「う、う〜ん……」
「あっ、気が付いたみたいだよ!」
今、もう一人の私はおかしな真似をしないように、縄跳びの縄で縛ってある。ちょっと可哀相だけど。
それにしても……こうして見ると、本当に私に瓜二つだなぁ……。
容姿・髪型・体格だけでなく、泣きボクロまで全く同じで、自分や他のみんなでも見分けがつかないくらいなんだから。
「あれ、ここは……?……っ!」
気が付くと同時に、今、自分が置かれている状況を把握したみたい。
さっそく私たちは彼女のことを問い詰めることにした。
「じゃあさっそく聞かせてくれる?あなたは何者なの?何で私のフリなんかしたの?」
「何者って言われても……私は湊智花だよ。」
「嘘つくなっ!こっちがホンモノだってことはすでにわかってんだぞ!このニセもっかん!」
「私たちも確かに最初はおかしいなって思いながらも気にしてなかったけど……今こうして見るとあなたはトモとは全然違うわ。」
むしろ何で今まで気付かなかったんだろう、と思ってたけど、
みんなはてっきり私が昴さんに対して素直になったのかと思ってたらしい。
「正確に言うなら、私はそっちの智花から生まれたもう一人の湊智花、と言うべきかも。」
私は湊智花の最も強くて、他人に見せたくない感情を強く受け継いで生まれたの。
それが何なのか……みんなには大体わかってるよね?」
私――湊智花が強く抱いている感情。
バスケに対する情熱、そして――昴さんに抱いている……好意。
今までのもう一人の私の行いから考えると、おそらく後者なんだと思う。
幸い昴さんは何のことかわかってないのか首を傾げていたみたいで安心した。
でも昴さんにこれ以上話を聞かれるのはまずい気がするので、昴さんには少し席を外してもらうことにした。
「あ、あのっ!昴さん、のどが渇きましたね!」
「あ、ああ、そうだな……。ちょっと近くの自販機で飲み物でも買ってくるよ。」
そう言って昴さんは立ち上がると部屋を出て行き、それからしばらくして、紗季が口を開いた。
「それじゃあ、以前学校で長谷川さんにいってらっしゃいのチューをせがんだり、
一緒にシャワー浴びようって誘ったりしたのはあなただったのね?」
「うん、そうだよ。」
紗季の質問に躊躇いもなく正直に話すもう一人の私。自分のしたことじゃないとはいえ(ある意味自分がしたことだけど)恥ずかしい。
あれ?と、言うことは……。
「もしかして、この間昴さんのベッドに潜りこんだって言ってたけど、それって……」
「それも私だよ。あの時は昴さんのベッドの下に隠れてうまくやり過ごしたの。危ないところだったよ……。」
「そ、それじゃあ昴さんが最近下着が無くなる事が多いって言ってたけど、もしかして……」
「それも私だよ。昴さんの匂いって落ち着くんだよ?智花も一度やったことあるもんね?」
しまった。目の前の少女と私は元々一つの存在だということは、
私の犯してしまった過ちもこの子は知っている、つまり彼女には以前昴さんの部屋でワイシャツを思わず羽織ってしまったことや、
その後パニックになった私が思わず昴さんのベッドに潜りこんでしまったことがバレバレなのだ。(ミニドラマ参照)
「うう……なんでこんなことばっかりするの?これじゃ昴さんに嫌われちゃうよ!」
「言ったはずだよ?あなたは私だって。智花が心の奥底で押さえ込んでいた欲望が、私の人格となって生まれたのが私。
つまり私のしていることはあなたが望んでいることなんだよ。あなたが否定しても、智花の感情を持ってる私に嘘はつけないよ?」
そんなことない!って言おうとしたけど、相手が私自身じゃ反論できなかった。
「つまりホンモノのもっかんは、すばるんとあんなコトやそんなコトをしたかったんだな!さすがエースだ!」
「ふぇぇ!?わ、私は、そんな……ふぁううぅ……」
「ただいまー。遅くなってごめ……って、智花、どうしたの?」
そこへギリギリのタイミングで昴さんが飲み物を持って戻ってきた。どうやら今までの話の内容は聞かれてないみたいで安心した。
もし私の気持ちに感づかれでもしたら、恥ずかしくて生きていけないもん。
「ねえ……それで、結局こっちの智花ちゃんはどうするの?」
「「「「あ…………」」」」
愛莉に言われて私たちは顔を見合わせる。もう一人の私を捕まえることばかり考えていて、彼女をどうするか考えてなかった。
どうしようか考えていると、紗季が口を開いた。
「そうね……それじゃあこうしない?あのね――」
――数日後――
「もっちー、こっちだ!」
「いくよ、真帆っ!」
上手い具合にパスが通り、真帆のシュートが見事に決まる。
「やったね!ともちちゃん!」
紗季の提案で、もう一人の私『ともち』と名づけられた(真帆からはもっちーと呼ばれている)少女は、非公式ではあるけど私たち慧心女バスの一員となった。
今までは紅白戦に昴さんが入って試合をしていたけど、
今は私のチームとともちのチームで分けることで戦力のバランスがより良くなった。
このことを知ってるのは私たち以外では昴さんと美星先生、私のお母さんと昴さんのお母さんの4人。
美星先生に事情を話したら無事にOKを出してもらえたので、放課後になったらこうして一緒に練習をしているのだ。
一度、竹中君が体育館を覗いて、私が二人いる光景に混乱して熱を出して倒れちゃったこともあったけど、それはまた別のお話。
「お疲れ様。ともち、さっきのパス、すごく良かったぞ!」
「ありがとうございますっ!あの、昴さん……私に、ご褒美いただけないでしょうか……?」
また始まった。ともちは事あるごとに昴さんにご褒美をねだってくるのだ。
「ふふ、トモも負けてられないわね。長谷川さんに頑張ったことをアピールして、ご褒美をもらわないと!」
「そ、そんなことしないもんっ!」
そしてその様子を見た真帆や紗季が私をからかってくるのだ。恥ずかしくてしょうがないよ……。
でも、ともちと勝負している時は自分自身と戦ってるみたいですごく練習になるし、
ともちを交えてからバスケがもっと楽しく出来るようになったと思う。
これからもこの六人で楽しくバスケを続けていく日々――
しかし、その日常は終わりを迎えることになる――