日曜日。私は真帆の家に遊びに来ていた。
「それで、話って何なの?」
真帆の家に来たもう一つの理由。何か話があるらしい。
部屋に入るなり、訊いてみる。
「あのさ、こないだサキがコクってきて、あたし達カップルになったんだけど……」
「……ええ」
真帆の口から言われると無性にハズかしくなる。
ああ、私、ホントに言っちゃったんだなって。
けど、同時にこの真帆の口ぶりで、言いたい事が大体分かった。
「ぶっちゃけあたしら、今までと何も変わってないじゃん!」
恋人らしくお喋りする、お昼を一緒に食べる、一緒に帰る、買い物する。
全部、友達としてならとっくにやってる。いつもやってる。
一番恋人らしい事……キスは、告白の時以来してない。
「そう、なんだけど……」
私だって勇気を出して告白して、せっかく受け入れてもらえたんだから、もっと恋人らしい事がしたい。
でもいざ真帆を目の前にしてみると途端にハズかしくなっちゃう。
「……うん。真帆」
だけど私だって、そういう事をしたいのは確かで。
真帆も嫌がりはしないって分かってる。
広い真帆の部屋の中で二人きりっていう状況も、私の心を後押ししてくれたと思う。
「んっ……」
「ぅあ……っ」
真帆の柔らかい唇に、自分の唇を重ねる。
多くの場合が事故で、こうやってじっくりと感触を確かめる機会は少なかった。
キスって、こんなに気持ち良かったんだ。
「なぁ、サキ」
「なに?」
まだ少しキスの余韻が残る中で、唇を離した真帆が話しかけてくる。
「恋人どーしってさ、エッチなコトもしちゃうんだよな」
「――ッ!? あっアンタいきなり何言ってるのよ!?」
頭が一瞬真っ白になるくらい、驚いた。
「どーせならさ、今日中にそこまでレベルアップしよーよ」
「れ、レベルアップってアンタ具体的に何やるのか分かって――ひゃんっ!?」
相変わらず突拍子もない真帆の行動。それに振り回されるのは、やっぱり恋人になっても変わらないらしい。
伸ばされた真帆の手が、私の胸を撫でてくる。
……なるほど。真帆にとってはエッチなコト=胸ってことらしい。
や、間違ってるワケじゃないけど。
「ほれほれーっ、どーだサキー」
徐々に”撫でる”から”揉む”っていう方が正しい勢いになってくる。
「んっ、やっ……真帆ったら……!」
っていうか、どうしてだろう。フザけて触り合ってた時の感覚とは全然違う。
くすぐったいような、切ないような、よく判らない感じ。
揉み方だって、前と変わってないはずなのに。
「さっサキ……ヘンな声出すなってっ! なんかチョーシ狂うじゃんか」
「真帆が悪いんでしょ……ひゃんっ」
好きな相手に揉まれているっていうだけで、ここまでキモチ良くなってしまうものなのかしら。
「ンン……サキ……っ」
多分真帆は、自分の息が荒くなってる事に気づいてない。
まして、なんでそうなっているのかなんて。
そう考えると、今まで以上に可愛らしく思えてきちゃって。
「んっ……それで、アンタはこれから、どうするつもりなの?」
「えっ? どうするって、そりゃあ……」
「それは?」
「うぅ……」
案の定、ここから先の知識はないらしい。
ますます、イタズラ心が膨れ上がってゆく。普段は私こそが真帆のイタズラを抑える立場なのに、おかしな話だと思う。
「ふふっ、そんな事だろうと思ったわ。なんだかんだ言ってお子様ね、真帆は」
「なっなんだよー! だったらサキさんはこっから先を知ってるってのかー!?」
「ええ。……ちゅぅ」
「ぅむっ……」
言って、唇を重ねる。そしてただのキスかと油断しているであろう真帆の口の中へ、
「んんーーっ!?」
自分の舌を、潜り込ませた。
戸惑ってる真帆の舌に絡ませて、そのまま責め立て……ようとした。
「んんぅ……!」
でも、ムリ。私自身、舌を絡める事がこんなにキモチいいなんて思わなかった。
正直なところ、これだけで全身の力が抜けそうになる。
「ぷはっ……ふふっ、どうだった真帆。オトナのキスの味は?」
「さ、サキ……」
けど真帆にそれを悟られたくなかったから、あくまで余裕を装う。
自分のイメージにある限りの色っぽさを口調や仕草で表現しながら。
「ぷはっ……ふふっ、どうだった真帆。オトナのキスの味は?」
「さ、サキ……」
なんだろ。サキがみょーにエッチに見える。
ってゆーかダメじゃん、あんなの。サキの舌がキモチよすぎて、頭がフラフラする。
「な、なんてコトしてくれたんだよぅ……」
「あら? 今からそんなこと言ってて良いの?」
「ど、どーいうコトだよ?」
サキの目を見てたらイヤな予感しかしない。
「これからさらにオトナなキスをするんだから。今のよりも、ずっとスゴいわよ」
「あ、アレよりも……?」
思わず口の中のツバを飲み込んでしまう。
だって、今のキスでもものスゴくキモチよかったのに。
これ以上のキスとか……どうなっちゃうんだろ。
「……って人が考えゴトしてる間にナニやってんだよ、サキ!?」
信じらんねー! なんであたしのスカートの中に手をツッコんでるんだ、サキのヤツ!
「あっ……!」
あたしが思いきり叫んだら、サキはまるで夢から覚めたみたいにハッとなってた。
それからいきなりカオを真っ赤にしてうつむいた。
「……ゴメンなさい真帆。私……」
よくわかんないけど、サキの暴走は止まってくれたらしい。
「あぁ……私ったらなんてはしたない事を……」
うわー。こりゃかなり落ち込んじゃってるなー。
ビックリしたせいでちょっと言い過ぎちゃったかな。
「……あ、あのさ」
「え……?」
このままってのも、なんかわるい気がするし。
それにあたしもやっぱ、さらにオトナなキスっていうの、気になるし。
「オトナのキスマークUって、あたしのパンツを脱がす必要があるの?」
「まーくつー……ぷっ、あははははっ」
「まーくつー……ぷっ、あははははっ」
思わず大笑いしてしまう。真帆には悪いと思ったけど、おかしくって。
「な、なんだよ! 笑うコトねーだろっ!」
「ゴメンゴメン、ふふっ……」
熱に浮かされて断りもなしに真帆の大切な場所に手を伸ばして。
自分じゃない自分になっちゃったみたいでコワかった。
けれど真帆のいつもどおりのノリに良い意味で気が抜けた。
「と、とにかく! 脱がしたいってゆーならベツにパンツくらい脱いでやんよ!」
「パンツくらいって……かなりハズかしいと思うけど、大丈夫なの? 真帆」
「お、女の子どーしだしヘーキだって。それよか早くしろよサキ!」
顔を真っ赤にして、それでもそう言ってくれる真帆。
どうやら気を遣わせちゃったみたいね。反省しなきゃだけど、ここで真帆の好意に甘えないのも失礼な話だし。
……それにやっぱり、真帆と、そういうコトをしたい。
私って実はエッチな女の子なのかもしれない。
お父さんお母さんゴメンなさい。紗季はエッチな上に女の子をスキになっちゃった残念な娘です。