『凍てつく蕾の懊悩』のIFストーリーです。  
第三話からの分岐となります。以下注意事項。  
 
・IFストーリーとなりますので、前作『凍てつく蕾の懊悩』を読んでいる事が前提となります。  
・鬱展開です。苦手な方、前作及び原作のイメージを崩されたくない方は飛ばす事をお勧めします。  
・サキさん、ホントゴメンなさい。  
 
 
 
 
「さっサキ……?」  
 学校の教室。私は疲れて、眠ってしまってたようだ。  
 で、眼を覚ましたらすぐ目の前に真帆がいた。  
「ま、ほ……」  
 ウソウソ……! 私、なんて夢見てたんだろう。  
 真帆と二人、広いベッドで一緒に横になってて。真帆が私のほっぺにちょっかい出してきて。  
 私は真帆に、キスをして……。もう言い訳のしようもないくらい、ソッチな夢で。  
「う、うん……」  
 でも問題は、その夢を見た事自体じゃない。  
 目の前にあった真帆の赤く染まった顔と、戸惑ってるような声。  
 そして唇に残ってる確かな感触で、確信した。  
 私、寝ぼけて、真帆に、キスしちゃった……?  
 前回とは真逆の立場。あの時の真帆も寝ぼけてて、だからアレは事故。  
 今回のだって、私はただ寝ぼけてただけ。  
 ……でも、事故って言えるの? これ。  
 私はなんだかんだで、ずっと消す事が出来ないままでいた。  
 真帆と今以上の、友達以上の関係になりたい。真帆と、キスしたいという思いを。  
 ううん。隠す事が出来るようになっただけで、思いはむしろ強くなっている。  
 その思いがあんな夢を見せたんだとしたら、今回の事は、事故って言えるのかしら。  
「……ゴメン」  
 頭の中が上手くまとまらない中で、なんとかその言葉だけ絞り出す。  
 そのまま席を立って、走って教室を出た。  
 真帆は、追いかけてこなかった。  
   
   
「どうすればいいんだろう、私」  
 家に帰ってからも、放課後の教室での事が思い出される。  
 私にキスされて、真帆はどう思ったんだろう。  
 単なる事故だって思ってくれてたら、まだ良いんだけど。  
「……っ」  
 けどそれは真帆がなにも知らないからだ。唇に触れながら、思う。  
 私が真帆にキスしたいと思ってる。それを知らないから、事故だって思っていられる。  
 知っちゃったら、アレが偶然起こった事なんて信じてもらえないんじゃないか。  
 不安が、どんどん大きくなる。  
「長谷川、さん……」  
 携帯を取り出して、電話帳を巡ってゆく。”ハ行”のところで、止まった。  
 画面には”長谷川 昴”の文字と電話番号。後は通話ボタンを押すだけ。  
「…………」  
 だけど結局、電話帳を閉じてしまう。もう何度も、これを繰り返してる。  
 長谷川さんに相談したいって気持ちはある。  
 自分一人ではどうすれば良いか判らないから、誰かに力を貸してほしい。  
『紗季がそういう女の子だったなんて、俺知らなかったよ』  
「――っ!」  
 ……そんな事、長谷川さんが言うはずないって、わかってる。  
 けどもし長谷川さんに拒絶されたら、私はいよいよ、どうすればいいのか判らなくなる。  
 それに拒絶まではされないにしても、長谷川さんだってこんな相談をされても困ってしまうだろう。  
 やっぱり、電話は出来ない。  
「真帆ぉ……」  
 なんで真帆の事で、ここまで悩まないといけないんだろう。  
 ついにはそんな事まで考え始めたけど、結局答えなんて出ない。  
 私はさらに深くなった悩みを抱えたまま、気づけば意識を失っていた。  
 
「サキなにやってんだ! 早くパスよこせ!」  
「えっ……? あっうん!」  
 真帆の声に弾かれるように、慌ててボールを投げ渡す。  
 いけない。油断するとすぐ考えに没頭してしまう。  
「よっしゃ、いくぜーっ!」  
「させない!」  
 翌日。私は時間が逆戻りしたかのように、再びぎこちなく部活に参加している。  
「サキゴメン! ボール取られた!」  
「わ、わかったわ! 任せて!」  
 トモにプレッシャーをかけようとするけど、上手くいかない。  
 というか、どうやっていたのか、頭の中がゴチャゴチャして判らない。  
「っ――!」  
「あっ……!」  
 あっさりと抜かれてしまう。あんなディフェンスじゃ、当たり前か。  
 さっきのパスだって、もう少し考えて出せば、あんな簡単に取られる事もなかったのに。  
   
 今日の私は、全くもってダメだ。  
 学校の授業でも、ずっと考え事をしていたせいでみーたんにあてられた時、答えられなかった。  
 私の『解りません』という答えに、クラスのみんなが驚いていたのが少しおかしかった。  
「紗季。ちょっと良いかな?」  
「なんでしょう、長谷川さん」  
 部活が終わって着替えた後、長谷川さんに声をかけられる。  
 やっぱりこの人は、私達の事をちゃんと見てくれている。  
 その事実が嬉しかったけど、今だけは同時に、疎ましくも思った。  
「今日の紗季、ちょっと様子が変に見えたからさ。なにか悩みでもあるんだったら、相談に乗るぞ」  
「…………」  
 昨日も散々迷った事。長谷川さんに、相談してみようか。  
 長谷川さんの方から、話を持ちかけてきた。  
『紗季がそういう女の子だったなんて、俺知らなかったよ』  
 ……だけど、その結論は昨日のうちに出てしまっている。  
 今になって相談する勇気も、湧いてはこない。  
「ゴメンなさい。ちょっとボーっとしちゃってて。なんでもないから大丈夫ですよ」  
 私は笑ってウソを吐く。  
 長谷川さんを心配させてもいけないし、なんとか周りを誤魔化せるようにならないと。  
   
 私はその日の帰り道、ずっとその事だけを考えていた。  
 みんなと何の話をしていたのかも、よく覚えていない。  
 とりあえず、真帆に謝る事が出来ないまま別れる事になったのは覚えている。  
 明日も、今日と同じ。考えただけで気が重くなる。  
   
「はぁ……」  
 ベッドに腰掛けるなり溜め息。辛気臭いけどしょうがない。  
 正直本当に、どうしたらいいのか判らない。  
 もし真帆とこのまま。ぎこちない空気のままだったら。  
 若しくは真帆に私の気持ちがバレて、キラわれてしまったら。  
 浮かんでくるのは良くない可能性ばかり。ハッピーエンドになる気が、まるでしない。  
「あ、れ……?」  
 どうしてこうなっちゃったんだろう。そんな風に思っていたら、頬を伝うものがあった。  
 涙。いつの間にか私、泣いてたんだ。  
 ……無理もないか。これから自分がどうするか、なにも見えてないんだから。  
「真帆。真帆ぉ……っ」  
 今にも泣き崩れそうな自分を必死に慰めながら、今日の夜も更けてゆく。  
 どんなにイヤだって思っても、明日はくる。  
 真帆と顔を合わせる日常は、こっちにくるのだ。  
 

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