「なー」  
「なあに」  
 
おまえさ。  
 
「俺のこと好きだろ」  
 
相も変わらず馬鹿みてーに騒がしい奴らと馬鹿みてーにしこたま練習して、相も変わらず  
口やかましい幼馴染みと一緒に帰って。そんで相も変わらず……よりは頻度すくねえけど  
まあ珍しくもなく俺の部屋で一緒にライバル校との練習試合のビデオを見ながら。  
相っっ変わらず無防備な、ベッドに寄り掛かる幼馴染のその女に、俺は言った。  
「そーだろ」  
「な、な……えっ!? っはあ?!」  
「なんだよその間抜けヅラ」  
「!!」  
バスッ!  
「ぶふっ!?」  
ホントこいつは手がはえぇな。  
超高校級のエースといえども流石に至近距離からの渾身の一撃は避けられず、顔面からぼ  
とりとクッションが落ちる。引き攣った顔で不満もあらわに見下ろせば、案の定女は眦を  
釣り上げた。  
おお怖っ。  
「誰が!恵ちゃんなんか!」  
「おまえ知らねえのかよ、この俺のモテっぷりを!」  
「みんなの目が腐ってるんでしょ」  
「ンなわけあるか!」  
テレビ画面からこちらの会話を冷やかすように、ヤジだか声援だかわかりやしねーお馴染  
みの大声が上がる。横目で見ればニコガクの誇る俊足8番がド派手にホームインを決めて、  
おっしゃあッと飛び上っていた。おお、あれは会心だったなー。  
「……」  
「……」  
俺と同じくしばらく無言でビデオ画面を見つめてから、塔子が膝を抱えたままぼそりと言  
った。  
 
「知らない」  
「あ?」  
「ただの幼馴染でしょ」  
「……」  
ワァ!!!  
沸き上がる歓声。  
雄たけびを上げて走る、半泣きのツラした仲間。  
喧しいベンチ。  
だけど相反して俺の口はへの字に下がる。  
なんつったコイツ。  
「ほ〜〜〜?そんじゃおまえはタダの幼馴染にキスすんのかよ」  
「恵ちゃんがしろって言ったんじゃない!」  
「言ってねーよ、するっつったのはおまえだろうが」  
「交換条件で仕方なくだもん」  
「んじゃ他の男にもしたことあんのかよ」  
「!」  
ガス!!  
先程の2倍の威力でクッションが俺の顔面を強打した。  
「するわけないじゃない! 馬鹿! 最っ低!!」  
「あのなあ……!」  
うめくように言って、ベッドからやおら上体を起こし腕を伸ばす。勢いのまま掴んだ腕は  
ほっそりと細く、容易に引き寄せられる。『幼馴染』が目を大きく見開いて俺を見上げた。  
 
「なあ」  
「え?」  
「させて」  
 
何か言いかけた口を、勢いよく上半身を倒して自分の口で塞ぐ。突然のことで咄嗟に拒絶でき  
ない唇に強く。  
「っふ!?」  
べろりと舌を突っ込む。絡め取って引き寄せて舐めて戻してもう一度絡めて、放して離して顔  
の角度を変えてもう一度かぶりついて、べろりと口内を蹂躙して絡めて吸う。  
反射的に暴れようとした華奢な身体をがっしりと肩を押さえて止める。高校野球児の力をなめ  
るんじゃねーよと誰にともなく内心で呟いて緊張を誤魔化して。  
テレビの向こうの仲間の罵声とカキンと硬く高く響く金属音をどこか遠くに聞きながら、俺は  
いつだってそばにいた女に、駄々をこねる様にキスをした。  
「ん、んっ」  
甘いというより苦しいほど熱くて早鐘を打つような興奮状態に何も考えられなくなる。  
時折上がる短い息切れの音に追い込まれるように気がせく。  
は、と息を上げた塔子の目は酸欠にか潤んでいて、思わず口を離してうっかりと見入り、  
 
ガッ!!  
 
拳で殴られた。  
 
「はあっはあっ、さっ、さっ最低……!!!」  
 
酸欠と怒りと羞恥でだろう、顔をこれでもかと赤くして、塔子は腕を振り上げたまま叫んだ。  
「信じらんない!なにすんのよ!なんでそんなことするの!」  
「うるせー!なんでなんでって、そんなもん決まってんだろうが!!」  
「なによ女の子といちゃつきたいだけならどっかいってよバカ!」  
「どっかいけってアホここは俺の家だっつーの!つかおまえグーで殴ったろ今?!」  
「あたりまえじゃない!」  
半分涙目で塔子は怒り、長年の習慣か反射か、俺は思わず両手で大仰にうわ!と自分を庇う。  
「なんだよおまえこそなんでそんな怒んだよ!」  
「怒るわよ!」  
 
「おまえ俺のこと好きじゃねーの?」  
「うぬぼれないでよ!」  
ばしりとクッションが飛ぶ。痛いが拳よりはマシだ。堪えて両腕を伸ばす。リーチも運動神経  
も俺の方が上だ。暴れる塔子の両腕を掴む。  
そのまま力づくでベッドへ引き摺りあげ、自分の体で囲むように押さえつける。  
「おい塔子」  
「きゃああ!なによ放して!」  
「まさか他に好きな男がいるとか言わねーよな?」  
「恵ちゃんに関係ないでしょ!」  
「あぁ?!関係ないこたねーだろ!ふざけんな誰だ言え!」  
「だれかれ遊んでるの恵ちゃんじゃない!」  
「アホか!俺は今は野球に忙しすぎて遊んでねっつの!つーかおまえがさせてくんねーからだろ!」  
「今はって何よ!だいたい何なのあたしの事好きでもないくせにそうやって変な言い方するのやめ」  
「おーまーえーなー! 好きじゃなかったら言うかそんな事!」  
「て…って、え?」  
 
ぴたりと、涙を浮かべて怒り狂っていた塔子の動きが止まった。  
不貞腐れるように唇を突き出し、あのなあと俺は言った。  
 
「おまえドンくさいだけじゃなくて本当にぶいよな」  
「……にぶくないもん。みさかいがない」  
「おまえがさせてくねーからだろ」  
「ひ、人のせいにしないでよ!なんであたしが!」  
「……なあおまえ俺のこと好きじゃねーの?」  
息をのむ音。  
いつの間にか終えたビデオは音もなく。  
野次も歓声も消えた部屋で、俺はぼつりと文句を言うように、言った。  
「俺はおまえ好きだけど」  
「け、恵ちゃ」  
 
 
なあ。  
なあ塔子。  
 
貰ったグローブは凄く使い心地が良くて、しっくりくる感触を意識するたび気分が高揚した。  
隠れてバイトしてまで俺にグローブを買ってくれた幼馴染の、力一杯の声援を耳にするたび  
更に燃えた。  
なあ。  
俺が自棄になってダセーにもほどがある男になってどんな女も見捨てた時も、エースになっ  
て朝から晩まで引く手数多になっても。  
いつだっておまえは相変わらずで。  
いつだって口煩くおせっかいでやらせてもくれなくて、いつだって、  
いつだって。笑って俺の傍にいた。  
なあ、塔子。  
 
 
「だからさせて」  
「付き合ってでしょ、馬鹿!!」  
 
 
ちょっ、どさくさにまぎれて胸触んないでよばかぁ!!  
 
 
 
真っ赤な顔で突っ込んだ塔子の顔は、もう怒ってはいなかった。  
 
 
 
さて。  
元々ぐっと膝上で、そそる太股を惜しげもなく晒していたスカート丈だったが、無理やりベッド上に引っ張り  
あげられた後とあって、見事な眺めを露呈していた。  
(おお……!)  
これぞ男のロマン、見えそーで見えない超ギリギリライン!  
やべっ、もうこれだけで勃ちそうっていうかマジで今更やめらんなくねーか。  
ゴホンと咳払いをして(らしくね〜〜〜!)無理やり視線をずらす。  
ここでガン見すりゃ手加減なしでぶっ叩かれるのは目に見えているから二秒で目の奥にしっかと焼き付けて、  
ポーカーフェイスを装って自分の下で真っ赤な顔して見上げてくる幼馴染みの顔を見つめる。  
 
いつも気丈な性格をそのまんま形にしたようなきりりとした眉は、今や戸惑いと羞恥に揺れ。  
頬は林檎、っつーか顔はもう全部真っ赤。  
 
「〜〜〜〜!!」  
「あっ、やっ……!」  
利き手で服の上からやわらかな胸をまさぐる。掌に感じるブラの感触と胸の弾力にどくどくと心臓が弾ける。  
何度も経験した行為だってーのに、頭が真っ白になりかける。いやいや童貞か俺は?!  
「け、恵ちゃんっ」  
「……あん?」  
「ほ、ほんとにするの?」  
怯えた目はそのまま。  
消え入りそうな声。  
震えて、怯えてるのが全然隠し切れてなくて、そのくせ無意識に甘くて。  
……バーカ。  
「もう止まらねっつの」  
ぼやくように呟いて、さらに圧し掛かって。  
ギシリとベットのスプリングが軋む。  
その音にすら煽られ、泣きそうな塔子に反して笑いを一つ零し、ぐいと口付ける。  
片手でぐにぐに左胸を揉みしだき、もう片方の手を右腰から服の中へ突っ込み、温かい体温と男のそれとはまるで  
違う女独特のゆるやかなカーブをなぞる。  
「んんっ」  
「…………」  
もだえる塔子の足が無意識にかじりじりと擦り合わされ、俺の下半身もつられて反応するのがわかる。  
焦らしてるは一体どっちなんだかわかりゃしねえな、と、意外に余裕がねえのを自覚するが、しかしそれすらどう  
でもよかった。  
 
まるでツーアウト満塁を前にした時のような興奮感に荒く息を吐いてから、あわせた唇の奥へ舌を突っ込んでベロリ  
と舐めあげて、一旦離してもう一度突っ込む。女と舌をからめ合うキスは下半身の血がずくりとする程気持ちいいが、  
塔子とのこれは気分までもが最高に良かった。  
「はあっはあっ……あっ!?」  
くちゅり。  
びくりと跳ねる身体。堪え切れず俺の口角が上がる。  
腕を突っ込んだスカートの中、閉じられた熱い太股の奥。その滑らかな布地の上から柔らかな丘の窪みを軽く押しやれ  
ば、僅かに滑った感触が指先に伝わった。  
「やっ!!」  
甲高い裏返った声。血が集まる。  
ぐり、と親指でブラの上から頂点を押し潰して掌でぐいぐいと揉みながら、自分の足で同時に塔子の足を軽く上げさ  
せる。恥ずかしさの余り目を見開いた塔子が往生際も悪く暴れるのを、己の体で押えかかりながら、クロスの飾りの  
ついた耳たぶを舐め噛む。  
「恵ちゃん!やだ、ちょっ、ねえ待って!」  
「待てねーよ、もうムリ」  
「やだ、恥ずかしい!」  
「塔子」  
「………っ!」  
見上げる大きな瞳からぼろりと涙が毀れた。  
セックスが気持ちいいなんて事はとうに知っていたが。  
なんていうか、目眩がした。  
 
 
 

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