今日も10人の天使たちを見つめ続けるという幸せなひとときが終わろうとしていた。  
「よーし、今日の練習はこれまで!」  
『お疲れ様でした!』  
俺が練習の終わりを告げると、今はもう10人が息ぴったりに返事をしてくれる。  
俺が帰り支度で荷物をまとめていると、  
「は、長谷川さんっ」  
愛莉が後ろから声をかけてきた。  
「ん、なんだい?」  
「これ、受け取ってくださいっ!」  
愛莉が大きな紙袋を差し出してきた。  
「これは…開けていいかな?」  
「ど、どうぞ。気に入っていただけるかはわかりませんが…」  
了承を得たので遠慮なく開けると、  
「おぉっ、これは――」  
ひとつのセーターが入っていた。愛莉らしさを感じる、茶色のセーターである。  
「ありがとう、愛莉。とっても嬉しいよ!…これ、もしかして手編みか?」  
「はいっ、上手く出来たかは分かりませんが、心を込めて作りましたっ」  
「愛莉、これ、今着てもいいかな?」  
「はい、どうぞっ」  
早速袖を通してみるとサイズもピッタリで、包まれてる安心感から思わず顔もほころぶ。  
「コラー、すばるん!アイリーンにばっかりデレデレすんなー!」  
幸せに包まれていると、突然真帆が来た。  
「あたしもコレ、がんばって作ったから受け取って!」  
そう言って、俺に黄色い布きれを手渡す。  
「真帆、これって一体…」  
「ハラマキだよっ。あたしが着けてあげるから、手をあげてっ」  
いや、そんなことは分かっている。しかし真帆がなぜこれを選んだのかが謎であるだけで…。  
まぁ、気にしていても仕方がないため、そんなことを言うつもりはないが。  
それに…俺、オトナゲあるし。  
というわけで大人しくお縄にかかることにする。  
「おにーちゃん、ひなも、作ったよ。毛糸のぱんつ」  
すると、ひなたちゃん(天使)からとんでもないワードが発せられたので慌てて振り向くと、  
その手には、毛糸のパンツが握られていた。派手なピンク色である。  
ちなみに股下の丈が少し長めでスパッツみたいな感じである。  
「ひながはかせてあげるから、脱いで」  
無理です。…そう言えたら、どんだけ楽だったんだろう。  
俺には天使に「NO」と答える勇気はなかった。  
かと言って従うわけにもいかず…  
「ひな、長谷川さん困ってるじゃない」  
「おー?おにーちゃん、ごめんなさい」  
ここで紗季からの助け舟。いつもお世話になります。  
ひなたちゃんに謝らせてしまったことに罪悪感が残るが、  
「ひなたちゃん、俺、更衣室で着てくるから!」  
と言ってこの空間を抜け出すつもりだったが、ひなたちゃんが付いて来てしまった。  
唯一安心だったのは、直にではなくパンツの上からだったために致命的な事故には至らなかったが、  
本当に、これでよかったんだろうか?もちろん小学生のフル装備はとても嬉しいのだが…。  
余談となるが、俺の今の装備は智花のマフラー・愛莉のセーター・紗季の手袋・真帆の腹巻・ひなたちゃんのパンツである。  
 

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