「――はい、そういうことなので明日はお休みさせて頂こうかと……はい、すみません美星先生。
昴さんにもよろしくお願いします。コホッ!コホッ!では失礼しますね。」
その日、智花は家に帰ってから体調を崩した。
かなり熱があったので美星先生に電話して明日の学校と昴との朝練を休むことにしたのだった。
昴に会えないのは寂しいが、無理をして出てきて迷惑をかけるのは智花にとって本意ではない。
だがそれがとんでもない出来事を引き起こすとはこのとき誰も思いもよらなかった――
――次の日――
「おはようございます!昴さんっ!」
「おはよう……って智花!どうしたの!?風邪引いたから今日は朝練休むんじゃなかったの?」
ミホ姉から話は聞いている。昨日熱を出したと聞き、今日は来ないと聞いていたからだ。
「実は今朝起きたら熱が下がってて……だからやっぱり朝練に行こうかなって……ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑ってわけじゃないけど……本当に熱が下がったの?」
もしかして無理して来ているんじゃないだろうか。もしそうなら無理矢理にでも家に帰して休ませてあげないと。
「大丈夫ですよ。ほら――」
ぴとっ。
智花は自分のおでこを俺のおでこにあててきた。
智花の顔が近くに映り、ついドキドキしてしまう。
「ねっ?大丈夫ですよね?」
「あっ、ああ……。まあ熱が下がったみたいで何よりだよ。」
「それじゃあ昴さん。今日も朝練頑張りましょう!」
まだドキドキがおさまらない。智花は平気そうだが…
とりあえず今は智花との朝練に集中しよう……
「じゃあ今朝の朝練はここまで。病み上がりだしね。」
「わかりました。それで昴さん、今日は昴さんがお先にシャワーを――」
「ダメダメっ、汗もかいてるし、風邪がぶり返したら大変だよ!」
あくまでも智花が先にシャワーを浴びるよう説得する。
だが智花はとんでもない提案を持ち出した。
「わかりましたっ。ではこうしましょう!私と昴さんが一緒にシャワーを浴びるんです!
これならいいですよねっ。」
「なっ!そんなのもっとダメっ!!ダメだからっ!!」
そう言いながら俺の手を引いて一緒にお風呂へ入ろうとする智花を慌てて引き離す。
あからさまに残念そうな顔をしている智花をおいて、俺は部屋に戻っていった。
その後、ミホ姉の車で学校に向かう時間になり、智花は見送りに出てきた俺のほうを見つめてきた。
「……?智花、どうかした?」
「昴さん、いってらっしゃいのチューはしてくれないんですか?」
「なっ!?」
「昴……お前いつの間に智花とそんな仲に……」
ミホ姉が俺を犯罪者を見るような目で見つめてくる。
そんなわけないだろ!と俺はミホ姉の誤解を必死で解く。
なんとか誤解を解いて、ようやくミホ姉は智花を乗せて学校へ向かった。
それにしても今日の智花の様子はおかしかった。
朝御飯の時も「昴さん、あーん?」とかしてくるし……
ミホ姉が起きてくるのがあと少し早かったらもっと面倒な事になっていただろう。
本当に一体どうしたんだろうか……
―交換日記(SNS)― ◆Log Date◆ ○月△日
『あっ……みんな……今日はごめんね。風邪引いちゃって……』湊 智花
『なにいってんだもっかん。きょうフツーにがっこーにきてたじゃん。』まほまほ
『え……?』湊 智花
『ふふ、みーたんから話は聞いてるわよ、トモ。今日はすごい大胆なことしたみたいね。』紗季
『ふぇぇぇっ!?』湊 智花
『おー。ひなもおにーちゃんに、いってらっしゃいのちゅーしてほしい。』ひなた
『ええっ!?私、そんなことした覚えは…』湊 智花
『それに、じゅぎょーちゅーもノートにすばるんともっかんがいちゃいちゃしてるマンガかいてたみてーだしなっ!』まほまほ
『あっ、それ私も見ちゃった……智花ちゃんの描いたマンガ、すごく可愛かったよ。』あいり
『ええっ!?えっ、えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』湊 智花
「ど、どうなってるの……?」
SNSに書き込みながら呟く智花。
今日は風邪で一日中ベッドの中にいた。
なのに真帆たちは智花が学校に来たと言っている。
そして今日の学校や昴の家での行動。
それは自分が決してとる事などないはずの行動。
今日昴の家に来ていたのは誰なのか。今日学校に来ていたのは誰なのか。
だが、いくら考えてもその答えが出ることはなかった……