「よっしゃ8切り! んでもって3! またあたしの勝ちーっ!」  
「うわ、またやられた……」  
 夕食を終え、結局今日は家に泊まってゆく事になった真帆は、俺と一緒に部屋に戻ってきた。  
「んじゃ罰ゲームっ! ほらほらすばるんっ」  
 そして今は大富豪の真っ最中。ちなみにこの通り、負けた者には罰ゲームが待ち構えている。  
「ん、じゃあいくぞ真帆」  
「おうっ、こいすばるんっ!」  
 俺がもし負けた場合、真帆にキスする。そして真帆が負けた場合、真帆は俺にキスされる。  
 ツッコミどころは明白だが、敢えて何も言わない。  
 俺自身、真帆にこうやって甘えられるのは嬉しいんだから。  
「……ちゅっ」  
「あっ……ん」  
 既に今日何度目になるか分からないキスをする。  
 軽く唇同士を重ね合わせて数秒。そしてどちらからともなく離れる。  
「くふふっ……やっぱすばるんにキスされるの、すっごいシアワセになるなぁ〜っ」  
 だがキス自体もさる事ながら、本当にキケンなのはキスをした直後の真帆なのだ。  
「ねっねっすばるんっ、もっといっぱいキスして!」  
 床に手を着きながら、上目遣いでそうおねだりしてくる真帆。  
 あーもうだから反則過ぎるだろそれ! こんな風にお願いされて断れる男が一体ドコの世界にいるってんだ。  
 ……不思議なもので、一度自分の気持ちに正直になってしまうと、以降思考に躊躇いがなくなる。  
 自分でも驚くほどに、今俺の頭は真帆バカになってしまっているのだ。  
「ああ、真帆がしてほしいって言うなら、何回でもしてやるよ」  
「すばるん……ぅんっ」  
 そうして結局、次のゲームを開始するのに、何分もかかってしまうのだ。  
   
「ふぅ……」  
 大富豪を一時中断し、風呂に入る。  
 どちらが先に入ろうかという話になった時、真帆は後から入ると即答した。  
 何かこだわりでもあるのだろうか、と少し不思議にも思ったが、俺としてはどっちでも構わないので、先に風呂を頂く事にした。  
「しっかし、これはさすがにマズいな……」  
 真帆とキスをした事、事実上恋人同士になった事……じゃない。  
 それに関してはもう、腹を括った。あれだけ考えた末での決断なんだ。今更揺らぎはしない。  
 寧ろ逆。自分で想像していた以上に真帆に夢中になっている。  
 今も、さっさと上がって一刻も早くあのヒマワリのような笑顔を見たいと思ってる。  
 多分、浮かれてるってのもあるんだろうな。  
 どうあれ、年上としてちょっとは落ち着かないとハズかしいぞ。  
「すばるーんっユカゲンどぉーっ?」  
「おーっ気持ち良いぞー。もうすぐ上がるなー」  
「んにゃ! あたしも今すぐ入るからちょっと待ってて!」  
 ……ほら、夢中になり過ぎてて、幻聴まで聞こえてきたじゃないか。  
 そんな逃避の時間を、神はほんの三十秒ほども与えてはくれなかった。  
 すぐにガラガラっとガラス戸が開き、  
「そんなワケでまほまほらんにゅーっ!」  
「って、なんでっ!?」  
 真帆が、堂々と、素っ裸で、風呂場に入り込んできた。  
「愚問だなーすばるんっ! 恋人どーしなんだから一緒におフロ入るのくらいジョーシキじゃんっ!」  
 そしてこれが、まほまほウイルスの恐ろしいところだ。  
 この真帆の言い分を『そういうものか』と思い込んでしまう。  
「いや、真帆それは――!」  
 よしんばそんなワケないと思い直しても、  
「おフロ待ってる間、一人でいるのイヤなんだよぅ! だからさ、良いじゃん一緒におフロっ」  
 こうやって上目遣いでおねだりされたら、抗う術などないのだ。  
 第一、俺だってそう思ってたんだから、強く断る事なんて出来ない。  
「……わかった。そうだな、俺も真帆とは、少しでも長い時間一緒にいたいよ」  
 結局そう答えてしまう。甘いなぁ、俺も。  
 
「エヘヘっ、すばるんとおフロおフロ〜っ」  
「……………」  
 えぇっと、非常に困った事になりました。  
 なにせこの浴槽、一般家庭にある大して広くない物。  
 そこに高校生男子と小学生女子が一緒に入るとなったら、肌を重ねるしかないわけで。  
「っ……!」  
「? どしたのすばるん? ひょっとして重い?」  
「い、いやいや! 大丈夫!」  
 俺の足の付け根あたりに真帆の柔らかいお尻が乗ってて、俺の理性を絶えず揺さぶってくる。  
 というかホント、なんでこんなに柔らかいんだ。この娘のお尻は!?  
 こんなのを直に押しつけられたら、理性なんて保つワケがない!  
「……ん?」  
 かくして一番最初に、一番判りやすく反応してしまう部分が、既にその存在を主張し始めていた。  
「なんだこれ? なんかオシリに当たってる」  
「ッ――!?」  
 そして俺の意思とは関係なく、息子は真帆のお尻に押し当てられ、真帆もさすがにその存在に気づいて、なんと右手で掴んできたのだ。  
 これは、本格的にヤバい! そう思った俺は、ゆっくりと立ち上がり、  
「ゴメン真帆! 俺のぼせそうだから、先に上がるな!」  
「あっすばるん……! タンマっ、あたしもすぐ上がるから!」  
 そのまま脱衣所へと飛び込んだ。  
 すぐに真帆もついてきたが、まぁ最大の危機は回避できたワケだし、一緒に着替えるくらいは問題ない。  
 勿論、向こうを向きながらだけど。耳を澄ませて音を拾いつつ妄想とかもしていない。断じて。  
   
「ではすばるんには罰ゲームをかしたいと思います!」  
「……は?」  
 風呂から上がって部屋に戻ってくるなり、両手を組んで宣言する真帆。  
 勿論、まだ勝負も何もしてない。  
「えっと、何の罰ゲーム?」  
「おフロからの脱走。もーオシオキものじゃん!」  
 ちょっ、理不尽だろそれ。  
 そうは思ったが、なぜ逃げたのかと問われても答えようがない以上、ヘタに反論するわけにもいかない。  
「せっかくすばるんとキモチよーくお風呂に入れてたのに。……というワケでっ」  
 さっきまでと同様、その実ご褒美クラスの罰ゲームなら何の問題もないんだが、果たして……。  
「すばるんにはあたしに、オトナのキスをしてもらいます!」  
 良かった。キスか。さっきと一緒。なら何の問題もない。……妙な枕詞が付いてる事以外は。  
「キスするのはもちろん良いけどさ。大人のキスって?」  
 とりあえず訊いてみる。この娘は、分かってて言ってるんだろうか。  
「んーなんかよく分かんないけどサキが言ってたから。すばるんなら知ってるかなーって」  
 そりゃ知っておりますとも。俺だって健康な男の子なもんで。所謂”大人のキス”と呼ばれるキスも。  
 だがさすがに、それはマズイだろう。だってそれは、多分、入り口だから。  
「なぁ真帆、他の罰ゲームには、ならない?」  
「ならないっ! あたしにオトナのキス、教えて」  
 こちらのお願いを跳ね除けて、ぺたりと床に座り込み、顔を寄せてくる真帆。  
 ちなみに俺は部屋に戻ってきた瞬間から座っている。真帆の唇までの距離は、ほとんどない。  
 ……なんでこの娘は、こんなにも可愛いんだろう。なんで俺に、こんなに甘えてくるんだろう。  
 どうあっても、応えたくなるじゃないか。  
「真帆……」  
 もう何度も味わった、それでも尚俺を魅了して止まない、真帆の唇。  
 やっぱり抗う事なんて出来なくて、彼女の小さな肩を抱く。  
「あっ……」  
「もしかすると気持ち悪いかもしれないから、イヤだと思ったら言ってくれ」  
「大丈夫だよ。すばるんだもん」  
 頬を赤く染めて、一度開いた瞳を再び閉じる真帆。  
 不安なんて、感じる必要があるとすら思っていない、信頼しきった顔。  
 この純粋な想いを裏切るような事だけは、しちゃいけない。  
 けど同時に、この娘を全身全霊で愛したい。そう思った。  
 
「ちゅっ……」  
「ん……っ」  
 だから結局、俺は真帆の唇を塞ぐ。  
 そして自分の口を僅かに開き、舌を出す。  
「っ――!?」  
 案の定、唇を舐めてくる舌の感触に驚いてる真帆。目が見開かれる。  
 口も少しだけ開かれ、入り口が出来た。そこへ素早く、自分の舌を滑り込ませる。  
 ただ舌を入れただけ。そこで一旦、止まる。  
 出来ればすぐにでも、この舌で真帆の口の中を隅々まで味わいたい。  
 けどその前に、真帆が嫌がってないか、確かめないと。  
「……………」  
 最初こそ驚いてたものの、今は三度瞳を閉じて、ある程度落ち着く事が出来たみたいだ。  
 特に嫌がってるようにも見えない。  
 それなら、その瞳をもう一度開いてもらうとしますか。  
「――れろっ」  
「んんっ――!?」  
 さらに舌を奥に進め、真帆の舌の周りを這わせる。  
 そのまま絡みつくように、舐り続けた。  
「んっ、ゃあ……!」  
 口の端から漏れる声の色に、正直驚く。  
 小学生とは思えない艶やかな声は、俺の男を強く刺激する。  
 もっと聴きたい、この声を。もっと味わいたい、真帆の口の中を。  
「っはん、んちゅっ……」  
 無我夢中に真帆の口を蹂躙する。  
 ……マズいな。キスだけだからって思ってたのに、俺はそれだけで、昂ぶってしまっている。  
 真帆の全てを、欲してしまっている。  
「――ぷはっ」  
 息が続かなくなったのか、真帆が唇を離した。  
 初めて感じた類の刺激だったんだろう。困惑の表情を浮かべている。  
「い、今のが、オトナのキス……?」  
「うん。どうだった?」  
「さいしょはいきなりすばるんが舌入れてきて、ナニやってんだって思ったけど、すごく、キモチよかった」  
「そっか」  
 気持ち悪い思いをさせてしまっていたらどうしようかと思ったが杞憂だったらしい。  
 ……いや寧ろ、こっちの方が問題だろうか。  
「ねぇすばるん、オトナのキス、もっかいして?」  
 大人のキスがいたく気に入ってしまったらしく、おねだりしてくる。  
 ただでさえ驚異的な破壊力を持つその瞳は、今は妙な風に潤んでいて、見つめているとヘンな気分になってくる。  
「ああ。真帆がしてほしい事なら、何回だってしてやる」  
 卑怯な事を言ってしまった。自分の欲求を隠して。  
 真帆がそう言ってくれなかったら、俺はこの欲望を、何が何でも押さえつけないといけなかった。  
 一度知ってしまったら、彼女の口の味を忘れる事なんて、出来ないんだから。  
「んぅ……」  
「ぁ……ん」  
 唇を重ねる。今度はあまり間も置かずに、舌を入れた。  
「ふふ……っ」  
 すると真帆はいつものようにイタズラっぽく微笑む。  
「んっ……?」  
 そして俺に応えるように、舌を絡めてきたのだ。  
 お互いの舌同士が擦れ合う。  
 さっきの一方的な愛撫とは違う、両者が求め合うからこそ得られる、充足感にも似た快感。  
 こんなキスもあるんだな。そう思った。  
 いや、そもそもキス自体、今日のが生まれて初めてなんですけども。  
「んっ……」  
「っと……。あはは、なんかすっげーヤラシーな」  
 唇を離すと、混ざり合った二人の唾液が糸を引いていた。  
 
「すっごくシアワセなキスだけど、なんかエッチぃなコレ」  
「ま、大人のキスだからなぁ」  
 ……そこで言ってはいけない事だって、分かってはいた。  
 けど真帆とこれだけキスをして、我慢出来なくなってしまっていた。  
「なぁ、真帆」  
「んー?」  
「もっとエッチなキス、してみても良いかな?」  
 だから俺は、ついに自分の欲求に、屈してしまった。  
   
『これからする事は、少しでもイヤだって思ったら言ってくれていいから』  
 事前にそう言っておく事が出来たのは、最後に残された理性によるもの。  
 けどコレを止めるまでには、至らなかった。  
「す、すばるん……っ」  
「ん?」  
「これゼッタイ、エッチなこと、だよね……?」  
「……うん」  
 最早疑いようもないだろう。俺が真帆に頼んだ事。  
 ベッドの上に足を広げて体操座り。……ただしワンピースのスカートをたくし上げて。  
 真帆にはこう言ったが、所謂M字開脚の体勢だ。しかもスカートは上げられてしまっている為、真帆のパンツは今丸見えになっている。  
「はっハズかしいよぅ、これ……」  
 蚊の鳴くようなか細い声で訴えてくる真帆。  
 けどそれでも足を閉じようともスカートを下げようともしないのは、ハズかしくても俺に応えたいと思ってくれてるんだろうか。  
 だとしたら、嬉しい。  
「真帆、すごく可愛いよ」  
「うぅっ……」  
 だからその気持ちが伝わるように、そっと額にキスをする。  
 それから真帆の前に跪き、普段は絶対に見る事の出来ない場所へ、顔を近づける。  
「すっすばるんっ! なんでそんなトコにカオツッコんでんだよっ!?」  
「真帆のココ、もっとよく見たいからかな」  
「やっ! 喋っちゃダメぇ……!」  
 ハズかしさと、それから足の付け根に息が吹きかかる程近くに顔を寄せてるからくすぐったいんだろう。  
 けどそうやって漏れる声がまた可愛らしくて、俺はとうとう、真帆の大切な場所に、舌を這わせた。  
「――んにゃっ?!」  
 あくまで下着越しに、だけど。それでも真帆にはかなり強い刺激だったみたいだ。  
 今までの中で一番大きな声が出た。それで、思考が少し現実に戻ってくる。  
   
 うちの母親は、感性が一般からかなりズレてる。  
 が、その母でもさすがにこんな状態を目の当たりにしたら幾らなんでも事の重大さに気付くだろう。  
 つまり見つかれば一巻の終わり。途端に背筋が凍りついたように冷たくなる。  
 けれどふと、思い出す。  
 そういえば夕食の直後、今夜はこの後出かけるって言ってたな。  
 なんかご近所同士の集まりがあるんだとか何とか。  
「すばるんナニ考えてんだよ! そんなばっちいトコなめるとかオカシイぞっ!」  
「おかしくもないし、ばっちくもないって。だって俺が大好きな真帆の、身体なんだから」  
 なら大丈夫だと安堵し、真帆の言葉に答える。  
 にしても、ちょっとキザ過ぎただろうか。今のは明らかに俺のキャラじゃなかった。  
「えっ……? う……?」  
 俺の答えがよっぽど予想外だったのか、軽く混乱してる。  
「んっ……好きな女の子の身体には、れろっ、どこだって触れたいんだよ」  
「きゃうっ、そんな、すばるんっ――!」  
 舐め続ける。実際に舐めてるのはあくまで布地だっていうのに、それでも俺を興奮させるには十分過ぎる。  
 その奥に、本来誰であろうと汚してはならない秘密の場所があると知っているから。  
「……だったら!」  
 と、真帆の声の色が一変する。少し驚いて、俺は舌の動きを止める。  
 さすがにこれは、気持ち悪かった、か?  
「あたしだって、すばるんのドコにだって触りたいもん! そんぐらいすばるんのコトスキだもんっ!」  
 そう思ったが全然違った。どうやらお嬢様の負けず嫌いに火をつけてしまったらしい。  
「なら、真帆にちょっとお願いしちゃおうかな」  
 まるでそれを利用するみたいで良心が痛んだけど。  
 それ以上に、真帆にしてほしいという欲求に思考を覆い尽くされてしまっていた。  
 

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