あいつらは今日、全員卒業していった。
式の間中、涙が止まらなかった。
借り物の紋付袴が涙と鼻水で染まった。
クラス全員の名前をなんとか読み上げた。
「や、八木ぃ・・・ぐじゅ・・・とぉこ」
「はい!」
「い、いじょう、さん年B組41名・・・いちどう 礼!」
「せんせ〜泣きすぎだってば〜!!」
「オイ川藤!七五三の衣装で大泣きしてんじゃねーよ!」
「コラッ!神聖な式でなんてことを・・・うぅぇーん」
「せんせー川藤ほっといて次のクラスいかねーと終わんないっスよ」
「オホン・・・3年C組!起立!」
式の後に、グラウンドでプロに進む安仁屋の壮行会と記念撮影を行った。
誰もいなかった野球部員が今は100人近くになった。
3年生を中心に円陣を組む。
「しまっていくぞコラァァァァ!!!」
「ゴー!ニコガクゴー!」
「イェイ!」「ニャー!」「ゴー!」
プロに進む安仁屋、大学に進む者、専門に進む者・・・
それぞれの新たなの夢のために進み出したあいつらの顔は輝いていた。
「体育教師になってニコガクに戻ってきてやんから覚えとけよ!」
「バカだから他の教科教えられないって体育大選んだんだよなー」
「お前結局真弓先生に告白できないまま卒業だな・・・」
「俺はビビリーキングじゃねーっ!にゃー!」
「恵子ちゃーん!一緒に写真撮ろう−付き合ってー」
「御子柴も大学で教職とるつもりなんだろ?」
「まーね・・・新庄ー!もっと真ん中入れよー!」
「お前インタビューの尊敬する人の欄に担任て書いてただろ」
「っせー」
「みんな・・・なんだかんだいってセンセイのこと尊敬してるんだよね」
「塔子ちゃぁぁぁん!俺の思いを受け止めてくれぇぇぇ!」
「平っち!八木は安仁屋にくっついてくんだから!無理だって」
「イエー!先輩イエー!」
「先輩方、将来のスターの俺様と一緒に写っといたほうがいいっすよ?今ならタダだし」
そして・・・全員が笑顔で校門を出て行った。
泣き通しだった八木と御子柴の目が赤い事以外はいつも通りで。
こんなに淋しいのは教師だけなのかと。
お前らが卒業する時に全ての出会いに感謝したくなるように
俺がさせてやるなんて言ったが、出会いに感謝するのは俺の方だ。
「川藤先生?」
「はい・・・て、あ・・真弓先生・・・」
「いつまでグラウンドで悲しんでらっしゃるんですの?
明日も野球部の練習はあるんでしょう?
いっつもひとつのことしか見えなくなるんだから!
あの子達が卒業しても他に生徒はたくさんいるんですよ」
「はは・・・いつもその事で真弓先生には怒られっぱなしですね」
「少し、は自分の事とか他の事も・・・周りの事も考えてください」
「んー、んー、上坂の試合って明日でしたっけ?」
ずっと、待ってた。甲子園を目指すこの人を邪魔したくはないと。
でも、今なら。
「そうじゃなくって!・・・少しは、考える事の中に・・・私・・私もいれてください!」
いい年して遠回りな告白に、私の手は震えていた。
「え?あ、あ、あの、今日の真弓先生の袴姿、凛々しいですね!!こう手刀がビシッと出そうです!ビシッ!」
ご丁寧にジェスチャー付きでボケる川藤先生に悲しみを通り越して腹が立った。
「だからッ・・・もういいです!!」
悲しみを通り越したハズだったのに涙が出た。
「あ、ちょ、ちょ!待ってください!真弓先生!」
走りさろうとする真弓の手を掴んだ。
手を掴まれて川藤先生と向き合う形になる。
生徒達に夢を語るときのようなまっすぐな目に見つめられた。
その目に見つめられて、私は遠まわしじゃなく言い直そうと思った。
「川藤先生、もう一度、私の話を聞いていただけますか?」
「は、はい」
「私は・・・あなたが・・・好」
ァー