智花・・・具合はどう?」  
「昴さん・・・はい、何とか楽になりました」  
ベッドに横たわる智花がゆっくりこちらを向き、微笑みながら答えた。  
今、智花は熱を出している。それも39度の高熱だ。  
 
異変が起きたのは今朝の練習の時だった。俺がタオルを取って庭に戻ってみると、  
苦しそうにしている智花がコート下にうずくまっているのが見えた。  
すぐに智花を抱えると、俺の部屋で寝かせる事にした。  
母さんが用意してくれた風邪薬を飲ませ、しばらく安静にしているように言った。  
さすが母さんだ。普段抜けているが、こういうときには心強い。  
特製のおかゆを朝ご飯代わりに食べさせると、安心したせいか、すやすやと寝息を立てて寝始めた。  
 
「そうか、よかった。倒れたときはどうしようかと思ったよ。大切な智花なんだから。ね?」  
「ふぇ・・・は、はいぃ」  
智花の顔がますます紅色に染まる。マズい。熱が上がったか!?  
「あ、それと着替え、持ってきたんだけど・・・」  
俺は言葉を区切ると、視線をそらした。パジャマは俺のお古だ。多分。智花にはちょうどいいだろう。  
毎日智花の姿を見ているんだから、確信出来る。  
「智花、一人で着替えられる?」  
「はい、大丈夫だと思います」  
「分かった。じゃあ、外で待ってるね」  
俺は立ち上がりドアに向かった。この後、智花の家にも連絡しておかなければならない。  
その役は母さんに任せようと思っている。仲が良いし・・・何より、俺だったらテンパってしまって上手く説明出来ないかもしれない。  
 
「あの、昴さん・・・・・・着替えさせてもらえませんか?」  
「へっ!?」  
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。え、何。着替えさせて・・・って言ったのか!?  
智花は少しうつむきがちになると、  
「熱があるので・・・あのっ、嫌でしたら・・・結構ですけど」  
と振り絞るような声で言った。嫌なんて事・・・あるわけ無いじゃないか。  
俺はゆっくりと智花の前に膝をついた。もぎたての果実のような顔をこちらに向けた。なんとも言えない可愛さである。  
全く、智花は最高だ。こんなにデキた小学生が他にいるだろうか。感慨にふけりながら智花の瞳を見つめる。  
智花の息づかいが、鼓動が伝わってくるようだ。それにつられて、俺もちょっと顔が熱くなる。  
 
「じゃあ、智花、ぬ、脱がせるぞ」  
「は、はい!どうぞよろしくお願いしますっ」  
緊張したような声で目を瞑り、手を上に伸ばした。ちょうどバンザイをしたような格好だ。  
俺は智花を傷つけまいとゆっくりと体操服の裾を上げていく。  
と、胸のところまできたとき、その下に緩い丘が姿を現した。かわいい、智花らしい花柄のブラジャーである。  
(最近の小学生はブラしてるんだな・・・)  
何となくだけど、中学生からなイメージだった。よく考えたら、練習中もブラが透けてたっけ。  
「大丈夫!?痛くない?」  
「昴さん優しいですし・・・大丈夫です」  
「よかった・・・」  
そのまま一気に脱がすと、ほぼ生まれたままの智花が姿を現した。すぐさまパジャマを取ると、腕を通した。  
 
「お上手ですね、着替えさせるの」  
「そうかな。昔、よくミホ姉が酔っぱらって帰ってくるとパジャマに着替えさせてたからな。そのときに慣れたのかも」  
「そうなんですね・・・美星先生がうらやましいです」  
ヤバい。なんだろう。今日の智花は凄く可愛い。いつも可愛いけどな!  
「あの・・・その・・・てください」  
急に声を小さくして何かつぶやいた。何だろう。と思った瞬間。  
「あの・・・私の胸。も、もっと見て・・・ください」  
「えっ!?」  
なん・・・だと。む、胸!?今そう言ったよな。智花の顔をのぞくと、  
いつもと違った智花の雰囲気に心拍数が上昇するのを確認した。なんというか・・・色っぽい。  
「わ、私・・・胸の発育が遅れているらしくて・・・昴さんなら、その、色々・・・知ってるかなって。思ったり・・・しまして」  
「そ、そうだなぁ・・・その」  
「どうですかっ?私・・・小さいですか?」  
返答に窮していると、智花が切実な様子で質問をしてきた。  
いきなり、だ。教え子から「胸のサイズはどうですか?」って聞かれて、簡単に返答できる人間が居るだろうか。  
俺はとりあえず思ったことを答える事にした。  
「う、うん。小さくはないと・・・思うよ。他の子よりは」  
「はうっ・・・ほ、本当ですか・・・てっきり真帆と同じじゃないかなって思って・・・心配だったんです」  
智花の表情が明るくなる。風邪を引いている・・・んだよな?って一瞬疑ったくらいだ。  
やっぱり智花は笑顔が似合う。この笑顔を絶やさないようにしなきゃな。と小さな決意をした。  
 
「よし、着替え終わり、体操服は、責任を持って洗濯機で洗っておくね」  
「あ、ありがとうございます。パジャマまで用意していただいて、その上洗濯なんて。どうお礼を言ったらいいか・・・」  
「いやいや、気にすることないよ。体調を管理するのもコーチの責任だからね。  
それじゃあ、ちょっと下に行ってくるけど、静かに寝てるんだよ?」  
「それじゃ、お言葉に甘えて・・・・・・・そうします」  
 
昴さんが出て行った。ちょっと部屋を見渡してみる。  
なんだか高校生男子の部屋って感じで、華美な装飾もなく、必要最低限のものしか置いていない。  
私の子供っぽい部屋とは大違いだなぁ・・・。  
時計の刻む音だけがこだまする。もし・・・昴さんと同棲したら毎日こうやって介抱してもらえるんだろうな・・・  
毎日風邪ひかないけど。  
それで昴さんにおかゆ作ってもらって・・・それで・・・あぁ、どうしましょう。  
早く大人にならなくては!頑張りますよっ!胸も身長も!  
それはそうと、愛莉、真帆やひなたはどうしてるんだろ。今頃心配してるだろうな、私のこと。  
紗季は・・・昴さんの家で寝てること的中してそう。あの子、直感がいいもの。  
そんなことを考えながら、まどろみの世界に落ちていった。  
 
 
 

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