「おー。おつきさま、なくなっちゃう?」
「はは、心配しなくても大丈夫だよ」
「でも、すごいですね。なんだか不思議な感覚です」
雲ひとつない夜空に、くっきりと映える月輪。それが徐々に、影に飲み込まれていく。幻想的な光景に、俺は思わず息を呑んだ。この瞬間を、ひなたちゃんとかげつちゃんと迎えられたのは幸運なことだと思う。
月には魔性の力が宿るというが、確かにこれには魅せられてしまいそうな雰囲気がある。
「もうすぐ、全部隠れてしまうんですよね。……はっ、くしゅん」
「かげつちゃん、寒くない? もうちょっと、くっつこうか」
冬の夜風は肌に刺さるように冷たい。防寒対策に着込んではいるが、人の体温に勝るものはないだろう。俺は2人の肩を抱き寄せ、月が消えるその時を待った。
「おお……」
天空に一際輝いていた光は途絶え、漆黒の闇に覆われたような感覚に襲われる。俺は自然の神秘性に圧倒されて、感嘆の声をもらした。
少女たちもそれに見入っているようで、上空に視線を向けたままだ。
「おー。あかい?」
「長谷川コーチ、すごいですね」
わずかに紅く見えるだけの月に目を奪われたまま、俺たちは会話をする。
「ひなたちゃん、かげつちゃん……」
これも魔性の効力だろうか。俺は吸い込まれるようにに、2人に短いキスをしていた。そこに、ささやかな願いをこめて。
「……また、一緒に見ようね」
頭を優しくなでてあげると、愛しい少女たちは惚けたような表情を優しく綻ばせてくれる。
「おにーちゃん。ひなもやくそくの、ちゅーする」
「わ、私も絶対もう一度見たいです!」
再び俺たちは、くちびるを重ねた。
互いに求め、溶け合うような濃厚なくちづけは、永遠に交わされ続けるかのようだった――。