。  
智花よりも体温が高いのか、体が火照っているのか、  
唇の触れた部分から、真帆の温もりが伝わってくる。  
そして、唇は、ぷりぷりしてて、グミみたいだった。  
……真帆の体って、ほっぺたも、唇も、張りと弾力があって……  
あ、でも耳たぶはすっごい柔らかかったな。  
俺はほとんど無意識に、頬に当てていた手を伸ばし、彼女の耳たぶをふにふにと揉んでいた。  
 
真帆は動かない。呼吸すらしていないように思えるほど。  
だが、微かに頬にかかる息吹が、彼女の生命の鼓動を感じさせ、  
体から立ちのぼる甘い香りが、彼女が女の子であることを強く俺に意識させる。  
 
俺は思わず、何度か真帆の唇をついばみ、その感触を楽しんでしまった。  
 
「…………っ!」  
 
はっと我に返ったのは、唇を重ね合わせてから1〜2分ほど経過してからであろうか。  
その間、真帆は反応らしい反応をしなかった。  
 
「……真帆?」  
 
俺は唇を離して真帆の顔をみる……。  
 
真帆は、目の焦点があっておらず、ぼぉーっとしていた。  
その目の前で手の平を振るが、まったく気づく様子はなし。  
頬には、朱が灯っていた。  
 
「……おい、真帆、真帆、しっかりしろ」  
 
紅く染まったほっぺたをぺしぺしと軽くたたいてやると、徐々に真帆の瞳に光が戻ってくる。  
 
「…………ふぇ……すば……るん?」  
「どーした、ちょっと目、いっちゃってたぞ」  
「……ご、ごめん。……びっくりして……ちょっと、ぼーーーとしてた……」  
 
……いや、ビックリって、キスも愛の囁きも自分から言い出したことだろ?  
 
「ま、なんにしてももう終わったから。ほら、ちゃんと立てるか?」  
「うん……ありがと…………って、ウソッ!? 終わったのっ? ゼンゼンおぼえてないよっ!」  
「いや、嘘も何もちゃんとしたって……なあ?」  
 
ギャラリーに同意を求めると、なぜか紗季と愛莉のふたりは、顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。  
ひなたちゃんは……見たこともない真剣な表情で、じぃーーーっとガン見しているし、  
智花は……いまだ夢の中……。  
 
「……ねえ、愛莉、あれ、意識して作って言ってるのかな? それとも、天然?」  
「わ、わかんないけど……あの長谷川さんが、ひょいひょいあんな言葉作って言えるとは思えないよ……」  
「じゃあ、やっぱ、天然、天然なのね! よくもまあ、あんだけ殺し文句連発できると思ったけど、  
 無意識でやってるのかぁ……」  
「す、すごよね。あれだけ心のこもった言葉並べられて、す、好きっ言われて、キスされちゃったら、  
 わたしだったら、嬉しすぎて死んじゃうよ……」  
「あれね、もう、ひなと一緒ね。男版イノセント・チャーム」  
「うん。そんな感じ……」  
 
ひそひそ声なので、よく聞こえないが、……なにかすごい不本意なことを言われている気がする……。  
 
「とにかくっ、も―1回っ、もー1回だけっ、ねっ、すばるん!?」  
「……うーん。わかった。しょーがないなぁ……」  
 
俺はいかにも仕方がない、といった感じで答えたが、内心には、もう一度真帆とキスがしたくてウズウズしている自分がいた。  
 
「……じゃあ、もう一度、うなじ触らせてくれたらいいよ」  
「えーーーっ、なんで!? そこ弱点って言ったじゃんっ!」  
「交換条件なんだから、相手の嫌がることじゃないと意味ないだろ?」  
 
だからこれはちょっとした悪戯。断られてもキスはするつもりだったが、  
真帆がどんな反応をするか見てみたかった。  
 
まあ、どーせ嫌だってダダこねて……。  
 
「……わかった。じゃあ…………はい。……すばるんの好きにしていいよ」  
「…………」  
 
真帆は素直にうなじを差し出した。  
二つ結びの片方をふさぁっとかき上げて、白く綺麗なうなじを見せる。  
その仕草が、細い首筋が、妙に艶かしく、俺は思わず、体を動かしていた。  
 
「――ちゅっ」  
「――んきゅーーーーーーーーーっ!!!!」  
 
……あ、ごめん。  
……キスしちゃった。  
……うなじに。  
 
真帆がうなじを押さえて七転八倒したと思ったら、すごい勢いで俺を睨みつけた。  
……ぷるぷる震えながら涙目で訴えてくる。  
 
「……あ、いや、だってほら、好きにしていいってゆーから、つい……」  
「…………(ぷるぷる)」  
「……そ、それに、キスしてくれって言われて、うなじ出されたから、もしかしてこっちかなーって」  
「…………(ぷるぷる)」  
「……そ、それにしても、真帆、ほんとに、弱いんだな、うなじ……」  
「…………(ぷるぷる)」  
「…………ごめんなさい」  
「…………すばるんの……ばかっ!」  
 
怒られちゃいました。  
 
それにしても、真帆のやつ、自分の弱点さらけ出してまで、俺とキスしたかったのか……。  
ちょっと……いや、かなり感激。  
 
……遠くから「やっぱり男版……」「あれはさすがに……」とか聞こえてくるが  
とりあえず無視。  
 
俺はすっかりふてくされてしまった真帆を宥めにかかる。  
 
「……真帆、ごめんな、ちょっと悪ふざけが過ぎた」  
「しらないっしらないっ! すばるんのばかっ、トーヘンボクッ!」  
「ほら、ちゃんと、約束は守るからさ、機嫌なおしてくれよ」  
「……やくそく?」  
 
さすがに気恥しいので、そっと耳元で、真帆にだけ聞こえる様に囁く。  
 
「俺ともう一度、キスするんだろ? 今度はちゃんと、記憶に残るように……」  
「…………うん……」  
 
真帆はリンゴみたいに、顔じゅう真っ赤にさせて、頷いた。  
 
「ん」  
 
真帆との二度目のキスは、ちょっと激しいものになってしまった。  
 
顔面トマト状態の真帆の両頬を手で包み、上を向かせて、唇を吸う。  
真帆も俺の首に腕をまわし、必死にしがみついてくる。  
 
「んーっ、んーっ、んーっ……」  
 
一回目は全く反応のなかった真帆だが、今度は目をぎゅっと閉じて、  
自分から一生懸命クチビルを押し当ててくる。  
片目をうっすら開けて見たその様子は、正直かなり可愛かった。  
 
この状態でうなじに触ったらどうなるか興味があったけど、  
さすがにこれ以上すると完全に真帆の機嫌を損ねるので、  
今はただ、彼女の唇の感触に集中することにした。  
 
そのかわり、耳たぶをふにふにしてやる。  
……うーん、この感触、くせになりそう。  
 
「っ! んっ……」  
 
驚いて開いた口に割って入るように、さらに深く、唇を重ね合わせる。  
そして真帆の唇を食するかのように、ゆっくりと口を動かして、その甘く、ぷりぷりした果実を味わう。  
 
「っっっっっ! んーーっ、んーーーっ、んーーーーっ!」  
 
――って、やばっ。あんまやり過ぎると、また真帆がトンでしまう。  
 
俺は最後に一口、真帆の唇をついばんだ後、ようやく顔を離した。  
 
「はーっ、はーっ、はーっ……」  
「真帆、大丈夫か?」  
 
唇を放たれた真帆は、荒い息を吐き続け、目の焦点がまた合ってない感じがする。  
 
「はーっ、はーっ……だいじょう……ぶ……」  
 
どうにか返事をするが、全然大丈夫そうには見えない。  
 
「……ごめん。ちょっと強すぎたな。悪かった」  
「……ううん」  
 
ふるふると首を振ると、真帆はぽすんっと俺の胸に顔を預ける。  
そのまま、俺の胸に顔をうずめ、荒い呼吸を整えようとする。  
俺はそんな真帆の上下する小さな背中を優しくさすってやった。  
 
彼女の呼吸が落ち着くまで、ずっと……。  
 
 
「はあ……はあ……はあ…………んっ」  
「どうだ、真帆。ちゃんと立てるか?」  
「ん。もーへーき……。ありがと、すばるん」  
 
少しは回復したらしい真帆は、フラフラと  
危なっかしい足取りで、ベッドを降り、壁際へ戻った。  
 
「……もっかん!」  
「……ふえっ!」  
 
そして、同じくトリップ状態の智花に抱きつく。  
 
「キスって、スゴイねっ! あたま真っ白になって、なにも考えられなくなって、  
 でもなんか、ふわふわした雲の上にいるみたいなカンジになって、――もうわけわんねーーーっ!」  
 
そう叫んで、バタンッと、智花の膝の上に倒れこむ。  
 
「……もう、だめ。……すばるんに、あしこしたたなくされちゃった……」  
「……うん。……そーだねー……」  
 
……そこのふたり、人聞きの悪いこと言わないよーに。  
……知らない人が聞いたら小学生相手にナニやってるんだと勘違い……。  
 
…………。  
……。  
 
――って、ちょっと待て、俺!?  
今までのやり取りって、かなりヤバくね!?  
相手、小学生よ!? 小学生!?  
 
抱きしめて、愛ささやいて、キスして、うなじにちゅーして、足腰立たなくさせて……。  
これもう――アウトじゃね?  
 
いやっ、まだ大丈夫! キスは挨拶、キスは挨拶……出会った瞬間、銃で撃ち合って腕前を  
確かめ合う殺し屋のような過激な挨拶の気もするが、まだギリギリセーフだ! ……たぶん。  
 
やっぱ小学生とキスなんかしちゃったから、精神汚染がかなり進んでるんだな……。  
 
とにかくっ、これ以上はヤバい。これ以上は――。  
 
「……さて、それでは」  
 
俺の苦悶などよそに、ひとりの少女が立ち上がり、  
 
「3人目といきましょうか、長谷川さん? あ、もちろん――」  
 
俺を見つめ、ニッコリと笑った。  
 
「真帆以上に、スゴイことしてくれなきゃ、……許しませんよ」  
 
……とてもじゃないが、拒否できるような、お人ではなかった。  
 
 
そんなわけで三番手『氷の絶対女王政』こと永塚紗季さんとベッドの上にて対峙中。  
なんだろう。先ほどの二人と比べて、緊張感が段違いに高いぞ。  
 
「……紗季、あのさ、頭のいい君のことだから、話せばわかると思うんだ。  
 こういうことは、やっぱりマズイと思うんだ、お互いに……」  
 
「長谷川さんにおっしゃりたいことは、先ほどのトモへのご高説を聞いていれば  
 だいたい解りますが、本人が良いと言っている以上、問題ないと思いますよ。  
 それにトモと真帆にしておいて、今さら私だけにしないなんて、それこそ不公平ですよ」  
 
ま、それを言われちゃうと苦しいんだけど。  
 
……と、いうか紗季さん、なんで君が四つん這いで俺の上に覆いかぶさっていて、  
俺があおむけに寝転がらされているんでしょうか? ふつー体勢逆じゃない?  
 
「それでも一応、意志確認をさせてほしいんだけど、紗季も俺のことが好きで、  
 俺がファーストキスの相手になっても、後悔しないってことで……いいのかな?」  
 
俺が念のために同意を求めると、意外にも紗季はきつい目元をさらに険しくして俺に応えた。  
 
「……は? なにを言っているんですか? そんなことあるわけないじゃないですか」  
 
「え、違うの? だって、真帆がさんざんみんな俺のことが好きだとか言ってたけど……?」  
 
「そ、それは真帆が勝手に言っただけで、私は、別に……長谷川さんが好きというわけではありません。  
 ……もちろん、女子バスケットボール部を救ってくれたこと、バスケを教えてくださったことについては、  
 感謝も尊敬もしていますが、……それと好きとは別問題です」  
 
つんっとそっぽを向く紗季の顔が僅かに赤いのは、自分が好きだなどと見当違いのことを言われて恥ずかしいせいか?  
 
「……それじゃあ、なんで紗季は俺なんかとキスしようとしてるんだ?」  
 
「……最初に申し上げました通り、将来のための予行練習、ただの知的興味に過ぎません。  
 決して、長谷川さんが好きだというわけではありませんので、そこのところ、勘違いしないでくださいね!」  
 
「ああ、そう。そうなんだ……」  
 
言外にうぬぼれるな、てめーって言っているわけですね。  
 
「だいたい、私のファーストキスなんて、真帆のバカのせいで台無しに  
 なったんですから、今更誰としようが一緒です」  
 
「ちなみにそれって、どーゆー状況だったの?」  
 
俺が訊くと、紗季がすっごい嫌そうな顔をした。  
 
「……1年生の時、真帆が遊具の上から私目がけて飛びかかってきて、……その拍子に……」  
 
「…………」  
 
「私、その時前歯が折れました。……乳歯だったから良かったようなものの……」  
 
そ、それは黒歴史だ。  
というか、ちょっとしたトラウマだな。  
 
「つーかそれって、キスとは言わないだろ……。しかも女の子同士なんだし……」  
 
「唇が触れあった以上、キスはキスなんですっ!」  
 
顔を真っ赤にして怒鳴る紗季。  
トラウマに触れられて怒る気持ちもわかるが、なんでそこだけ、お子様理論なんだろう?  
 
「んー、まあ、とりあえずその話は置いておいて、……紗季、男とキスするのは俺が初めてでいいんだな?」  
 
「ええ、そうですよ」  
 
「……そうか。じゃあ、わかった。――紗季、ちょっとごめんね」  
 
「え?」  
 
「よっと――」  
 
「きゃっ!」  
 
俺は下から紗季の体を抱きしめた。そしてそのまま、足を上げて、下ろす反動で紗季の体ごと上体を起こす。  
俺の膝の上にお尻をつく形になった紗季を、両脇を支えてそっと下ろしてやると、俺はその目を見つめて言った。  
 
「なら答えは簡単。紗季、君とはキスはできない。――以上」  
 
「ちょ、なんでですか!? いきなりっ」  
 
「君は俺のことが好きじゃない。興味本位でキスをしようとしてるだけ。  
 しかもそれは、実質、君のファーストキスだ。なら俺がさっき言った、  
 キスしちゃいけない理由に該当するのは分かるだろ?」  
 
「べ、別に……まったく好きじゃないってわけじゃ……ありません。そ、それなりには……」  
 
「それなりの好きじゃ、友達にはなれても、キスはできない」  
 
「だって、真帆にはしてるじゃないですかっ!」  
 
「うん、まあ、俺も最初は不安だったんだけど、……さっきの真帆の態度みたら、  
 俺のこと、ちゃんと好きなんだってわかったから。見た目ほど軽いもんじゃなかったよ、あいつの好きは」  
 
「わ、私だって、そんな……軽いきもちじゃ……」  
 
「それにさ……」  
 
俺は紗季の肩の上に、ぽんっと手を置いた。  
 
「紗季は、小学1年生の時に口がぶつかっただけのことを、ファーストキスだって  
 ずっと気にしちゃうような繊細な女の子だろ。とてもじゃないけど、俺なんかが  
 キスしていいような子じゃないよ」  
 
「え……」  
 
紗季が驚いたように俺を見る。  
 
「だからちゃんと取っておきな。本当のファーストキスは、本当に好きな人のためにね」  
 
そして彼女の体から手を離した。  
紗季は顔を俯かせ、じっとしている。  
 
「……キスしてくれなかったら、……あの動画、消しませんよ」  
 
「うん。いいよ」  
 
「――ッ!?」  
 
紗季が再び驚いて顔を上げる。  
俺はもう一度、今度は彼女の頬に手をやり、ちょっとだけ強い口調で言う。  
 
「俺のことなんて、どーだっていいんだ。そのせいで、紗季が間違った選択をする方が俺はよっぽど嫌だ。  
 その代わり、約束しろ。もう興味本位で自分を貶めるようなことは、するな」  
 
「…………」  
 
たとえ人として道を踏み外そうとも、男として間違ったことをするつもりは毛頭ない。  
いくら小学生とキスをしようとも、自分を好きでもない女の子とキスをしてはならないのだっ。  
 
俺は口調を和らげ、諭すように彼女に言う。  
 
「紗季はさ、真面目で、しっかりしていて、頑張り屋さんで、とっても素敵な女の子だよ。  
 頭もいいし、よく気が付くし、人の気持ちに敏感で、常に周りを気遣って、サポートしてくれる、  
 とっても優秀で、やさしい子だよ。女バスだって、真帆が暴走しそうなときに、すぐに止めて、  
 まとめてくれるのは紗季だし、影ですごく努力していることも知っている。  
 球技大会の時、自分から進みでて、ドリブルの練習をしたこと、それだけじゃなくて、  
 真帆のバックアップになるように、横からのシュート練習もしていたこと、そしてなにより、  
 そのことを自慢せずに、真帆に手柄を譲ったことも……全部ね」  
 
紗季の瞳は、ただ俺をみつめている。だから俺も、決して視線をそらさなかった。  
そうでなければ、気持ちは伝わらない。  
 
「だから、いずれきっと君にふさわしい、大切なひとがみつかるし、予習なんかしなくったって、  
 きっと素敵な恋ができるよ。俺が保証する。……まあ、俺の保証といったって……」  
 
たかが知れている……と続けようとして、その異変に気付いた。  
 
紗季の頬に触れた手に、温かいものを感じた。  
最初は紗季の頬の熱さかと思ったが、それは流れ落ちる彼女の涙だった。  
紗季は――泣いていた。  
 
「……ひっく、……そんな……わたしだって……ひっく……本当に……好きなのに  
 ……ひっく、……違うって……それなに……ひっく……そんな……人の心……  
 ひっく……えぐるようなことばっか……ひっく……いって……」  
 
「え? え? え? さ、紗季!? なんでっ、どうして!?」  
 
慌てふためく俺の耳に、遠くから愛莉の声が聞こえた。  
 
「ふぇ……『氷の絶対女王政』が『無垢なる魔性』に撃破されちゃった……」  
 
ひっくひっくと嗚咽を漏らす紗季、俺はオロオロと戸惑うばかりだ。  
 
「あ、愛莉っ、ヘルプ!」  
 
「わ、わたしなんかが、おふたりの戦いの間にはいっていけません!」  
 
いつから戦いになった!?  
 
「つ、つか、俺、悪くないよね! 間違ってないよね!?」  
 
「え、それはもちろん、長谷川さんが悪いですよ」  
 
オフコース!?  
しかも即答!?  
 
「なんでっ、どこが!? 俺、今回かなりまともなこと言ったつもりだぞ!?」  
 
「長谷川さんは、女の子の気持ちをぜんぜんわかっていませんっ!」  
 
えーーーっ。  
たしかに自慢じゃないが疎いぞ、そっち方面は。  
 
「長谷川さん、紗季ちゃんは、ちょっと照れ屋さんで、自分の気持ちを素直にだせない、  
 今風に言うと、『ツンデレ』っていうタイプの女の子なんです」  
 
……ツンデレ……ね。  
 
「愛莉。俺さ、昔、『ツンデレ殺しの長谷川昴』ってあだ名を付けられたことがあるんだ……」  
 
「それは……見てればよくわかります……」  
 
わ、わかっちゃうのか。  
なぜだろう? 前に一成に訊いた時には『荻山にきけ』って言われて、  
葵に訊いたら一成ともどもボコボコにされた記憶ならあるのだが……。  
 
 
 
 
 
 

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