「あの、昴さん・・・・・・これ、私が今朝、作ったんです。よかったら・・・・・・食べてください」  
「ありがとう。智花」  
 恥ずかしながら、そっと両手で弁当を差し出す智花。俺はちょっとドキドキしながらその包みを受け取る。  
 ああ、小学生の手作り弁当を食べられるとは・・・・・・なんて贅沢者なんだ。俺は。  
「すばるーん。これ、今朝つくったやつ。食べてたべて!」  
「ちょっと!もう、長谷川さんは私が作ったお好み焼き食べるんだから!」  
 続いて真帆、紗季が包みを差し出してくる。ちなみに紗季の弁当は特製の弁当がらで、お好み焼きを入れるのに最適化しているらしい。  
「あ、ありがとう。真帆、紗季」  
 智花に続いて二人の弁当を受け取る。正直、これでもうお腹いっぱいだが・・・・・・  
「長谷川さんっ。私、男の人に始めて料理したんです!・・・・・・ダメだったらどうしよう」  
 さらに愛莉の弁当がそこに加わる。愛莉は頬に手を当てながら恥ずかしそうにしている。    
 計4つ。俺は多分、来月にはメタボになってると思う。食べ過ぎで。  
「は、はは」  
 苦笑いをするしかなかった。それと同時に、俺の中で食べる!という決意が目覚めた。  
さっそく、はじめに貰った智花の弁当開き、ちょうど目にとまった卵焼きを口に運んでみる。  
「ん。おいしい」  
 その瞬間、ひなたちゃんがとてとて、と歩いてきて、  
「おにーちゃん。ひな、おりょーりできない。だから・・・・・・ひなを食べてください」  
ぶぶーーーっ  
「ひな!な、なに言ってるのよ。意味わかってるの?」  
「おー?かげが、おにーちゃんに言ったらよろこぶっていってたよ?」  
 卵焼き吹いたわ!て、てか、かげつちゃんか。そんなこと教えたのは!  
 更に真っ赤になる愛莉。何が何か分かっていない真帆。そして何故かあのとき感じたオーラを放つ智花。つか、一瞬冷や汗が・・・・・・  
 
 と、こんな慌ただしい日々が日常と化したのは、先週の風雅さんの一言からだった。それ以来、ずっと5人のアプローチが続いている。  
 どうやら、女バスのみんなは許嫁に選ばれる事が嬉しいみたいで・・・・・・こうやって弁当を作ってきてくれたりしてもらっている。  
 しかし、どうしようか。俺に、この俺に、一人だけを決めるなどという、重大な決断をすることが出来るのだろうか。  
 
part1 袴田ひなた  
 
 風雅さんから各ご両親に許可を貰っているとはいえ、俺自身が挨拶をしないわけにはいかない。  
 ということで、今日はひなたちゃんの自宅にお邪魔することにした。チャイムを鳴らすと、  
「はーい。おにーちゃん?」  
「うん。ひなたちゃん。おじゃましていいかな?」  
「おー。どうぞ」  
 可愛い声をしたひなたちゃんが出てきた。袴田宅に初めてお邪魔するので、少し緊張しているのだろうか。汗が一滴、流れ落ちた。  
 居間に上がらせてもらうと、そこにはかげつちゃんがこたつに座っていた。  
「あ、コーチ。お疲れ様です。ねえさまもどうぞ」  
 体育会らしい挨拶をすると、こたつのスペースを空けてくれた。座れと言うことだろう。  
「それじゃ、お邪魔するよ。かげつちゃん」  
 こたつの中に足を入れる。温かい空気が冷えた足を温めてくれる。やっぱりこたつはいいな。ほっ、とする。  
「それで、ご両親はどこに?」  
 かげつちゃんに聞いてみると、少し困ったような顔をして、  
「実はいま、仕事が忙しくて家には居られないんだそうです。でも、長谷川コーチの事は私が事細かに説明しておきましたよ。  
ほんとに・・・・・・最高のコーチだって。そしたらすぐに許嫁の件、了承してくれました」  
 と、いきさつを話してくれた。なるほど、しばらく家には帰ってこないのか。  
しかし、かげつちゃんが俺のことを最高のコーチって言ってくれるとは・・・・・・コーチ冥利につくとはこのことか。  
「ありがと、かげつちゃん。ほんとに頼りになる妹さんだよ」  
 思わず、頭に手を置いてなでなでする。  
「ふぇ・・・・・・くすぐったいですよ・・・」  
「あ、ゴメン。つい・・・・・・」  
 ちょっと恥ずかしそうな顔をするかげつちゃん。いかんいかん。いつもの癖でやってしまった。  
いくら5年生とはいえ、しっかり者の妹なのだから、ちょっと子供扱いしすぎたかな。  
「おー、かげだけ、ずるい。ひなも、なでなでして?」  
 横からぐいっと顔を出すひなたちゃん。かげつちゃんも何か言いたそうにこちらを向いて口を開いた。  
「あのっ・・・・・・私も、お願いしていいですか?その・・・・・・気持ちよかったもので」  
 
「あ、ああ、いいよ。じゃあ二人ともこっちに来て」  
「は、はいっ」  
「おー。おにーちゃんのお膝、ひなが座る」  
 ひなたちゃんは俺の膝の上に座り、その横にかげつちゃんが座った。そして、二人とも頭を差し出してくる。いつでも準備OKなようだ。  
「それじゃ、いくよ」  
 右手でひなたちゃんを、左手でかげつちゃんをなでなでする。二人とも、サラサラの髪をしていて、するりと指の間を髪の毛が通り抜けていく。  
小学生の髪ってホント、健康的なんだな。  
「おー。きもちいいよ。おにーちゃん。かげも、きもちいい?」  
「はい、ねえさま・・・・・・ふぁ、なんだか、頭がフワフワします」  
 かげつちゃんは恍惚な表情を浮かべている。どこか遠くの空に意識が飛んでいるようだ。  
一方のひなたちゃんは慣れているせいか、ニコニコしながら気持ちよさそうに目を細めている。  
 そのままずっとナデナデし続ける俺。いったいいつまでこうしていればいいのだろうか・・・・・・  
 
「それじゃ、今日はありがとうございました。また遊びに来てください。それと・・・・・・今日は気持ちよかったです。できれば・・・・・・また」  
 徐々に顔を赤らめ、声が小さくなっていくかげつちゃん。どうしたのだろう。  
「おー。おにーちゃん。またねー」  
 小さく手を振るひなたちゃん。それに答えるように手を振りながら、  
「うん。バイバイ、ひなたちゃん。かげつちゃん」  
 お別れを言って、袴田宅を後にする。もう、そとは夕暮れで、オレンジ色に空が染まっていた。って、俺が家に行ったのが、昼くらいだったから・・・・・・  
「結構、長居してしまったな・・・・・・」  
 宿題とかもあるだろうし、ちょっと悪かったなと思った。  
 
part2 湊智花  
 
「あら、昴さん。どうぞ、あがって」  
「それじゃ、おじゃまします」  
 次の日、俺は智花の家にお邪魔することにした。時間通りに湊家に行くと、花織さんが玄関に出迎えに来てくれた。  
案内されるまま奥の和室のふすまを開けると、そこには机の前に座っている忍さんが居た。それも両手を胸の前で組んで。  
「ふふ、頑張ってね」  
 
 花織さんは一言、ぽつりとつぶやくように言うと、俺を残して来た道を戻っていった。  
「し、失礼します」  
 厳粛な雰囲気の中、俺は90度にお辞儀をして、一歩、和室の中へと踏み出た。  
「昴君。とりあえず座りなさい」  
「は、はい」  
 緊張しているせいか、どもってしまった。改めて思うけど、俺、かなり凄い事してるんだよな。  
普通の高校生が絶対にしないような、大切なこと。  
「昴君には、いつも智花が世話になってるよ。練習に行くときの智花は本当に楽しそうな顔をしていてね。  
私の前でも見せないような顔をするんだよ。その意味が、君に分かるかね」  
「は、はい」  
 首肯することしか出来ない。なんとうか、そのオーラにただただ圧倒されるばかりだ。親子してなんでこんなオーラを出せるのだろう。  
「そうか。君なら大丈夫だと思うけど、娘を悲しませるようなマネだけはしないように。私が君を見込んでるのだからね」  
 完全に智花を許嫁にしろと言ってるらしい。花織さんも忍さんも俺なら良いと言うことだろう。嬉しい話だが・・・・・・なんだろう。  
このまま、決めてしまって良いのかという葛藤が、少し俺の心に生まれた。  
「・・・・・・」  
 俺が沈黙していると、突然、忍さんは立ち上がり、後ろの引き出しを開けた。中から出てきたのは、古いアルバムだった。  
「これはね。智花が前の小学校に入った頃の写真だ。見てみるか?」  
「はい。是非」  
 受け取ったアルバムをゆっくりと開く、中には家族旅行に行ったときの写真や、運動会、遠足の写真などがびっちし貼ってあった。  
 どの智花も、表情こそは幼いものの、どこか面影のある写真ばかりだ。髪をリボンで結んでいるのもこの頃からしているようだ。  
 かわいいな。素直にそう思えた。  
「どうだね?かわいいだろう。うちの智花は」  
「ええ、とても・・・・・・」  
 写真に心を奪われていると、外で鹿おどしが、カコンと音を立てた。  
「娘を幸せにしてやってくれ・・・・・・」  
「えっ?」  
「・・・・・・いや、何でもないよ。もうそろそろ日も暮れる時間だ。うちの人も心配するのではないかな」  
 何かぽつりと呟いていたようだが、聞き取れず思わず間抜けに聞き返してしまった。  
 
・・・・・・・・・・・・  
「今日は来てくださってありがとうね。また、智花を頼みますよ。昴さん」  
「いえ、こちらこそ、突然お邪魔してすみません」  
 ぺこりとお辞儀をすると、俺は湊家を後にした。今日は智花は紗季と愛莉で遊びに行っているらしい。帰宅はもう少し後のようだ。  
 
part3 永塚紗季  
 
 今日は永塚家に訪問する予定だった。そう、突然、行けなくなってしまったのだ。  
理由は、今は店の繁忙時期らしく、どうも時間を作るのが困難らしい。  
 時期が悪かったなと思う。が、一つ俺はここで前から抱いていた疑問を紗季にぶつけてみようと思った。  
 それは、本当に紗季は俺に気があるのかということだ。  
 紗季はチーム内でも参謀的ポジションで、冷静にチームに助言をするタイプの人間だ。  
正直、その紗季が俺に好意を持っているのだろうか、と。そう考えたわけだ。  
 というわけで、今日は紗季が家に帰る前に、練習後、少し話をする場を設けたわけだ。  
小学校の体育館横のベンチに来て貰うことになっている。  
「すみません、お待たせしました」  
「大丈夫、俺も今来たところだよ」  
 走ってきたのか、ちょっと息を切らした紗季がベンチの横からひょいと顔を出した。  
お世辞でも何でもなく、俺もちょうど今ここに来たばかりなので、タイミングはばっちりだ。  
「それで・・・・・・話って何ですか?やっぱり、許嫁の件・・・・・・ですよね」  
 ベンチに座った紗季は、神妙な面持ちで俺の顔をのぞき込んでくる。少し不安げなその表情が俺の心に緊張感をもたらす。  
「うん、正解。その許嫁のことなんだけどさ・・・・・・紗季って、俺と許嫁になってもいいの?」  
「え・・・・・・も、もちろん、私はいいと・・・思ってますよ。昴さんのこと」  
「本当かい?」  
「も、もちろんです!そんな・・・・・・決して竹中と真帆が・・・・・・」  
「え?真帆がどうかしたって?」  
「いえ!ななな、なんでもないです。なんでも・・・・・・あ、私、家の手伝いがあるので・・・・・・失礼しますっ!」  
 と、何も付けていない腕を見て時間が来たように言う紗季。ぺこりとお辞儀をすると、そそくさと帰路についていった。  
 何だったんだろう、あの焦りようは。  
あの紗季があそこまで焦るなんて、練習でも試合でも見たことがない。よっぽと重大な何かがあるのだろう。  
 でも結局俺に思い当たる節は無く、ただ、呆然とベンチに座っている事しかできなかった・・・・・・  
「・・・・・・今度、紗季の家に行った時に、確認してみるか」  
 俺はそう呟くと、ひとり寒空の中、小学校の校門をくぐっていった。  
 

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