大会に向けたエトセトラ 昴サイドその1
ふとしたきっかけで恵まれた、地区のチームの子や別のクラスの子と親しくなる機会。
親善試合や合同練習の幅が広がったことが何よりの成果だった、夏のスポーツ大会。
そして、風雅さん――真帆のお父さん――の主催で行われることになった、来たる秋の大会。
合同練習や親善試合の選択肢が増えたことは、本当に喜ばしいことだった。
それ以来智花達も一層活き活きして、やる気に満ちているのだから。
付き添いを頼まれミホ姉に呼ばれた俺は、
既にクールダウンを済ませていた智花に代理と伝言を頼み
真帆達のクールダウンに付き添っていた。
「よろしくお願いします!」
今日の練習相手は、楓町メイプルズ。
夏の健康スポーツ大会の縁で交流するなったチームの1つだ。
チームの子の1人が、以前と比べてミスが多いような気がするのが気になった俺は、
練習試合の様子を見守りながら、少し前のことを思い出していた。
楓町メイプルズサイドその1 楓色の葛藤
「ひなた、ちゃん……」
あの夏の日以来、丁寧に応急処置をしてくれたことを思い出しながら
自身を慰めるのが癖になってしまっていた。
例えば、興奮を自覚せざるを得ないほどに敏感になってしまった胸の頂に、手のひらでそっと触れてみたり
例えば、昂る気持ちと自身の奥深くを、真摯に処置してもらった指で鎮めようとしたり。
それでも完全に鎮められなかった日は切り上げてしまい、
練習試合を休んでしまった日のキャプテンからのメールを読み返すことにしていた。
言うに言えない気持ちを、なんとなく察してくれたキャプテンの優しい嘘と心遣いが嬉しかったから。
「"しっかり休んで、気持ちを切り替えてね。メイプルズ一同"……」
あるいは、彼女の虜になってしまったのかもしれない。
おまじないと言って応急処置をしてくれたあの日以来、
健気に応急処置してくれる姿を思い出す度、
穏やかなような激しい疼きが、心と体にぶり返してしまうのだから。