親友の鷹代那美が引っ越してから二週間後。
私――狩野琴絵はひどい倦怠感に悩まされていた。
何をやってもやる気が起きない。授業中はだいたい上の空で先生の注意を受けることもしばしば。大好きなバスケの練習も身が入らず、チームメイトに心配させて大きな迷惑をかけてしまっている。
原因は分っている。
那美が遠くに行ってしまい、他に親友と呼べる人がいない私は孤独感に苛まれているのだ。
学校や御園シルバーレイヴンズの中にも仲のよい子はいるけど、心を許しあえる友達はやっぱり那美だけ。
なんでだろう? どうしてだろう??
親しい人と別れてしまうなんて、別段珍しいことじゃない。ケータイでいつでも連絡は取り合えるし、その気になれば会うことだって難しくない。
なのに寂しい。どうしようもなく……。
知らない土地に行ったあの子の方がもっと寂しいはずなのに――、
「ふぅ……」
そんなことを考えながら、今日も一人ため息をつく。
ここは那美とよく通った商店街。時間がゆっくり流れるような独特な空気が好きで、買い物がある度によく足を運ぶ。
店先のベンチに座って、ホットの缶のカフェオレを開けようとしたそのときだった。
「えっと……狩野さん?」
私に声をかける人がいる。
視線を地面から声のする方へ向けると、ラフな格好をした爽やか系なお兄さんがいた。
「長谷川さん?」
「ああ、やっぱり!久しぶりだね。夏の大会以来かな」
「え、えぇ」
長谷川昴さんという、以前試合をしたチームのコーチをしている人だ。
縁あってそこのみんなとはメアド交換して、よくメールする仲になった。永塚さんの家は商店街にあるので直接会うこともある。
「少し元気がないようだけど、もしかして悩み事? 俺でよければ相談に乗るよ」
「そういうわけでは、ないんですが……」
この人とはそこまで親交が深いわけではないけど、もの凄いお人好しでお節介焼きなのはなんとなくわかる。
目の奥が澄んでいて曇りがない。社交辞令ではなく本当に私を心配しているのだろう。
「もしかして体調が悪い、の方だったかな。狩野さんが嫌じゃなければどこか休める場所まで連れて行くけど?」
そっと差し出された右手は、とても大きくて力強かった。
後から考えたら、やっぱりあのときの私はどうかしていたんだと思う。あるいは、本当に身体の調子がおかしかったのかもしれない。頭がボーッとして、まともに思考回路が働いていなかった。
「それなら……あなたのおウチに、連れて行って、くださいませんか……?」
少し驚いたようだったけど、長谷川さんは快く了承してくれた。
開きかけのカフェオレをそのままハンドバッグにしまい、手ではなくそのまま身体を預ける。
自分で歩くくらいはできるけど、なんとなく甘えてみたかったのだ。
大きな背の揺りかごに揺られながら一時間。
途中何度か怪奇な目で見られ、ある人はケータイを取り出して某所へ通報しようと試みたが、私がわざと息を荒くして咳払いをすると事情を察してケータイを引っ込めた。
長谷川邸に到着すると、彼は迷うことなく自室に直行し、自分のベットに私を寝かせた。
このワンシーンだけ撮ってみれば大変誤解を招く行動だけど敢えて突っ込まないでおく。
「疲れたね。何か飲み物でも飲む?」
「いえ、持参していますので大丈夫です……」
ハンドバッグから先程のカフェオレを取る。
ホットで買ったのだけれど、もうずいぶんぬるくなってしまった。
「……」
一口含んで飲む気が失せた。やっぱり中途半端な温度はいけない。今の私のような、そんな状態だと気持ちにメリハリが付かないのだ。
「……ちょっと貸してくれ」
「え?」
スッと、私の手からカフェオレが奪われる。
「温めてくるから!」
二言三言交わしてすぐにキッチンへ持って行ってしまった。
数分後、可愛い猫のマグカップに注がれたソレを持って戻ってくる。
「おまたせ! 缶で飲むよりこっちの方が美味しそうだろ」
有無を言わせず握らされたカフェオレは温かかった。なによりこの人の心がこもった感じがして、すごく嬉しい気持ちになる。
ゆっくり飲み終えた私は、
「長谷川さん……ありがとうございます」
これ以上ないくらいの好意の眼差しを彼に向ける。
この人が私達のコーチだったらいいのに。
そう思わざるを得ないくらい、私は長谷川さんのことが好きになっていたのだった。
「これぐらい礼を言われるほどじゃないよ。それより気分はどう? 他にしてほしいことはないかな? なんでも言ってみて」
「…………」
静かに熟考する私。
暴走気味だった頭の回路は、突然好きな人が出来たテンションで、とうとう完全に狂ってしまっていた。
「キス――してくださいませんか?」
「うんうん、それぐらいドンと来いって……ええッ!?」
「長谷川さんとキスがしたいんです」
面と向かって接吻を要求された彼は案の定固まっている。
今の内にと、私は畳みかけるように言葉を続けた。
「私は長谷川さんが好きになってしまったのですよ。そんな貴方からなんでもしてほしいこと言ってと言われたので正直に答えただけです。して……くださらないんですか?」
「えっと、それは……」
「クスっ。なら私からしちゃいます!」
瞬間、長谷川さんの身体を巻き込むようにして首筋に腕を回して口づけをする。
「――んん、むぅッ!?」
「……んッ♪」
貪るように濃厚なキスは十秒ほど。離れたら唾液の糸で繋がれて、そのまま軽いキスを何度かする。
「初めてしましたが、すごく気持ちがいいですねッ! なんだか溶けちゃいそうなぐらい」
長谷川さんに抵抗の意志が生まれる前に、行動は迅速に起こす。
下半身にコアラのように抱きつき、動きを封じた上で、身につけているものをひとつひとつ脱がしていった。
ベルトとジーンズを下ろしたら、小さな山のようにそびえるモノが姿を現す。
これが、保健体育の授業で習ったアレなのかしら?
「う゛うッ!!」
触れると、とても痛そうな苦しそうな、そんな表情をする。
どうしよう? 長谷川さんが辛くなるなら、もうさわらない方がいいのかな。
そんなふうに逡巡させていると、彼は両の手で私の肩をガッと掴み、
「ここまでされたら俺も引っ込みが付かないよ……いいんだね? 後悔しない?」
終始押されっぱなしだった彼が強く私に促した。
突然の攻勢に、私は深く考えずに頷いてしまう。
ディープな接吻から始まり、目線が釘付けになっている間に長谷川さんは私のスカートの中に手を伸ばす。
「可愛いよ、狩野さん」
言葉とついでに耳元に息を吹きかけられる。
這う指が秘所を探り当て、スライドする感覚と同時に私を刺激する。
完全に犯る気モードだ。
もう引き返すことは出来ない。
「ひゃんっ!? そ、そこは――」
「そこは、なに?」
「い、言わせないでください!!」
さっきまでの押されようが嘘のように、彼は言葉も巧みにつかって私をいじめる。
まったく、とんだ変態さんを好きになってしまったみたい。それに快感を得ている私も私だが。
「ハァハァ、いい匂いだね狩野さん。バスケ少女特有の俺好みの香りだ……」
「ど、どんな香りですかッ!?それと……私の名前。琴絵って呼んでくださいませんか。そっちの方が慣れているので」
「うん、分ったよ琴絵ちゃん!!ハァハァ……ッ!!」
耳元の攻めが終わり、次は束ねた髪に顔を埋めてクンカクンカと匂いを楽しむ長谷川さん。
こんな状況下でも名前で呼んで貰えると嬉しかった。
那美と別れてからの心の隙間がどんどん埋まっていく感じ。
「ああ、好きです……長谷川さん」
執拗な愛撫で私の下着はもうお漏らししているみたいに湿っている。
スルスルーっと、それが脱がされていく。花柄のレースの付いた白の下着は彼の趣味にどストライクだったらしく、とても褒めてくれた。何から何まで嬉しい。
高まる気持ちが冷めない内に、私達は生まれたままの姿になった。
二人を遮るものは何もない。
「琴絵ちゃん!!」
「ひゃあぅっ!?」
私の未発達な胸に向かって、長谷川さんはダイブするように飛び込んだ。
赤ちゃんみたいに左側の乳首を吸いながら、空いた右側を粘土のように揉みほぐす。
彼の教え子には一人胸の大きな子がいたけど、私ので大丈夫かなあ。この年頃の平均ぐらいはあると思うけど……。
長谷川さんは夢中になっておっぱいを貪っているから、たぶん些細な問題なのだろう。それにこうして他人から触られていれば、ホルモンが刺激されて大きくなるというのを聞いたことがある。
大きくなろうと小さいままだろうと、この人の好きな私でいたい。
大丈夫、長谷川さんはこんな私を受け入れてくれたんだもの。
「ぷはあッ!!興奮しすぎて息をするのを忘れていたよ。大丈夫? 痛くなかった?」
「ええ…大丈夫です」
「ならよかった! 事故で愛理の胸に飛び込んだ時も苦しかったけど、自分で飛び込んだら自制がきかなくて困っちゃってね、ハハッ」
「…………」
「……あれ?」
「こんなときに他の女性の話するなんてデリカシーがないですよ。もう!」
「ご、ごめんごめん! 以後気をつけるよ」
むくれる私をあやすように頭を撫でる長谷川さん。
「もう仕方ないですねえ」
「それじゃあ」
「許してあげます。ただし、続きはもっと優しくしてくださいね」
「ああ、もちろん!」
宣言通りに、長谷川さんの動きはスローになって、自身の欲求を満たすよりも私に快楽を与えることを重点的に撫でる。
お尻やふともも、腰や下腹部なども入念に手を滑らせて、私の性感帯を探っていく。
時折ビクビク震える私を落ち着かせるために、頭を撫でて軽いキスをしてくれた。
「そろそろ俺の方も……いいかな?」
「はい、いつでも」
私が攻めていたときよりもさらにビンビンに張り詰めて大きくなった彼の分身を、私の秘所に密着させた。
私の愛液を潤滑油に、ゆっくり前後に動かして股を擦る。
そのうち彼の分身からも白い液体が零れるように出始める。
それは私で気持ちよくなった証だと、本で聞きかじっていたので、恥ずかしいんだけども嬉しくてたまらない。
「うう゛っ!!ごめん、射精る!!」
「え?」
初めて男性の射精というモノを見た。
ビクンとひときわ大きく震えたペニスが、消防車が放水するように私に向かって白く濁った液体を放出する。匂いはイカ臭いような、とにかく嗅いだことのない新種の匂いだった。
こういう経験自体初めてだから、今日は勉強になることが多い。
「本当にごめん!!かけるつもりはなかったんだ。今拭き取るから待ってて」
それからティッシュで丁寧に精液を拭き取っていく長谷川さんを、私は放心したように眺めていた。
「あとでシャワー貸してあげるから。次からは気をつけるよ」
「そんなこと……気にしなくてもいいですよ。それよりも――」
「あっ」
彼の分身はまだ衰えておらず、元気いっぱいなご様子だった。
「このままじゃ終われないですよ。好きな人には満足するまでしてほしいです」
「琴絵ちゃん……」
それで何かのスイッチが入ったようで、長谷川さんの迷いは完全に吹っ切れてしまったようだ。
私に俯せに寝るよう頼み、そうすると後ろから覆い被さるように腕を回す。固くなった分身はそのまま秘所にあてがった。
「こ、怖いです。長谷川さん!」
「大丈夫、俺に任せて!!」
長谷川さんが腰を進めるとギリギリと痛みが襲ってきた。
彼が言うには、この体制が一番挿入しやすいんだそうだ。
処女を捧げるときはとても痛い。
世間的な常識だが、私にはまだまだ先の話だと思っていた。
それがまさか小学六年生で実現するなんて思ってもみなかった。
長谷川さんが相手なら不満はないしむしろ望むところだけど、それでもやっぱり怖いものは怖い。
そう思っていた私の心中を察してか、彼はギュッと小さな手を握ってくれた。
背中が暖かい。後ろから包み込まれるような安心感に、私の鼓動は次第に落ち着きを取り戻した。
「いくよ、琴絵ちゃん!!」
ずぶずぶ異物が挿入される感覚。
「い゛っ!? きゃああああぁぁぁぁぁッ!!」
秘所から血が滴り落ちる。
シーツを盛大に汚してしまったけど、そんなの気にしなくていいよと言わんばかりに長谷川さんは私の首筋にキスをする。私の痙攣が治まるのを待ってから、静かに腰を動かしてきた。
「……んんっ! ひぅっ!! ひゃあっ!?」
あくまでデリケートに、本当はもっと激しく動きたいのだろうけど、小刻みに揺さぶる感じで優しくストロークを繰り返す。
次第に貫かれた痛みより、快感の方が上回るようになる。
ずいぶん手慣れた感じだけどもしかして経験あるのかな。そうだったら少しだけ残念だな。
「ん……気持ちいいよ、琴絵ちゃん」
「あ、ありがとうございます……」
長谷川さんのその言葉にそんなことはもうどうでもよくなった。
今、彼と繋がっているのは私――それだけは揺るがない事実だもの。
いよいよ長谷川さんはラストスパートをかける。
どんどん激しく腰を打ち付けて、そのたびに私は喘ぎを漏らして、再び彼の欲情をそそり、腰を打ち付けるエンドレス。
いつまでも続いたらいいな。
こんな素敵な出会いを間接的にくれた那美には感謝している。
あの子が慧心学園の生徒でなければ、他に接点のない長谷川さんとこういう仲にはなっていなかったろうから。
心と身体が満たされて、ついに限界を迎えようとしていた――
「ハァ、ハァ……ッ!!で、射精る!!」
「はせが、わさん……ん、あああああぁぁぁぁーーッ!!」
臨界点は二人同時に訪れて、二度目とは思えないほどの大量の精液が私のおなかに注がれる。
途端に数十キロも走ったような、だけども心地よい疲労感が私を襲い、それに伴い眠気も生じる。
ここまま彼の腕に抱かれて眠ったらどれだけ幸せだろう。そんなことを思いながらもなんとか理性で踏ん張って意識を保つ。
繋がったモノを引き抜いたら、中に収まりきれない精液が私の秘所から零れ出てきた。
「よかったよ、琴絵ちゃん……。顔も見せて……うん、すっごく可愛い」
櫛でとかすように髪を撫でて、触れるだけのキス。
幸せいっぱいの初体験はこうして幕を閉じる――――とそのときは思っていた。
ピロリロリ〜ン!
突如、私と長谷川さん以外はいないはずの部屋から電子音が響いた。
ケータイのサンプル音だったようだけど、私はこんな音は登録していない。
長谷川さんに尋ねても首を振った。ケータイは一階のリビングに置いてきたそうだ。
そこへ疑問を一気に解決してくれる第三者が現れた。
ドアから半身をヌッと出し、ケータイを片手に持ち、目のトーンが薄くなってかなり危ない状態になったその子の名は――、
「と、智花……!!」
湊智花さんという、彼の教え子で、一番親しげにしていた女の子だった。
口元は笑っているが目は笑っておらず、何故か左の頬が少し腫れている。
「紗季か連絡があって、もしかしたらと思って来ちゃいました♪ 何度も夢だと思って頬をつねってみたんですけど……現実だったんですね、これ。アハハ♪」
恐怖をそそる笑い声が室内に木霊する。
長谷川さんは完全に怯え竦んでしまっている。ここまで決定的証拠を押さえられては言い逃れはできないでしょうから仕方ありません。
ここは私が守ってあげないと!!
「夢ではありませんよ、湊さん。私は長谷川さんとご覧のような関係になったのです。それが、どうかなさいましたか?」
相手に気圧されないよう語気を強めて言う。
「貴女には関係のないことです。用がないのなら部屋から退出なさってくださいませんか?」
「そうもいかないんですよ、ふふっ♪」
湊さんはまったく動じる様子はなく、淡々と続ける。
「七夕さんからきちんと許可は取っていますから、それだけで私がここにいても問題はないんです。それよりも、昴さんに大事な大事な用事があるので、狩野さんこそ退出してくれませんか?」
言いながら一歩一歩湊さんは歩を進めてくる。
よく見ると右手にケータイ電話、左手は背中に隠している。
この展開は最近の漫画でよく見るあの――、
「長谷川さん、危ないッ!!」
「……え!?う゛ッ!?」
叫んだときにはもう遅かった。湊さんは握られた黒い物体はスタンガン。おそらくは最高電圧で、長谷川さんの鳩尾にめり込むように押し込んだ。
ぴくりと一瞬反応して、彼はそのまま崩れ落ちる。
「昼ドラじゃないんですから、殺傷系の武器なんて持ち出すわけないじゃないですかぁ♪ 本当は股間に当ててやろうと思いましたけど、使えなくなったら後々私も困っちゃいますからね!」
彼女が何を言っているのか理解できなかった。
震えるこの手では湊さんの脅威から長谷川さんを守ることはできそうにもない。せめて警察に助けを求めるぐらいなら、とハンドバッグに手を伸ばした矢先にスタンガンを投げつけられた。
「あ゛うッ!!」
「勝手なことしないでくれますか?」
幸い掠めただけで電撃は直撃しなかったけど、やることはばれてしまっていた。
「この状況で通報なんかしたら、昴さんも逮捕されちゃうんです。事に及ぶ前に刑法ぐらい目を通してくださいね」
万策はつきた。
今の私では、例え素手でも湊さんに太刀打ちできないだろう。
彼女の立場に立ってみればそれも分かる気がする。彼女はたぶん、長谷川さんのことを恋愛的な意味で慕っていた。それも相当に強い想いで。それを横からぽっと出のなんかに寝取られたのなら、怒りが沸点を超えておかしくなっても仕方のないことだった。
「ごめんなさい、湊さん。貴女には悪いことしてしまったと思っている。でも、本当に長谷川さんのことは好きなの! こんな形で横取りしてしまったことは謝るけど、それだけは信じて! お願いします!!」
「なぁんだ、そんなこと……いいんですよ、別に」
「湊さん……!」
フッと微笑む湊さんはケータイを素早く操作して、窓の方角へ腕を伸ばす。
「これでも私、祝してるんですよ。それでね、他のみんなにもこれを知って貰おうと、今一斉送信しました♪ バスケ部のみんなに、もちろん狩野さんの親友の鷹代さんにも!」
「え……」
「あとさっき撮影したの写真じゃなくて動画ですから♪ きっとみんなの勉強にも役立つと思う」
「いやあああああああぁぁぁぁっ!!!」
BAD END