ドンっ、とぶつかったと思った時には遅かった。ゴール下のポジションの取り合いの最中、激しい動きの中で彼女はあまりにもあっさりと床を転がった。  
「三沢!」  
 思わず、幼馴染の名を叫ぶ俺。一時、男女合同での練習試合は中断する。  
 慌てて真帆のそばまで駆け寄ると、真帆にぶつかった男子が片手を上げて謝罪している。一つ上の、三年生の先輩だ。  
「三沢、大丈夫か?」  
「あ、ナツヒ。うん、ヘーキヘーキ! それよりも続きしようぜ」  
 そう口にして立ち上がろうとする真帆だが、その途中でガクンと膝を折ってしまう。見ると、バスケ選手にしては肉付きの薄い足の膝からは、血が流れ出ていた。  
 元々色白な真帆の肌色とは対照的なその色が、ひどく禍々しい。  
「おまっ……怪我してんじゃねえか!」  
「こ、これぐらい平気だっつの!」  
「意地張ってんじゃねえ、保健室行くぞ!」  
 そう言って、俺は半ば無理やり真帆を担ぎ上げる。  
「ばっ、ナツヒ! 少し休めばすぐ良くなるっつーの!」  
「でも、いっぱい血が流れてるよ?」  
 駆け寄ってきたのは俺だけではなかったらしい。去年から高等部の女バスでエースを務めている湊智花が、そう口出しをしてきた。  
「そうよね。こんな怪我で動き回られたらかえって迷惑だから、あんた保健室に行ってきなさい」  
 と、辛らつな言葉を口にするのは俺や真帆の幼馴染である永塚紗季。  
「おいあほあほ! 兄ちゃんにくっついてんな!」  
 口をそろえて真帆を批判するのは、俺の妹で双子の椿と柊。  
「なっ、これは竹中が勝手に抱きついてきてんだ!」  
「でもまほ、竹中の肩に腕回してる」  
「!?」  
 頭がとろっとろにとろけてしまいそうなのんびり癒し系天使ボイスでそう口を挟んできたのは、我が慧心学園高等部バスケットボール部が誇る至上最強のエンジェル、袴田ひなた。  
 
「は、袴田っ、これはだな! その――そう! 三沢の怪我が悪くならないように、だなぁ!」  
「ん、竹中ありがとね。まほのこと、よろしく」  
 しゅた、とのんびりした動作で俺に敬礼をするひなたちゃん。うわ何これ天使すぎる。思えば昔っから天使だけど。  
「ま、そういうことね。というわけで、それ保健室まで運んできてもらえる?」  
「モノみたいにゆーな!」  
「今はまるっきりお荷物じゃないのっ」  
「ま、まあまあ、二人とも」  
 いつものように言い合いを始めた真帆と紗季の間に、湊が割って入る。  
「真帆のこと、お願いしてもいいかな、竹中君?」  
 ごめんね、とでも言うように湊は手を合わせると、片目を瞑って首を傾げた。そんな風に素直に頼まれたら、俺としては断るに断れない。  
「じゃ、じゃあ……行ってくるよ」  
「え!? だ、だいじょーぶだってば! ……あたっ」  
「グチグチ言ってないで、さっさと行きなさい! 怪我があとに引いたらどうすんのよっ」  
「ぬがー! だからって叩くこと――」  
「あんたも、竹中! さっさと運べ運搬係!」  
 なぜか俺まで紗季に蹴っ飛ばされる。解せん。  
 一方の真帆は、体育館を出るまで「運搬っつったな、運搬って!」と盛大に憤慨していた。  
 

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