「トモっ! おねがい!」  
「まかせて!」  
 夕方。慧心学園の体育館で今日も女子ミニバスケットボール部の練習が行われている。  
 今は三対ニに分かれてそれぞれオフェンスとディフェンスの練習をさせている。  
「――それっ」  
「え、えいっ!」  
 紗季から受け取ったボールを、智花がゴールへと放る。  
 けどそれは、ジャンプした愛莉に弾かれた。  
「よーし、いい感じだぞみんな!」  
 すかさずみんなのプレイを褒める。  
 最後の攻防に参加していた三人は勿論、そこまでの流れに繋いだ真帆やひなたちゃんの動きも見事だった。  
「ありがとうございます、長谷川さん」  
「えへへ、コワかったけど、ガンバった甲斐ありました」  
「おー。お兄ちゃん、ひなもがんばったよ」  
「うんうん、みんなエラいぞ」  
 みんなを労うのと同時、無意識に傍にいたひなたちゃんの頭に手が伸びる。  
 こんなところにひなたちゃんの頭があったら撫でたくなるのが人情ってものだろう。  
「おー。ひな、お兄ちゃんになでなでされるの、キモチいいからスキです」  
 ただ、それが失敗だったと気づいた最初のきっかけはすぐで。  
「……ん?」  
「「じーっ……」」  
 みんなが俺を、正確にはひなたちゃんの頭を撫でてる俺の手を凝視している。  
 えっと、まさかとは思うけど……  
「あの、昴さんっ……出来ればその、私もなでてほしいですっ……!」  
「わっ私も! お願いします、長谷川さん!」  
「ひなの頭を撫でたんですから、公平に私達の頭も撫でないとダメですよね、長谷川さん」  
 みんな、ひなたちゃんと同じように頭を撫でられたいらしい。  
「わ、わかったわかった。ならみんな順番に並んで」  
 うーん……そんなに気持ちいいものなんだろうか。俺に頭を撫でられるのって。  
 真帆もよく頭を撫でてほしいってせがんでくるしな。  
「ありがとうございます、昴さん。とっても気持ちいいです」  
「そう? それならよかっ、た……?」  
「…………」  
 そんなことを考えていて、ふと思い当る。  
 こういう時にいの一番に名乗り上げる真帆が、今回一言も声を発してない。  
 ただ黙って俺を見ている。……というより、睨んでる。  
「あっ……」  
 思わず声を上げてしまう。  
 いくら鈍感な俺でも、さすがに気づく。  
 あくまでコーチとしてのスキンシップとはいえ、真帆にとっては面白い光景じゃないだろう。  
 むしろそれが分かってて、相手も自分の親友だから、不満をぶつける先が判らなくて余計機嫌を損ねてるのかもしれない。  
 俺としてもここまできて途中でやめるわけにもいかず、針の筵に座るような心持ちのままみんなの頭を撫で続ける。  
   
   
   
「むぅ〜……」  
 すばるんに頭を撫でられてる。  
 いつもならとっても嬉しくてあったかくなるけど、今日は違った。  
 なんだよぅ、みんなのアタマもあんなやさしそうに撫でちゃって。  
 そりゃもっかんもサキもアイリーンもヒナも親友だし、一緒にバスケをガンバってる大切な仲間だ。  
 そんでもってすばるんはあたしたちにバスケを教えてるコーチ。  
 練習中はふこーへーなことはしちゃいけないっていうのはわかってる。  
 けどやっぱり、オモシロくない。  
 ……………。  
 ………。  
 ……。  
 
「すばるん、ちょっといい?」  
 だから決めた。今日この場でナヤミの一つを解決させるって。  
 練習が終わったあと、すばるんを体育倉庫に誘う。  
「ああ」  
 すばるんは真剣な顔で頷いて、ついてきてくれた。  
 ここまでは作戦どーり。さーガンバるぞ!  
 あたしのミリキですばるんをメロメロにするんだ。  
   
   
   
 真帆に、体育倉庫に誘われた。  
 正直、怒られるんだろうなって思ってた。  
 みんなの頭を撫でてたから、多分ヤキモチを妬いちゃったんじゃないかって。  
「…………」  
「す、すばるん、どぉ?」  
 けど体育倉庫に着くなり真帆が取った行動は、俺の予想の斜め上をいっていた。  
「なっなにしてるんだ、真帆!?」  
 下着ごとスパッツを下ろして、体操服を捲り上げて……そんなことしたらアソコが見えてしまうだろ!  
 いや、多分見せるためにやってるんだろうけど。  
「す、すばるんがわるいんだから……っ」  
「え……?」  
 俺のせい? 今真帆が大切な場所をさらしている理由が?  
 一瞬疑問に思ったけど、すぐにわかった。  
「すばるんがみんなの頭を、あんなにやさしくなでるから……!」  
 だから、真帆なりに考えて、俺を繋ぎ止めようとしたんだろう。  
 さんざん鈍感だと言われ続けている俺だけど、真帆のことだけは少しだけ解るようになってきた気がする。  
「真帆……ゴメンな」  
 申し訳なさ、40パーセント。  
「べ、ベツに謝んなくたっていいけどさ! すばるんはあたしらのコーチなんだし!  
 でもさ……その、すばるんは、あたしのコイビトでもあるんだから」  
 愛しさ、30パーセント。  
「そうだよな、これからはせめて二人きりの時はもっと恋人らしくしよう」  
「うんっ、わかればよろしー! それで、さ、すばるん……ひゃっ!?」  
 残りの30パーセントは、すっかり真帆の身体に欲情してしまっていた。  
 変わらず俺の前に晒された華奢な身体。きめ細やかな、見ただけでやわらかいとわかる肌。  
 それに計算されているかのように見えそうで見えないほんの少し膨らんだ胸の先端。  
 対して俺の目に完全に触れてしまっている、無毛のまるで汚れていない秘処。  
「ああ。だから恋人らしいこと、してもいいか? 真帆」  
 好きな女の子が部屋の中でこんな格好をさらしているんだ。興奮しない方がどうかしてるだろう。  
 真帆の頬と唇に触れながら、訊く。  
「くふふ……エッチだなぁすばるんは」  
「しょうがないだろ? 他でもない真帆がこんな風に誘ってくるんだから」  
「すばるん。……あっ」  
 唇から指を離して、今度はそこを自分の唇で塞ぐ。  
 少しだけ間をおいて、そのまま舌を入れた。  
「ちゅっ、れろっ……んらっ」  
「きゅっ! はふっ、んむっ……っ」  
 そして真帆の舌の上をゆっくり這わせた後、今度は激しく口の中を蹂躙する。  
 意図して、責めるように。  
「――はっ! す、すばるんっ……スゴい、よぅ……っ」  
「まずはちょっとオシオキしないといけないからね」  
「オシオキ……?」  
 不安そうに潤んだ瞳を俺の方に向けてくる真帆。  
「そう。男をこんな風に誘ったら大変なことになるって教えてやらないと」  
 半分は本心、もう半分はただ真帆が可愛くて、ちょっとイジメたくなってきただけ。  
「じゃ、始めるよ。オシオキ」  
「〜〜っ!」  
 耳元で開始の言葉を囁くと、真帆の身体が一瞬だけ震えた気がした。  
 
「はむっ」  
「ひゃうっ!?」  
 そのまま顔を下げて、真帆の首筋に口づける。  
「だ、ダメぇすばるんっ!」  
「らまんらまん。おひおひらんらから、ひょっとははえて」  
「やあぁぁっ、ちゅーしたらま、しゃべんないれぇっ……!」  
 ビクビクと真帆の身体が震える回数が増えた。  
 力が入らなくなったらしく、手放して落ち始めた体操服の裾を掴み直す。  
 そして上げる。さっきよりも上に。胸も全部、見えるくらいに。  
「うっ、うぅっ……」  
 ハズかしさのあまり顔を真っ赤にしてしまう真帆。  
 けどこれはオシオキなんだ。俺はお構いなしに、  
「ぺろっ」  
「んんんっ――!」  
 真帆の胸を舐める。それも、いきなり乳首を。  
 既に勃ってしまっていたソコを舐められて、真帆が一気に身体を仰け反らせる。  
 今度は何度も何度も痙攣して、アソコからは勢いよく潮が噴き出した。  
 イッた? もう?  
「んっ、はぁ、ハァ……」  
「真帆。そんなに気持ちよかった?」  
 確かに前よりも激しく責めてはみた。  
 けどだからこそ、ここまで早くイッてしまうものだろうか。  
 快楽に慣れてない身体じゃ、はじめのうちはワケのわからないままにしばらく翻弄されるんじゃないかと思ったんだけど。  
「……なぁ、真帆」  
 あくまで推測。俺自身こういう経験はほとんどないから、確証なんてないけど。  
「はぁ……ん、なぁに?」  
「真帆ってさ、寝る直前なにしてる?」  
「――っ!」  
 ふにゃふにゃになっていた顔が一気に引きつる。  
「べっ、ベツにヘンなコトはしてないぜっ?」  
 その慌てようといい、このセリフといい、俺の推測を裏付けるには十分すぎた。  
「ヘンなコト? それってどんなことなんだ?」  
「あっ、うぅ……っ」  
 墓穴を掘った事に気づいた真帆が頬を真っ赤に染めて呻く。  
「……なコト」  
「ん? なに?」  
 大体は聞こえたし、それだけでなにを言ったのかは判る。  
 けど敢えてわからないフリをして真帆に訊きなおした。  
「――っ、エッチなコト! すばるんにカラダ中イジられる妄想しながら、自分であちこちイジってるの!  
 ワルいかこんちくしょー!」  
 予想よりもはるかに勢いよく叫ぶ真帆。  
 けどすぐに羞恥心が戻ってきて耐えきれなくなったのか、瞳を潤ませながら、今度は呟くように訴える。  
「す、すばるんがワルいんだからな。すばるんのせーであたし、こんなエッチな娘になっちゃったんだから……」  
「真帆……」  
 今にも泣きそうな表情と声。夜に一人で自分を慰めてる事を知られて死ぬほどハズかしいんだろう。  
 その様子を見て、俺は自分の行いを反省した。イジワルをしてる場合じゃない。  
 真帆の言ってる事は正しい。俺があんな事をしなければ、この娘が性的な快楽に目覚めるのは、もっと後のことだっただろう。  
 けど、今更そのことを悔やむ気はない。とっくの昔に決心した事なんだから。  
「……ゴメンな、真帆。気づいてやれなくて」  
 だから謝るべきなのは、自分一人が性欲を抑えていれば良いと勘違いしていたこと。  
 真帆の方がガマンしきれなくなる可能性を、まったく考えていなかった。  
「すばるん……んんっ」  
 そっと唇を重ねる。  
 合図。ここから先は仕切り直しだと。  
 真帆のことを大切にしたいからこそ、今だけは自分の欲望に正直になろう。  
 そう思った。  
 

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