結局、ロクに眠る事も出来ないまま夜が明ける。  
 気だるい身体をなんとか起こして、学校に向かった。  
 教室に入ろうと扉に手をかけた瞬間、それは聞こえてきた。  
「えっ? お前三沢が好きなの!?」  
「バカっ! 声がデカいって!」  
「――!?」  
 クラスの男子の会話。片方が叫んだ男子を咎めるけど、私も全くの同感。  
 おかげで廊下にいた私にまで、聞こえてしまったんだから。  
 普段だったら、興味津々に聞き耳を立てる事も出来たかもしれない。  
 だけど今は、とてもそんな気持ちじゃいられない。  
「悪い悪い。けど、三沢かぁ……」  
「なんだよ、なんか文句あんのか?」  
 ただ、聞き耳を立てる事には変わりないけど。  
 男子二人が声のボリュームを下げたから、ドアに耳を当てる。  
 それくらい、気になって、不安でしょうがない。  
「いや、別にないって。俺も見た目はカワイイと思うし」  
「……別に、見た目だけで好きになったワケじゃねーよ」  
 男子の中にも、真帆の事が好きな人間がいる。  
 ……もし。  
「で、告白とかはすんの?」  
「こっ告白って、お前……!」  
 彼らが言うように、誰かが真帆に告白したら。  
 そしてもし、真帆がそれに頷いてしまったら。  
 ……嫌だって思った。スゴく。  
 私はずっと小さい頃から真帆と一緒にいて、真帆の事を見てきた。  
 それなのに今、芽生えちゃいけない気持ちが宿ってしまったせいで、私は真帆とどう接して良いのか判らなくなってる。  
 苦しい想いをしている。  
「けど他に三沢の事が好きな奴がいないとも限らないし、先を越されないようにさ」  
「お前、絶対面白がってるだろ」  
 そんな中で、男子なんかに真帆を奪われてしまうなんて。  
 私は女の子同士だからこんなに悩んでいる。  
 教室の中の男子は、男に生まれてきたからやろうと思えばあっさりと告白出来るだろう。  
 不公平だ。すごく。  
「おはーっ! なにやってんの、サキ?」  
「!? ま、真帆……」  
 考え事に意識を奪われていたせいで、本当に気づく事が出来なかった。  
 真帆の声を聞いて、教室の中の気配も変わる。噂の本人が現れたんだから当たり前か。  
「なんでもないわ。気にしないで」  
 先に教室に入ろうとドアを開ける。  
「……真帆」  
「ん? なに?」  
「今日の放課後、時間ある?」  
 ただ、教室に入る前に一言。真帆に言っておかないといけない事がある。  
 約束を、しておかないと。  
「んー? 今日は部活もないし、ダイジョーブだよん」  
 今回の事で、わかった。  
 私はもう、今の状況に耐えられない。  
 自分から前に進む事も出来ないし、放っておけばいつ真帆が男子に告白されるか判らない。  
 勝利条件の存在しない、理不尽なゲーム。  
「そう。それなら、学校が終わったら私の家に来ない?」  
 だったらもう、そんなゲームは終わりにしてしまおう。  
 真帆の持ってるもの、全部奪い去って。  
 
「さ、サキ……」  
「どうしたの? 真帆」  
 家に遊びに来た真帆としばらくお喋りをして、私はゆっくりと行動を開始した。  
 まずはちょっとした遊びと偽って、ロープを真帆の身体に絡めてゆく。  
 さすがに少しは怪訝に思ったみたいだけど、素直に従ってくれた。  
 私を信用してくれているんだって思うと、少しだけ良心が痛む。  
「さすがにちょっと、コワいかなぁ……とか」  
 さりげなく、少しずつロープの拘束を強くしていって、両手を縛った。  
「大丈夫よ。言ったでしょ、ちょっとした遊びなんだから」  
 いい加減な事を言いながら、今度は真帆の脚に絡んだロープを少し強めに巻きつけてゆく。  
「つっ……!」  
「痛かった? ゴメン、真帆」  
 声がやたら白々しい。  
 私がこれからしようとしている事は、痛いだけじゃない。とてもヒドい事。  
「ロープ、ちょっと緩めるわね」  
「ん、ありがと」  
 なのに、真帆は疑う事を知らないみたいにただ頷く。  
   
 やっぱり、ダメだ。  
 膝を折らせた状態でそれぞれの脚を拘束して。  
 直後に、そう思った。  
「……ゴメン、真帆」  
「いやだからいいって――うわっ!?」  
 完全に身体の自由を奪った真帆を、押し倒す。  
 やっぱり、ダメだ。  
 真帆はこんなに純粋なんだから、いつ悪い男に騙されて傷つけられるかわかったものじゃない。  
 そうなる前に、私が……。  
「さ、サキ……なんか、ホントコワいよ……?」  
「…………」  
 私は真帆に応えない。後はただ、この娘を襲うだけ。  
 この娘の大切なものを、全部奪うだけ。  
「真帆、好きよ。ぅんっ……」  
「んむぅ――!?」  
 そう思ってたのに、気がつけば私は自分の想いを真帆に伝えていた。  
 そしてそのまま、真帆の唇を自分のそれで覆う。  
「んっ……れろっ」  
「――っ! んんっ――!?」  
 慌ててる。真帆が。  
 同性の幼馴染にキスされただけでも驚きなのに、いきなり舌まで入れられたら当たり前よね。  
 これでもう後戻りは出来ない。するつもりも、なかったけど。  
「ちゅっ、ぅら」  
 真帆の唇。真帆の舌。真帆の唾液。  
 美味しい。スゴく。  
 
 あの時は事故だったし夢の中だったしで、味なんて全然判らなかった。  
「――っは!」  
 私から唇を離した真帆。  
 でも私は、息継ぎを済ませるなり真帆の顎を掴み、もう一度こっちを向かせる。  
「サキ、一体なにしてん――んむぅ!?」  
「真帆……ちゅぅ」  
 逃がさない。一度知ったらもうやめる事なんてできない。  
 そんな、危険な味。  
「れろっ、ちゅるっ……」  
「んんっ、まぅぅ……」  
 気持ち良い。真帆の舌と私の舌が擦れ合ってるのがわかる。  
「…………」  
 薄眼を開けて、真帆の顔を見てみた。  
「っ……」  
 距離が近すぎてよくわからないけど、眼の端に涙が。  
 真帆が、嫌がってる。  
 嫌がってるのに、私はムリヤリ真帆にキスしてる。  
 口の中を、犯してる。  
「さ、サキ……なんでこんなコト……」  
 息が続かなくなったから、真帆の唇を解放してあげた。  
 すると真帆が私に問いかけてくる。  
「まだ判らない? 好きだから、よ。真帆の事が」  
「えっ……?」  
 だから答えてあげた。真帆の持つ疑問に。  
 今の私が、行動する理由を。  
「スキって……そりゃあたしもサキのことはスキだけど、だからって……」  
「真帆の言っている好きと私の言っている好きは、違うものなの」  
『けどやっぱオカシイよなー、女の子どーしでチューするなんて。ありえないって』  
 そう。真帆の私に向けている好きが、私の真帆に対する好きと同じものであるわけがない。  
 そもそも真帆は”こういう事もある”って事自体を知らないんだから。  
「たとえば夏陽がヒナを好きなように、トモが長谷川さんを好きなように」  
 ジッと真帆の瞳を見つめながら言葉を紡ぐ。こんな状況でもせめて告白だけは真剣にしたい。  
 そんな、自分勝手にもほどがある事を考えながら。  
「私は、真帆の事が好きなの」  
「で、でもだって、あたしもサキも女の子なんだぜ?」  
「女の子同士でも、好きになっちゃう事があるのよ」  
 言いきって、私はまた真帆の唇に自分のそれを重ねる。  
「んんっ……!」  
 軽いキス。舌を入れる事もなく、ほんの数秒で離れる。  
 今のは自分の気持ちを、改めて証明したかっただけだから。  
「こんな風に、真帆にキスしたい。真帆が知らないようなエッチな事も、たくさんしたい」  
「さ、サキ……?」  
「だから少しだけガマンして、真帆」  
「え……えっ!? ちょっ、ヤダ! サキ!?」  
 身動き出来ないのをいい事に、本人の許可もなく真帆の服のボタンを一つ一つ外してゆく。  
 私と同じくブラはまだ着けていない。  
 代わりのキャミソールも、両手でたくし上げた。  
「っ……!」  
 真帆の頬がイチゴのように赤く染まる。  
 いつもシャワーを浴びてる時とか全く気にしてないのに。  
 ここが友達の部屋の中っていう普通は裸になるはずがない空間だからか。  
 それとも、真帆も少しずつ意識し始めてくれてるのか。  
「真帆、とっても可愛いわ。……ちゅっ」  
「んん……!」  
 赤くなってる真帆の頬にキスをする。  
 甘酸っぱくはなかったけど、このまま舌を這わせたい。そう思ってしまう。  
 真帆の味が、するから。  
 
「ふふっ、真帆の胸はどのくらい感じるのかしら?」  
 でも今の私は、イチゴよりも真帆の胸のてっぺんにあるサクランボの方を味わいたい。  
「えっ、感じるってなん――ひゃあんっ!?」  
 早速舌で真帆の胸の先端を、ぺろっと一回舐めてみた。  
 初めて人に舐められたからなのか、思ったよりも大きな声が上がった。  
「可愛い声ね。もっともっと、聴きたい」  
 胸の鼓動が一気に速くなったのがわかる。真帆の声に興奮してるんだ、私。  
「だけど、これ以上叫ばれたらお父さん達に気づかれちゃうかも」  
「あぅっ……!」  
 残念だけど、見つかってしまったら元も子もないわね。  
 早々に対処しないと。  
「安心して、真帆。わざわざ真帆が声をガマンしなくても、私がなんとかするから」  
「な、なんとかって、そのタオルでなにするつもりなんだよ……?」  
 真帆の質問には答えないまま、私は真帆の鼻を摘まむ。  
 ロクな抵抗が出来ない真帆は、とりあえず酸素を補給するために口を開くしかない。  
「――ぷはっ! んんむぅっ……!?」  
 私はその瞬間を見逃さず、予めもう片方の手に持っていたタオルを噛ませる。  
「ね、これで大丈夫。外に声が聞こえる事はないでしょ?」  
 タオルの端を後頭部に回して、キツく結んだ。  
「んんーっ! あむぅーっ!」  
 明らかな抗議の声を上げる真帆。  
 でも何を言っているのか判らないから、無視する事にした。  
「じゃあ次はここね。パンツ、ずらすわよ」  
「んっ……!?」  
 真帆が眼を見開いた。多分、純粋に驚いてるんだと思う。  
 この娘は、ココがどんな場所なのかさえ、きっと知らないから。  
 たった今下着をずらして現れた、女の子の一番大切なトコロ。  
「っん……」  
 さすがに見られるのをハズかしいとは思うのか、必死に身体をくねらせる。  
 そんな事をしても、私から逃げられるはずはないのだけれど。  
「……ぺろっ」  
「――っ! んむぅっ――!」  
 きっと真帆にとって、生まれて初めてアソコに受けた、刺激。  
「ちゅっ、れろっ……」  
「ふぅぅんっ! ん、んんっ――!」  
 声にならない叫びを上げ続ける真帆。  
 くぐもった声が、私の聴覚を刺激する。  
「ふふ、真帆のエッチな声が聞けないって思ったけど、これはこれで良いかもしれないわね」  
「んんっ――!」  
 真帆が声を出すたびに身体が熱くなる。  
 そして、頭の中が少しずつ、冷たくなっていく気がした。  
 

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