7月7日たなばた。  
 
今日は女バスのメンバーを集めて、うちの庭でたなばたを祝うことにした。  
 
「へー、すごいな、これ。みーたんが採ってきたの?」  
「ああ、一人で竹林の中に入っていって、一刀両断。運ぶのは俺も手伝わされたけど」  
 
庭の地面に突き刺さった大降りの竹を見上げながら子供たちが歓声をあげる。  
苦労して担いできたけど、みんなが喜んでくれるのなら安いものだ。  
 
「それにしても、みーたん、ちゃんと地主さんの許可をとったのかしら?」  
「ああ、なんでもコネがあるとか言ってたけど……」  
 
あいつの交友範囲は計り知れないからなあ。  
本人は学校の急用があるとかで、残念ながら欠席だけど。  
 
「おにーちゃん、ねー、みてみて。あのおかざり、ひなが作ったんだよ」  
「どれどれ……お、綺麗にできてるね、ひなたちゃん」  
「わーい、えへへ、おにーちゃんに誉められたぞー」  
 
竹にはひなたちゃんが作った折り紙の輪っかの他、みんなで作った色とりどりの飾りや  
願い事が書かれた短冊が付けられており、華やかなものになっていた。  
 
「ふふ、みんな頑張って作ったものね。さ、お料理もできたから食べちゃってくださいな」  
 
母さんが上機嫌で大量の料理を、庭に設置されたテーブルの上に並べていく。  
飾り付けられた竹を見ながら、ちょっとした立食パーティー。  
紗季と真帆の誕生日会から1週間も経ってないけど、こういった楽しいイベントを見過ごすことないだろう。  
お腹が膨れたら、食後の運動がてらみんなで3on3をしてもいいな。  
 
 
「ねー、でもさー、この短冊、ちょっとツマンナクない?」  
 
みんなでワイワイ歓談して、テーブルの料理が半分ほど無くなってきたとき、  
それまで楽しそうにはしゃいでいた真帆が、ふと雰囲気をブチ壊すようなことを言い出した。  
 
「なによ、真帆。みんなで楽しくやってるのに」  
「いや、だってさー。せっかく自分の願い事書くチャンスなのに、  
『シュートが上手くなりますように』とか『ドリブルがうまくなりますように』とか  
 みんなバスケが上手くなりますようにって願い事ばっかりじゃん」  
「そう言うあんたが一番に『シュートが上手くなりますように』って書いたんじゃないの」  
「そりゃ毎日練習してんだから、上手くなりたいに決まってるじゃん。  
 でもさ、よくよく考えてみたら、シュートが上手くなるのは自分が努力すればいいわけだろ?  
 願い事って言ったら、自分の力ではどうしようもできないことを書いた方が得だと思うんだっ」  
 
真帆が竹から釣り下がった短冊を指差しながら、『まほ理論』を展開させる。  
ふむ、確かに珍しく(失礼ながら)まともなことを言っているように思える。  
 
「うん。バスケが上手くなるのは、あくまで自分の力、一生懸命練習してなるものだよね。  
神頼みだなんていけないよね」  
「そうだね、わたしも自分がしっかりしなきゃいけないと思う……」  
 
同意を示したのは、我が部のエース湊智花と、不動のセンター香椎愛莉であった。  
 
ちなみに二人の願い事は『ディフェンスが上手くなりますように』と  
『怖がらずにちゃんとセンターの仕事ができますように』だった。  
うん、特に愛莉の場合は精神的な意味が強いので、願い事にするにはちょっと違うかもしれない。  
 
「……そうね。確かに真帆にしてはいいことを言うわね」  
「な、そーだろっ。だからさ、もう一回みんなで新しいの書こうぜ。  
 普段悩んでいて、自分の力ではどうにもできない…………そうだ!  
 いいこと思いついた!!」  
 
真帆がきししっと怪しげな笑みを浮かべてみんなの前に立つ。  
……こういう場合、大抵良くないことが起こるんだが……。  
 
 
「あのね、すばるんへのお願い事を書こう!!!」  
「え? 俺?」  
 
突然指名されて驚く。  
 
……でも、みんなからのお願い事なら、余程とんでもない事でないかぎり  
いつでも聞いてあげるけど……。  
 
俺が真帆にその旨を伝えると、真帆もそれは分かっていたようで、  
次のような条件をつけてきた。  
 
「うん。だからその『余程とんでもない事』いつもだったら絶対すばるんが聞いてくれなさそうな、  
 でもホントはしてほしいお願い事を書くの」  
「そ、そんな失礼なこと書けないよ!」  
「いいじゃん、せっかくの『たなばた』なんだしさ。書くだけならタダなんだし」  
 
そう言って真帆はさきほど使った無地の短冊の余りと、5本のサインペンを持ってくる。  
 
「……書いて、その後どうするのよ? どうせそれを長谷川さんに見せるんでしょう」  
「ううん。『書いた短冊』はすばるんに見せない。笹にも付けないよ」  
「え、そうなの?」  
「あと名前も書かなくていーよ」  
「ふぇ、名前も? それだと誰のお願い事だかわからなくなっちゃわない?」  
「きしし、それが狙いなのさっ。だから本当の願い事を書いてね!」  
 
真帆がくどいくらい念を押す。  
……匿名で俺に見せないってなら、遠慮なく自由に願い事を書けるだろうけど……  
それでいったいどうするつもりなんだろうか?  
 
「うーん、長谷川さんに見せないのなら……」  
「……願い事、普段悩んでいる……願い事……それを昴さんに……」  
「……そう言われと逆に難しいね、ひなちゃん」  
「おー。ひなはね、もう書けたよー」  
 
思い思いにみんな短冊に願い事を書いていく。  
俺は真帆の行動に疑問を感じつつも、その様子を黙って見守っていた。  
 
 
「みんなー、書けた?」  
 
しばらくして全員書き終わったようで、願い事が書かれた短冊を胸の前で持っていた。  
 
「じゃーそれを裏返してテーブルの上に置いて、後ろに下がってください〜」  
『????』  
 
訳のわからないといった表情をしながらも、言い出しっぺの真帆が率先して短冊を置き、  
後ろに下がったので、他の子もそれに倣う。  
 
「よしっ。じゃーもう短冊に触っちゃダメだぞ。なゆっちーーー、ちょっときてー!」  
「はーい。どうしたの、真帆ちゃん?」  
 
何を思ったのか、真帆は料理を追加していた(……いったいどんだけ作るんだ)  
母さんを大声で呼んだ。  
 
「あのね、そこにある短冊を集めて、新しいのに書き直してくれるかな?」  
「ええ、いいわよ」  
『なっ!!??』  
 
驚きの声を上げる紗季と智花。  
母さんはテーブルの上の短冊を回収すると、その内容を新しい無地の短冊に書き写していったのだった。  
 
「ちょっと真帆っ、いい加減、説明しなさいよ。一体何をしようって言うの!」  
「ふっふっふっ、――それでは発表します!  
 題して『すばるん願い事あてっこゲーム』!!!  
 こうやって誰が書いたか分からない願い事をすばるんに見てもらって、  
 誰のだか当ててもらうの! そんで見事当てたら、そのお願い事を  
 すばるんに叶えてもらうってゲームなのさ」  
 
『!!!!!!!!!!!!???????????』  
 
その瞬間、紗季と智花の二人が固まった。  
 
「……いや、そのまんまだけど……さっき俺には見せないって言ってなかったっけ?」  
「そうよ! 長谷川さんには絶対見せないって、自分で言ったじゃない!」  
「ちっちっちっ、甘いな、サキくん。人の言葉はよく聞こうぜ。  
 あたしはみんなが書いた『この短冊は』って言ったんだよ。筆跡で分かっちゃうからね。  
 でもなゆっちに書き写してもらった方はもう別の短冊だから、すばるんに見せてもいいだもんね!」  
 
まさに引っかかったと言わんばかりの意地悪な笑顔を紗季に向ける真帆。  
それに対して、いつも冷静な紗季が珍しく掴みかからんばかりに慌てふためいて、真帆につっかかっていく。  
 
「そんなの屁理屈よ! こんなの、中止、中止よ!」  
「そうだよっ! 真帆っ。私、すっごく恥ずかしいこと書いちゃったよ!?」  
 
しかも普段は友達に遠慮して文句を言わない智花までが、抗議の声を上げる。  
 
「あら、大丈夫よ智花ちゃん。……ふふ、みんな可愛らしいお願い事を書いてるわね」  
「ええっ!? ……OKなんですか、……それ?」  
「か、可愛らしい……のかな?」  
 
二人はなおも反対しようとしていたが、大人の女性である母さんに「大丈夫」と言われて  
しぶしぶ鉾を収めた。  
 
……なんだろう。こうも強く反対するなんて、いったい何が書かれているのか、ちょっと気になってしまう。  
 
まあ、いくら一般社会とズレた感覚の持ち主とはいえ、一応母さんが目を通しているのだから、  
そんなにとんでもないお願いではないだろう。  
 
それに何が書かれていようと、それは二人が日頃遠慮して言えない俺への願いなのだ。  
ならば、それがどんなことであろうと叶えてあげよう。  
 
俺はそう心に誓って、テーブルに裏返しで並べられた5枚の短冊の前に立った。  
 
 
「じゃー始めるね。すばるん、好きなのを一つ選んで」  
「うん。わかった、ではまずはこれかな?」  
 
最初に真ん中にあった短冊を一枚取り、みんなに見えるように表にめくった。  
 
記念すべき一枚目、そこに書かれていた願い事は――  
 
 
『ぱんつを買ってください』  
 
 
「かああああああああああさああああああああああああああんん!!!!!!!!!!」  
「あら、どうしたの? すばるくん」  
「どーしたのじゃない!? 何考えてるんだよ、こんなお願い無理にきまってるだろ!」  
「大丈夫よ。お小遣いが足りないならお母さんが出してあげるから。  
 大事なのはすばるくんが選んであげることよ」  
「ちがあああうううう!!! そういう問題じゃない!」  
 
ああ、何考えてるんだホント。  
一瞬でも信じた俺が馬鹿だった。  
 
「で、すばるん、答えは? その願い事は誰のでしょーか!」  
「……えーと……」  
 
……正直、心当たりはある。  
こんなお願いを平然としてしまう無邪気極まりない子は……。  
 
「…………(わくわく、わくわく)」  
こちらを一心に見つめてくる――ひなたちゃん。  
 
……ほぼ間違いないだろう。  
しかし当然、こんなお願いを叶えてあげるわけにはいかない。  
 
……あげないのだが…………。  
 
「…………(わくわく、わくわく)」  
 
……この期待に満ちた視線をどうにかしてくれ!  
 
もし俺がここで別の子の名前をあげたら、彼女はしょんぼりとしてしまうに違いない。  
果たしてそんなことが、許されるのであろうか。  
でもっ、小学生のパンツを買うだなんて、そんな羞恥プレイできるわけがない!  
俺の答えは――  
 
 
「……………………」  
「…………(わくわく、わくわく)」  
「……………………」  
「…………(わくわく、わくわく)」  
「………………ひなたちゃん……」  
「わーい! おにーちゃんっ、だいせーかーいだぞーーー!」  
 
満面の笑顔で、はしっと俺の手を握ってブンブンと嬉しそうに振り回す。  
 
……負けた。  
この子の期待に輝く瞳を曇らすことなんて……俺にはできなかった。  
 
「じゃーおにーちゃん、ひなの新しいぱんつ、買ってね。  
 ひなね、おにーちゃんが選んでくれたぱんつはくの、すごく楽しみ」  
「……はは、こ、今度、日を改めてね……」  
 
……まあ、いい。ようはひなたちゃんにパンツを買ってあげさえすればいいのだがら、  
ネットで選んでもらって、母さんの名義で注文してしまおう。  
この状況の何割かの責任はあるんだから、それくらいしてもらってもいいはずだ。  
 
「良かったな、ヒナ。じゃーすばるん、次いこう!」  
 
うぅ、一枚目から大変なのを引いてしまった。  
2枚目はもっと、大人し目なのがいいな……。  
 
俺はそう思いながら、一番右端にあった短冊をめくった。  
先ほどの失敗を反省し、みんなには見えないように、そっと……。  
するとそこには――  
 
 
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
 
――突っ伏した。  
 
「おー、おにーちゃん、どうしたの?」  
「どったすばるん、お腹でも痛いのか?」  
「あ、あの、その……」  
「………………」  
「………………」  
 
………………なるほど、そういうことか。  
そりゃ慌てるわけだよな。  
しかし、それよりまず先に責められるべきは――  
 
「母さん! だからなんでこんな内容をスルーするわけ!?」  
「あら、かわいい悩みじゃない」  
「かわいいとかじゃなくって、自分の息子が犯罪者になってもいいのか!?」  
 
俺が詰め寄ると、母さんはきょとんとし、  
 
「子供の胸をさすってあげるが、どうして犯罪なの?」  
 
と不思議そうに聞き返してきた。  
 
「………………」  
 
そうだ。  
良くも悪くも、この人は『母親』なのだ。  
母さんが智花たちを見る目は常に子供であって、それが性的対象になるなどとは夢にも思っていない……。  
 
ん? 待てよ、それって問題だと思っている俺の方が、彼女たちを性的対象としてみていることになるのか?  
バカな! 俺は彼女たちにそんな邪な感情は一切持ち合わせていないぞ!  
 
「ねー、すばるんっ。早く答えてよー」  
 
ならばその証拠に、何のためらいもなく答えてみせようではないか!  
 
内容の是非はともかく、冷静に分析してみれば、これを書いたのは胸が大きな女の子――  
つまり愛莉ではない。  
そして既にクリアしているひなたちゃんも外れるから、残るは3人。  
そして今までの反応を考慮するに、この願い事の主は、紗季か智花のどちらかだ。  
 
問題は――どっちかということなのだけど――  
 
 
二人とも頬を赤くして、モジモジとしているので……正直よくわからない。  
 
別に正解する必要はないから、どっちか好きな方を選べばいいのだが、  
答える時には必ず中身を見せなければならない。  
ということは、俺はその子に「『胸をもんで大きくしてほしいです』って書いたよね?」  
=「君、胸小さいね」と言っていることになる。  
 
それでもし間違えようものならば…………失礼どころの騒ぎじゃない。  
 
つまり、こんなことを指摘する以上、最悪でも当たりを引いておかなければならないということだ。  
 
うーん、どっちだ?  
大きくしたいということは、胸の小さい方……。  
日頃意識して見ないようにしているから、正直比べたことがない。  
服の上からじゃわかりにくいし……水着の時はどうだった?  
あの時もジロジロ凝視するのは悪いと思って、よく見てなかったしな……。  
 
――駄目。わからない。  
 
「真帆、パス1、お願い」  
「だーめ! ちゃんと答えろよ、すばるん」  
「だって、こんなの難しすぎるって。 お願い! 一回だけ!」  
「いいじゃない真帆。あんただってよく勝手にパスするんだから!」  
「そうだよ、無理して答えてもらう必要なんてないと思うよ!」  
 
容疑者の二人から必死の援護射撃が飛んでくる。  
その姿勢がより容疑を濃くしているわけなのだが……。  
 
「えーっ、しょうがないなー。一回だけだかんな! でも次の引いた時に一緒に答えるんだぞ!」  
「ありがとう、真帆! 助かったよ!」  
 
俺は気まぐれなお嬢様の気が変わらぬうちにと、すばやく反対側の端にあった短冊を手に取る。  
とにかくこれが運命の分かれ道だ。  
次の内容次第で、二枚目のお願い事が誰のか判別できるはずだ。  
 
俺は祈るような思いで、3枚目の短冊をめくった。  
そこに書かれていたのは――!  
 
 
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
 
「ん?」  
 
もう一度声を出さずに読み返してみる。  
続いて2枚目の短冊と並べてマジマジと見比べてみる。  
 
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
 
一語一句同じだった。  
 
……なんてことはない。  
 
「智花、紗季」  
 
二人の前にぴらりと二枚の短冊を掲げて見せた。  
 
「これは君たちのだね」  
「ふぇっ!?」  
「え!?」  
 
二人は驚いたように顔を見合わせ、ぷしゅうーーーと同時に湯気が上がるほど真っ赤になった。  
 
……まったくもう、人騒がせな。  
結局二人とも同じ願いだったなんて。  
 
「くひひひっ! なんだよー、やっぱりサキももっかんもホントの願い事はそれじゃんかよ!」  
「真帆っ、謀ったわね! あんたこれを書かせたくて、わざわざこんなことしたんでしょ!」  
「知らないよーだっ。何言ったってそれを書いたのはサキじゃんかよ。あたしじゃないもんねー!」  
「くっ!」  
「うぅ、昴さんに見られちゃった。昴さんに知られちゃった」  
 
そして勝ち誇った真帆がさらに追い打ちをかける。  
 
「さー、ではご褒美タイムだっ。すばるんっ、お願い通りに、  
 サキともっかんのムネをもんで大きくしてやるんだ!」  
「え?」  
 
………………。  
 
――しまったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!!  
 
そんなルール、すっかり忘れてた……。  
 
 
「そ、そ、そ、そんなことできるわけないじゃない!!!」  
「ふぇっ、す、昴さんにっ、無理っ無理っ、絶対、無理だよ!!!」  
 
当然全力で拒否する紗季と智花。  
 
俺だって教え子である小学生女子にそんな破廉恥なマネできるはずないので、  
二人と一緒に真帆の説得にかかる。  
 
「ま、真帆。とりあえず当たったんだから、実行するのはいいじゃないか。  
 二人だって嫌がっているんだし……」  
「駄目だねっ。ルールはルールだもんね! それに二人ともすばるんにもまれたいから、願い事に書いたんだろ!」  
「あ、あれは胸をもんでもらったら大きくなるって言うからホントかなって思って試しに書いただけで  
 私自身はまったくこれっぽちもそんな気ないして気にもしてないんだからね!」  
「う、うん。私も……ゴニョゴニョ……な人にもんでもらうと胸が大きくなるってきいて……それで……」  
 
紗季がやたら早口で、智花が掠れたような小さな声で、短冊に書いた言い訳をする。  
……まあ、よく聞く俗説を鵜呑みにしてしまったようだが、ホントかどうかもわからないし、第一俺でなくてもいいだろうに……。  
 
そう思って口を挟もうとしたその時――。  
 
「そうね。それは一理あるかもしれないわね」  
「え!?」  
「ふぇ!?」  
 
今回の騒ぎの無自覚な共犯者と化している母さんが、頬に手を当てたまま、妙に真剣な表情で答えやがった。  
 
突然、横やりを入れてきた我が母の顔を、二人が驚いたように見つめ、  
――そして、その視線をゆっくりと下に落とした。  
 
……そこには、母性の象徴のようにたわわに膨らんだ二つの脂肪の塊が、  
エプロンを押し破らんばかりに大きく自己主張をしていた。  
 
――もの凄い説得力だった。  
 
「――やっ、やるわ。そ、そうよね、どんなくだらない遊びでも、やっぱりルールは守らなきゃいけないわよね!」  
「――そっ、そうです! 胸の大きさとかは関係なくって、あくまで一度した約束は破っちゃいけないから!」  
 
そして、二人とも両手を後ろに組んで、ずずいっと俺に向かって胸を反らしてくる。  
 
「そ、そういうわけで、よろしくお願いします! 昴さん!」  
「って!? ちょっとちょっと待って、二人とも! 本気なの!?」  
「私は別にどうでもいいんですけど、このままだと真帆がうるさいし、  
 何事も試さずに否定するのはいけないと思うので、とりあえず一度やってみましょう!」  
 
な、なんで二人とも、いきなりやる気に……。  
 
そんな胸の大きさを気にしているのか?  
二人ともまだ小学生なんだから気にしなくていいと思うのにな。  
これから成長期でドンドン大きくなっていくんだから。  
 
とはいえ、どうやってこの事態を打開する?  
 
「大丈夫よ、すばるくんが変なことをしないように、私がしっかりと見ていてあげるから」  
「するか! てか、息子に変なことをさせようとしているのは母さんじゃないか!」  
「え?」  
 
きょとんと首を傾げる我が母。  
……もはや何を言っても無駄なことは、この15年間で骨身に染みているので、  
俺は仕方なく震えて待つ二人の少女に向き直った。  
 
とにかく、この場をどうにかして乗り切らねば……。  
 
だが真帆だけでなく、本人たち(+大人1名)までやる気となると、  
もう胸をモミモミする以外にはないように思われる。  
 
そうだ、ちょっとだけ触れて、すぐ離して『終わった』と宣言してしまおう。  
下手に抵抗して二人の恥ずかしい思いを長引かせる寄りも、そっちの方が楽なはずだ。  
 
「……わかった。すべての責任は俺が持つよ。……で、どっちから?」  
 
そう決心し、一応、聞いてみると、意外にも智花が強く先攻を希望してきたので、  
智花からと相成った。  
 
「……じゃあ、さ、触るよ、……いいんだね、智花?」  
「ふぇっ、は、はい! お、おねくぁいふぃます!」  
 
これ以上ないほど顔を真っ赤にして、しどろもどろに返事をする智花。  
 
いいか、これはお願いされて子供の胸を擦ってあげるだけなんだ。  
やましい気持なんてこれっぽっちもないんだからな!  
 
そう自分に言い聞かせ、両手を智花の胸に、服の上からそっと当てる。  
 
ぺた。  
 
「ひゃうっ!?」  
「…………ん?」  
 
……あれ?  
 
……改めて触ってみると……。  
……智花の胸は、起伏が乏しいというか……ほとんどなく……  
……まったくもって――ぺったんこだった。  
 
触る前は内心かなりドキドキしていた俺だったが、そう認識とたん、すっと気が抜けてしまった。  
 
なーんだ。母さんの言う通りじゃないか。  
いくらかわいいと言っても、智花はまだまだ発育前の子供なのだ。  
そんな子供の胸を触ったからと言っても、ドギマギする方がおかしい。  
 
安心した俺は、ならばっと智花の胸を揉み始めた。  
 
さわさわ、ぺたぺた。さわさわ、ぺたぺた。  
 
「ふぇえええ!!!??? す、昴さん!?」  
「はいはい、動かないでねー。すぐに終わるからねー」  
 
子供をあやす口調で智花の平らな胸を揉む……というより、実際には服の表面を撫でていく感じ。  
 
ちょっとくすぐったいかもしれないけど、これを少し続ければ、みんな納得してくれるだろう。  
 
さわさわ、ぺたぺた。さわさわ、こりっ……。  
 
「ひゃうううう!!!???」  
「ん?」  
 
智花の平らな胸部を撫でている指に、なにかが引っかかった。  
 
なんだろう、これは? ……ボタンかな?  
でも今日の智花のいでたちは薄手のワンピースで、胸の、しかも両側にボタンなんかついていない。  
不思議に思いながら俺はその突起を摘んで、クリクリと弄って確認してみた。  
 
「ひゃああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」  
「――!!!!!!????? ご、ごめんっ!? 智花!」  
 
――と、とんでもないことをしてしまった!  
 
先述の通り、智花は薄手のワンピースしか着ていない。  
……はい。つまりその下にも、胸を覆ういわゆる『ぶらじゃ〜』というものを  
付けていなかったのだ。  
すなわち、俺が今、ボタンだと思ってクリクリしてしまったモノは…………。  
 
「ごめんっ! 智花、本当に申し訳ない! 俺はなんてことを!」  
「ふぇっ、……い、いえ、昴さんは悪くないです。これは私が願ったことですから……」  
 
胸を両手で隠し、涙を浮かべてフルフルと子羊のように震える智花。  
 
「もう、駄目よ。すばるくん。女の子はもっと丁寧に扱ってあげないと」  
「そういう問題じゃない! そもそも母さんが……」  
「私が……?」  
「…………」  
 
……いや、もういい。  
もう何も言いたくない。  
 
俺は大人しく、次に待ち受ける紗季に向かい合った。  
 
「紗季……えっと、触っても、……いいかな?」  
「はっ、はい。ど、どうぞ。お好きなように……」  
 
頬を染めて、俺の方をチラチラと見る紗季の姿はなかなか新鮮だったが、  
じっくりと観賞している時間はなかった。  
 
……今度は間違いのないよう、慎重に……。  
 
俺は紗季の胸に手を伸ばし、……乳首に触れないよう、そっと掌で包みこんだ。  
 
――ふわり。  
 
「ふうぅ!!??」  
「あ……」  
 
紗季の胸に手を当てて……なんで智花が先を希望したのかわかった。  
 
紗季の方が……若干だけど……膨らみがある。  
 
たぶん紗季の後に触られて、その差異をまじまじと実感されるのが嫌だったのだろう。  
 
そんなに気にすることないのにと思いつつ、俺は智花よりもちょびっとだけ大きい紗季の胸を  
やわやわと揉み始めた。  
 
「ふぁっ!? ああっ!!! は、長谷川さんっ、そんな!」  
 
形の良い眉をきゅっと寄せて、身をよじる紗季。  
膨らみがあると言っても、それは真っ平らの智花と比べた場合で、  
僅かに盛り上がっているという程度であるが、ちゃんと指で押せば沈むし、  
まだ固いけど他の部分とは明らかに違う柔らかさがあって、感度もなかなか良……。  
 
 
「――ってええええっ、何マジ揉みしてんだっ、俺!」  
「はあっ、はあっ、はあっ……」  
「ふぇ……はあ、はあ」  
「……うわっ、サキがなんかエロくなってる……」  
「……す、すごい。紗季ちゃん、……大丈夫?」  
「おー、いーなー、さきもともかも。ひなもおにーちゃんにおむね、さわってほしーなー」  
 
紗季と智花が胸をかき抱くようにして、荒い息をあげ、頬を染めてじっと熱い瞳で俺を見る。  
 
……お、俺はいったい何をやっているんだろう?  
本当にこれは『子供の胸を擦ってやっているだけ』といことで済まされるんであろうか……。  
 
「ふふ、二人とも、良かったわね。これを毎日繰り返せばきっとおっぱいが大きくなるわよ」  
「!!!???」  
「ふぇぇぇぇっ、ま、毎日!?」  
「……もう勘弁してくれ……」  
 
俺はがっくりと肩を落としてうな垂れるのだった。  
 
 
「さて、残り2枚か……」  
 
4枚目となるのは、真帆か、それとも愛莉か。  
 
真帆のお願い事が危険であることは言うまでもないが、  
紗季と智花のお願いがとんでもなかったことを考えると、  
愛莉のお願いだってわかったもんじゃない。  
 
「…………ええいっ、ままよ!」  
 
俺は恐怖におののきながらも、熟慮の末、左側に残った短冊を選んだ。  
 
その内容は――。  
 
『お姫様だっこをしてほしいです』  
 
「あいりぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!」  
「ふわわわわっ!? は、はい、正解です。  
 ……でもよくスグにわたしだってわかりましたね?」  
「そりゃあもちろん、こんなかわいいお願いをしてくれるなんて  
 愛莉以外には考えられないじゃないか」  
「あ…………えへへっ」  
 
嬉しそうに微笑む愛莉に、じーんと心が癒される。  
さすが慧心学園女子バスケットボール部の良心。  
パンツとか胸もむとかに比べたら、なんて女の子らしいお願いなんだ。  
 
「じゃー早速、お姫様だっこをしてあげるね、愛莉」  
「えっ、は、長谷川さん――きゃあっ!?」  
 
普段だったら女の子に触れるなんて躊躇するところなのだが、  
紗季と智花の胸をもんだりしたばかりだったので、俺は特に気にすることなく  
愛莉の背中と膝の裏に腕を回し、よいしょっと声を出さずに持ち上げる。  
 
推定身長170cmの愛莉は小学生とはいえ決して軽くないのだが、  
愛莉は大人しく俺に抱かれているので、割とすんなりだっこすることができた。  
 
「はうぅぅぅぅ、長谷川さん、やっぱりいいですよう。……わたし、重いから……」  
「はは、それは愛莉の心がおっきいからだよ。優しくてみんなへの愛情がいっぱい詰まっているからね。  
 でも俺はその重さ、嫌じゃないよ?」  
 
そう言って、ぎゅっと強く抱きしめると、愛莉はじんわりと頬を染めて、  
きゅっと俺の服を握り返した。  
 
 
「……なにか長谷川さんの態度に、凄い差別を感じるわ……」  
「……うぅ、私もあっちにしとけばよかった……」  
「……ってなんで、あたしじゃないってスグ決めんだよ!」  
「おー、あいり、いーな。ひなもだっこしてほしーなー」  
 
ヤバイ。他の4人から不満が噴出してきたぞ。  
名残惜しいがもう降ろそうかとした時、母さんが不思議そうに疑問を呈した。  
 
「……でも、あれって普通の『だっこ』でしょ。『お姫様だっこ』とは違うのではないかしら?」  
「ああ、最近はああいう風に横にだっこするのを、『お姫様だっこ』て言うんですよ」  
「あら、そうなの。紗季ちゃん、物知りね。……でもせっかく愛莉ちゃんが  
『お姫様だっこ』と書いたのだから、その通りにした方がいいと思うわ」  
「??????」  
 
意味がわからずキョトンとする子供たちに、母さんはぽんっと掌を合わせて笑顔で言った。  
 
「さ、お着替えしましょう」  
 
……しばらくして……。  
 
「うふふ、綺麗よ、愛莉ちゃん。本当に、かわいいわぁ」  
「あ、あ、ありがとうございます……でもいいんですか、このお洋服、着させてもらって……」  
 
そこには、まるでお姫様のように、フリフリのドレスを着た愛莉がいた。  
色は淡いピンクと白。  
愛莉は身長も高くスタイルもいいから、長いスカートを引きずることもなく、  
大変よく似合っていた。  
 
「もちろんよ。私のお古だから嫌じゃなければいいんだけど」  
「そんなことありませんっ。とっても、ステキですよ」  
「ありがとう。でもやっぱり女の子はいいわぁ。色んなお洋服を着せられるものね。  
 すばるくんてば、私が着ていたのは嫌だって、ちっとも着てくれないのよ」  
「いや、当たり前だろ。なんで俺が女物の服着なきゃならないんだ!」  
「そう? 似合うと思うのに……」  
 
残念そうに呟く我が母であった。  
まったく子供たちがいるっていうのに、俺まで母さんのボケたペースに巻きこまないでほしい。  
ほら、みんな呆れてるぞ。  
 
「……そうよね、長谷川さんって、みーたんに似てるし……」  
「……体も細そうですし……」  
「……そっかー。女装って手もあったかー」  
「ねー、おにーちゃん。今度ひなとおそろいのお洋服きよ? きっとかわいーよ!」  
 
……あれ?  
……なんだろ、みんながまるで舐めるような視線で、じっと俺の体を見つめてくる。  
 
 
身の危険を感じた俺は、すぐさま振り返り、話を逸らそうとした。  
 
「母さん! だいたいなんで俺まで着替えなきゃならないんだよ!」  
「あら、お姫様をだっこするのは、王子様でなきゃいけないでしょ?」  
 
愛莉だけでなく、俺の方も真っ白なタキシード姿に着替えさせられていた。  
愛莉のが母さんのお古ということは、これは父さんのか?  
それにしたって、たかが子供ゲームをここまで大げさにしないでほしい。  
 
「さ、すばるくん。準備はできたから、ちゃんと愛莉ちゃんを『お姫様だっこ』してあげてね」  
「……うぅ、わかったよ。……愛莉、なんかいろいろごめんね。じゃ、抱いていいかな?」  
「は、はい。……あの……その……よろしくお願いいたします……」  
 
長いスカートのドレスを着た愛莉を、慎重に抱き上げる。  
さっきと同じことをしているはずなのに、ドキドキ感がまるで違う。  
ドレスを着た愛莉はとても綺麗で、まるで同年代か年上の女の子のように感じてしまった。  
 
そ、それに……。  
愛莉の着ているドレスは、……胸元が広く開いていて……その……胸の谷間が、くっきり見えるんです……。  
 
しかもさすがの愛莉でも、母さんの服はサイズが合わないらしく……胸にゆとりがあって、  
ちょっと揺れると……中まで見えそうになって…………ええいっ! 今日は胸難の相か!?  
 
「はーい、アイリーン。こっち向いてー。ちゃんとすばるんの首に腕回してねー。  
はい、チーズ!」  
「えええっ!? ま、真帆ちゃん、なんでカメラなんて持ってるの!?」  
「………………」  
「トモ、いくら羨ましいからって、愛莉をいじめちゃ駄目よ。それにあのドレス、  
 私たちじゃ、絶対胸がスカスカよ」  
「ふぇっ!? そ、そ、そ、そんなこと! ……やっぱり、スカスカ……だよね」  
「いーな、いーな、ほんとにいーな。なゆー、ひなも、ひなもおひめさまになりたいー」  
「あら、困ったわね。ひなたちゃんに合うのがうちにあったかしら?」  
 
その後結局、みんなにデジカメや携帯カメラでバシバシ撮られて、完全にお人形さん状態だった。  
……さすがに腕が疲れた……。  
 
 
撮影会の後、着替え直す時間ももったいないので、そのまま最後の短冊へと向かう。  
 
「なーんだ。結局最後はあたしのかあ。すばるん、とっととめくっちゃってよ」  
「……ん、ああ、そうだね」  
 
最後に残った一枚、消去法で言えば当然真帆のお願い事となる。  
 
「真帆、もうあんただって分かっているんだから、わざわざめくる必要ないんじゃないの?」  
「いーの、すばるんにめくってほしいの。んで、あたしのすんごいお願いにビックリしてもらいたいのさ!」  
 
二つ結びの髪を振り回し、真帆がきししっといたずらっ子な笑顔を向ける。  
 
最後ということは強制的に真帆のお願いはかなえてあげなくてはならないわけだ。  
愛莉の可愛らしいお願い事に喜んでいたけど、もしかして一番最悪の選択をしてしまったんじゃ……。  
 
「どうせ、またトンデモないお願い事して長谷川さんを困らせるだけでしょ」  
「へへんっ。言ってろサキ! あたしのお願いは、その気になればみんなのお願い事を  
 ぜーんぶ叶えることができるスッゴイお願いなんだかんな!」  
 
みんなのお願いを全部?  
というと、  
 
『ぱんつを買ってください』  
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
『お姫様だっこをしてほしいです』  
 
が全部できるお願いっていうことか。  
 
なんとなく嫌な予感がした俺は、短冊の端っこを持ってそぉーと浮かせて、  
最初の一文字だけを覗き見た。  
 
『セ』  
 
セ? カタカナの『セ』?  
 
『センターをやってみたい』  
意気込みは大事にしてあげたいが、ちょっと難しい。  
真帆は上背がないし、今やセンターとしての自覚が芽生えてきた  
愛莉がいるしなあ。  
 
『セパタクロー』  
実は真帆はバスケじゃなくてセパタクロのコーチをしてほしかった。  
いや、違うだろ。  
そもそもみんなのお願い事に結びつかないし。  
 
 
『セ』だけでは、選択肢が多すぎるので、俺はもう少しだけ短冊をめくってみた。  
 
 
『ッ』  
 
カタカナの小さな『ツ』。  
 
『セッ』で始まる真帆が俺にしてほしいこと。  
 
――セッティングだ。  
バスケのゴールのセッティングか。  
もしくはパソコンのセットアップとい線もある。  
 
って、あの超有能なメイドさんがいるから俺が出る幕ないじゃん。  
 
なんかだんだん嫌な予感が当たってきたような。  
 
俺はさらにめくりあげ、3文字目を見た。  
 
 
『ク』  
 
ばんっ!  
 
短冊を上から叩き付けるようにして覆い隠す。  
 
「…………」  
 
『セック』?  
 
『ぱんつを買ってください』  
『胸をもんで大きくしてほしいです』  
『お姫様だっこをしてほしいです』  
 
を網羅できる『セック』で始まる俺へのお願い。  
 
待て待て待て。  
真帆はまだ子供だぞ。あの言葉を知っているわけないじゃないか!  
 
だいたいみんなのお願いに関係だって……  
――ある。  
 
パンツ買っては、勝負パンツを買って  
胸をもんではそのままの意味で  
お姫様だっこでベッドへGO!  
そして朝までラブセック○!  
 
……疲れてるな、俺。  
 
 
「なんだよー、すばるん。ちびちび見てないで、とっととめくれよ!」  
 
不満そうに口をとがらす真帆。  
とてもじゃないが、あの言葉を書いたようには見えない。  
 
そうだ、昴、自分の教え子を信じろ。  
真帆がそんなことを書くわけないじゃないか。  
この子はいつも無茶ばっかりやらかすが、根はとってもいいこなのだ。  
 
それに、それにだ。  
 
さすがに『セック○』なんて書いたら、うちの母親が止めないはずがない。  
どんなに世間とズレた感覚の持ち主であろうとも、この人は『母親』なのだ。  
子供にそんなことをするのが、どれだけ罪深いことか、人の親であればわかるはずだ。  
最早かわいいとかで済まさないだろう。  
 
俺は真帆を信じ、母さんを信じ、手にした最後の短冊を思いっきりめくりあげた。  
 
そこには!  
 
 
『セックスしてください』  
 
 
「かああああああああああああああさああああああああああああああああん!!!!!!!」  
「あら、なあに、すばるくん?」  
「あ、あんたは、人として、親として、それでいいと思ってんのか!?  
 こ、こ、こ、こんなこと、子供に、子供と、子供で、子供を、させようって言うのか!!!  
 そこまで常識を失ったのか!? 」  
 
おれは『セックスしてください』と書かれた短冊を突きだし、鬼の形相で母親に詰め寄った。  
それを見た母さんは驚いたように口を開け、  
 
「あら、やだ」  
「当たり前だっ!」  
「それ、私のよ」  
 
と言った。  
 
「………………………………………………は?」  
「これは私がお父さんへのお願いを書いた短冊。真帆ちゃんのと入れ替わっちゃったのね」  
 
うっかりしてるわね。  
僅かに頬を赤らめ、自分の頭をこづく母さん。  
 
「はい、じゃあこっちが真帆ちゃんのお願い事ね。ちゃんと叶えてあげるのよ、すばるくん」  
 
そう言ってポケットから出して渡してきた短冊には、  
 
『シツジになって!』  
 
と同じく母さんの字で書かれていた。  
 
「うふ。少し暗くなってきたわね。それではみんな、名残惜しいけれどこの辺りでおしまいにしましょうか。  
 すばるくん、悪いけどみんなを送っていってあげてくれるかしら? みほしちゃんもいないし」  
「あー、なゆっち、いーよ。電話すればやんばるが車で迎えに着てくれるって言ってたから  
 みんな送ってっちゃう」  
「あらそう? ありがとうね、真帆ちゃん。それじゃ、私は後片付けをしちゃうわね」  
「あっ、私、お手伝いします!」  
「わ、わたしも……」  
「愛莉はまず着替えた方がいいと思うわよ」  
「おっかたづけー、おっかたづけー、みーんなーできれーにしましょーねー♪」  
「…………………………………………」  
 
女の子たちが動き出す中、俺は固まったままだった。  
そしてその夜――  
 
「……あの、すばるんさま。真帆さまのお相手をして頂けるのは大変ありがたいのですが、  
 お家には戻られなくて良いのでございましょうか?」  
「いーんです! 少なくとも今夜は、あの家にはいたくありません!」  
「ねーねーすばるんっ。今度はこっちの格ゲーで対戦しようぜっ!」  
 
三沢邸にて執事服を着て真帆とゲームをする俺の姿があった。  
 
今日は7月7日。七夕。  
織姫と彦星が、年に一度会うことのできる、貴重な日らしい。  
 
 
 

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